41 王都 2
「こちらがローズ様のお部屋になっております。ごゆっくりお寛ぎ下さい」
そう言うと使用人は深々と頭を下げて退出していった。
ローズの為に用意された部屋はピンクを基調としていて、中央に真っ白なレースの天蓋付きベッドが存在感を放っている、全体的にメルヘンチックな内装で、ローズの外見からすればとても似合っているが、元日本人の平凡女子からすると恥ずかしくて、お尻の方がムズムズするような造りになっていた…
クロード達の部屋もローズの両隣りに用意してあり、何かあれば直ぐに駆けつけられるようになっていた。
まぁ一緒に寝るんだろうけど……
「ローズ…私達も一度、部屋へ行って着替えなどをしてこようと思うが大丈夫か?」
「ふふ…大丈夫ですよ!!ルイもジュリアスも居てくれるので!!」
ローズは胸を張って元気よく答えると、ジュリアスが横に来てそっと頬をなで
「何があっても私がお守り致しますよ!!」
と、艶やかに微笑んだ!!
「え〜〜〜じゃあ〜俺も一緒にローズ様を守ろうかなぁ〜?」
ノアがニヤつきながらジュリアスの肩に腕を置きジュリアスの顔を覗き込んだ……
完全にジュリアスを揶揄っているようだ!!
肩に腕を置かれたジュリアスはそれを軽く払い除けると
「ローズ様は、これからゆっくりして頂いた後に着替えなどを行う予定だ!!他人のお前が居たら休まるもんも休まらない!!さっさと出てけ!!自分の主人の面倒でも見てろ!!」
ジュリアスが放った、厳しい口調の尤もな意見にノアは「チェッ…はい。はい。」と小さく漏らすと渋々…ギルバートの側へ歩み寄り、ローズの方へ振り返ると胸の横で小さく手を振っていた。
それを見たジュリアスのこめかみに青筋が立っていたが、ローズとルイは苦笑いを漏らしていた。
その後ノアはギルバートに一度 小突かれたあと、クロードも一緒にローズの部屋から退出して行った為、部屋に静寂が訪れる……
その時、不意にジュリアスの声が響いた。
「では、お茶にでも致しましょうか!?ルイ…頼みましたよ!」
「畏まりました」
ルイが一度ジュリアスに頭を下げた後、お茶の準備に取り掛かりに向かうと、それを見届けたジュリアスに抱き上げられたローズは、そのまま近くの可愛らしいソファーにジュリアスの膝抱っこで腰掛けた。
「はぁ……癒される……」
ローズをぎゅーと抱きしめたジュリアスは、しみじみ呟いた……
「クスクス…お疲れ様です!あっ…そうだ…ノア様って面白い方ですね!!」
ローズはジュリアスの膝の上でクスクスと笑っている。
するとジュリアスがローズの鼻の頭をムギュッと摘みながらグチを交えたお説教を始めた。
「あんなものは認められません!!ギルバート様に気に入られているからって調子に乗っているだけです!ローズもノア様では無くてノアで大丈夫ですよ!ノアはローズに仕える側ですから、いいですね?」
「はい!!ジュリアス父様!」
ローズはこれ以上お小言を貰うわけにはいかないと、ジュリアスのご機嫌を取る為に可愛らしくお父様呼びを口にした。
「はぁ……私の娘は…本当に可愛い……」
呆気なくご機嫌になるジュリアスは、完璧にローズの手の上で転がされている。
ローズが一息つくと言うより、ジュリアスが一息ついてローズに癒されていると、着替えの終わったクロード達がローズの部屋を訪れ、そこからクロード達監修の元、ローズの着替えが始まった!
王に挨拶する為にエリオットが用意したドレスは、上半身は白いレース素材で蝶と花が編み込んである五分丈のタートルネックタイプで、透け感はあるが胸元にはシルク素材の薄い水色の生地が裏打ちされている為、とても上品な仕上がりだった。
胸の下にはコサージュ付きのリボンベルトが切り返しで付いていて、スカートは何重にも重なったシフォン素材のフワッとしたスカートが動くたびにフワフワと揺れ、とても可愛らしい。
髪を半分だけ編み込みルイから貰った蝶の髪飾りを付ければファステリア城に舞い降りた天使のような仕上がりだった……
「ローズ…やっぱり帰ろう!!可愛すぎて人に見せられない!!」
「そうですね!!此処は危険です!!直ぐに帰りましょう!!準備致します!!」
クロードがローズの あまりに可愛いらしい出来栄えに、抱き抱えて部屋から退出しようとすると、ジュリアスもそれに同意して荷物を纏め出す。
「おい!!これから書類を国に提出して認められないと帰れないだろうが!!俺もローズの可愛さは危険視するレベルだと思うが…とりあえずは手続きしないと……」
本気で帰りそうな2人に対して、若干焦りを感じるギルバートは、必死で2人を引き留めるが、主人の焦りなど完全にスルーしているノアがギルバートの横で楽しそうに笑っている。
「マジ面白いな!!クロード様達ってこんな性格だったっけ??ローズ様メッチャ愛されてんじゃん!!」
ははっ…と乾いた笑いを漏らしたローズは、気持ちを切り替えて、クロードの頬を両手で押さえると「ちゃんと手続きしないとダメですよ!父様」と、可愛らしく嗜めた。
その瞬間ローズの事をギューと抱きしめたクロードは「可愛すぎる」と、一言呟くと……渋々ローズを下ろしギルバート達と書類の確認などを行い出した。
クロードから下ろされたローズはトコトコとルイの近くまで行くと、軽く頭を後ろに向けて「可愛い?」と、ルイが照れる事を踏まえた上でルイから貰った髪飾りを見せつけ聞いてみる!!
完全にルイを揶揄って面白がっている中身16歳の意地悪幼女だった!!
案の定、顔を真っ赤にしたルイは小さな声で
「……っ……可愛い…よ!!」
と、言うとそのまま明後日の方を向いてしまいローズとは絶対に目を合わそうとしなかった。
ローズはそれをニヤニヤしながら見つめ
(はぁーールイ可愛い!!)
と幼気な少年を弄び癒されていた……
結局、元16歳と言えど、恋愛経験皆無なローズが弄べるのは10歳の少年が限界と言う事だった……
***
「よし行くか!!」
諸々の確認が終わったギルバートが声を掛けると
「ローズ…これから、養子を迎えた事を国に認めてもらう為の書類の提出と、鑑定士による魔力の鑑定がある。この鑑定はローズ自身の魔力では無くて、私達が与えた魔力がローズに馴染んでいるかの確認をする為の鑑定だから少し時間が掛かるが私達も居るし心配いらないからな!」
「はい…」
クロードの説明に鑑定って何をするんだろ?と少しドキドキするも、ジュリアスにそのまま抱き上げられたローズは緊張しながらも部屋をあとにする。
そのまま暫く歩き続け、来た時に城へ入った扉とは違う扉を抜け外へ出ると少し先に、公爵家にあった教会の様な建物と少し造りは似ているがニ回りくらい大きな建物が見えてきた。
「魔力関係の時はいつも、ああ言った所でするんですか?」
ローズは素朴な疑問を口にすると、ジュリアスが的確に説明してくれる。
あそこは、魔力を使用する契約や鑑定などをする時に使用する神殿で、成人の儀式や冠婚葬祭などにも使用するとても神聖なものであり、それ以外では許可なく立ち入る事も出来ない様になっている。
王城には魔力鑑定や儀式などを取り仕切る専門の機関が存在しており、自分の領地で其れらを行う場合は国から派遣してもらうのが一般的であった。
だが、一々派遣するのが手間だったクロード達は数十年前には自分達で資格を取っており、
専門の機関の中でも結構上の方に位置する立場にいるようだった。
ファルスター公爵家ではクロードとジュリアス、ファディル公爵家だとノアが資格を持っているらしい…
本当にハイスペックな奴らである…!!
ただ、養子縁組などは自分で鑑定することは禁止されており、契約自体は行えても、その確認は必ず第三者が2人以上で行う事が義務付けられていた。
今回は特に、国の二大貴族が同じ養子を取ったと言う事で、より厳重な検査が行われる事になっている。
そんな説明を受けながら中に入ったローズは、公爵家とは比べ物にならないくらい広くて、幻想的で重厚な造りの室内に圧倒されてしまっていた。
抱えられて向かう祭壇の先には豪華な椅子に腰掛ける国王の他に3人の黒いローブを纏った男性が立っておりローズに深々と一礼をして出迎えた。
クロード達は必要な書類を3人のうちの1人に手渡すと、もう1人の男が
「それでは、始めると致しましょう」
と静かに口を開いた。
ローズは祭壇の手間に置いてある椅子に一人で腰掛けると20㎝くらいの水晶のような丸い玉を持たさる。
その後ろに3人のローブを纏った男性が立つとローズの頭に片手を翳し何やら呟き出した。
彼等が時間をかけて、何かを唱えた後、ローズの持っている水晶が少し温かくなってきたような気がしてきた……
その時、不意に水晶が光り始めた……
初めは白っぽい光りだったのが次第に青やグリーン、紫などに代わり、最後は金色に輝いた。
その光を呆然と見つめていたローズは、ふと契約の時にも同じような色が光がローズの中に入ってきた事を思い出した。
そんな事を思い返していると後ろから
「終了致しました。確かにファルスター公爵とファディル公爵の色と魔力を確認致しました。これよりローゼマリー・ファディル・ファルスター様は正当なファディル・ファルスター両公爵家の後継者と認め、国に登録させて頂きます。お疲れ様でございました。」
そう言ったローブを纏った男性と共に、もう1人の男性がローズから水晶を受け取り、3人はローズ達に一礼すると静かに退出して行った。
その瞬間、国王の存在を無視したクロード達がローズの側へ集まり喜びを露わにした。
「ローズ!!よく頑張ったな!!これでローズは正式に国に認められた歴とした私達の娘だ!!」
クロードはローズの頭をクシャッと撫で少し誇らしそうだ
「ローズ様……お疲れ様でございました……愛しております!!」
ジュリアスは相変わらず瞳を滲ませながら、愛情も垂れ流し続けている……
ジュリアス…涙腺も…ガバガバだな……
「ローズよく顔を見せてくれ!あぁ…俺の娘…なんだ……な……」
ギルバートも珍しく瞳を滲ませていて、それを見ていたローズも、なんだか胸がいっぱいになっていき、込み上げてくるようなものがあった……
だが…そんな空気を遮るような国王の咳払いが部屋に響いた……
「 ゴホッ ン……おい……!!お前達……私の存在を無視しているな!!」
(ヤバ!!怒ってるじゃん!!不敬罪とかにならないよね??謝る??ねぇ….謝る??)
すっかり国王の存在を忘れていたローズが1人で焦っているとギルバートの軽口が響いた
「なんだよ……せっかく家族として認められた喜びを分かち合ってたのに、邪魔するなよ!!」
「仕方ないだろ…仲間外れにされて拗ねてるだけだ……」
クロードまでが国王に対して軽口を叩いている事にローズは驚きすぎて、今しがたの感動も忘れて口をポッカリと開けてしまう……
「ローズ様…クロード様はギルバート様と兄弟のように育てられた為、兄である国王陛下も本当の兄?……弟?……のような存在なのですよ!!」
ジュリアスまでもが軽く国王を馬鹿にしている事にローズのアタマは追いついていかずクラクラしていると国王までもがジュリアスに軽口を叩きだした…
「おい!!ジュリアス!!不敬罪でしょっぴくぞ!!」
「これは!これは!申し訳ございません!!」
恭しく頭を下げたジュリアスに
「チッ…もういい…終わったんなら早くお茶しに行くぞ!!」
舌打ちした国王が退出を促す
「畏まりました」
と、わざと大袈裟にお辞儀をした後、ローズを抱き上げてクロード達は神殿を後にする。
無事に国への届け出も終わったローズ達は案外、親しみ易そうな国王陛下と一緒にお茶会の会場へと足を向けた。