40 王都
契約を終えてから一週間が経った頃……
「ローズ!!王宮へ行くぞ!!」
ローズがルイと一緒にお茶を楽しんでいるところへ突然
バンッ!!!
と、勢いよく開いた扉から ギルバートが部屋に入って来るなり、そう言い放った!!
「えっ…??あの前に言っていた、王様にご挨拶ですか??」
ローズは驚きながらも、前にギルバートが言っていた事を思い出し、尋ねてみる。
「あぁ…それもあるけど…この前の契約魔法の時の私達の魔力が、そろそろローズの体に馴染んだ頃だと思うから、王城へ行って養女の申請をしようと思って……!!
で……そのついでに軽く挨拶しちゃえば面倒な事が一回で済むしね!!」
(おぉ……国王への挨拶を面倒って言ってるよ……この国の国王だよ……国のトップだよ……!!)
考えてみればギルバートも王弟なので、この国ではトップレベルで偉い人なのだが、ほぼ毎日を一緒に過ごし、ストーカーの如く纏わり付かれている為、慣れきってしまっているローズは、あまり有難さが感じられない……
なのでついつい忘れてしまいがちだった……
この国のトップに位置する人達がこぞって家族になったローズだが、初めてこの世界で気付いてから公爵家で保護されて、殆ど彼等以外とは関わっていないので、他所から見た彼等がどれくらい高貴で近寄り難い存在なのか、全く分からないし、ファステリア帝国の中でもトップレベルのイケメン達も見慣れてしまえば、ただの孫にあまいおじいちゃん集団だ!!
たまにドキッとさせられる事はあるが、普段はローズバカ達ばかりなので、ローズは何も知らないまま彼等に溺愛され調子に乗るばかりだった……
だが、彼らほどのイケメンに慣れてしまっていると、将来…他の男性で満足出来るかは、謎であるが……
ローズは何故だか分からないが、背筋が寒くなった気がした……
…………
「分かりました!!それで、いつ頃行くんですか??」
ローズは気を取り直してギルバートに尋ねてみた。
するとギルバートは無邪気な笑顔を見せながら
「それは、明日だ!!」と、言い放った!!!
「……へっ……??」
(急!!そんなすぐ??準備は!?
まぁ…別に…私がするわけじゃないし……これと言った予定も無いけど……)
驚いた割には、他人任せで、どうでも良さそうなローズに、尚もギルバートは説明しだす
「それでだ…!向こうに着いたら王城の方で2〜3日滞在してから、此方へ帰ってくる予定になると思う…!日帰りが出来ない距離では無いが、ローズはまだ幼いし、ゆっくり日程を組んだ方がいいと思ってな!!あと……王都へ行く人選なんだが……今……それで少し…揉めて……」
そうギルバートが言いかけた瞬間、ローズの部屋の扉が、またもバンッと音を立てて勢いよく開いた!!
「はぁ…はぁ…はぁ…私も……行きますからね!!」
とても急いで来たようで、肩で息をさせながらジュリアスがギルバートの前に立つと自分も行くと言い切った。
「でも…お前……クロードの側に付いていないといけないだろ!!しかも…俺の従者と仲悪りぃじゃん!!」
(ジュリアス……ギルバート様の従者と仲悪いんだ……大人なのに……上手くやれよ……)
何事も淡々とこなすジュリアスの子供のような一面に苦笑いするローズだが、その横でジュリアスがしれっと答える。
「……別に…そんな事実はありません……!そんな事よりもローズ様の事をギルバート様 1人に、任せられません。明日は必ず私も同行致しますし、ダメならクロード様を縛ってでも一緒に連れて行きます!!」
ジュリアスの毅然な態度に誤魔化されそうになったローズだが、自分が仕える主人を縛る発言はマズイだろうと心の中でツッコむのだった……
「ジュリアス父様……私……ギルお兄様だけで大丈夫だよ!?自分の事も自分で出来るし……」
「なりません!!そんな事を言って父様に心配掛けないで下さい!!私の娘はあなたしか居ないんですよ!!!」
「…………」
(ジュリアス……いちいち愛が重いよ…その重さで床が抜けるんじゃないかって言うくらい重いよ……ジュリアスの愛で押し潰されそうだよ……)
いつか何かで発散させないと、その内、爆破でもするんじゃないかって言うくらい、ローズへの愛を抱えているジュリアスに、最早…誰も何もいえなかった……
結局その後、クロードもやって来て、契約主は自分なんだから自分も一緒に行くと、領地の仕事をさっさと終わらせると、1人で勝手に準備をしだした、親バカ達ばかりである……
結局、王都へ行くメンバーはクロード、ジュリアス、ギルバート、ギルバートの従者、ルイと言う事に決まり、アルベルトは騎士団でお仕事、エリオットは様子見がてら商団の方へ一度戻るそうだ。
ローズは、王都へ出掛ける前から何やら面倒くさい事になりそうだな…と、頭を抱えるのだった…
***
「ローズちゃん……お母様は一緒に行けないけれどローズちゃんのお洋服とか、ちゃんと選んで準備しておいたから、クロード達に着せてもらうのよ!!……はぁ……気の利かない男達ばかりで心配だわ!!」
心配そうなエリオットがクロード達を横目に軽い嫌味を交えローズを見送っている。
アルベルトも騎士団への出発を少し遅らせてローズを見送る為、玄関前で控えている。
「ローズ…初めて王都へ行くんだ、気をつけるんだぞ!!知らない人に話しかけられても絶対に話してはいけないよ!!目を合わせてもダメだ!!」
「はい!!アルベルト父様!!お母様も…行って参ります!」
「あぁ…いい子だ!!」
そう言ってアルベルトは嬉しそうにローズの頭を撫でた。
そうこうしている間にギルバートの馬車が到着し、皆で馬車まで向かう…
以前のような豪華な馬車も見慣れて仕舞えばそんなに有り難みも感じず今日はコレに乗るんだなぁくらいの感覚だった。
「よし!!じゃあ行くか」
ギルバートがそう言うと馬に騎乗し馬車を先導していた男が颯爽と降り、ギルバートに話しかけた。
「ちょっと!!それは無くないですか!?俺にもちゃんと紹介して下さいよ!!ギルバート様の娘になったのなら私にとっても娘みたいなものですし!!」
そう言って、ギルバートの横に立ったのは身長がジュリアスと同じくらいの青い髪で、丸い大きな黒い瞳の人懐っこそうな男性だった。
「ふざけた事を言うな!!お前はただの他人だ!!」
普段とは全く違う口調のジュリアスが、ギルバートの従者に向かって怒り出した。
「アハッ!!そんな怒るなって!!俺とお前の仲だろ!!お前の可愛い娘を紹介してくれよ!!じゃないと後でこっそり聞きに行っちゃうぞ!!」
ジュリアスが怒っている事を気にも留めない従者はニヤつきながらジュリアスの肩を叩いている。
(これは……ジュリアスに嫌われるのもわかる気がする……)
ジュリアスとは全く合わなそうな男性を、ジュリアスが横目で睨みながら、渋々ローズに紹介しだした。
「チッ……ローズ様…この男はギルバートの従者のノアと言いますが覚えなくて結構です。
ノア、こちらはローゼマリー・ファディル・ファルスター様です。ファディル公爵とファルスター公爵を継ぐお方ですので丁寧な対応を心掛け、絶・対・に!!気軽に声を掛けないで頂きたい!!」
「ローズ様!!宜しくな!!」
( 軽っ……全然聞いて無いじゃん……って言うか待って……ファディル公爵とファルスター公爵を継ぐ??何それ……何も聞いて無い…んだけど……!!しかし……軽いなぁ……ジュリアスのこめかみがピクついてるけど大丈夫なのか??)
プチパニック中のローズだがこの場の空気を読んでノアに挨拶をする……幼い子供に気を使わせるダメな大人達である。
「ローゼマリーです!宜しくお願いします!」
(……で……どう言う事……?)
………
「よし!!じゃあ、そろそろ行くぞ!!」
皆の挨拶も一通り済んだので、クロードがそう言うと、背中にハテナを背負ったままのローズを抱き上げ一緒に馬車に乗り込んだ。
今回、同じ馬車に乗るのは、クロードとギルバートで、ジュリアスとノア、ルイは馬に騎乗してローズの馬車の前後の護衛に就く。
ジュリアス達の他にも数名の使用人がもう一台の馬車に乗り、その他にも、もう一台荷物を積んだ馬車も用意してある。
護衛の騎士もジュリアス達の他に10名程ほど王都へ同行する予定だ。
相変わらず移動をするにも大人数で大掛かりになり、大変だなぁと思うローズだった。
***
「そうだ!!ローズに伝えないと行けない事があるんだった!!」
馬車がある程度進み、少し落ち着いた頃…突然、思い出したかのようにクロードが話し出した。
クロードの話によると国に提出する書類には正式な名前と年齢が必要な為、ローズの年齢を6歳と決定した事、ギルバートとクロードの魔力を有している事からローズの正式名称はローゼマリー・ファディル・ファルスターと2つの名前が付く事、貴族などに正式に挨拶する時はこの名前をきちんと名乗る事などを教えてもらった。
国の上位貴族であるファルスター公爵を名乗るだけでも気が重かったのに突然ファディルまで名乗らされるなんて聞いてないよと肩を落とすローズだった。
ただ、ローズの言い分も尤もで、この世界で一番の大国であるファステリア帝国の、6家しかない上位貴族である公爵家の内、2家を名乗る事など異例中の異例でこれからローズが背負う重圧と貴族達から好奇の目で見られる事を思うと気が重くなるのも致し方無い気がするクロード達だった。
ローズに対して、そんな重い荷を背負わせてしまう心苦しさはあるが、それでもローズを手放す事は出来ないと、ローズの荷は自分達がしっかり背負い守り抜くんだと固く心に誓ったクロード達だった。
「ローズ……そろそろ王都に入るぞ!!」
「本当ですか!?ドキドキします……どんな所なんだろう……?」
「ふふっ…ローズは本当可愛いな!!王都に入るだけでドキドキするなんて…やはり、危ないから王城なんて連れ行くのやめようかな…」
ギルバートはローズの純粋で可愛らしい姿を見ていると、王城に居るであろう薄汚い貴族達にローズを見せる事が不安になってきた。
ギルバートがそんな不安を抱えているが、無常にも馬車は王都の町に入ってしまう……
「うわーー大きい町!!町……ちゃんと見るの初めて……時間があったら連れて行ってくれますか!?」
ローズは前回のピクニックの時に公爵領の町の側を通っただけなので、ちゃんと見る異世界の町並みにとても感動してしまう!
ヨーロッパのようなカラフルで綺麗な街並みに窓から顔を出してキョロキョロしてしていると
「ローズ…顔を出したら危ないよ!……はぁ……本当……可愛すぎる!!王都の町一つでこんなに感動するなんて……ギルバート…!!今から一緒に城を落としてこの町をローズにプレゼントしようか??」
「いっ…いえ!!!大丈夫です!!私はファルスター領が大好きなので!!」
クロードの危ないプレゼント攻撃に両手を振って慌てて遠慮する!!
(ぎゃーーーやめてーーー!!幼女が言った何気ない一言で、国を落とそうとしないで!!怖いよ!!皆の愛が重すぎるよ……)
「なんだ!ローズは本当に欲がないな!!ローズが望むなら国の一つや二つなんて造作も無いぞ!!」
片方だけ口角を上げたギルバートが悪い笑みを浮かべクロードに同調する……
彼等の娘になってから彼等の愛がより一層増した気がしてローズは一人で抱え切れないと小さくため息をつくのだった。
***
「うわ〜〜!!あれってまさか王城ですか!?凄い!!!大きい……」
(お……お城……だ……本物だ……大きい……)
王都を抜けた先に一本の大きな橋が掛かっており、その周りを高い壁が見渡す限り遠くまで囲っている。
その壁の中にとても大きなお城が聳え立っていた。
大きな橋を馬車で渡り、見上げる程高い城門を抜けると、手入れの行き届いた幾何学式園庭に囲まれている、ゴシック様式とルネッサンス様式を合わせたような、まるでお伽噺に出てくるようなお城が見えた。
その他にも幾つかの塔や建物があり、中に入ってから見るその光景はとても迫力がありローズは少し圧倒されてしまっていた。
だが、クロード達は全く気にした素振りも無くそのまま城の正面で馬車を停めると、ジュリアスとノアが逸早く降り立ち馬車のドアを両側から開ける。
それとほぼ同時にクロードがローズをさっと抱き上げ、ローズはクロードに抱えられたまま馬車から降りた。
田舎者丸出しのローズはクロードに抱えられたまま、口をポカンと開けて王城を見上げていると近くからクスクスと笑う声が聞こえてきた。
ハッと気づいたローズは、すぐに笑い声のする方へ視線を向けると、クロード達よりは少し歳上そうな銀髪、赤目のとてもダンディーな男性が2人の女性を侍らせてローズを微笑ましそうに眺めていた。
「いや〜実に可愛らしいお嬢さんではないか!!これはお前達が夢中になるのも頷ける!!」
「お久しぶりです陛下!!この子は私達の娘になりましたローゼマリーです。後ほどゆっくりご紹介します。ローズ…こちらのお方はこの国の国王で私の兄だ!!挨拶出来るかな?」
ギルバートのその言葉でクロードの腕の中から下ろしてもらったローズは
「……はい……初めまして国王様、この度ファディル公爵とファルスター公爵の養女になりましたローゼマリー・ファディル・ファルスターです!!」
そう言って、エリオットから教わったばかりの辿々しいカテーシーを披露した。
「ローズ!!よく出来たな!!ローズはやはり天才だ!!」
「あぁ本当に可愛い」
「ローズ様……ご立派です……」
ローズの可愛らしい挨拶に完全に舞い上がった3人は口々に褒め称え、ジュリアスなんて感動の余り目頭を押さえている…
それを少し後ろに控えているノアとルイが苦笑いしながら眺めていた……
「ローゼマリー・ファディル・ファルスターか……フッ……良い名だな!!ローズよ、城に部屋を用意してあるから、一度部屋でゆっくりしてから私と話しでもしようではないか!
おい!!ローズを部屋まで案内しろ!!この国の二大貴族の娘だ丁重にもてなせよ!!よいな!」
「はい!!では、ローズ様ご案内致します」
「おい!!それ以上ローズに近寄るな!!」
使用人がローズを案内しようと足を一歩踏み出した瞬間、クロードの厳しい声が響いた…
ローズはクロードのそう言った声をあまり聞いた事が無いので驚いて固まってしまう……
そんな中、ローズの頭をそっと撫でたギルバートが使用人にフォローを入れはじめる。
「あぁ…ごめんよ君!!ローズの事はこちらでするから、君は案内だけ頼むよ!」
「さぁローズ様、参りましょうか…」
そう言って、後ろからそっとジュリアスに抱き上げられてローズは城の中に足を踏み入れた。