38 プレゼント
「「「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」」」
皆が一斉に高々とグラスを掲げた…
新緑が匂い立つ爽やかな風が吹く初夏のような日差しの中、薔薇が綺麗に咲き誇る庭の一角でローズのバースデーパーティーが始まった。
テーブルには丁寧に糊付けされた真っ白なクロスが張られ、その上には料理人達が腕に縒りを掛けた豪華な料理が綺麗に並べられている。
その豪華な料理の中央で一際存在感を放つのは、ローズたっての希望である、宝石の様に綺麗なフルーツが沢山盛り付けられた大きなホールケーキが置かれていて、ケーキの中央にはローズお誕生日おめでとうの文字が書かれたプレートが乗せてあった。
(うん!!お誕生日っぽい!!)
やはり元日本人としては、ホールケーキは欠かせないと一人納得しながら頷いているローズを、皆が温かい目で見守っている。
クロード達もローズのバースデーパーティーと言う事で張り切っており、服装も普段着ではなく、インフォーマルのダークスーツを着用し、皆、アクセントに、ピンクやブルーを使ったネクタイやチーフタイ、ラペルピンなどを取り入れている。
(…はい……皆様完璧です……カッコいいです…!!なんか…ご馳走様です……)
クロード達が全員揃った時の、あまりの格好良さに、一人拝みたくなったローズだが、その中でも やはりエリオット一人だけ異彩を放っており、真っ青の背中がガッツリ開いているマーメイドラインのドレスを着用し、ウインクしながらローズにアピールしていた……
(ハイ……素敵デスヨ!!完璧デスヨ!!)
ちなみにローズの今日の衣装は自身の誕生日という事もあり、ブルーサファイアのようなノースリーブのチュールドレスで、上半身には同色の糸で薔薇の刺繍が施してある。
腰にはパールが沢山付いているリボンを巻いておりそこから青いチュールスカートが風でふわふわと揺れている。
ローズの髪の毛もこの一年でだいぶ伸び、肩の下まで伸びた髪を軽く巻きハーフアップにしてパールの着いたバレッタで留めている。
まさにこの世の可愛さを凝縮したような出来になっていた。
………
「皆様、ありがとうございます!!」
皆におめでとうと祝われたローズは、今日の天気のような爽やかな笑顔を皆に見せた。
皆は、ローズの澄んだ眩しい笑顔に釘付けになるがローズが楽しそうに周りを見渡すのでそれに釣られるように我に返っていった。
今回のお誕生日は、食事用の席は用意されているものの皆が自由に動けるように立食パーティー形式になっているので、皆がローズの元に集まり、グラスを片手に小さなローズを囲んで各々がお祝いを言っている姿は中々の圧巻だった。
ローズも皆に祝われて少し恥ずかしそうに…でも嬉しそうに彼等を見上げ会話している……そんな時…
「ローズ!!そうだ!!俺のプレゼントは気に入ってくれたか?」
ギルバートが切れ長の大きな赤い瞳を見開き、ハッと思い出したかのように尋ねてきた。
ギルバートからのプレゼントは、ローズ専用ガゼボに作った新しいアスレチック遊具だったので、先程パーティーが始まる前に、ルイと一緒に見に行ったところ、木製のサスケジャンプとターザンロープだった!!
いつの間にこんな大掛かりなものをと、ローズはとても驚き、同時に凄く喜んだ!!
ギルバートの話によると、以前頼んだ建築職人達に頼んだところ二つ返事で快諾してくれたそうで、職人達総出で制作に当たってくれたらしく、半日も経たずに制作し終わったらしい。
制作後に試しに使用してみた職人達は、皆…大人にも拘らず、とても楽しそうに使用した後、大変満足して帰っていったと教えてくれた。
(……あっ……なんか…良かったです…!!そしてありがとうございます……!!)
ローズは、いい大人達がアスレチックではしゃぐ姿を想像し、何とも言えない気持ちになりながらも心の中で職人達にお礼を言った。
その側で、ルイも心の中で、これ以上ローズをお転婆にしてどうする気なんだ!頼むからやめてくれとギルバートを横目に非難していた!!
………
すると横からローズを覗き込むようにクロードも話しかけて来た。
「ローズ…私からのプレゼントは喜んでくれたかな?」
クロードは、たまに料理をしたがるローズの為に 屋敷の一室を改装してローズが料理人達に気兼ねなく料理出来るようにローズ専用のキッチンを作ってくれた。
それに伴い、まだ幼いローズが一人で料理をするのは危ないので、料理の指導と見守り役としてローズ専用の料理人も一緒にプレゼントとして付けてくれのだが、その彼が先程、ローズのお祝いも兼ねて挨拶しに来てくれたのだ。
その料理人は以前ローズと一緒に料理をしてくれたディタで、ローズはそんなディタに対して、自分の為にすみません…と、恐縮するも、彼たっての希望なんだという事をディタ本人が鼻息荒く説明してくれた。
実際、クロードが料理人達に話を持ち掛けたときに、料理人達の間で争奪戦が行われたらしく、収拾がつかなくなってしまった為、厳正なるクロードの審査によってディタに決まったようだ!!
ローズは申し訳ない気持ちも未だに消えないが、彼の気持ちも汲み取った結果、ありがたくお願いする事に決めた。
ローズもべつに毎日料理がしたい訳では無いので、ローズが料理をしない日は、今まで通り厨房で働く事が決まっているらしくローズとしても幾分気持ちは楽だった。
そんな中…ルイは、また心の中で……あんなに不器用なローズに料理をさせてどうする気なんだと、クロードの考えが全く理解出来なかった……!!
どうせ、ディタとか言う男が殆ど作るので、ローズの手作りでは無くて、ディタの手作りだろ!!と、1人心の中で毒づいていた。
きっとローズの周りに余計な人間が彷徨くのが気に入らないのだろう……が……本人が自覚しているかは謎である……
……
「ローズちゃん!!今度は私のプレゼントを受け取ってちょうだい!!」
そう言ってエリオットが側で控えていた使用人に何かを言付けすると、使用人は、直ぐに動き出し、暫く経ってから使用人に連れられて数人の男性達が現れた。
全員、見た目は若そうだが、ローズは、この人達本当は何歳なんだろうと、実年齢は聞いてみない事には分からないこの国の年齢事情に頭を悩ませていると、その彼等を代表した1人の背はあまり高くない細身のきつねのような顔の男性が少し前に出ると、恭しく腰を折りお祝いの挨拶をしだした。
だが、ローズは知らない男性が自分に近づいて来た事に対して少し警戒を見せてしまうのだった。
ローズの怯えに逸早く気が付いたエリオットがそっとローズを抱き上げると、男性達の前に立って
「ローズちゃん!!彼等が私からのプレゼントよ!!この人達は私の商団の人間なんだけど、これからはローズちゃん専用だから!!」
「はっ……??」
ローズは全く意味が分からなくて、至近距離にあるエリオットの顔を2度見してしまう……
「ふふっ!!だ・か・ら・ローズちゃん専用の商団を1つ作ったから、欲しいものが出来たらなんでも彼等にいうのよ!!」
「…………」
(はっ??えっ??はっ??商団をプレゼント??意味が分からない……規模が大きすぎて理解出来ない!!私…まだ5〜6歳ですけど……宝の持ち腐れって知ってますか??異世界のお貴族様にはそんな言葉は理解出来ませんか??)
まさかの…プレゼントは商団の一部をローズに譲渡と言う事で、ローズにはもう…貴族のお金の使い方が理解出来なかった……
今までクロード達のバースデーパーティーなども行ったが彼等にあげた手紙や絵などを彼等はどう思っていたのだろうか??なんだか突然恥ずかしくなってきたローズだった……
そんな事を考えていると商団員がローズに改めてお祝いの挨拶と後日また時間をとってゆっくり挨拶させて貰う旨をローズに伝えてこの場を去って行った。
こうして今後、ローズの好きなように動かせる、ローズの事だけを考える、ローズの為だけの商団が出来上がった!!
エリオットは。ローズちゃんの好きに使ってねとウインクしてきたが、ローズにはそんな仕草を見ている心の余裕は全くなかった……
これにはルイでさえも目を見開き、言葉が出ないようだった!!
………
「ローズ、俺からのプレゼントも受け取ってくれよ!!」
アルベルトは少し恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながらそう言うと、ローズに小さな鍵を渡してきた。
「あり…がとうございます……これは??」
ローズは不思議そうに首を傾げ、小さな鍵を見つめた。
「これはな、厩舎の鍵だ!!」
(何故……厩舎の鍵を……?)
余計に頭にハテナが浮かんでいるローズの頭上にアルベルトの楽しそうな笑い声が響いた。
「ははっ!!驚いてるな!!ローズに専用の子馬やウサギ、羊、その他にも数匹、動物を用意したから一緒に世話したり遊んだりしよう!!その内、馬にも乗せてやるからな!!後で一緒に見に行こう!!」
「 なっ…!!!うっわ〜〜〜!!!嬉しい!!凄い!!!ありがとうございます!!!」
(嘘ーー!!超ーー嬉しいかも……!!むしろ今日のプレゼントの中で一番テンション上がるかも!)
こちらも厩舎の世話係付きでプレゼントしてくれたアルベルトにローズのテンションは上がり、嬉しさのあまりにアルベルトに抱きついた!!
ローズが前に、魔物を連れ帰ろうとして死なせてしまい酷く落ち込んでいたのを、アルベルトはずっと気に掛けていて、動物が好きなローズが生き物と触れ合って楽しい思い出が出来るようにと、プレゼントしてくれたのだ。
ローズは動物達を見に行きたくてウズウズしているのが見て分かるほど喜んでいる!!
前の3人の時とは全然違うテンションのローズの側でルイは オイオイ と苦笑いをしていた。
……
「ローズ様…こちらは私からのプレゼントになります。残りは部屋に置いてありますが、一先ずは此方をお受け取り下さい!」
そう言って、ジュリアスが厚さ2㎝程の平たい箱にブルーの紙でラッピングし、薄紫色のリボンで結んであるプレゼントを手渡してきた。
彼等の中では一番まともそうなプレゼントを、ローズは嬉しそうに開けてみると……
薄紫の可愛らしい夜着が入っていた…….
(おぉ…うん…ありがとう…….ジュリアス……!!普通と言えば…普通だけれども……なんでだろう……ジュリアスから送られると一番反応に困る……考えが全然読めない……ジュリアス……ジュリアスさんよ……一体…何を考えて幼女に夜着を……?)
「あ…ありがとう…嬉しい……」
困惑しているローズは目が左右に泳ぎまくっているが一応…お礼を言うと、その事に絶対気が付いているクセに全く気にした素振りも見せないジュリアスが少し恥ずかしそうにしながら
「ふふっ…コレを着て今度一緒に寝ましょうね!部屋にもまだ沢山ありますので…」と、言い放つのだった……
「…………」
(何故……!!!ジュリアス…どうした…??ジュリアス……)
後日、楽しそうなジュリアスと一緒に他のプレゼントを開けたローズは、今でさえ溢れる程ある服にプラスして夜着や下着などのプレゼントだった事を確認し目を見開く事になるのだが……
その全てが全て薄紫色と言うジュリアスを全面に押し出したプレゼントだった……
ローズはそれらを日替わりで着用する事になるのだが着用する度にクロード達は何故か微妙な顔をする何とも言えないプレゼントになった……
けれども側で見ているジュリアスは、いつも一人だけ満足そうに微笑んで困惑する彼等を眺めていた…….
その事に気付いているローズとルイは何故か背筋が寒くなるのだった……
貴族の誕生日プレゼントの規模の大きさに何だかどっと疲れるローズだった……