36 あの日から
あのピクニックの一件から…
いくつもの月日が流れたが……ローズの両親の事も、魔獣が危害を加えなかった理由も、何一つ手掛かりが掴めないまま…ただ…時間だけが過ぎていった……
魔獣に関しては過去の文献など様々な物を調べたが、似た様な事例は何一つなく、もう一度ローズに試して貰う訳にもいかない為、たまたまと言う事で皆、半ば無理矢理納得する形になった。
ローズが抱いていた魔獣はサウギュと言う小型の魔獣で、可愛いらしい小動物に容姿を似せる事で獲物を油断させて捕食するタイプのようで、小型ではあるが、鋭い牙から獲物の体を麻痺させる毒を流し、獲物が生きている…意識があるまま捕食する事を好む、あの可愛らしい姿からは想像も出来ないような残酷で獰猛な魔獣のようだった……
サウギュは仕留める事自体は簡単なのだが、その可愛らしい見た目から、他国では幼い子供などの被害が多く出ている事が分かった。
その事を踏まえると、やはり何故ローズが無事だったのか皆の謎が深まるばかりであった。
ただ、こればかりはこの先も、確かめようも無い事なので、運が良かったと割り切って、最近はあまり話題にも出なくなってきていた。
目の前で魔獣を倒すところを見てしまった当初は、自分のしてしまった事にとても落ち込んでいたローズだったが、皆の献身的な励ましもあり、徐々に元気を取り戻していった……
クロード達は魔獣を1匹仕留めただけなのに、ローズがとても心を痛めていた事に、彼女の優しさと清らかさに心を打たれるも、その反面、この先…皆が自分の利益しか考えない、足の引っ張り合いが常の貴族の世界でやっていけるのかひどく心配もしていた。
そんな事をクロード達が考えている間に、ローズと出会ってから約1年……もうすぐローズの誕生日となる日が近づいて来ていた…….!!
***
「ローーーズ!!!何処だーーー!?」
公爵邸で約1年を過ごし…屋敷にも慣れてきたローズは、自分の幼い体にも慣れた様で、小さな体を上手く使いこなし、暇があると彼等を撒いて逃げ隠れする遊びを覚えていた!!
ルイは、ローズの匂いで直ぐに居場所が分かるのだが……渋々ローズに付き合い、日々、探す振りをしている……
これでは精神的にもどちらが年上か分からないが、この世界ではルイの方が年上になるので妥当と言えばその通りである……が…ローズの心の中では自身が姉として、日々、ルイを見守るような気持ちで接しているので彼の心中を察するとご苦労さまとしか言えない現状であった。
今も、庭の木の陰に隠れてニヤけているローズは、とても元16歳の高校生だったとは思えない…ただの可愛らしい年相応の幼女であった……
精神的にも大人なルイは、頃合いを見計らってローズの側まで行くと「はぁ……やっと見つけた…」とローズの頭を片手で掴んだ!!
本当はローズが見える木の上で、ルイも休んでいた癖に、この…約1年の間に完全な演技派少年が出来上がっていた。
そんな事に全く…微塵も…気づいていないローズは
「ふっふっふ〜ん!!ルイもまだまだ甘いわね!!こんな幼い私に逃げられるなんて!!」
と、ルイに向かって指を突き出し、完全に得意気であった……可哀想な元女子高生だ……
そんなローズを…可哀想な子を見るような目で見つめたルイは、軽くため息を吐くと「はいはい…!!ホラ…!!行くぞ」と、軽々ローズを抱き上げるとニヤニヤと得意気なローズを適当にいなしながら部屋まで運んで行くのだった…
***
「ローズ!!ルイに遊んでもらっていたのか?」
ローズの部屋で待っていたクロードは、ルイに抱えられて帰って来たローズにそう言うと、ローズの頭を優しく撫で、ルイからローズを受け取るとそのまま膝抱っこでソファに腰掛けた。
(本当は…私がルイと遊んであげてたんだから…)
やはり上から目線で少し剝れている残念幼女は、もう慣れたクロードの膝の上でジュリアスが入れたアップルティーを クロードに冷まして貰いながら飲んでいる……何処からどう見ても完璧な幼女であった……
最近は、ジュリアス達もローズが屋敷に馴染んできたのを理解しているので、四六時中側にいるわけではなく、公爵邸の中でならルイと2人で遊ばせる事も増えてきていた。
ローズが、ゆっくりとお茶を飲ませて貰いながら一息ついた頃クロードが楽しそうにローズの頭を撫で口を開いた。
「ギルバートが来週こちらに来るそうだよ!!あとエリオットも隣国から戻ってくるようだからローズのお誕生日には間に合いそうだね!!」
それを聞いたローズは愛らしい瞳を大きく見開き、キラキラ輝かせながら喜んだ!!
「うわーー嬉しい!!皆が揃うの久しぶりですね!!」
「そうだな!!そして私たちが家族になる日でもある……今からとても待ち遠しいよ!!」
クロードも嬉しそうで、もうすぐ本当に家族になるのだと感慨深いようだった。
ジュリアスもこの日を待ち侘びていたので心なしかいつもより表情が明るい様な気がする!!
「本当ですね!!この一年が長かったようで…あっと言う間でもあります!!こんなに可愛い娘が出来るなんて……私も待ち遠しいです!」
そんな風に皆がローズの誕生日が来る日を待ち侘びているとクロードが契約前の大切な話を切り出した。
「あぁ…そうだ、ローズ……!!来週、皆が揃ったローズの誕生日当日に養子になる為の契約を行う予定でいる…!!とても嬉しくて、楽しみではあるが、これは…ローズの今後を左右する大切な契約だ……この一年、私たちと暮らしてお互いの事はある程度 理解出来たと思う……が……先はまだ長い……ローズの人生はこれからなんだ!!幼いからよく分からない事もあると思うが、私たちと本当に家族になっても大丈夫か、今一度よく考えて…皆が揃った時にでも聞かせてくれるかい…?私たちは、ローズがどんな答えを出しても君の意見を尊重するし、もし……家族になれなかったとしても、君を見放すような事はしないと誓うよ!!だから安心して考えたらいい!!」
そう言ってクロードはローズ顔を覗き込むとニッコリと優しく笑った。
「……はい……ありがとうございます!クロード様!!」
ローズは少し恥ずかしそうに…でも嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ……今日もローズ様は可愛らしいですね!!では…私たちは仕事に戻りますので、ルイといい子にしていて下さいね!!」
ジュリアスも愛おしそうにローズを見つめると綺麗な指で優しくローズの髪をすいて微笑んだ。
「はい……クロード様もジュリアスもお仕事頑張って下さい!!」
ローズは恥ずかしさのあまり少し俯きながらクロード達に挨拶すると、さらに甘さの上乗せでローズを仕留めにかかかる!!!
「ふふっ…では…行って参りますね!我が…愛しのお姫様……」
「あぁ…では行ってくる!私の唯一……!!」
そう言ってクロード達はローズの額にキスをすると仕事に戻って行った……
「…………」
甘さの相乗効果でノックアウト寸前なローズは、失いそうな意識の中…どうにかクロード達を見送っていた……(こればかりは未だに慣れん!!ヘ〜ルプ!!)
………
「ルイ……行っちゃったね!!じゃあ何して遊ぶ!?」
やっと自分を取り戻したローズは早速ルイに話かけると
「あん??なんでもいいぞ!!何して遊んで欲しいんだよ!!」
最近、どんどん男らしくなってきたルイは…クロード達が居ないと完全に上から目線なのだが、イケメンに磨きが掛かっているので、ルイのイケメンっぷりにローズは、時々、動揺してしまう……そんな自分を認めてたくないローズは…
「むーーーぅ!!ルイ生意気!!」
と、頬を膨らませるが……
「ブハッ!!おまっ……どっちが…!?」
現世では、6歳近く年下のローズを完全にお子様扱いのルイは、日々、ローズの言動を全く相手にはせず、何かにつけて小馬鹿にしているのだが…ローズはそれが悔しくて仕方がなかった……
だが、ルイのお子様扱いは止まらない……
「はいはい……!!では…ローズ様…何を致しましょうか?」
「むーーぅ……じゃあどっちが先にガゼボに着くか競争ね!!ルイは30数えてから出発してよ!!」
完全に遇らわれているローズだが不貞腐れながらもしっかりと遊びの提案をする……ファイトだ元女子高生!!
「はいはい…!!では行きますよ〜!!ロ・ー・ズ・さ・ま・!!ホラ…!!3・2・1・行け!!」
そう言うとローズは楽しそうに走り出した……
その姿を見ながらルイは、やれやれとため息を突き、ローズにバレないように、そっと跡をつけるのだった。