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35 ピクニック 3



「おや??寝てしまいましたね!?」


 はしゃぎ疲れてアルベルトの腕の中で気持ち良さそうに眠っているローズを皆が愛おしそうに眺めている。


 ルイも心なしか眠そうだ……


「でも良かったわ……出発直後は少し怯えを見せていたから心配してたの!!ねぇ…ジュリアス……」


 眠るローズの頭をそっと撫でながら労るように優しい瞳で見つめたエリオットはジュリアスに問いかける


「あぁ…そうですね……でも…ふふっ……突然、脱ぎ出した時はビックリしましたけどね!!ローズ様のお転婆も本物ですね!!」


 ジュリアスはローズが突然走り出し、服を脱いで泳ぎ出した事を思い出しながら笑い、上機嫌にワインを口にする。


 「あぁ。そうだな!!俺もそれには驚いたぞ!!」


 アルベルトも腕の中で眠っているローズを楽しそうに見つめると、そっとオデコを突っついた!!


「このまま元気に育ってくれるといいな……!!…はぁ……マジで帰りたくない……」


 ギルバートは未だにローズと離れる心の準備が出来ていないらしく思い出す度に落ち込んでいる…


「お前は早く帰れよ!!」


 そんな寂しそうなギルバートにクロードは心底面倒臭そうに片手でシッシと帰りを促す…


「それじゃあ、そろそろいい時間ですし屋敷へ帰りますか?」


 ローズをたっぷりと堪能したジュリアスが頃合いを見計らったのか、屋敷への帰りを促し出した。



「あぁ…そうだな…!そしたらアルベルト、ローズを馬車の座席に寝かせてやれ!!帰る準備をするぞ!!」


 屋敷への帰宅に同意したクロードがアルベルトに指示を出すが…


「あ??ローズが起きたら可哀想だから嫌だ!!俺はこのままローズを抱き締めていないといけないから、あまり動けん!!ジュリアス!!代わりに俺の馬取ってきて、乗って帰れよ!!」


 アルベルトがローズを手放したくない為に、めちゃくちゃな事を言い出した……


「嫌ですよ!!あれはアルベルト様の馬じゃないですか!!貴方に似て気性が荒いし…そもそも貴方以外に乗られるの嫌がるじゃないですか!!」


 ジュリアスは、心底嫌そうにしながら残っているワインを飲み干した。


 アルベルトの馬は元々気性が荒く、乗り手が付かなかったのだが、アルベルトが「俺に任せろ」と力技で乗りこなしてからはアルベルトにだけ従順になっていった……なので未だにアルベルト以外に乗られそうになると、かなり嫌がるのでクロード、ジュリアス、ギルバートも乗れない事はないが、疲れるので面倒くさいのだ。


 正論で諭されたアルベルトは堪らず「チッ」と舌打ちをした。


 そしてそのまま嫌そうにしながらも、起こさないように慎重にローズを抱いて馬車まで行くと、そっと寝かせ…一度、頭を撫でてから皆と帰る支度を始め出した….





***




「……んっ……あ…れ……私……」


 ローズは馬車の中で目を覚ました。


 馬車の座席にアルベルトの上着をかけられて寝かされていたローズは寝惚けてまだ働かない頭を動かしながら辺りを見回すと……来た時と同じ馬車の中だと分かった。

 だが…馬車の中には誰も居なく、その事に少し不安を覚えるが……直ぐ近くからクロード達の喋り声が聞こえて来た…

 皆がいる事にホッとしたローズは、寝惚けた頭のまま起き上がると、寂しくなって声のする方へ向かおうと馬車の扉へ手を伸ばした……


「あっ……あれは……??」


 扉を開けたローズの視線の先の森の入り口に全長30㎝位のグレーのフサフサな毛をしたウサギの様な生き物が、ローズが扉を開けた事に気付きこちらを見ている……


 ローズはウサギ(?)を見つけた嬉しさで寝惚けていた頭がクリアになり、ウサギ(?)を驚かさないようにそっと馬車から降り立つ。


「かっ……可愛い……!!ウサギさ〜ん……怖くないよ〜……大丈夫だからね〜……」


 馬車から降りたローズはウサギを見つめながら驚かさないようそっと近づいていく……

 ウサギらしき生き物も逃げずに大人しく小首を傾げ可愛らしい瞳でローズを見つめている…

 ローズは尚も近づき、到頭ウサギ(?)の目の前まで来ると、しゃがみ込んでウサギ(?)の頭を撫でてみた。


「……っ……」


(かっ…可愛い!!!!何!?可愛すぎる!!凄い!!人懐っこいんだけど!!うわっ!モフモフ!!サラサラ!!!ヤバっ……ルイの耳より気持ちいいかも……)


 そんな事を考えつつ大人しく撫でられているウサギ(?)をそっと抱き上げる…!その可愛さに心を奪われたローズは、このまま公爵家に連れて帰って部屋で飼えないかクロード達に聞いてみようと、ウサギ(?)を胸に抱いたままクロード達の方へ歩き出した。


 クロード達は、粗方、帰る準備も整ったらしく、皆で集まって帰りの打ち合わせなどをしているようだ、彼等を見つけたローズは嬉しそうに彼等に近づこうと歩き出した所で、ウサギ(?)の様子がおかしい事に気が付いた…。


「あら??ウサギさん…どうしたの??怖くないよ!!大丈夫!!」


 少し震えている様なウサギ(?)を心配したローズはその背中を撫でながら軽く微笑んでウサギ(?)を見つめた……その瞬間…


「ローズ!!!それを離せ!!!」


 そう大声で言いながら焦るアルベルトと、驚愕する皆の顔がローズを見ていた!!


「…えっ…えっ…あの……」


 ローズは訳が分からずに彼等の顔をキョロキョロと見回すと…

 ローズが驚いて固まってしまっていると判断したジュリアスが優しくローズに話し出す。


「ローズ様……今……胸に抱いている生き物をそっと地面に下ろせますか??」


 ジュリアスはローズが怯えないように言葉を選んで伝えると、未だにローズは訳が分かっていないようだが、それでもそっと…ウサギ(?)を地面に下そうとした…

 その時、震えているウサギ(?)の顔を覗いたローズは……ウサギ(?)の口が大きく裂け、真っ赤な舌と、無数の鋭い歯を見せながら目を大きく見開いてローズを見ているのに気が付いた!!


 驚いたローズは「キャア!!」と叫び!!抱きしめていたウサギ(?)から思わず手を離してしまった……

(あっ…)と思ったがもう既に遅く、その瞬間、走って飛び込んできたアルベルトの腕の中に抱えられる様に転がるのと同時にクロードの「ファイア!!」と言う声が聞こえて来た。


 ローズは放り投げる様な形で手放してしまったウサギ(?)が心配で、自分を庇って一緒に転がったアルベルトの腕の中からどうにか抜け出すと、ウサギ(?)がいた辺りを見渡し、ウサギ(?)が居ない事に逃げてしまったのかと、少しの安堵と寂しさを覚えた。

 だが、何故か地面が少し焦げた様に黒くなっている事に気が付いた……

 ローズは先程、アルベルトが飛び込んで来たのと同時に聞こえてきた「ファイア」の言葉を思い出す……


「……嘘……ウサギ……さん……??」


 まさか…自分がここに抱き上げて来たせいでウサギ(?)が……と…自分のしてしまった事に震え出す…….


 可愛いから連れて帰りたいと…勝手なローズの思いでウサギ(?)を連れて来たばかりに、こんな風に殺してしまう事になるなんて……と、ローズは言いようの無い後悔に苛まれていた……


 前世でも生き物が目の前で亡くなる所など見た事が無く、それも自分が勝手に連れて来たせいで亡くなってしまうなんて…考えただけでも胸が苦しくて、ウサギ(?)に対する申し訳なさと悲しみが込み上げて来た……


「……っ……ふ……グス……えぅ……」


 到頭、ローズは我慢出来ずにその場で泣き出してしまった……

 その時、急いで駆けつけて来たエリオットがローズを力強く抱きしめた。


「ローズちゃん大丈夫!?何処も傷つけてられて無い??痛い所は??」


 心配そうにローズの体を確認するエリオットにローズが泣きながら訴える。


「…ヒック……ッ…だ…大丈夫……でも……わ…わた……私……のせい……で……ウサギ……さん……が……死ん…じゃった……!…わ…私が……連れて…来たから……」


 そう言うと、ローズは大声で泣き出した。


「大丈夫よ!!ローズちゃんのせいじゃないわ!!あれはウサギではなくて魔獣なの!!見つけたたら危害を加えられる前に殺さないとダメなのよ!!ローズちゃんに怪我が無くて良かったわ!!小さくても魔獣は平気で人間を傷付け食すのよ!!まだ幼いから、違いが分からないと思うけど、生き物を無闇に触ってはダメよ!!分かった!?」


「………う…ん……」


 ローズは泣きじゃくりながらも小さく頷いた。

 だが、いくら魔獣と言えども自分の身勝手な思いで殺してしまった事に未だ後悔し、素直に納得する事は出来なかった……


 だが、エリオットは優しく微笑むと


「そう偉いわ!!じゃあ…帰りましょう!」


 そう言ってローズを抱き上げると優しく背中を撫でながらジュリアスと一緒に馬車に乗り込んだ。


 帰りの馬車の中も気持ちの整理が付かずに、ずっとグズグズと泣いていたローズだが、暫くすると泣き疲れて眠ってしまった……




***



 その日の夜、クロード達は談話室の中で、重苦しい空気の中、今日の事を話し合っていた。


「なぁ…アルベルト…騎士団で働いていて、魔獣に触れるなんて聞いた事あるか?」


 足の上に膝を置き手を組み、少し前屈みになったクロードが神妙な顔で問いかけると、アルベルトは少し考えた後


「……いや……そんな事例も……噂話ですら……聞いた事ないな……」


 と言いながら、節目がちに首を振る……そして少しの沈黙のあと、エリオットに話を振った…


「エリオットは商団で各国を回っていて何か聞いた事あるか?」


「いいえ……無いわ……捕らえる事はもちろん…死んでからも触る事はあまりしないわね……」


 エリオットも珍しく難しい顔をしながら考えるも、答えは出ない…


 尚も難しい顔をしているクロードはギルバートにも話を振ってみる…


「ギルバートは王宮でそんな話しを聞いたり、読んだりした事あるか?」


「まぁ…詳しくは王宮で調べないと分からないが……今までは……無いな……」


 ギルバートも少し考えた末、分からないと、片手で髪を掻き上げながら少し上を見つめ思案する…

 その仕草とほぼ同時にジュリアスが何故と、疑問を持ちながらも、先程のローズの姿を思い出すように話し出した。


「ローズ様は……一体………

 触る…と…言うか……抱き上げていましたよ……ね……!?私は…見た瞬間、心臓が止まるかと思いました…!」


 ジュリアスは思い出した時の恐怖で眉を顰めてしまう…….それに同意する様にクロードも話し出す。


「あぁ…それは私もだ…!魔獣は人の魔力に反応して、その血肉を欲しがる…そんな存在に無防備に触られて抱き上げられているのに傷一つ負わさないなんてあり得るか??」


 魔獣は本来、魔力を糧に生きている為、魔力の高い人間がとても好物だ!!

 なので近づくだけでも襲われるし、死んだと思って迂闊に触ると、最後の力を振り絞ってそのまま取り込まれてしまう事も多々あるようだ。

 魔獣を扱う基本として、見かけたら不用意には近づかず遠距離魔法で仕留め姿形は残さない事、たとえ姿が残っていても迂闊には近寄らず、頭や手足を切り離してから慎重に扱う事、これが鉄則である。


 そんな事を改めて考えているとアルベルトが少し考えた末に話し出した。


「いや……全然分からない……!!俺も騎士団で少し調べて見るが……子供は魔力が安定していないから……もしかしたら………」


「それは無いわね!!他の国だと大人より子供の方が魔獣に襲われる率は高くなるようだし…」


 アルベルトの淡い期待をエリオットがキッパリと否定し出した所でクロードが突拍子も無い事を言い出した……


「彼女は一体……まさか本当に天使なんじゃないのか……??」


 クロードの頓珍漢な答えと共に彼等の夜は更けていった……



………


………



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