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27 それぞれの思い

男性視点です。


初めはルイです。


宜しくお願いします。





………


………



   夢の中で、誰かが俺を呼ぶ声がする……




『……ル……イ………


    …………ルイ…………


      …………ルイ!!大丈夫ですか!!』



 名前を呼ばれながら、 頬を何度か叩かれた衝撃で俺はハッと気が付いた。


 視線の先には険しい表情をしたジュリアス様が俺の肩を掴みもう一度、頬を叩こうとしている所だった。


 肩を掴んでいたジュリアス様の手を外して、靄がかって痛む頭を片手で軽く押さえると、体を起こし、眠ってしまう前の記憶を辿る。


 その瞬間、痛む頭の事など忘れてガバッと頭を上げてジュリアス様を見た。


「ローズ……ローズが!!!!」


 俺は思い出した!!


 他の事に気を取られていた為に、何も考えないで口にしちまった紅茶に強めの眠り薬が入ってたって事を…最悪だ……俺の失態の所為でローズが……絶対に守るって誓ったはずなのに……獣人の俺が真っ先に気付かないといけなかったのに……だって、俺たち狼の獣人は人よりも身体能力に優れているから…他にも味覚、嗅覚、視覚、どれを取っても他とは比べ物にならない位い秀でているハズだったんだ。


 それを俺は……完全に油断してた……


 クソっ!!!ローズ……どうか無事でいてくれ!


 目の前でローズが倒れていく瞬間の光景が忘れられない!!


 ローズが倒れる瞬間、俺の視界の端に映った、男のニヤけた顔……


 絶対に許さない!!見つけ出して殺してやる!!



………



「落ち着いて下さいルイ!!!大丈夫ですか!?何があったのですか!?分かる範囲でいいから話してください!!」


自分の失態やローズの事を思い過ぎて、考えに沈み込んでしまったルイは慌ててジュリアスに説明し出した。



「………すみません!!あの後、ローズと一緒にジュリアス様を待っていて……そしたら給仕の男性が、お茶を持って来たから、お茶を淹れて貰っていたんだ……そしたらローズがいつもの給仕と違うねって……言い出して…」


「ちょ……ちょっと待って下さい!!いつもの給仕と違ったんですか??」


 ルイが喋っているのをジュリアスは慌てて止めて確認する。

 ローズは知らない男性を怖がるので、基本的にローズの周りに居る人物は一定の条件をクリアしている限られた人達だけにしており、個人の勝手な変更などは、あり得なかったからだ。


「…はい……いつもの給仕の方が忙しかったとかで、以前 厨房へ行った時に待ち時間にお茶を淹れてくれたニックとか言う男でした。」


「そんな……あり得ない……」と、慌てているジュリアスを眺めつつ、ローズの周りに居る人達が基本的に同じだったのは、そんな理由があったのかと、知らなかった自分を恥、落ち込みそうになったルイだったが、今は、その時ではないと自分を奮い立たせるのだった。


「あと…その、ニックとか言う男が突然、俺があげたローズのバレッタを見て驚いたような表情をしたので、何でそんな物を見て驚くんだろって、気を取られている間に、薬が入っている事に気が付かずに飲んでしまいました。すみません。言い訳しようもありません。」


 俯いてしまったルイの頭にジュリアスは優しく手を置いた。


「起こってしまった事は仕方が無いが、2度と同じ間違いはしてはなりません!!貴方は何を置いてもローズ様だけを優先しなければならない。分かりますね!!」


「……はい……ジュリアス様……俺……倒れる前のローズの顔が忘れられない!!早く助けてあげないと……」


 ローズを守れなかった悔しさと、ちゃんと無事でいるのかと思う不安で、気持ちがグチャグチャのルイは、潤んだ瞳で必死に訴える。


 そんなルイを、ジュリアスは力強く励ました。


「きっと大丈夫ですよ!!ローズ様は絶対、無事に取り戻すと約束しますから。後は私に任せなさい。クロード達にも連絡を取るから、それまで少し休んでなさい」


 そう言って、もう一度、ルイの頭を撫でてやると、ルイは今まで我慢していた涙が溢れ出した。


「…グスッ……ごめ…ん…でも…大丈夫…俺…まだガキだけど…獣人だから人よりも鼻とか気配に敏感だから、ちゃんと手伝うよ!!今度は絶対間違えない!!」


「あぁ…分かりました。頼りにしていますよ!!」


 ジュリアスはそう言って、涙を流しながら力強く言い切ったルイの肩を軽く叩いた。



 ………



 それからジュリアスは、屋敷の人間に指示を出し、早馬を出すとクロード達に伝えに行ってもらい、そのまま急いでニックの部屋を訪れた。


 だがそこは既にもぬけの殻で、ローズ様の居場所を示す手がかりは何一つ残されて居なかった。


 残されていたのは、ニックが置いていった数枚の服と、無くなったと思っていた、ローズのバレッタやアクセサリー、ベッドの上に置いてある、しわくちゃになっているナイトドレスだけだった。


 ベッドの上に、幼い子供のナイトドレスが無造作においてあり、毎晩、抱き締めて寝ていたであろう事が容易に想像できた。


 その異様な光景を目にしたジュリアスは、目を見開き 何の言葉も出せなかった。


 そして強く拳を握り締めると言葉に出来ないほどの怒りが込み上げて来た。

 自分の大切な存在になっているローズを、奴の勝手な思いだけで行動を起こし、連れ去るなんて絶対に許さない……


 最近、やっと大人の人にも慣れだして、本来の自分を取り戻しつつあるのに……


 ローズ様に少しでも怖い思いをさせたなら、髪の毛一本さえも残さずに、この世から消してやると、強い怒りと共に心に硬く誓ったジュリアスだった。


 その後、すぐに厨房へ行き、ニックの足取りを調べる為に聞き込んだところ、昼頃までは普通に働いていたらしく、ローズ達にお茶を届けに行って以降のニックの行動は分からずじまいだった。


 料理長達は、ローズ達を給仕しているんだと思い込んでいたらしく、ニックの帰りが遅くても大して気にも留めていなかったようだ。


 ジュリアスから話を聞いた料理長達は、とても驚いて自分達の責任だと言っていたが、ジュリアスは、今は責任問題を追求している時間も無いので、その事は後回しにすると伝え厨房を後にした。


 次に執務室へ行き、従業員達の情報を管理している、人事書類を探し出すとニックの情報を調べ始めた。


 そこで実家の場所や交友関係などを大まかに調べると屋敷の護衛を使い、実家への聞き取りと、調査を頼んだ。

 そして残りの護衛に、屋敷の中を含めて全てを隈なく探させた。


 だが未だに手掛かりになりそうな物は、何も見つけられなかった。


 そうして何の手がかりも掴めないまま時間だけが過ぎて行くのだった……




***



 時間も深夜に差し迫ろうとしていた頃、3頭の馬が駆ける音と共にクロード達が部屋に飛び込んできた。


「どう言う事だ!!」


 焦ったようなクロードの声に、冷静にジュリアスが答える。


「申し訳ありません。屋敷内だからと気を抜いた私の責任です。ローズ様を連れ去ったと思われるのはニックと言う料理人で、既に部屋には居なく、残されていたのは、ローズ様が使用してたと思われるアクセサリーやナイトドレスなど数点だけでした。今、実家の方にも使いを出していますが、まだ戻って来てはおりません。」


「……ローズの私物が男の部屋にあったのか…?」


 ギルバートが堪らず口を開くと


「……はい…最近、ローズ様の私物が紛失している報告は、受けていたのですが……申し訳ありません…」


 ジュリアスは自身の失態を恥じ、彼等に向かって頭を下げた。


「おい!!そしたらソイツは何度もローズの部屋に出入りしていたって事になるのか??」


 アルベルトも焦ってジュリアスに問いかける。


「…そうだと思われます…しかもナイトドレスが奴の自室のベッドにあり、毎晩使用していた形跡があります。彼の異常性が伺え、早急な対応が必要かと……」


「ジュリアス!!!もういい……分かった…」


 ジュリアスの言葉を聞いたクロードは頭を押さえながら、そのまま近くのソファにドカッと腰掛けるとアルベルト達にも目線で座るように促し、数秒の沈黙のあと重い口を開いた。


「……そうか……大体分かった……お前が、目を離してから、ローズがいない事に気がつくまでの時間は!?」


 クロードの問いに、ジュリアスが的確に答える。


「1時間程だと思われますが、現在はそれから8時間以上は経っていると思われます……申し訳ありません」


クロードは、軽くジュリアスを睨んでからアルベルトにも指示を出した。


「アルベルト、お前は屋敷の人間から、もう一度話を聞き直せ、何か思い出した事があるかも知らない」


 「あぁ分かった。今すぐ行ってくる」


 そう言うと、アルベルトは直ぐに立ち上がり部屋から出て行こうとした…


 その時……… コン コン  コン


 と、クロード達のいる部屋の扉をノックする音がした。


 扉のすぐ側にいたアルベルトは、扉を開くと、そこには、俯いて不安そうにしている料理人のディタが立っていた。


 アルベルトは、ディタを中に入るよう促すと、クロードの前のソファに座らせ、自分もクロードの横に座り直した。


 ギルバートは、アルベルトとは反対側のクロードの横に座っており、ジュリアスは、クロードの後ろで立って控えている。


 ディタは、少し緊張していたようだが、意を決したように話し出した。


「俺……まさか….こんな事になるとは、思って無くて……ジュリアス様からニックの事を聞かれた後、俺…色々考えたんです。ニックとは仲が良かったから、それで……俺…思い出したんです!!

 確証は無いけど…前に、ニックが…この屋敷の側に、使われている形跡がない小屋を見つけたって…そこを綺麗にして隠れ家に出来ないかなぁって、言っていたのを……

 俺もその時は、話し半分に聞いてて、隠れ家ができたら招待してくれ、なんて言ったりしてたんです」


 瞳を潤ませながら訴えるディタに、ギルバートは尚も冷静に話を聞きだす。


「詳しい場所は分かるか!?」


「…….よくは分からないんですけど……ここからそんなに離れていないらしくて、多分、東の方って言っていた気がします……でも、前の話だから確かではないんです…」


「いや充分だ、ありがとう!!もう部屋で休んでいい。もしまた何か思い出した事があったら話を聞かせてくれるか?」


 そう言ってギルバートはディタの退出を促す。


「はっ…はい!!俺…ニックと同じ時期に入ったから、凄く…仲良くしてて、まさか、こんな事するなんて……ニックは、女性が苦手だってずっと言ってて…最近までローズ様にも近づかなかったのに……どうして……きっと…何かの間違いだと思うんです……」


「それはローズを無事連れ戻してからだ!だから、君が気に病む事じゃない!!じゃあ俺たちは話があるから」


 そうキッパリとアルベルトは言い切った。


「はい…すみません…失礼致します」


 ディタが立ち上がり部屋から退出しようとするのと同時にジュリアスも移動し扉の前に立つとディタを部屋の外に出し、自身も一礼してから


「そしたら私は屋敷の近くの森を管理している人間に話を聞いて参ります」


「あぁジュリアス頼んだ!」


 そう言って、急ぎ管理者の元へ走るジュリアスだった。



***



 ローズ…….こんな事になるのなら夜会になど行かなければよかった……


 嫌な予感はしてたのに…


 ジュリアスにはキツく当たってしまったが、今回の事はジュリアスだけの失態では無い……


 様々な兆候はあったのに、気付けなかった私達、全員の責任だ。


 ローズにもしもの事があったらなら……私は……


 君と、出会ってから、まだ数ヶ月しか経っていないと言うのに、私の中でとても大きな存在になりつつある。

 天真爛漫で優しくて、少しお姉さんぶるその姿もまた可愛くて、乾いた私の心に潤いを与えてくれた。

 色の無い世界で、漠然と生きて来た私の世界を色付けてくれた。

 そんな掛け替えの無い存在のローズが、私の前から突然消えてしまうなんて……


 最近やっと、心から笑うようになってきたのに…


 ローズが辛い思いをしていないだろうか…泣いていないだろうか…と、心配で胸が潰れそうになる。


 ローズ待ってろ…絶対に助け出してあげるから……


 ニック………


 ローズに指一本でも触れてみろ、死ぬよりも辛い目に合わせてやるからな。


 そんな事をクロードが考えていると、ジュリアスが息を切らし、急いで部屋に入ってきた。


「クロード様分かりました!!屋敷を出て、南東の方に向かって20分程歩いた先に、今は使用していない小屋があるそうです。管理者の男がそこまでも案内出来るそうなので、今は待機させております」


「よし!ジュリアス、アルベルト、ギルバート行くぞ!」


「「「はい」」」


 その時、隣の部屋で仮眠を取っていたルイが慌てて部屋に入って来た。


「あの!!俺も連れて行って下さい!!絶対足手纏いになりませんので!今度こそ、ちゃんと守ってやりたいんです!!」


「分かった!ルイは俺の馬に一緒に乗れ!!」


「ありがとうございます」


 アルベルトはそう言うと、皆は急いで外へ駆け出し、用意していた馬に飛び乗った。

 



  【ローズ……今助けに行くからな!!】



4人の思いは一つだった………


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