表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/135

26 お花のバレッタ


「はぁ……やはり、夜会へ行くのは辞めようかな……ギルバート、アルベルト、私は病気になってしまったようだ。申し訳ないが、王宮には2人で行って来てくれ!!宜しく頼む!!」


 出発時間が迫り、馬車も既に門の前で待機している中、ローズを抱き締めながらクロードが行きたくないと言い出した。

 クロードは、ジュリアス1人で子供達を見るには限界があると思っていて、夜会の日にちが迫る度に、ジュリアス1人じゃ心配だ…心配だ…と、呪文の様に呟いていて、皆がそれを呆れたような顔で聞き流していた。

 だが、クロードが行きたくない本当の原因は、最近、ますます元気になって、どんどん可愛くなるローズと、離れたくなくなってしまったのが大きな理由だった。

 出発間際になってゴネるクロードに、ギルバートが冷静にツッコんだ。


「無理に決まってるだろ!!お前の病気は、ただの、ローズと離れたくない病だ!!そんなもんは、治らねぇんだよ!!俺だって別に行きたい訳じゃない!!城に行って、いけ好かない女を相手するくらいなら、ローズと一緒に、遊具の制作をしてた方が断然、楽しいに決まってんだろ!俺が留守番しててやるから!お前が行って来いよ!!」


 結局、ギルバートも行きたくないらしく、お互いに擦り付け合っている。

 やはり、王家主催の夜会になると、主な貴族は皆、参加する為、貴族の女性の扱いには特に気を使い、彼女達も大体が我儘で自己中心的な女性のようだ。 

 それに群がる男達も、足蹴にする女性達も、見ていて気持ちの良いものでは無かったし、そんな女性に言い寄られても迷惑でしかなかった。

 王弟や、公爵、師団長クラスになると、その地位や彼等の容姿も相まって、彼等に群がっては、揉め事を起こす、大変、迷惑な会だった。


 そんな夜会に行きたくないクロード達の、醜い擦りつけ合いにアルベルトが釘を刺す。


「ギルバートこそ何を言ってるんだ!!お前等が行かないと話にならないんだよ!!ローズ!いい事、教えてやるよ!!クロードやギルバートは、夜会に来る女性達からスゲェ人気なんだぞ!!皆、スゲェ勢いで寄って来るんだ!!いつかお前にも見せてやるからな!ビックリするぞ!!」


笑いながら爆弾発言をしたアルベルトに、クロードが慌てて反論する。


「そんな事、お前にだけは言われたくないな。ローズ、騙されてはいけないよ!アルベルトの方が人気があるんだから。大体、ローズを夜会になんて連れてく訳ないだろう!!夜会なんて危険な所にローズを連れて行くなんて!!お腹を空かせた狼の群れの中に置いてくる様なものだろう!?」


 ローズが成長して、夜会に出て男達に囲まれている所を想像してしまったクロードは、血相を変えて拒否すると呆れ顔のアルベルトがニヤニヤしながらクロードを煽る。


「クロード…お前……そんな事、言ったって、そう言う訳にもいかないだろ……年頃になったらヤバいぞ〜!夜会の招待状でこの屋敷が埋まるんじゃないか!?俺達が選んで、しっかりガードしていかないと、何があるか分からんからな!!一瞬たりとも目を離せないな!!ははっ!!」


「なっ……絶対、嫌だ!!!」


 アルベルトに揶揄われて、絶句しているクロードを横目に、成人したら、夜会などに行って、カッコいい男の人と知り合い、恋するチャンスだと密かに考えていたローズは、あまり余計な事は言ってくれるなと、焦っていた。

 せっかく異世界転生したので、前世では考えられなかった、乙女の憧れのカッコいい王子様と舞踏会でダンスをアルベルトの揶揄いで、不意にされそうになり、止めてくれと本気で思っていた。

 夜会に行ってまで、クロード達に囲まれて、素敵な出会いまで阻止されるなんて断固反対である!!


 平均年齢100歳のお爺ちゃん達の不毛な争いになど付き合ってられないと、夜会に行ったら絶対に彼等を撒いて、素敵な出会いをゲットしてやろうと決意を新たにしたローズだった。


 密かにそんな決意をローズがしていると、やっと、クロードが重い腰を上げた。


「はぁ……仕方ない……行ってくるか……なるべく早く、帰って来るからな!!ジュリアス、ルイ頼んだぞ!!ローズ……私の天使…行ってきます。はぁ…このまま連れ去ってしまいたい。」


 そう言って、もう一度、ローズをギュッと抱き締めると、ローズの頭にキスをした。


 未だに、この国のキスの軽さに慣れないローズは、少し目線を彷徨わせたが、直ぐに立ち直り、「行ってらっしゃい」と、ローズもギュっと抱き締め返した。

 その瞬間クロードは、ローズを抱き抱えて自室に帰ろうとしだした。

 それを冷静にギルバートが嗜めて、ローズを取り返しながら


「オイ…もういいから返せよ!!次は俺だ!!ローズいい子にしてろよ…!早めに帰るから、明日また、設計の続きしような!!ローズ…俺の宝…行ってくるよ!!」


 ギルバートは、ローズの頭をそっと撫でる。

 ローズには、ギルバートのスキンシップくらいが丁度よく、慌てる事なくすんなり受け入れられた。


 ローズは、ギルバートにもギュッと抱きついてから「行ってらっしゃい」と上目遣いで微笑んだ。

 その瞬間ギルバートも、ローズを抱き抱え自室に帰ろうとしたので、ルイは呆れた顔をしながら『結局お前もかよ』と、心の中でツッコんでいた。

 そんな中、しれっとアルベルトにローズを奪われたギルバートは少し不貞腐れながらも大人しくしている。


「ローズ…ジュリアスとルイの言う事をちゃんと聞くんだぞ!!愛してるよ…ローズ!!」


 珍しくアルベルトにまで、分かりやすい愛情を示されて、若干クラクラなローズは、地に足が着いていない様な気がするが、それでもアルベルトにギュッと抱きつき「行ってらっしゃい……」と、見送った。


 3人を乗せてた馬車は、それから直ぐに王宮へ向かい走りだした……


 今までは、常に誰かが側に居て、何をするにも賑やかだった屋敷が今は、シーンと、静まり返ってしまったような気がして、ローズは言葉では言い表せない寂しさに襲われていた。

 それを察したジュリアスは、優しくローズを抱き上げると、オデコにチュとキスをして少年の様に無邪気に微笑むと「行きましょう」と耳元で囁いた。


  (ちくしょう!!カッコいいゼ!!)





***




「ローズ様、それでは今からは、何を致しますか?また、お庭にでも行きますか?」


 一度、ローズの自室に戻り、今後の予定を決めようと、お茶を飲んでいるところでジュリアスが口を開いた。

 まだ少し落ち込み気味なローズは、暫く考えた後…


「う〜ん……今日は、お外って気分でもないから…大丈夫だったら、厨房に行って、お料理……」


「ブホォッ!!ゴホッ……ゴホッ……」


 ローズが料理でもしたいと言う前に、ルイが飲んでいたお茶を吹き出した。


「ルイ………汚い………!!」


「わりぃ!!わりぃ!!だってお前が、料理なんて一丁前な事を言うから…!だって……お前……グチャグチャ……」


 完全にローズをおちょくっているルイに、ローズが頬を膨らませながらキレた。


「ルイーー!!!!意地悪ーー!!!」


 ジュリアスは、幼い2人のやり取りを見兼ねて、ルイの言葉遣いを嗜めつつ、むくれているローズを慰めはじめた。


「コラ。ルイ!口の聞き方!!それに、ローズ様のケーキはグチャグチャではありませんよ!!とても個性的で美しかったではないですか!!美味しかったですし!!」


「ジュリアス様……俺はケーキなんて一言も言ってない!!」


「はっ!!!なっ……なっ……いや……」


「ブハッ!!クックックッ!!だってよローズ様!!」


「ルイも….ジュリアス様も.…もう知らない!!」


 ローズのフォローをしたつもりのジュリアスは、ルイの鋭いツッコミに言葉も出せずにローズを余計、怒らせてしまった。


 オロオロしているジュリアスと、怒って頬を膨らませているローズを気にも留めずにルイは、ポケットから小さな白い箱を取り出して、そっとローズに近付くと


「そんなにむくれるなよ!ほら!!コレやるから機嫌直せよ!!」


 そう言いながら、怒っているローズの頭の上にコツンと、小さな箱を乗せ置いた。

 その箱を頭の上から取り上げたローズは


「何?これ!?開けていい??」


 と、先程まであんなにむくれていたのをすっかり忘れて、不思議そうに、少しワクワクして、ルイに問いかける。


「いいよ!!」


 ルイはその立ち直りの速さに少し呆れた様な可愛らしい物でも見る様な顔で了承すると、ローズは白い箱を丁寧に開いていった。


「あ……お花のバレッタだ……!!可愛い……」


「前に失くしたヤツ気に入ってただろ!!エリオット様に相談して、頼んで持ってきてもらったんだ!!」


 以前、エリオットに、ローズが気に入っていた花のバレッタが無くなってしまったので、新しい物をプレゼントしたいと相談した時の、エリオットのニヤけ顔が忘れられないルイだったが、ローズの嬉しそうな笑顔を見た瞬間、全て帳消しされた様だ。


 ルイも大概、単純な男である。


「ありがとう!嬉しい!!」


ローズは貰ったバレッタを嬉しそうに眺めた後、ルイの方を見て破顔した。


 それを嬉しそうに眺めた後、思わず笑いを漏らしたルイは


「プッ!もう機嫌直った!!単・純!!」


 と、言いながら、ローズのおでこを2回人差し指で突っついた。


「なっ………ぐぬぬ……」


 オデコを突っつかれたローズは、慌ててオデコを両手で押さえつつ、図星をつかれた悔しさで意味の解らない言葉を発してしまう。


「ははっ!なんだよそれ……!!ホラ……つけてやるから……後ろ向け……」


「…………」


 悔しそうなローズはオデコを押さえつつも黙って従った。


「うん……似合うな!」


 ローズを見つめ、優しく微笑んだルイを見て

(なっ……何!!!なんなの!!!この、突然のイケメン仕様は!!何!?1歳年取るだけで、こんなにも違うものなの???あの、少年特有の、ちょっとテレたツンデレが好きだったのに!!悔しい……カッコいい……!ルイのクセに!!)


 顔を真っ赤にした、ローズの心の叫びは気付かれず、ルイは未だに満足そうに眺めていた。


 それを見ていたジュリアスも、ローズにプレゼントがあると言い、急いで取りに向かった。


……


「ローズ様、コレは私からのプレゼントです。」


 そう言って薄い長方形の箱をローズに手渡した。


 洋服か何かなのかなと思いながら、ローズが箱を開けて中を見ると、そこには薄い紫色のナイトドレスが入っていた。


「私の髪色と同じなんです。それを着て今日は一緒に寝ましょうね!!朝まで…離さないですよ……」


「……あり…が…とう……」


(ジュリアス…貴方…私が幼女だって、ちゃんと分かっているんでしょうね!!色気がヤバい!!ヤバ過ぎる!!!幼女に向けていい色気じゃない!!しかもその危うい発言…日本で訴えたら勝てるレベルだからな!!ちくしょう!!恥ずかしいよ……)


 満足そうなジュリアスは1人頷くと、次の瞬間、真面目な顔をしてローズとルイに話しかけた。


 「ローズ様、申し訳ないのですが、先程、プレゼントを取りに戻った際、緊急な案件があるとの事で一度、執務室に、行って参ります。そんなには、お時間は掛からないと思いますので、こちらにお茶とお菓子を持って来させるので、暫く自室でお待ち頂けますか?暇な様でしたら、何か御本でもお待ち致しますが?如何なさいますか?」


「ありがとうございます!!でも、ルイと2人で大丈夫なので、早くお仕事に行って下さい。」


「ローズ様は本当にいい子ですね!ではルイ、頼みましたよ。」


「はい!」


 ジュリアスは、ローズの頭を優しく撫でるとそのまま部屋を出て執務室へ向かった。





***



「ルイ〜何する〜」


「おまっ……ゴロゴロするの早っ!!ホラ!!服が皺になるだろ!!起きろって!!」


「えーーーいいじゃん!!ルイもゴロゴロしようよ!!楽しいよ!!」


「…………」


 ジュリアスが居なくなった途端に、ダラけてゴロゴロし出すローズをルイはいつものように嗜める。


         コンコン


 その時、不意に部屋の扉がノックされて声がかかった。


「ローズ様、お茶とお菓子をお持ち致しました。」


「ヤバっ!!………どうぞ!!」


 ローズは急いでベッドから飛び降りると、近くのソファーに腰掛ける


(あっぶな!!給仕来るの忘れてた!!)


 ルイが扉に近づき給仕を中に招き入れると、1人の男性がお茶のセットとお菓子をトレイワゴンに乗せて現れた。


「失礼致します。」


給仕が中に入って来ると、いつもの給仕とは別の男性だと言う事に気が付いた。


「アレ??貴方は……」


「はい!!私は先日、厨房でローズ様達が休憩の際に、給仕させて頂きました、ニックと申します。先程、給仕の方が忙しそうでしたので、代わりに参りました。」


「ありがとうございます!先日も、お仕事の邪魔をしてしまって、ごめんなさい!!こっちは適当にやりますので、お仕事に戻って下さい!!」


 厨房で仕事中のニックが、わざわざ持ってきてくれたと思ったローズは慌てて謝った。


「いえいえ!大丈夫ですよ!!とりあえずお茶を淹れますね!ローズ様はミルクティーですよね!?ルイ様はダージリンのストレートで宜しいですか?」


 「すみません!ありがとうございます!」


 と、ローズ達が答えた後にニックは紅茶を淹れ始める。


 慣れた手つきで紅茶を淹れていたニックは、不意にローズの方を見て声を出した。


「あっ……バレッ……いえ…すみません!」


「えっ!?……あぁ〜!!コレですか!?さっきルイに貰ったんです!!可愛いですよね!!前に気に入ってた物を無くしちゃって!!」


「あぁ…….そう……なんですね……さぁ……お茶が入りましたよ。どうぞ……ごゆっくり……」


「ありがとうございます!!」


 ルイと2人で紅茶をゆっくり飲み出した。

 丁度いい温度のミルクティーを一口飲んだ時、向かいに座って、紅茶を一口飲んだルイが、どこか顔を歪ませた様な気がした。

 けれど、どうしたの?と、問いかける前にローズの視界がボヤけだす。


 目の前のルイも机に手を掛けたので、慌てて、ルイ……と、言葉を発する前に、ローズの意識は遠のいていった……。



「迎えに来ましたよ……ローズ様……」














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ