24 人の気配
「……ん!? ローズが気に入ってた花のバレッタが、見当たらねぇな??後で、ジュリアスにでも聞いとくか!?
それじゃあ、仕方ねぇから今日は、この紺色のリボンな!!」
そう言いながら、楽しそうに自分と同じような瞳の色のリボンを選んだアルベルトは、次に、同色のパフスリーブのワンピース、胸の横に水色のチェックのリボンが縦に並べて2つ付けてあり、そこから下に向かってスカートの裾まで切り込みが入り、水色のチェックの布が見え隠れする可愛らしい膝丈ワンピースを選んだ。
ローズはいつも思うが、彼等のセンスは、意外に悪くはない。
むしろ前世のローズよりよっぽどお洒落だ!!
言動は、些かおかしいが……
そうして朝の支度を終えると、アルベルトに抱えられ、いつもの様に朝食へと向かう。
アルベルトとルイと一緒に、長い廊下を抱えられながら移動し、階段に差し掛かった時に、ふと誰かの視線を感じた。
アルベルトも同様に何か感じたのか「ん??」と、一度止まり辺りを見回した。
ルイも何か感じたらしく、耳がピクピク動きながら目線で周りを確認してる。
(あの耳もふもふしたい……)
1人呑気に構えているが、アルベルト達も辺りを気にしてみたものの特に周りに異変も感じられないらしく、そのまま朝食へと向かい歩き出した。
***
朝食が終わり、いつものようにアスレチック擬きが置いてある園庭に向かうローズは、今は、ジュリアスと一緒だった。
(ジュリアスさん……仕事は大丈夫なんですか…? またクロード様に怒られますよ!!)
そんな風にジュリアスの心配をしているローズは、次の瞬間にはそんな事も忘れ、ルンルン気分で園庭に向かった。
以前に提案したクライミングが出来上がったと知らせがあったので、とても楽しみだったからだ。
クライミングは流石に規模が大きかったので、ギルバートは、一流の建築職人をわざわざ呼び寄せ、子供の遊具を作らせると言う暴挙に出た。
ただ、職人達は意外に楽しんで作業していたらしく、出来上がった後、久しぶりに面白いモノが作れたと、とても喜び、次もまた、面白そうなモノを作る時は是非声を掛けてくれと言われたそうだ。
***
まず初めに、安全性を確かめる為、ルイがログクライミングを試す。
ログクライミングは、丸太を斜めに積み上げていて、一番上から紐を2本、少し離して垂らしている遊具である。
紐を引っ張りながら登っていく、アスレチックでは定番の遊具だ。
ルイは、屈伸や手足を振ったり、首を回してたりして、軽い準備運動をしてから「よし!」と、一言呟いて、紐を使わず一気に駆け上って行った。
そして頂上に着くと、笑顔で大きくマルのポーズを取った。
(おぉーー凄い!!ただ、紐を使わないとログクライミングの意味はありませんけどね!紐も使ってないのに、安全性も何も分かんないじゃん!笑顔でマル!!じゃないよ!!可愛いけど…)
そんなローズの心のツッコミは誰に気付かれる事もなく、次にウォールクライミングを試す為に、ルイはログクライミングを駆け降りてきた。
(はい…はい……凄い…凄い…!!)
ウォールクライミングは、平たい木の板を斜めに付けてあり、その上にホールドが数個付いている、簡易的なボルタリングみたいな遊具だ。
これも、ルイが初めに確かめたのだが、またしても、手は使わずに、ホールドを足で踏み上げ、駆け上っていった。
(まぁ…ホールドは……使ったって言えば、使ったけれども…使い方が違いますよ〜!!!
だから…笑顔でマルじゃないから!!でも、超ー楽しそうですね!ルイさん……!お姉さんは嬉しいですよ〜!)
ルイが聞いたら怒りそうなセリフを心の中で思っているローズは、いよいよ自分の番が来たので、満を持して、紐に手を掛けて登ろうとした………………………………
………が、中々、上手く登れない…
そこへ、ジュリアスが静かに近づき、ローズのお尻をそっと上に向かって押し上げてくれた。
(くぅ〜〜!!恥ずかしい……ローズ……貴方はもしかして運動音痴さんなんですか!? 嫌だ!!幼女だからと思いたい……!!こんな遊具、以前だったら、ルイばりに登れたのに……早く、大きくなりたい!!畜生〜!!)
そんな葛藤をしていたローズだが、頂上に着くと、意外に嬉しく、そのまま腰掛け、2人を見下ろした。
ルイは何故だか数回頷きながら満足そうな顔をしているし、ジュリアスはハラハラと不安そうだ。
クライミング自体が3m程あり、意外に高さもあったので頂上からの景色は気持ち良く、暫く頂上を楽しんでいた。
そんな時、ふと誰かの視線を感じ、頂上から辺りを見回すと、ガゼボの近くの木の側から、誰かがこちらを見ている様に見えた。
けれども、ローズが視線を向けた直後に人影は木の裏にサッと隠れてしまい、ローズは結局 何だったのか良く分からなかった。
……
一通り楽しく遊んだ後に、仕事がひと段落して、手が空いたクロードとギルバート、エリオットも交えてガゼボでお茶をする。
今日の紅茶は自分の好きなフレーバーを選べるので、クロード、ギルバート、ルイは、ドアーズをストレートで、エリオットとジュリアスが、リゼをレモンと一緒に、ローズは、いつものミルクティーをお願いした。
お菓子はクッキーと一口サイズのドーナツ、数種類のカラフルなカナッペが用意されていた。
皆が紅茶やオヤツを楽しんで、一息ついた頃、クロードが思い出したようにローズに話し出した。
「そうだ!ローズ、少し大切な話があるんだが…」
「何ですか?クロード様!?」
ローズが不思議そうに首を傾げて答えると、真剣な顔をしたクロードが話を続ける。
「今、この国は夜会のシーズンなんだ。それで2週間後に、王家主催の夜会があるんだが、王家主催だから断れない上に、私やギルバート、アルベルトは出席せざるを得ないんだ。本当は、ジュリアスも従者として連れて行くんだが…ローズの事が心配だから此方に置いて行く。エリオットとジュリアスは居るから一緒に留守番出来るか?」
クロードが、ローズに確認すると同時に、焦った様なエリオットが話し出した。
「ちょっと待って!!ごめんなさい!!!私もその頃、大事な商談があるから一週間ほど留守にするつもりなんだけど……」
………
「…それは困ったな……私達は移動や準備もあるから昼には出てしまうし、いくらジュリアスでも、この広い屋敷で、自分の仕事もあるしな………やはり、どうにかして断るしかないか……」
クロードが公爵邸に、ローズを見守る人員が少ない事に頭を悩ませていると、ローズが元気に話し出した。
「大丈夫ですよ!!ちゃんとルイとジュリアスと一緒に、お留守番できます!!」
(何たって、中身は16歳ですからね!!大概の事は1人で出来るんですよ!!!周りが過保護なだけで!!」
そんな、無駄に自信満々なローズの事は、しれっとスルーされたままクロードは、まだ考え込んでいた。
「ゔーん……不安だ!!この話はもう少し考えてみる。また決まったら教えるよ。」
クロードはそう言うと、ローズの頭を優しく撫でたのだが、ローズは何だか納得出来ずに頬を膨らませていた……
***
「あら??おかしいわね……ローズちゃんのナイトドレスが一枚見当たらない気がするわ!?傷でも付いて、誰かが捨てたのかしら??
まぁいいわ、今日はコレにしましょ!!」
首を傾げるエリオットは、着せようと思っていたローズのナイトドレスが見当たらない事に不思議そうにしていたが、洗濯の時になど、少し綻んだりしているだけで処分されてしまうので、特に気にする事なく別のナイトドレスにローズを着替えさせた。
ローズも日本だと、物を大切にする民族性なのですぐ処分するなんてあり得ないが、こちらの世界だと、数回使えば、すぐ処分なので慣れてしまい、大して気にする事なく、エリオットにされるがままに着替えた。
側で控えていたルイだけは、少し眉根を寄せ考えていたが、誰にも気づかれる事はなかった……
***
それから数日経ったが、特に大きな問題もなく、度々、誰かの視線を感じるものの、大して気にもせず日々を楽しく過ごしていた。
5日後にエリオットが商談の為、一週間ほど留守にする事が決まり、エリオットが慌ただしく準備をする中、ローズは自室でギルバートと新しい遊具を制作する為の話し合いをしていた。
すると、何の前触れもなくクロードがローズの自室を訪れ、前に言っていた夜会の話しを話し出した。
「ローズ……すまないが、やはり…どうしても、夜会に顔を出さないといけないようで、顔を出して直ぐ帰宅するから、それまでジュリアスと一緒に留守番出来るか?」
「はい!!大丈夫ですよ!!」
クロードの問いに、ローズは元気よく答えるも、クロードは何故か心配そうだ……
「……はぁ……本当に心配だ!!本当なら一緒に連れて行きたいんだが、流石に幼すぎる!!寂しい思いをさせてしまうが、この埋め合わせは、帰って来たら、必ずするからな!」
「ふふっ!!大袈裟ですよ!!」
ローズは、クロードの大袈裟さな謝罪に恥ずかしそうに顔を綻ばせた。
「はぁ…天使すぎて一瞬たりとも目を離したくない!!」
そうして、後ろ髪を引かれるようにクロード達も夜会に行く事が決定した。
クロード達が、話しをしている部屋のすぐ近くに怪しい人影がこっそりと聞き耳を立てている。
ローズ達が、部屋で楽しそうに会話しているのとは逆に、何やらブツブツと呟いているが、誰の耳にも届かない……
……
……
「もうすぐ………もうすぐだよ………ローズ………様………」
……
……