21 ギルバート・ファディル
ギルバート視点です。
宜しくお願い致します。
俺は今、驚愕している事がある……
最近、昔からの付き合いで、今は婚姻契約を結んでいる身内の1人、クロードが連絡をしてきた。
その内容が、保護した少女を養女に迎えたいと言うのだ。
しかも、その少女は両親や自分の事も覚えていないと言う、なんとも面倒くさそうな話であった。
昔から、人当たりが良くて優しいクロードだったが、母親の事もあり、段々と人に対して本心を見せない、食えない奴になっていき、女性と付き合っていても、どこか偽善的で、いつも作り物の様な笑顔を浮かべている男になっていた。
あの、張り付いたような偽善的な笑顔が、俺は好きではなかった。
ただ、公爵と言う立場上、いつかは誰かを迎え入れないといけなく、一生、自分の本心を見せる事なく偽善的に生きて行くんだろうな…と、漠然と思っていた。
ジュリアスなんかは、より酷く、女性を毛嫌いしていて、顔の良さから近づいてくる女性の事は、あの氷のような目つきで一蹴していた。
婚姻契約を結んで家族になったものの、殆ど一緒に居る事はなかったが、あの二人の事は、特に気掛かりだった。
だが、どうだ!!!久しぶりに来てみたら、あの偽善的なクロードは、保護した幼い少女の事を、心の底から愛おしそうな顔で見ているし、ジュリアスなんて笑顔を浮かべている。
俺は一瞬、屋敷を間違えたのかと思った。
ただ、それよりも驚いたのは、クロードが抱き上げていた小さな少女だ。
クロードに抱かれていた時は、ただの可愛らしい少女かと思ったが、彼女の発想力は凄まじい、とても4〜5歳の子供の考えつく物ではない。
それにあの言語力、大人の私達と同等の会話が出来る。
ルイも獣人の子供には似つかわしく無い知能を持っているが、それとは全く比にならない。
たまにローズが姉のような目で、ルイを見守って居るのが何とも奇妙な光景だ。
ローズの、あの特異性を彼等は気づいているのだろうか?
***
「なぁ、クロード!!お前達も………
ローズの事なんだが…お前達はローズの事を、どのくらい理解しているんだ…?」
……
俺達は今、子供達が眠りについたので、久しぶりに揃った皆で酒を飲んでいる。
普段は各々仕事をしている為、夜などは中々揃う事がないのだが、今日は皆が久しぶりに揃ったので俺は良い機会だと思い、ずっと引っかかっていた、ローズの事を聞いてみた。
「あぁ…まぁ、そうだなぁ…ルイと一緒に闇オークションで売られそうになっている所を、アルベルトに助けられて屋敷にきた。ただ、捕らえられるより以前の記憶はなく、自分が、誰かも分かっていなかった。
他はそうだなぁ…血縁者を探しているが、手掛かりは何一つ見つかっていない。あぁ…あと、とにかく可愛い!」
クロードは、淡々とこれまでの経緯を話していたが、何故か最後の締まりのない終わり方に、ギルバートは目を細め若干引き気味で返す
「おい!!!まぁ…可愛いのは、可愛いけど……!血縁者の事は、俺も、お前から連絡を貰って、俺の領地や王宮でも捜索してもらったが、約2ヶ月経ってもなんの手がかりも無しだ!!もし、両親が居たとしても、既に亡くなっている可能性が高いな!この国で小さな女の子を捨てるなんてありえないし、倒れていた状況からも、きっと両親は近くで魔物か獣に喰われたんだろう。そんな事よりローズの発達状況の事だ!!」
すると、ジュリアスがワインを片手に、ローズの近況を話し出した。
「ローズ様は、未だに、暗い所や狭い所が怖く、初対面の大人にも怯える傾向がありますが、他の女性には無い、思い遣りや優しさを持ち合わせた、大変可愛らしい少女です。」
結局は、ローズへの溺愛ぶりを披露しただけのジュリアスに、ギルバートは肘掛けに肘を付きながらその手に顎をのせ疲れたように呆れを見せるが、そろそろ本題を切り出す。
「いやぁ…まぁ…そうなんだけど…そう言う事じゃ無くて…!彼女の知識量って少しおかしくないか?お前達は、会話してて何か感じないか?」
ギルバートの話を聞いた次の瞬間、ジュリアスが自身の見解を話し出す。
「ローズ様の会話能力は凄いですね。一緒に会話していると、子供だと言う事を忘れそうになる程です。
あと私は、本をよく読んで差し上げるのですが、ローズ様は、きっともう文字を読めています。彼女はあまりそう言う事を知られたく無いのか、分からないような素振りをしていますが、そう言う事を考えられる事自体が、幼い子供の考え方と、かけ離れていると思います。」
そんなジュリアスの考えに、エリオットが同調する。
「そうねぇ…私も感じるわ!すんなり私を受け入れてくれた事もそうだけれども、彼女の空気を読む力は凄いわね。その場の空気を読んで自分の行動や言動を変えられるわ。それって大人でも難しいのに、子供の…ましてや女性よ!あり得ないわ!!でも、自分の事には少し鈍いのよね……そこも可愛いけど……
それに…ローズちゃんの…たまに見せる私の事を軽視する目!!あの目は堪らないわね!!」
エリオットの変態発言に、堪らずアルベルトが突っ込む!
「この変態女装野郎!!!ローズの事を変な目で見るな!!でも、まぁ…俺もたまにローズの凄さは感じるかな!?ただ、俺はあんまり子供と接する機会が無いから、基準がイマイチ分からねぇが、ローズが頭がいい事だけは分かる。あと行動的だな!基本、女性が、あまり率先して何かをするって事はないが、ローズの行動力は男の騎士クラスじゃないか?
ふふっ。もう少し大きくなって、自分で行動出来るようになったらヤバいぞ!!」
皆の話しを聞いて、より謎が深まったギルバートは堪らず、クロードに問いかける。
「なぁ…クロード……彼女は一体、何者なんだろうな……!?」
暫く考えて、ワインを一口飲んだ後、クロードはゆっくり口を開いた。
「……そうだな……だが、何者であっても、私達の家族になる事は変わらないんだ。あんな幼い少女を放っておく事なんて出来ないし、ローズは私にとって掛け替えの無い存在になりつつある。彼女を今更手放す事は出来ない。それなら、これからも私達が気を付けて守って行くしかないんじゃないか!?」
クロードの話が腑に落ちたのか、ギルバートはどこか憑き物が落ちたようなスッキリした顔をしていた。
「まぁそうだな!!ローズと過ごしてまだ数日だが、俺にとってもローズはかけがえの無い存在になりつつあるよ!これからは、ちょこちょこ此処に来て見守るとするか!!それか俺の領地に連れて行っていいか??」
「「「「ダメだ(です)」」」」
***
「はぁ…疲れた……おっ!!寝てるな!!2人とも可愛い顔しちゃって!!」
ギルバートは皆と別れた後、寝支度を整えて、ローズの待つ寝室へ向かった。
初めて一緒に眠った時は、幼い少女と一緒に眠る事に、若干の戸惑いと緊張があったが、今は、幼い子供特有の少し高めの体温を感じると、癒されるのか、いつもよりもぐっすり眠れるような気がしている。
「ローズ……………おやすみ…………」
そう言って、ギルバートは目を閉じた。
昔からの友人と酒を飲んだからなのか、ローズの事を話したからなのかは分からないが、目を閉じると昔の事が蘇ってきた。
王女だった母と宰相だった父、表面上は上手くやっていたが、母はそれ以外にも複数の男性と付き合い、国を治めるのに忙しく、息子のギルバートとは会う機会が殆どなかった。
兄との関係は良好だったが、兄の方は父親が王配と言う事もあり、幼い頃から王になる為の帝王学などが忙しく、たまに息抜きでサボっては、一緒に叱られるの繰り返しだった。
王女だった母とは、親子と言うよりは、王と臣下と言う立ち位置が強く、母が存命の間、手を握られたことも、ましてや抱きしめられた事もなかった。
王族なので、昔から数少ない女性達から言い寄られる事も多く、兄が王になり結婚して子供が産まれたのを機に、煩わしい女性達を避けたくて、婚姻契約を結んだ。
王族として、自分の子孫を残す責務がなくなったからだ。
王族籍から抜け、公爵の地位についてからは、自分の領地を治めながら好きな事だけをして過ごしていた。
そこに現れた1人の少女、あんなに女性を敬遠していた彼等が、こぞって溺愛する少女を、初めは幼いが故の可愛さと、保護した責任感で仕方なくだと思っていたが、彼女と接するうちに、彼女の純粋さや、優しさ、可愛らしさ、全てに魅了されていった。
幼いとは言え、女性を見ているだけで癒されるなんて、そんな事、起こる訳ないと思っていたが、まさかの事態に夢でも見ている様な気分になる。
彼女がそばに居て笑ったり、ましてや少し拗ねていたりしていても幸せな気持ちになれるのだ。
まだ、付き合いは浅いが彼等が彼女を大切にする気持ちが、分かったような気がする。
俺にとっても、既にローズは宝物の様な存在だからだ。
今からあの子と別れるのが寂しくて、いっその事、本気で連れ帰ってしまいたい。
ローズ…俺の癒しで、俺の宝…!悲しみや辛さなど、感じる事なく、このまま健やかに成長していってほしい……。
ギルバートは、そんな思いを抱きつつローズを抱きしめて眠りについた……。
……
……
……
「……ゔ〜ん……重たい………」
……
ギルバート・ファディル 96歳
身長 185㎝ 瞳 赤 鼻筋は通っていて高い 赤い唇
髪型 長い金髪を頭の下で軽くお団子にして余った髪を横に流している。
魔力 オールマイティ メインは風
物作りが趣味の明るい性格だが、王族で、整った顔立ちだった事もあり、幼い頃に大人の女性から無理矢理迫られた事により、色っぽい大人の女性が苦手、子供は好きだが、結婚する気はゼロ。
ローズの事は、自分の唯一の宝物だと思っている。