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20 プレゼント


「ギルバート様、お久しぶりでございます。庭のガゼボにお茶の用意が出来ておりますので、ご案内致します」


 いつもよりキレイな所作で、ジュリアスが、ギルバートを案内し出す。

 ギルバートは、護衛してくれていた騎士達に、ここでいいと言うと、馬車のドアを開けた騎士を除いて皆 一礼し、もと来た場所に引き返して行った。

 それを確認した後、ギルバートはニヤリと笑うとジュリアスに一言「行くぞ!!」と声を掛け、ジュリアスに先導させながら、その後ろをついて歩き出した。

 だが、何故かジュリアスを見ながらニヤニヤといやらしい笑みを漏らしてるいる。 


 なんか怖い……。


 ギルバートがジュリアスに付いて行った直後、クロード達も皆でガゼボに向かい歩き出した。

 

ローズは相変わらずクロード抱っこである。


 ガゼボに向かう途中、ローズは、どうしても気になっている事をクロード達に聞いてみた。


「あの……ギルバート様って皆様と婚姻契約してるんですよね?何で名前が違うのですか?」


 ローズの最もな疑問に、クロードはローズの頭を撫でながら丁寧に答えてくれた。


……


 基本的に婚姻契約を結ぶ場合は、家格の高い契約主のファミリーネームと同じになるのだが、王族だけは例外で、たとえ婚姻契約を結んでも王族の名前、若しくは王から叙爵された時に授かった名前を名乗らなければならなかった。

 王族や、公爵家などは国の名前の最初の文字、ファステリア国のファの付くファミリーネームを名乗っており、クロード達ならファルスター、ギルバートならファディルと、ファから始まる名前を名乗ると、自ずと王家と近しい存在、爵位が高いと相手に理解させる事が出来るのだ。

 ただ、公爵の爵位を持っているのは、現在とても少ないようで、この国では6家のみしか保有していない為、

大体が名乗らずともその見た目で理解されている。

 ローズは、その内の2人が身内になるので只々、恐縮するばかりだった。



***



「へぇー!!そうだったんですね!!でも、そしたら私が家族になった時、どちらの名前を名乗るんですか?」


 ローズは素朴な疑問をぶつけた。


 それを受けてクロードは、安心させるように微笑み返してローズに説明を続ける。


「あぁ……それはもちろんファルスターだよ!!一応、私が契約主だからね!!早くローズに同じ名前を名乗って欲しいな!!」


「………そう…ですね……」


(おぉ…まるでプロポーズ……流石クロード様!プロポーズされた訳じゃないのに、顔が赤くなる……)


 そんな話をクロードとしている間に、ギルバートが待つガゼボに到着した。



***



「やぁ!!お前達久しぶり!!!やはり、堅苦しいのは疲れるな!!まぁでも、俺が隣の領地を治めるようになってから会う機会が殆ど無くなったが、元気だったか???」


 先程とは別人のように話すギルバートは、クロード達と、とても親しそうだ。


 ローズはクロードから下ろしてもらい、今は、クロードとアルベルトの間に立っている。

 エリオットはアルベルトの隣、ジュリアスはローズの正面にいるギルバートの横に立っている。

 ギルバートの護衛の騎士はギルバートの後ろ、ルイはローズの後ろに立っていた。


 ローズが皆の話を黙って聞いていると、ギルバートとの会話に区切りがついたクロードは、改めてギルバートを紹介してくれた。


「ローズ、先程も挨拶したと思うけど改めて紹介するよ!現王の弟で公爵のギルバート・ファディル様だ。君の家族になる人だよ!」


 クロードはそう言うと優しく微笑んだ。


「お前、本当にその子を大切にしてるんだな。女の子を養女にするって聞いた時は、気でも狂ったかと思ったけど、他の奴らも、その子を大切にしてるみたいだしな……!!しかし、実際会ってみると物凄く幼いなぁ…。こんなに幼い子だとは思ってなかったよ。どんな子なのか、これから一緒に過ごすのが益々楽しみになったよ!!!なぁ、ローズ!!まずはローズの事を俺に教えてくれないか!?どんな事でもいいけど、ローズの口から直接聞きたいな!!」


(えっ……!?突然の自己紹介リクエスト!?むちゃぶりヤバっ!!私、4〜5歳の幼女だぞ…この国の王弟相手に何を話せばいいんだよ……)


 突然のむちゃぶりに頭を悩ませていたローズだが、意を決して自己紹介をする。


「初めましてまして、ギルバート様。私の名前はローゼマリーです。好きな食べ物は、野菜たっぷりのスープとミルクティーで、皆には止められるけど、本当は体を動かすのが大好きです!!広いお庭を目一杯、走り回りたいです!!!」


 思い切り今の自分の願望を口にしたローズは、心無しかスッキリした気分だった。

 しかし、走り回りたい宣言に驚いたジュリアスが、ローズを止めようと口を開いた。


「なっ……!!そんな小さな体で走り回るなんて、危険で………」


「ぷっ…アハハハハ!!!これはまた面白いお子様だ!!女性で走り回りたいなんて言う子、初めて見たよ。いいじゃないかジュリアス、走らせてあげれば!、獣人の従者が付いているんだろ!転びそうになったら助けて貰えば大丈夫だよ!」


 ジュリアスが危険ですと言い切る前に、ギルバートの笑い声が聞こえ、ローズを援護し始める。


「なっ……!!何を仰って……クロード様も止めて下さい!!」


「あら!!いいじゃない!!面白そうよ!!!」


「………」


 ジュリアスが慌てるも、エリオットは面白がり、クロードは無言で眉間に皺を寄せている。

 そんな中、笑顔のギルバートは構わずカウントし出した。


「よし!!!ローズ、一緒に走るぞ!!行くぞ!!!3・2・1・走れ!!」


 ギルバートの合図と同時に、ローズは走り出した。

 だが普段から常に抱っこのローズは、突然走った事に驚いた自分の足が縺れ、走り出した瞬間に転びそうになってしまう。

 それを平然とルイに抱え上げられ、ローズは自分で言い出した事なのに不甲斐ない結果になり恥ずかしくて、顔をルイの肩に伏せたまま、皆んなの所に戻るのだった。


(くぅ〜〜〜ジュリアスはきっと、それ見たことかと思っているはずだよきっと……気まずくて確認できないけど……)

 その一連の様子を、ギルバートはお腹を抱えて笑いながら見守るのだった。


(一緒に走らないじゃん!!悪趣味なヤツめ!!)


 ひと笑いして落ち着いたギルバートはお詫びと言ってローズにある提案をしてきた。


「はぁ〜!!久しぶりに、こんなに笑ったよ。ローズは面白いな!!沢山笑ってしまったお詫びに、ローズにプレゼントをあげよう。」


 「????」


(何??プレゼントってなんだろ?お菓子??洋服?)


 ローズは首を傾げながら頭にハテナを浮かばしていると、そう言ったギルバートは、近くにいた使用人に何やら色々指示を出し始めた。

 ローズは、ギルバートに散々笑われて恥ずかしいやら悔しいやらで、少し俯き気味に落ち込んでいたが、ギルバートの言葉に使用人達が慌ただしく動き回り出したので、その内そちらに気を取られていった。


 暫く経った頃、使用人が、太めのロープと平べったい厚めの木の板、様々な工具を持ってきて、ギルバートに手渡した。

 それを受け取ったギルバートは、近くに生えていた2本の丈夫な木の枝にロープを一本ずつ付け、その垂らしたロープの先に、厚めの木の板を取り付け出した。

 そして作業を始めてから1時間も経たない内に、即席のブランコが完成した。


「うわーーー凄い!!ブランコだ!!!」


「「「「「ブランコ????」」」」」


 この世界にブランコという言葉が無かったのか、皆の頭にハテナが浮かんでいるので、ローズは慌てて適当に誤魔化した。


「あぁー違うの!!ブランブランしそうだなって!思ったの!!」


「おっ!!それいいじゃん!ブランブランさせるヤツ、略してブランコ!決定だな!よし!ローズ!来いよ!乗り方教えてやるよ!」


 ギルバートは陽気にそう言うと、ローズに丁寧に乗り方を教えてくれた。

 ローズは内心「知ってるんだよね…」と思ったが、とても親切にしてくれるギルバートに対して、最初、面倒くさそうと思って、悪かったなぁと、心の中で謝るのだった。


 この日からローズはギルバートは、とても仲良くなっていった。





***





「よし!ローズ!今日は何を作る!?」


「うーんとね!こう言う感じのやつ!!」


 あれからローズとギルバートは、とても仲良くなり、暇さえあればローズが体を動かす為の遊具を作っている。

 ギルバートはローズに、どう言う物が欲しいか絵に描いてもらうのだが、あまり上手ではない為、上手く伝わらない事も多々あるようだった。


(もう!!幼女の手だと、小さいし、思う様に動かせないから、あまり上手に描けないじゃん!!)


 本当は前世の時から運動以外はポンコツ気味なローズは、元々絵が下手なのだが、そんな前世の事は棚に上げ幼女の手の所為にしているダメなローズの描いた拙い絵を元に、ギルバートと一緒に話し合いながら様々な物を作り上げて行く。

 作業中もローズは小さいし握力も無いので、あまり戦力にならないが、上手く出来なくても、時間が掛かっても、ギルバートは嫌な顔ひとつせずにローズと一緒に作業してくれた。

 ローズは、次第にギルバートの事が大好きになっていた。


 そんな日々を過ごし、今、ブランコがある庭の近くには平均台、登り棒、丸太ステップが置いてあり、今日は、少し大掛かりなウォールクライミングとログクライミングが合わさった物を製作しようとしている所だ。


 ガゼボの側の、綺麗に手入れされていた庭が、軽くアスレチック広場みたいになっていて、影で庭師が泣いているらしい……

(ごめんよ!!庭師さん!)


 ただローズは、とても喜んでいて、毎日ガゼボへ行ってアスレチック擬きで遊んでいる。

 初めは、あまりいい顔をしていなかったジュリアス達も、今は、暇さえあればガゼボでお茶をしながら微笑ましそうにローズを見ていたり、一緒に遊んでくれたりしてくれる。

 ルイはローズと一緒にアスレチック擬きをする事が多く、ローズ以上に楽しんでいる事は、気が付かないふりをしているローズだった。


(可愛いゼ!!10歳男子!!)




***




「よし!ローズ!!大体分かった!作りに行くぞ!!ルイも手伝え!!」



「「はい!!」」


 ルイもきっと、ギルバートの事が大好きである。

 だって何も言わずともギルバートに誘われると尻尾が大きく揺れているからだ!!


(本当可愛い奴だぜ!)


 ローズは、ギルバートの王族とは思えない気安さに、前世の親友を重ねてみていた。

 容姿や性別などは全然違うのに、一緒に居る時の空気感や言動が何処となく似ているのだ。

 今はもう会えない親友を感じて、切なさと同時に懐かしさを感じ、ギルバートと一緒に居ると、とても楽しかった。

 それはギルバートも同じで、とても小さな少女のはずなのに、一緒に居ると、前からの友達のように過ごす事が出来るのだ…!

 あんな幼い子供に対して、同年代のような気安さを感じる事なんてあり得る事なのかと、ふとした瞬間に疑問に思うのだった。


 彼女は一体何者なんだろ……??


 ギルバートはここ最近、よくそんな事を考えていた。

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