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16 本音と建前


 あれから2週間が経っていた……


 初めの1週間は、皆がピリピリしていたのだが、今はとくに主だった問題もなく、平和に過ごしている。

 ローズの気持ちも大分落ち着いてきたようで、食欲も戻り、夜もしっかり眠れるようになっていた。


 今は、庭にあるローズのお気に入りの木の下で、ルイと2人で日向ぼっこしている最中だ!!

 先程まではクロードも一緒だったのだが、ジュリアスに呼ばれて少し席を外していた。


 新緑が香り心地よい天気の中、ルイとのんびりしていると、屋敷の方からエリオットが歩いて来た……


「あら??ローズちゃん!こんな所で何してるの?」


 エリオットはローズを見つけて嬉しそうに声をかけてきた!


「お天気が良かったから、ルイと日向ぼっこしているんです!!」


 ローズはエリオットの登場に若干面倒くささを感じたが…愛想良く答えた。


「そう!!楽しそうね!!私も混ぜてもらってもいい??」


 そう聞かれたローズだったが…

 絶対に聞かなければならない事を尋ねてみた…


「良いですよ……!でも……ミレーナ様は大丈夫なんですか?」


「きっと……大丈夫よ!!ちょっと…1人になりたくて、逃げて来ちゃった!!エヘッ……!!」


 エリオットは一日中ついて回るミレーナに少々ウンザリしていたので一瞬の隙に逃げて来たらしい……


「………」


(いや…いや…!!エヘッ…じゃないよ!エヘッ…じゃ!!それって後で絶対ヤバいヤツじゃん……!絶対……探してるよ〜……!!こわっ…!もう…向こう行ってよ〜〜!)


 ジト目の無言になるローズは、そんな事を思っていると、空気を変えるべく、エリオットは目を細め、昔を懐かしむかのように、ローズに喋りかけてきた。


「私……昔からこの場所が好きなのよ!気持ちいいわよね……」


 エリオットはこの屋敷によく居た頃から、1人になりたくなると、この木の下へ来て気が済むまでボーしていたようだ……

 そんな事を思い出し少し切なさを感じていた時…ローズの明るい声が耳に響いた。


「はい!私も凄く好きです!ルイも好きだよね??」


「そう…ですね……」


(おぅ…ルイさん…余所行き仕様ですね!了解です!)


 ローズはルイが…エリオットがいるので、いつもと違い……変に畏まってしまった姿に、まだルイもエリオットには慣れてないんだと感じ、心の中でニヤつきながらもエールを送っていた!


「2人は仲が良いのね?」


「はい!!仲良しです!私が記憶を無くしてから、初めて会ったのがルイで……それからずっと一緒に居てくれるんです……!私はルイが大好きです!!」


 ローズがルイの事を、笑顔で大好きと、エリオットに伝えていると、ルイは少し照れたようにはにかんで


「そっか……ありがとな……ローズ……」


 そう言って、ローズの頭をクシャっと撫でた…

 ルイもローズの事を大切だと思っているので、とても嬉しかったようだ。


 そんな2人の仲睦まじい様子をエリオットは、微笑ましそうに眺めている…


 皆の間に優しい時間が、流れてた……


 そんな時……ローズは……ずっと疑問だった事を、エリオットへ聞いてみた。


「エリオット様は、ミレーナ様と結婚しないんですか!?」


 そう言うと、エリオットは少し切なそうな顔をしながら独り言でも言うようにぽつり、ぽつりと答え出した。


「……私は……誰とも結婚しないわ……!ローズちゃんは、まだ、小さいから分からないと思うけど…… 私はねぇ、女の子が好きよ!!前にも言ったけど、可愛いし、キレイだし、でもそれだけなのよ………好きな時に、好きな子と遊んでる分にはいいのよ…!!イヤならやめればいいし、付き合わなければいいもの…お互い……ある程度は対等でしょ!?でも……結婚ってなると……私が、彼女の所有物になってしまうって事なの!!自分の意思で自由に動けなくなってしまうわ……それって…何だか息苦しいでしょ??分からないわよね?……ごめんなさい……ちょっと難しかったわね!?」


(おぉ……!!難しいって言うか……ただの…ゲス発言……アリなのか??日本でそんな事言ったら女性達に袋叩きにされるけど……)


 前世の価値観が強いローズは、エリオットのゲス発言に納得のできなかったので少し言葉を強めて訴え出した。


「所有物じゃダメなんですか??お互いがお互いを大切にして、一緒に考えて……行動すればいいんじゃないですか!?」


「…ローズちゃんって…賢いのね!!しかも…本当にいい子!!でも、大半の大人の女性達は違うのよ!自分達の意見が絶対だし、それに意見されるなんて事、考えた事もないんじゃない??女性と結婚する男性は…ね…とても大変なのよ…!!自分が如何に妻の特別になるかによって、生活が変わってくるし……やっぱり自分の子供を産んで欲しいしね!!そうやって狭い家の中で、絶えず争っているわ……ローズちゃんも、

大人になれば分かるかもしれないわね……」


 エリオットは、自身の父親の姿を思い出していた…

 母親に気に入られようと日々必死な父親の姿を見ていたので、どうしても結婚に希望が持てなかったのだ。


 エリオットの父は、国一番の大商団を経営していたが常に母の言いなりで……言われるままに貢ぎ、それ以外では母親に見向きもされなかった。

 父親が病気になり商団がエリオットに渡ると自分の好きにお金を使えなくなった母は、あっさりとエリオットと病気の父を捨てて出て行った……

 そんな経緯もあり結婚に夢が見れなくなってしまったのだ。

 でも……そんな事は知らないローズは、前世に父と母が仲良かった事もあり納得出来なかった。


「分かりません……私は、絶対…そうはなりたくありません……!!大好きな人と結婚して、一緒に幸せになりたいです…!」


「あら!!!可愛らしい…!!ローズちゃんが、これからどう成長するのか楽しみにしてるわ!」


 そう言うと、エリオットは少し目を見開いた後、嬉しそうにローズの頭を、優しく撫でてきた。

 ローズがこの純粋な思いを持ち続けていられるようにと、願いを込めて……

 ローズは少しビクついたが、エリオットの手がとても優しかったので大人しく撫でられていた……


 そして、そのまま3人は、ジュリアスが呼びに来るまで、何も言わずに肩だけを寄せ合って、キレイに咲いている花を眺めていた……




***




 その日の夜、ずっと、先延ばしにしてきた晩餐会が行われた。


 キレイな花を飾ったいつもより豪華な部屋に、長いテーブルと真白なクロス!

 クロスの端には花の刺繍が施されている。


 テーブルの上には。豪華な食事がキレイに並べられていて、ローズの好きな野菜スープも置いてあった。


 ローズの今日のドレスは、ノースリーブで膝丈の、淡い虹色のチュールドレスで、前面のお腹辺りに、立体的な大きな花が付いている、全体的にフワッとした仕上がりのドレスだ。


 髪型は、少しカールして、パールが付いたカチューシャをしている。


「さぁローズ様、準備できました!!あぁ…とても可愛らしいですね!まるでお花の妖精みたいです!!」


「ありがとう!ジュリアス」


 いつものように、ジュリアスが支度をしてくれたローズは、ジュリアスが晩餐会の最終確認に向かったので、ルイと一緒にアルベルトを待つ。


 今日のエスコートは、順番的にアルベルトで、クロード達は、少し悔しそうな顔をしていた。


「ねぇーーールイ〜〜〜!!見て見て!!!可愛いでしょ??」


ローズは、大きな姿見の前で、クルリと回ってスカート部分を持ち上げると、見よう見まねの可愛らしいカーテシーのポーズをする。


「…まぁ……悪くないんじゃねぇーか…?馬子にも衣装だな!!」


(ルイさん…安定の塩対応……安心するぜ!!でも知ってますか?あなたフサフサお耳の中が、真っ赤ですから!!言うと怒るから、心の中でニヤつきますよ!!)


「……お前……顔が……ニヤニヤしてるぞ……!!ホラ!!ローズ、もうすぐ迎えに来るぞ!!シャキッとしろ!顔がヤバいぞ!!」


 ルイはローズの可愛さに動揺している自分を隠す為にローズをツッコミつつ揶揄いながら自分の気持ちを必死で落ち着かせる。


「 ハッ……!!!なぬ……!?じゃなかった!!あっ…ごめんね。ルイ!!」


「……ヨシ!!じゃあ…向こう行くぞ!!!」


 馬鹿みたいなローズの反応にも気づく事なく、羞恥に耐えられなくなったルイは、ローズの事を抱き上げた。


「ルッ……ルイ!!どうしたの……!?自分で歩けるよ!!」


 滅多に自分からは抱き上げないルイに、ビックリしてローズは慌ててしまうと……


「まぁ…いいだろ!たまには……折角……可愛くしてもらったんだ……うん…!悪くないな……!!」


 目を左右に彷徨わせた後、耳を真っ赤にしているルイは、ローズを抱き上げたままでイタズラっ子ぽく笑った。


 ルイは天使みたいに可愛いらしいローズを自分の腕の中に閉じ込めたくなったのだ!!


「………」


(甘ーーーーい!何なの!!この…時折見せる甘さ!!10歳男子のクセに、末恐ろしいわ!!ツンデレキッズめ!チクショーー勝てる気がしないぞ!!異世界恐るべし!!)


 大きな姿見のある衣装部屋から、抱っこでローズの部屋に移動すると、置いてあるアンティーク調の白いソフィアの上にローズを下ろして座らせた。


 その後、慣れた手つきで手早くお茶の準備をすると、ローズの前に置いて、ルイは下がりローズの斜め後ろに立った。


 その一連の流れが完璧すぎて、ローズは何も言えなかった。


(ちくしょう……ルイのクセに……)




***




「ローズ、準備は出来ているか?」


 そう言ってアルベルトは、ローズをエスコートしに部屋に訪れた。


 普段は、比較的ラフな格好が多いアルベルトだが、今日は、きちんと紺色のダークスーツにグレーのベスト、青いネクタイと青のプレーントゥを履いている。


 普段は見ないアルベルトの正装姿が、格好良すぎて、ローズは暫く、アルベルトを見上げて動けなかった。


「なんだ、惚けた顔して、俺に見惚れたのか??ローズも女の子だなぁ……でも…俺は……いつもローズから目が離せないけどな!!!」


 そう言ってアルベルトは、ニヤっと不敵な笑みを浮かべ優しくローズを抱き上げた。


(くぅーー!!ヤバい!!これぞ大人の色気!!ルイさん見てましたか??これが大人のやり方ですよ。あまーいも出ないスマートさ!!)


「さぁ行こうか!」



「……はい……」


 ローズは大人しくアルベルトに連れられて行った…




***



 晩餐会に着くと皆、正装をしていて、ローズを迎えてくれた。


 クロードは、黒のタキシードに、ブルーのアスコットタイをつけて、ローズの瞳と同じだねって言って微笑んだ。


 ジュリアスは、黒のモーニングコートに、ピンクのチーフタイをして、ローズにアピールしている。


 エリオットは、真っ青のVネックのAラインのドレスで、背中も大きくVに開いている、腰に付いた大きなリボンが裾に向かって流れていて、胸元にはダイヤのネックレスをして、ローズを見ながら意味深に微笑んだ。


 ミレーナは、まだ来ていないようで、主賓席にクロード、左隣りにローズとジュリアス、ローズの向かいにアルベルトとエリオットが着席した。


 そして、少し遅れてミレーナが現れた……


「あら??お待たせしてしまったかしら?」


 そう言って、ミレーナは…長い茶色の髪をアップにして、ダイヤの付いたティアラをつけ、真っ白の胸元が大きく開いたAラインのエンパイアドレスを着用し、胸元に大きなダイヤのネックレスを付けている。


(おぉーーーなんか…凄い…!!流石です!!!)


「さぁ、皆様始めましょう!あまりお会いする機会もありませんでしたが、今日は楽しませて頂けるんでしょ??」


 そう言って、上から目線で周りを見渡すミレーナをエリオットが慌てて止めに入った……!!


 このままだと何を言い出すか不安だったからだ。


「あぁーもう……ミレーナ!!さぁ早く座りましょう!」


 自信たっぷりで、自分本位に振る舞うミレーナを、エリオットがエスコートすると、ミレーナとローズの目が合った……次の瞬間……


「あら??お子様は……もう寝る時間ではなくて??早くお部屋に帰りなさい!!そこの獣…!!子供を部屋に返しなさい!!」


「なっ!!おい……何言っ……」


 「ルイは獣じゃありません!!狼の獣人で、私の従者で、大切な家族のような存在です!!!獣って言わないでください!!!」


 ミレーナの蔑むような目つきで、失礼な発言をしたのを聞いて、怒ったアルベルトが言葉を発するのと、ほぼ同時に、ローズがミレーナを嗜める。

 ルイが大切だからだけでは無くて、獣人とは言え人の事を獣呼ばわりするミレーナの考え方が理解できなく許せなかったのだ!!


「ふふっ!!子供ね〜!獣を獣って言って何がおかしいの??あぁーー!あなたのお気に入りって事!?キレイな顔してるものね!!!大丈夫よ…子供には興味ないから取らないわ!!!」


「なっ……違う…!!ルイはお気に入りとかじゃない!!ずっと一緒に居てくれる……大切な家族のような存在なの!!人を…そんな風に分けないで……!」


 他人の気持ちを全く理解しようとしないミレーナに対して悔しくて……興奮して語気を強めるローズを…ルイが優しく宥めに入る。


「ローズ様……もういいですよ…!ローズ様の気持ちはちゃんと分かっていますから……」


「でも……だって……」


 後ろに控えていたルイは、ローズの側へ行き、そっと肩に手を置いた。

 ルイは別に他人にどう思われていていようとも気にしないので、自分の大切なモノが傷付けられない限りはどうでもいいと思っていた。

 ただ…今は、ローズを悲しませているミレーナの存在が許せなかった。

 ローズは悔しくて…目に涙を溜めて肩を震わせている。


(もう…何なの!!ルイをバカにして許せない!!人をそういう対象でしか見られないなんて……終わってる!!悔しい……こんな事で泣きたくないのに、幼女の体だと、涙腺がゆるすぎる!!負けたくない!)


 ローズは自身の恐怖よりも、ルイをバカにされた事に怒りを覚え、震えていた……


「ミレーナ……!言い過ぎよ!大人気ないわよ……」


 エリオットは、幼い子供を虐めて楽しんでいるミレーナに呆れて、止めに入るが…


「あら???本当の事なのに!!まぁいいわ……さっさと始めましょう……!!」


 晩餐会どころの空気ではないが、ミレーナは気にも留めずに、食事を始める。


 皆の額に青筋が立っているが、ローズが静かにいただきますをしたので、皆は渋々、従った……


「ローズ、これ美味しいよ!はい!」


「あぁ……ん」


「ローズ様、このスープも美味しいですよ!ホラ…口を開けて…」


「っ……あ…ん…」


「ローズ!この肉も美味いぞ!ホラ!!」


「あ…ありがとう…。」


(皆様……気が付いていらっしゃいますか…??斜め前のお方の顔が、凄い事になっておりますよ…私はもう怖くて、そちらを見れませんよ!ワザと…ワザとなんですか??)


 ローズは今……とてつもない気まずさを感じていた……

 ローズが1人で気を揉んでいるが、クロード達は、普段通りと言えば普段通りなのである。

 だが、ミレーナには我慢の限界だったらしく、顔を真っ赤にしてローズの事を睨んでいる。

 先程まではローズを追い詰めて楽しそうにしてたのに……

 だが…そんな事はお構い無しで、クロード達や、エリオットでさえ…素知らぬ顔で、会話をしながら食事を楽しんでいる。


 そんな状況に、小心者のローズは気が気では無く、食べさてもらっている食事の味もよく分からなかった。


 すると突然、ミレーナは、不機嫌そうに目の前の給仕を呼び止めた。


 「ちょっと、そこの貴方…このスープもう冷めてしまっているから、新しいのと変えてちょうだい!」


「……申し訳……ありませんでした……直ぐに…お待ち…致します……」


 そう言って、少し挙動不審になる様子のおかしい給仕は、ミレーナの皿を下げた後……暫く経ってから、湯気が立ち上がる熱そうな、スープを持ってやってきた。

 だが何故か、ローズの方に向かって歩いて来るので、皆は給仕がミレーナに強く言われた事で焦っていて、間違えたのかと思い、ジュリアスが、給仕に声を掛けようとしたところ、突然、その給仕は、熱々のスープをローズに投げつけた。


「Wind!!!!」


  

   ガシャン !!



(えっ???何??何??今、凄い音したんだけど!!しかもWindって言った?呪文??魔法??)


 ローズの後で、突然、突風が吹いて、お皿が割れる音がしたので、ローズは驚いて振り返った。

 Windと言葉を発したのは、ルイのようだった。

 ルイは、ローズにスープがかけられそうになった事にとても焦り、咄嗟に魔法をつかったのだ…

 ルイは、ローズにあのスープが掛かっていたらと思うと、恐怖で身体が震えるのと同時に怒りが込み上げていた。


 だが、当のローズは、前を向いて食事をしていたので、一連の騒動に全く気付かなかった。


 間近で見ていたジュリアスは、眉間に皺を寄せ厳しい顔をしながら、ローズを守るようにローズの座っている椅子の斜め後ろに立っている。

 ジュリアスも、一連の動きを見ていたので、咄嗟にローズの事を庇っていた。

 スープを掛けようとした給仕は勿論許せないが、きっと指示したであろうミレーナの事も許せないようで怒りに震えている。

 あの小さな体の幼いローズに、熱いスープを掛けようとするなんて、考えただけでも怒りでどうにかなりそうだった。

 自分の一番大切な存在になりつつあるローズは、何があっても守るべき存在なんだと再認識するとともに言葉では言い表せない怒りに自分自身でもどうにかなりそうだった。


(えっ!!何ーーー!!ルイ……まさか今、魔法使ったの!?嘘ーー超ーーー見たかったんですけど!!!攻撃魔法!ザッツ異世界!!RPGの世界!やった事無いけど……)


 一連の騒動を食事をしていて気づかなかったローズは、パニックを起こす事なく、呑気にそんな事を考えているが、そんな呑気な事を考えている間に給仕の男を、アルベルトが取り押さえて、拘束し、クロードが給仕の男の前に立って厳しい顔つきで事情を聞きだす。


「一体どう言うつもりだ!!こんな事をして、ただで済むと思っているのか!?あんな小さい子に、もし掛かっていたら、大変な事になっていたんだそ!」


 クロードも給仕の男に怒りを感じているので、語気が強くなっている。

 アルベルトの拘束の力も強くなっていて、給仕が少し苦しそうだ。


「も…申し訳…ございません……で…ですが……私は……」

 

 そう言って、給仕の男は縋るように、ミレーナを見た。


「なーに??あなた??気安く私を見ないでちょうだい!!」


「……えっ……なっ…だって…晩餐会が始まる前に…ミレーナ様から合図があったらローズ様に…スープをかけて……少し痛い目でも見せれば、取り巻きの1人に加えてくれる…って……言って……そんな……ミレーナ様…助けて下さい!!何があっても、どうにかすると仰ったじゃないですか!?貴方の合図を見たから……私は……」


 給仕の男は、必死にミレーナに懇願するも、ミレーナはそんな事は気にも留めない。


「失敗するような男に興味は無いのよ!私の前から消えなさい!!」


 ミレーナの非情な言葉の後、突然、男性の厳しい声が聞こえた。


「いい加減にしろ!!いくら何でもやり過ぎだ!!自分が何しても許されるなんて……思い上がるな!!」


 エリオットは、まさか自分が連れてきた女性のせいで、幼いローズが害されるとは思ってもいなかったようで、ミレーナの事はもちろん許せないが……自分の浅はかさも許せなかった……そんな怒りを思いのままにぶつけてしまう。


(えっ…誰…??何??まさか…エリオット様??男が出ちゃってますけど!!!女装との違和感が凄すぎて、ある意味パニックですけど!)


 ローズがエリオットの言葉に、驚いて固まっていると、恐怖で固まっているのかと、勘違いしたエリオットが、心配してローズに声をかけた。


「ローズ…ごめんな!!大丈夫か?驚いただろ?」

 

「……いえ………」


(いやいや……ある意味、驚いてますけど……)


 すると、給仕の男から大まかな話を聞いたので、別室に移動させるよう指示していたクロードが、口を開いた。


「ミレーナ様、申し訳ないが、この屋敷からお引き取り頂けますか?当家の馬車を用意しますので、そちらで近くの客亭へご移動下さい。代金もちろん当家が負担致しますので…」


「なっ……あなた…一体…何の権限があって…女性の私にそのような事を……」


 ミレーナは、信じられないといった顔で、自分を排そうとするクロードに噛み付いた。


「私は、公爵家当主です!いくら女性相手でも、そのくらいの権限は持ち合わせております。お引き取りを!!ジュリアス…お送りしろ!!」


「承知致しました」


 クロード達はミレーナと、これ以上一緒にいる事は耐えられないとばかりに有無を言わさず行動に出る。

 男性に強く出られた事がなかったミレーナは唖然としていて、足元も覚束無いまま、ジュリアスにエスコートされて扉へ向かい、何やら小声ででブツブツ呟いていた……


「何で…あの子ばっかり…私は女性なのよ…いくら女と言っても…子供と……大人じゃ……」


 それに気が付いたローズは、出て行こうとしている、ミレーナに声を掛けた


「あの!!いくら女性でも、人を傷つけたり、騙したり……してはいけないと思います!!私も女性ですが、人を貶めるような事はしてはいけないと、知っています!!人から大切にされたいなら、まず、自分が相手を大切にしないとダメだと思うんです!誰かと一緒に過ごすなら、お互いを尊重して、支え合って行かないと……人は物では無くて、ちゃんと心があるんだから……!!」


 ローズは、精一杯の思いを込めてミレーナに語りかけた。


「……あなた……いったい…何を言っているの??男は女性の物よ!それ以上でも以下でもないわ。本当、まだ子供ね……もういいわ!こんな所……興味失せたわ…!!出てくわよ…エリオット、送りなさい!!」


 ミレーナは、少しムッとしたように高圧的にエリオットに指示を出すも


「いや……一人で帰ってくれ!!もう付き合いきれない……ジュリアス、すまないが宜しく頼む……」


「承知致しております!!さぁミレーナ様……ご退出を……」


「なっ……」


 心底うんざりした様子のエリオットが申し訳無さそうにジュリアスに頼むと、淡々と処理する様にジュリアスがミレーナを促す。


(おぉ……マジか…エリオットさん、流石にもう無理なんですね……!! ハァ………でも……マジで、全然噛み合わなかった……結構 いい事 言ったと思うのに…あんなに響かない事ある??もう…疲れたよ……異世界女子スゲーー!!……ハァ……)


 価値観が違いすぎて、お互い、全く分かり合えなかったローズは、思ったよりも精神的に疲れていた……


 気持ちも、子供の体力も、限界だったようで、どうしてだか、ルイに甘えたくなった……


「ルイ……抱っこ………」


 ルイを見つめ両手を突き出したローズに


「……フッ…珍しいな…!ホラ……おいで!」


 ルイも、珍しく自分から甘えてくるローズに愛しさが込み上げてきて、先程のローズの恐怖を打消す様に抱き上げてギュッと抱きしめた。


 そしてクロードに退出の許可を取る。


「ローズ様も限界のようですし、これで失礼致します!!」


「あぁ、構わない!おやすみ…ローズ……」


「じゃあな!!ローズ……!!ルイ、頼んだぞ!」


「はい!失礼致します」



皆に挨拶をし、会場を出ると、部屋に戻るため、ルイはローズを抱えながら歩いていた。


……


「ねぇ……ルイ…….お耳触ってもいい…….?」



「…あ?……調子乗んなよ!!……あっ……コラ………ったく……仕方ねぇな………」


 照れ隠しで悪態をつくルイの言葉は無視して、ローズがルイの耳を触りだす。


 暫く、そのまま歩いていると、部屋に着く前に、耳を触りながらローズが眠りに就いてしまった。


 部屋に入り、いつものベッドにローズを、そっと下ろすと、ルイは静かにローズ顔を見下ろした……

 

 スヤスヤ気持ち良さそうにローズは眠っている……


 暫くそのまま、ローズの寝顔を見つめ、愛おしそうに目を細めると、ルイは小さく呟いた……



   

   「おやすみ……ローズ……」




  ルイはそっとローズの額にキスをした。



……



……







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