47 魔術師団 8
シスラー達のターンです、
「おい。ニックの戻りが遅く無いか!?」
「そうですね……ファルスター嬢を送ったにしては少し帰りが遅いかもしれません」
生徒達の見学も終わり、玄関口まで見送りに向かう最中にシスラーは小声でアーノルドに呟いた。
アーノルドもニックの戻りが遅い事を気にしていたようで、少し考え込むように視線を落とすと周りには聞こえないくらいの大きさで呟いた。
そのまま学生達を門の外まで見送ると、横にいる警備兵に声を掛けた。
「ファルスター閣下はまだ中か!?」
「えっ??いえ……今日はどなたもお見えになっておりませんが……」
警備兵の言葉を聞いて一瞬にして固まったアーノルドは横に居て同じように固まっているシスラーに視線を投げかける。
2人の不穏な空気を素早く察知したバーシルは生徒達に「今日は此処で解散になるから、各自で教室に戻り帰り支度をして欲しい」と告げると生徒達にその場で解散を促した。
散り散りに生徒達が帰宅し出す中難し顔で警備兵と話しているシスラーとアーノルドの元へ向かう。
それに気が付いた2人は一度バーシルに視線を投げ掛けると無言で魔術塔の中へと促すのだった。
「不味い事になった」
普段とは違い厳しい表情のシスラーは端的にそう言い放つ
「先程、ファルスター殿下がお見えと言う事でファルスター嬢を応接室に向かわせましたが警備兵が言うには、今日は1人も訪問者が来ていないと言うんです。ニックが付き添っているので滅多な事にはなっていないと思いますが、ニックの戻りも遅いですし今から確認に向かいますのでバーシル先生もご同行願えますか!?」
「それは構わないが、嫌な予感がする……少し急ぎましょう」
そう言って3人は足早に応接室へと向かった。
けれども3人が応接室に足を踏み入れた時には既にもぬけの殻で人の気配は感じられなかった。
「不味いですね。ニックもファルスター嬢もいらっしゃいません。争ったような形跡もありませんし一体何処に…」
アーノルドが辺りを見回しながら難し顔でシスラーに話し掛ける。
「待てっ!!微かだが魔法を使った気配がする」
部屋に入るなり一度周りの状況を確認してから目を閉じて部屋の気配を探っていたシスラーがアーノルドの問いに目を開ける事なく答えた。
「では、何らかの魔法よって、ニックさんとファルスター嬢が消えたと言う事ですか!?」
「そう言う事になるな……おそらく転移魔法の類だろ……転移装置では、簡単に設置できるものではないし、技術も必要だ……ただ他の魔法なら必ずニックが対抗して事なきを得るか、それでなくてもこんなに綺麗な状態で部屋が残っている訳がない。
きっと部屋に入った瞬間に転移魔法で何処かに飛ばされた可能性が高いな……」
「そうですね……ですが、転移魔法と言っても直ぐに出来る訳では有りませんよね……
部外者が黙って侵入して簡単に取り付けられる程あまい物では無い筈です!!」
「そうなんです……そうなると可能性は一つしかありません……」
「内部の犯行ですか……」
「はい……面目もありません……
転移魔法なら決められた距離の範囲しか移動出来ないので、まだそんなに遠くに行って無いと思います?急ぎ調査を始めましょう!」
「分かりました。それでは、私は一度学園に戻りファルスター嬢の従者にこの事を伝えて来ます」
「この事が公になればファルスター嬢の醜聞になり今後の貴族社会での妨げになってしまいます。繊細な注意を払って絶対に外に漏れないようにして下さい」
そう話を区切ると各々が自分のやるべき事を開始し始める。
シスラーは魔力を扱う事が得意なのでニックの魔力を辿り彼等の位置を探り始める。
ただニックとは他人で何かの契約をしている訳ではないので探るのはとても難しく、魔術師団の団長と言えど相当な集中力と繊細な魔力操作が必要だった。
アーノルドは、先程、ローズにクロードの来訪を伝えに来た魔術師の捜索と転移魔法で移動出来る距離の範囲内で何か変わった動きが無かったか調査を始めた。
バーシルはこの事を伝えら為ルイとジョイを呼びに急ぎ学園に戻るのだった。