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46 魔術師団 7


「ニックさん。ニックさん。大丈夫ですか!!

 頑張って下さいね!!必ずどうにかする方法を考えますから!!」


 アークに連れられてローズが寝かされていた部屋まで戻ったローズは、投げ捨てられるように部屋に放り込まれ、未だに激しい痙攣を繰り返すニックを引き摺るようにして必死でベッドまで運ぶとベッドに寝かせて布団をかけた。


 どうにかベッドに寝かせる事が出来たローズは、軽く息を吐いて自分の置かれている状況を振り返ったのか今まで止まっていた涙が溢れてきた。


 何故自分が此処に居て、どうしてこんな事になっているのか理解出来ないローズはこの先どうなるのかも分からずに漠然とした不安だけが募り、唯一の頼みの綱のニックの生死すら分からない状況に考えれば考えるほどパニックになるようだった。


 どのくらい泣いていたかは分からないが長い間ニックの側で泣き続けていたローズは、泣き疲れたのかニックの側でうとうとし出していた。

 そんな時、ふとクロードが前に言っていた言葉が頭をよぎった。


 前にローズの部屋に勝手に結界を張った時子供は魔力が安定しないから魔力が含まれている血液や体液で魔道具の登録が出来ると言っていた事を思い出したローズは自分の血液や体液を直接分けたら魔力を供給した事にならないかと思い立ったのだ。


 ただ、直接体液を分けると言う事は、意識の無い男性に向けて自分の涎を流し込む変態行為だと言う事に気が付いたローズは、万が一魔力を分け与えられなかった時に受ける自分のダメージを考えると自ずと血液に行き着くのだった。

 けれども血液を分けるとしても、自分の体を傷付けなければ、そもそも血液を出せる訳もなく、とりあえず近くに何か刃物のような物は置いていないかと泣きすぎて鈍る頭を抱えて探し始めたローズはベットの脇に置いてあったサイドテーブルの引き出しからペーパーナイフを見つけた。

 ナイフを手に取ったローズは、右手に握るとナイフを左手の手の平に宛てがった。

 だが、前世含めても自ら傷付けると言う行為などした事がないローズは傷を負った後の痛みや傷付ける行為自体を想像してナイフを持つ手が震えてしまう。

 こんな事をしたところでニックが回復する確証もないのにそこまでする必要があるのかと自分の中の弱い自分が囁いてくる。

 目の前には意識無く痙攣を繰り返すニックの姿があり、様々な感情が胸を締め付けまた涙が零れ落ちて行くローズはギュッと目を瞑ると思い切り自分の手の平にナイフを突き刺すのだった。


 突き刺した瞬間は痛みを感じ無かったローズだったが、手の平から溢れて来る自分の血液と普段は感じる事の無いドクドクと脈打つ傷口に徐々に痛みを感じたのか思わず顔を顰めてしまうが、意を決して傷付けたのにこのまま血液を垂れ流してしまうのは勿体無いと零れ落ちそうになる血液を慌ててニックの唇に充てるのだった。

 痙攣しつつも薄らと開いた口からローズの血液を流し込まれたニックだったが、暫く経っても痙攣は収まらなかった。

 ローズはやはりこの方法じゃダメだったのだと肩を落とすと、より傷口が痛み出し、極度の疲労と精神的なストレス、今も流れる出血に体が限界を感じたのかそのまま意識が遠のいていくのだった……



***



…………嬢……………


     ……………スター嬢……………


「ファルスター嬢…‥.大丈夫ですか!?」


 ニックに話しかけられた気がして思わず目を見開いたローズの目の前にローズの下敷きになりながらも心配そうに見つめるニックの姿があった。


「ニックさん!!気が付いたんですね!!

 い…痛っ………!!」


 ローズはニックが目を覚ました事に驚いて思わず起き上がるが手の平の痛みを感じ手を抑えながら蹲ってしまう……


「なんて……無茶…を……したんですか……」


目を覚ましているものの未だに震えが残るニックは辿々しく話しながらもローズを心配そうに見つめるのだった。


「あのままでは、死んでしまうと思ったのです‥‥私にはどうすればいいのか分からなかったので、奇跡を願ってこの方法しか思いつきませんでした……」


 ローズはニックが目覚めた安心か手の平の痛む傷口か分からないがポロポロと涙を流しながらニックに訴えた。


「すみません。私が不甲斐ないばかりにファルスター嬢にこの様な思いをさせて……」


そう言いながら震える手でローズを引き寄せると自分の方にローズを倒し顔を近づけるとローズの瞳にキスを落とすのだった……


「なっ!!!」


 思いもよらないニックの行動にローズは驚きのあまり零れ落ちそうな程目を見開き流していた涙も止まってしまう……


「すみ…ません……魔力を無駄に流しておくのが勿体無い無くて……思わず頂いてしまいました……」


震える体でハニカムように微笑むニックに、あぁそれなら仕方ないですね。とも言えないローズは、只々無言でニックを見つめる事しか出来なかった。


「ファルスター嬢は、まだ魔力が安定していないのですか??」


 あの後もまだ塞ぎきっていないローズの傷口から魔力を取り込んでいたニックが不意にそんな事を言い出した。


「よく分かりましたね!!そうなんです。年齢的には安定していてもいいらしいんですが、私はまだ安定していないみたいです……」


「やはりそうなんですね。これだけの時間魔力の供給させて頂いているのに、やっと震えが落ち着いてきたくらいの回復って事は、上手く体に魔力が流れて居ないのだと思ったんです!!

でもファルスター嬢のお陰で大分楽になりました。

 まだ魔力が使える程ではありませんが、少しなら動けそうです。

 すみません。私なんかの為に……傷……痛みますよね……」


「少し痛みますけど大丈夫です。ニックさんの傷に比べたら大した事ないので!!」


「本当にお優しいのですね……もう大丈夫ですので、簡易的にはなりますがありますが、傷口を保護しましょうね」


 そう言ってニックはベットのシーツを少し破るとローズの手に巻き出した。

 ジクジクと痛む傷口に少し顔を顰めてしまうが、そのまま大人しく応急処置されたローズは処置が終わるとニックに微笑みながら「ありがとうございます」とお礼を言った。


「ファルスター嬢……」


 応急処置の終わった手を傷口を刺激しないようにそっと握るニックは真剣眼差しでローズを見つめるとベットから下りると膝を突き片膝を立てて頭を下げる。


「ファルスター嬢。この御恩は決して忘れません。今後、私は貴方様に忠誠を誓い……何を置いても貴方様を優先しお守りする事を此処に誓います」


「へっ???そんな大袈裟ですよ!!私は当たり前の事をしただけです!!お礼を言って頂けただけで充分なのです」


「当たり前ではありません!!高貴なお体に傷を付けてまで私を守ろうとしてくれた優しさは聖女の如く素晴らしい御心です」


「………ありがとう‥‥ございます……」

(うぉーーー!!!大袈裟!!聖女なんて言葉リアルに使う人初めて見たよ!!

 なんか中身こんなんなのに申し訳無さすぎて恥ずかしさ通り越して恐縮しちゃうんだけど……この国の人達って一々大袈裟なんだよなぁ〜〜〜!!!)


突然の聖女呼びに苦笑いでお礼を言ったローズその後気まずさからニックに視線を合わせる事が出来なかった。

 そんなローズの姿も慎ましく謙虚に照れているのだと勘違いを深めたニックは更に聖女認定を深め崇拝する勢いでローズに接するのだった。




***




「ニックさん……ニックさんはどのくらい動けますか??」


「普通に動けますよ魔法は使えませんが貴方様をお守りするくらいの力は回復しております」


「無理はしないで下さいと言いたいところですが、逃げるなら今だと思うんです」


「私もそう思います!!ただこの部屋のドアから出るのは危険だと思うんです。

 出るなら窓からになりますが降りられるでしょうか……」


 そう言いながら2人で窓に近づき下を見下ろす。

 部屋は3階くらいの高さに位置していて無理をすれば降りられない事もない様な微妙な距離だった。


 下を見下ろしながら無言で考え込んでいるローズに向かってニックが話し出した。


「カーテンを破いて簡易的なロープを作ります。

私がファルスター嬢を抱えながら降りますので何も心配はいりません。

 大丈夫ですか!?」


「でも、ニックさんも怪我してるのに大丈夫なんですか!!??」


「ふふっ。私はこれでも魔術師団の隊長ですよ!!いくら傷を負ってても女性1人抱えて降りるくらい問題ありません。

 では始めますよ!!!」


そう言ってローズ達はこの屋敷からの脱出を試みるのだった。


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