45 魔術師団 6
「これは、何だか分かりますか!?
まぁ、ニックさんは魔術師団にお勤めでしたらご存じとは思いますがどうでしょう??」
「魔力を吸い取る道具だろ!!それがどうした!?」
「ふふっ。そんな強気で仰いますけど、もうお気付きですよねぇ。これをどうするかなんて」
「………さっさとやるなら、やれよ!!」
「もう……せっかちですね……
そうです。これは魔力を吸い取る道具で、主に他人に魔力を分け与える時に使用しています。
取った魔力を保存しておく道具は別にありますが、この道具で抜きっぱなしにするとどうなると思いますか!?」
「えっ??それは……魔力が無くなっていく……とかですか……??」
「正解です!!では、人から魔力が抜けすぎるとどうなると思いますか!?」
「…‥分かりません……」
ローズが申し訳無さそうに俯いてしまうと、1人だけ楽しそうなアークがご機嫌で説明してくれる。
人は、魔力の高さで寿命の長さが決まっていると考えられていた。
自分の中にある魔力の力で身体の細胞を活性化させ、若さを保ったり、運動能力に還元させたりしていた。
それが無くなると言う事は、魔力で保っていた身体の細胞が一気に衰えだし、初期症状としては、頭痛、吐き気や倦怠感、次に、手足の痺れが表れ次第に動く事もままならなくなる様だ。
末期になると外見も衰えだし、その内、息をする事も喋る事も出来なくなりそのまま亡くなってしまう。
人と契約した獣人が捨てられた時もこれと同じような状況に陥る様で契約が解消されると一ヶ月も経たないうちに亡くなってしまうらしい……
人でも獣人でも本来の寿命より長く生きると言う事はそう言う弊害も生まれてくると言う事だった。
「では、ローゼマリー様 問題です。
今からニックの魔力を極限まで抜いたらどうなるでしょうか!?」
「えっ……あの……それは………」
「では、正解を見て見ましょう!!」
「ちょ…ちょっと待って下さい!!」
「どうしました??交代しますか!?ただ交代出来るのは一度きりですよ…」
「ウダウダ言ってないで早くしろよ!!」
「もう……急かさないで下さいよ!!
では、そう言う事なので、ローゼマリー様申し訳ありません」
そう言ってアークは筒状の道具から紐を取り出すとニックの足に巻き付けた。
「この紐は、どこの部分に巻き付けても魔力が取れるんですよ!!
実際に見て見た方が早いですよね。じゃあ始めましょう……」
筒状の道具に付いているボタンの様な物を押すと足首に巻かれた紐が小さく振動し出し薄らと光を放つ。
筒状の道具から鈍い機械音の様な音が聞こえてくるがそれ以外に目立つ特徴は見られなかった。
紐状の魔道具からどうやって魔力を吸い取り、取った魔力は何処に消えているのか目に見えて分からないローズは、頭にハテナを浮かべつつも気軽に聞ける雰囲気ではないので、そのままじっとニックを見つめていた。
どのくらいの時間、ニックを見つめていたかは分からないが暫くの間沈黙が続いた後、徐々にニックの様子に変化が現れた。
表情は変わらないものの、額に脂汗をかき始めたニックの異変に気付いたローズは不安に苛まれる。
「ニック……さん……大丈夫……ですか……」
魔力が抜け落ちると言う事が想像も出来ないローズは只々不安そうにニックに問いかけるしか出来なかった。
ローズの問いかけにニックもローズに視線を合わせると軽く微笑み小さく頷き返す。
ただ、ニックの我慢もこれが限界だった様でその後すぐに全身が小刻みに震え出した。
小刻みな震えから次第に痙攣のように大きな動きに変わったところでローズは慌てて止めに入る。
「止めて!!もう止めて死んじゃう!!!」
ローズの大きな瞳から溜まらず零れ落ちた涙は、一度流れてしまうともう止める事が出来なかった。
ローズはボロボロと涙を零し縋るようにアークの腕を掴むと必死で懇願する。
「おや。おや。可哀想に……いけませんね!!女性を泣かせるような醜態を晒すなんて、それでも魔術師団の隊長なんでしょうか……」
未だに大きく痙攣しているニックをゴミでも見るよな瞳で見つめると、魔道具のボタンをもう一度押す。
すると魔道具から出ていた機械が止まり足首に巻き付けられていた紐の光も消えていく。
「おい。そいつはもう使いもんにならないから鎖から外してその辺に転がしておけ!!」
「もう……使い……ものに…ならないって…‥どう言う事……ですか……??」
「一度に急激に抜いた魔力は戻すのに何年も掛かるんだよ!!
魔力が戻る前に身体の方がダメになってしまうから、助けるには、取った魔力を戻すか、人から分けてもらう必要がある。
でも、此処にはそんな奴誰もいないだろう??
だからそいつはもう干からびるだけだよ!!
あっ!!でも、どうしようか……そしたら最後の一問が出来ないね!!
じゃあローゼマリー様達の負けでいいかなぁ??」
アークが嫌らしく微笑みながらローズに問いかけた瞬間、ローズの瞳から零れ落ちていた涙がピタリと止まっていた。
ニックが此処までして自分を守ろうとしてくれていたのに此処で止めてしまえばニックの頑張りが水の泡だし、アークの思う壺になる事が悔しくて堪らなかったのだ。
ローズはキッと睨み付けるようにアークを見上げると怒りで震える自分を押し込め
「やるに決まってる!!」
と、力強く発言するのだった。
「ふはっ。本当に面白いお嬢様ですね!!
未だ嘗て貴方の様な女性は見た事がありませんよ!!
では早速始めましょうか!?覚悟は宜しいですか!?」
ローズはどんな事を言われるのか恐怖に震えそうになる身体のを自分で抱きしめる様に腕を回し力を込めると「はい」と小さく頷くのだった。
「そんなに構えなくても大丈夫ですよ!!貴方の体に傷を付けるような事は致しませんから。
それでは最後です。
ローゼマリー様私の前に跪いて私の手にキスをして下さい」
…………
…………
……………
部屋全体に微妙な沈黙が流れた………
「………………」
(はっ???それだけ???散々ニックに酷い事してきた癖に!!ラッキーと言えばラッキーだけど、何だろう……この腑に落ちない感じ……何かモヤモヤする………)
どんな酷い要求をされるのかと構えていただけに跪いてキスをすると言う屈辱的と言えば屈辱的だが、元々プライドも高くないローズに取っては別に何でもない命令だった。
ローズはそのまま臆する事なくアークの前に跪くと瞳を輝かせ満面の笑みを浮かべて手を差し出すアークの手の甲にキスを落とした。
アークの笑顔を見た瞬間だけは人生で感じた事もないような殺意が湧いたのは事実だったが……
「最高ですよ!!!女性が私に跪いてキスをするなんて………こんな素晴らしい事ありますか!!??
ではローゼマリー様、ニックの側に居る事を許しましょう!!」
「あの!!先程の私の部屋にニックを運んで欲しいんですけど!!」
「別に構いませんが、こんな死に損ないを部屋に置いても邪魔なだけでは無いですか!?」
「そんな事はありません!!部屋に運んで下さい!!お願いします」
「では、ローゼマリー様も一度お部屋に戻りましょう!!
お前達は、そいつを連れて来い」
そう言うとアークはローズをエスコートする為に手を伸ばしてきたので、ローズはまた「大丈夫です」と、キッパリと断りを入れアークの少し後ろを付いて行くのだった。