42 魔術師団 3
……………ター……嬢………
……ファル………嬢…………
「……ハッ!!!………何!?
………ん??……ここ……何処!!??」
誰かに呼ばれていたような声で飛び起きたローズは誰に呼ばれたのかと周りを見回すが、そこは全く見覚えの無い部屋の中で他に人の気配は無くローズはベットの上に1人だけだった。
清潔感のある綺麗な部屋には無駄な物が一切なく、あまり大きくない木製のテーブルとテーブルと同じような木製の1人掛け用の椅子が置いてあり、他にあるものと言えばローズが眠っていたシンプルなベットだけだった。
目覚めたばかりで頭がハッキリしないのか、ぼんやりとしていて何故こんな所に自分が居るのか思い出せないローズは目覚める前の事を思い返そうとしたところでハッと気が付いた。
「そう言えば……ニック……ニックさんは……」
クロードに呼び出されて応接室に向かった先の部屋の中で光に包まれた事を思い出したローズは一緒にいた筈のニックが側に居ない事で焦った様に辺りを見回す。
だが、部屋にはローズ以外は誰も居なく、言い知れない不安に駆られるローズはニックを探しに行かなければとベットから降りようとしたところでローズの居る部屋の扉が静かに開いた。
「……良かった……気が付いたんですね……何処か痛むところとかありませんか!?」
しっかりと糊付けされた様なパリッとしたグレーのスーツを着た見た目は20代くらいの男性がグラスと水差しを手にローズの側へ近づいてきた。
「…………貴方は……魔術師団の………」
「これは、ファルスター嬢に覚えて頂けて大変光栄です。私はベイゼル・アークと申します。何処かお体で辛いところなとございませんか?
お水をお持ち致しましたが飲めますか!?」
見知った魔術師団のアークが顔を出した事で少し安心したのかホット息を吐くが、まだ此処は何処で何故部屋で眠っていたのか今一理解出来ないローズは、一緒に居た筈のニックこ事も気になりアークに問いかけてみた。
「あ、あの、私と一緒に居たニックさんはどうしましたか!?お仕事に戻られたのでしょうか??
私……魔術師団に居て、お父様に呼ばれていたと思うんですが、お父様達も居なく突然光に包まれて……その後の事がよく分からないのですが、アーク様は何かご存じですか?」
「大丈夫ですよ……ファルスター嬢は何も心配する必要はありません。ニック隊長もご一緒でしたが、色々とお話を伺う為に別室にてお待ち頂いております。後でお会い出来ますのでご心配なさらないで下さい」
「では、ニックさんもこの屋敷に一緒に居るんですね!!良かった……」
何処だかは分からないが他の部屋でニックが待っていると聞いたローズは見知った相手が側に居る事で安心したのか少し警戒心を緩めるのだった。
それでも自分の置かれている状況が分かった訳では無いローズは尚もアークに問いかける。
「それで、ここは一体どなたのお部屋なのですか!?
何故、私はこの部屋で眠っていたのでしょうか!?」
ローズの問いかけに透けるような笑みを浮かべるアークはローズベットの側あった椅子に腰掛けるとそっと手を握り
「ここは、貴方様のお部屋で、今日から此処が貴方様の暮らす屋敷になります。ローゼマリー様……」
意味の分からない言葉を口にするのだった。
「………は……い????」
(えっ???何???この人の言っている事が全然理解出来ないんだけど……しかもこの人……数回しか会った事ないのに馴れ馴れしくない……!?)
ローズがアークの発言に戸惑い、その先の言葉を紡げずにいると、アークはそのまま静かにローズの側まで顔を近づけて愛おしそうな瞳を向ける。
ローズは、アークの翳り無い満面の笑みに得も言われぬ不安感を覚えそっと握られている手を抜き取ると
「あ、あの!!とりあえず、ニックさんにお会いしたいのですがダメでしょうか???」
そう言いながら不安そうに瞳を揺らしてしまう。
「そうですね……目覚めたばかりなので、もう暫くはゆっくりした方がいいとは思いますが、貴方様の頼みを断るわけにもまいりませんので、ご案内致しますよ……」
「あり…が……とう….ござい…ます……」
そう言いながら、ローズがベットから降りようと足を伸ばすとローズは学園の制服ではなく、真っ白のフリルをふんだんに使ったプリンセスラインのドレスを着用している事に気が付いた。
(へっ???待って!!!着てた制服は???このドレスは一体……誰が着替えさせたの???無理!!!考えたく無い!!!怖すぎる……)
ローズは自分の頭をよぎった恐怖に、そのまま考える事を拒否すると何も無かったかの様にベットから降り立つのだった
そのまま笑顔のアークがエスコートをする為に手を伸ばして来たが先程から感じるアークの気持ち悪さに自分でも無意識のうちに2、3歩後ずさってしまい。
差し出された手をどうしても取れないローズは怯えつつもそんな様子を察せられ無いようにしっかりとした声で「大丈夫です」と拒否するのだった。
「そうですか……それはとても残念ですね……ローゼマリー様の手を取ってエスコートしたかったのですが……まぁ、この先もまだまだ機会はありますからね。では、参りましょうか」
「はい………」
終始笑顔でご機嫌のアークが気になる言動をするのでローズの不安は増すばかりだが、その事を悟られない様に必死で平静を装う。
そのままアークの少し後ろに着いて部屋を出ると、長い廊下が続いており、それだけでもこの屋敷が結構な広さがある事が伺えた。
長い廊下を抜けアークの後を追いながら階段を降りる。
何階まで降りたかは分からないが、多分、一階まで降りてきたと思われた時、アークは、階段の脇に備え付けられている扉の前に立った。
ガチャガチャの金属音を響かせて南京錠の鍵付きの木製の古びた扉を開いたアークはローズに振り向き、またもや満面の笑みを浮かべる。
アークがローズに向かって微笑むたびにローズの心臓が嫌な音を響かせるが黙って扉の先に視線を向ける。
扉を開いた先には、また別の階段が伸びていて、どうやら地下に繋がっている様だった。
こんな薄暗い地下室でニックは一体何をしているのだろうと嫌な想像が頭を掠め不安に胸が押し潰されそうになるが、ドキドキと早鐘を打つ胸をアークにバレないように両手でそっと押さえるとアークの後ろに続いて慎重に階段を降りるのだった。
…………
階段を降りた先には鉄格子のような扉が備え付けられていてアークは、胸ポケットに入っていた鍵を取り出すと鉄格子の鍵を開ける。
カチャ、カチャと静まり返った地下室に鍵を開ける音が響き渡り次の瞬間カチャンと言う音と共にギィっと鈍い音を響かせて扉が開きだす。
ローズは震えそうになる足を必死で踏み出して鉄格子を抜けた先の部屋に足を踏み入れると、そこはランプが一つしか付いていない薄暗い部屋の中で視線の先には周りが石壁に囲まれた2つの牢屋のような部屋があり、入ってきた鉄格子と同じような鉄格子で閉ざされていた。
ローズは今、自分の見ているものが信じられずに一瞬自分の時間だけが止まってしまったかの様に固まってしまうが、これは夢でも何でも無く現実なんだと唐突に理解するとアークの存在など無視する様に駆け出すとガシャンと言う音を立てて一つの牢屋の鉄格子にしがみ付くのだった。
「ニックさん!!!ニックさん!!!大丈夫ですか……」
ローズは後ろにアークが居る事も気にせず声を張り上げてニック名前を叫んでしまう。
ローズの見つめる視線の先、必死で掴む鉄格子の中には、手足を鎖の様な物で拘束され壁に貼り付けられているニックがグッタリとしてぶら下がっていた。
ローズの必死な叫びにも反応を示さないニックに、ローズはニックが生きているのかさえ不安になって後ろに居るアークに問いただす。
「ニックさんをどうしてあんなところに縛り付けているんですか!!??彼が何をしたと言うんですか!?お願いですから離して下さい」
「これは…これは……先程から思っておりましたが、ローゼマリー様は大変心の優しいお方なのですね……
こんな人間など、貴方様には何の関わりもないではないですか……
どうなろうと関係ないと思いませんか!?」
「思いません!!!彼は私を案内してくれただけなのです。だから解放して下さい!!!」
「クスクスクス。ローゼマリー様……本当に彼は巻き込まれただけなのでしょうか……??
逆に貴方が巻き込まれた方だとは考えないのですか!?」
「……えっ???そんな事を言われても………分かりません……私が巻き込んだにしても、巻き込まれたとしても、彼が拘束されている理由にはなりません。
こんな事をするのなら、きちんとした納得出来る理由を説明して下さい!!!」
「邪魔だからですよ!!暴れられても面倒ですし、あんな不様な姿を晒していても彼も一応は魔術師団の隊長ですからね……」
「そこまで知っていて……一体……貴方の目的はなんなのですか……!?」
「それはまた、追々お話致しますよ……ほら、そろそろ彼が目覚めそうですよ!!流石、隊長ともなると薬が切れるのも早いですね……」
「………っ………はっ!!!ファルスター嬢!!!大丈夫ですか!!??申し訳ありません!!!ですが、必ずお助けします」
「ぷっ……あはははは!!!大丈夫かって……お前の方が大丈夫じゃないだろう……大体、そんな風に拘束されたお前に一体何が出来るんだよ!!!」
「っるせぇんだよ!!笑ってられるのも今のうちだからな!!ぜってぇぶっ殺してやる!!」
「ふはっ。天下の魔術師団の隊長が拘束されて悪態吐くしかできなあなんていいざまだな……!!お前……分かってるのか!?公爵家の令嬢を連れて行方不明になったら無事に戻ったとしても、お前の居場所なんてもう何処にもねぇぞ!!
しかも、時間が経てば経つほどお前の状況は悪くなる……
そこの可愛らしいお嬢様が男と2人で消えて何時間も戻らなかったら……
あははは。ザマァねぇな!!!」
「ちょっと待って下さい!!!どう言う事なんですか……
全く理解できません!!」
「あぁ。大変失礼致しました。簡単な話ですよ!!成人もしていない公爵令嬢を勝手に連れ出して傷物にした魔導師など生きていけないって言うだけの話です……」
「えっ……だって……私は……勝手に連れ出されてもいないし……傷物にもなっていません……」
ローズはそう言いながらも恐怖からかアークから距離を取ろうと後退ってしまう……
ただ鉄格子の横は石壁で囲われているので、直ぐに壁に背中が付いてしまいそこから身動きが取れなくなってしまうのだった……
尚もニヤつくアークがゆっくりとした足取りでローズに歩み寄り、ローズに触れようと手を伸ばす
「……っ……ぃ……や………」