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36 お茶会 5


「ローゼマリー様。少し寒いかも知れませんが私と一緒に庭に出てみませんか!?」


「えっ??あっ……はい。大丈夫ですよ……」


 突然、貼り付けた様な胡散臭い笑みを浮かべながらローズを庭へと誘って来たイーサンに多少の戸惑いを見せるものの、多数の人間に注目されたままで断る勇気も無いローズは渋々ながらも了承してしまうのだった。

 何処からそんな根拠の無い自信が出てくるのか分からないが端から断られるとも思っていないイーサンはキャロラインに高々と声を張り上げ「ローゼマリー様を少しお借りします」と、断りを入れると近くの使用人にローズの外套を取って来る様にと指示を出し席から立ち上がった。

 そのままゆっくりとテーブルを回り、まるで死刑執行人が迎えに来ているかの様な黒い存在感を放ちつつローズの側までやって来ると静かに片手を差し出した。

 一瞬、イーサンの手を取るか迷いを見せるものの有無を言わせないイーサンの微笑みにそっと片手を差し出すとルイがローズの椅子を引きローズを立たせる。

 イーサンのエスコートを受けて苦笑い気味にローズが立ち上がった所で斜め向かいから声がかかった。


「ローズちゃん。僕も一緒に行ってもいいかな??イーサン様も宜しいですか!?」


 イーサンとは対照的なお手本の様な笑顔を貼り付けたフリードがローズとイーサンに同行を願い出るが、笑顔でイーサンを見つめている筈なのにその目が全く笑っていない気がするのはローズの気のせいだろうか??

 一瞬フリードとイーサンの間に見えない何かがピリッと走った様な気がするがそんな張り詰めた空気を振り払う様にローズはフリードに笑顔を向けると「大丈夫ですよ」と直ぐに了承するのだった。

 イーサンは未だにフリードの問いに対して言葉を発する事は無くイーサンとフリードはお互い笑顔のまま2人の間に妙な沈黙が流れていた。

 2人の無言の攻防の末に先に折れたのはイーサンでフリードの笑顔の圧に押されたのか

「フリード様のお心のままに」

 と嫌味ったらしく返し小さな意趣返しを試みるもフリードには全くダメージを与えられ無かったようどフリードは笑みを深めると静かに立ち上がった。


 そんな2人の静かな攻防に思わぬ伏兵が参戦し出すのだった。

 

「え〜〜〜フリード様が行くなら私もご一緒したいです」


 場の雰囲気など全く気にした様子も無いレイラは隠密バリの気配の殺し方で近づくと許可も無くフリードの腕に自分の腕を絡ませ覗き込む様に顔を見つめながら甘えた声を出し始めた。

 普段は人の気配に敏感なフリードも何故か全く気付かなかったようで少し驚いたように目を見張るが周りに動揺した様子を微塵も感じさせずに直ぐに立て直すと嫌な顔一つしないで「私は構いませんよ」と優しく了承し、お手本の様な返しを爽やかな笑顔とセットでレイラに向けるのだった。

 流石貴公子、将来公爵家を背負って立つ男は違うなぁとローズは密かに感心するも、自分も公爵家の令嬢だと言う事がスッポリと頭から抜け落ちているようだった。

 流石ポンコツとルイに馬鹿にされるだけはある。

 フリードは、レイラが惚けている間にそっと自身の腕を引き抜くと素早くレイラの外套を持って来させ羽織らせる。

 そのままレイラに触れる事無く流れる様な所作でエスコートをするのだった。


「あら??あら??随分楽しそうな散歩になりそうじゃない??」


 キャロラインが笑顔で放つ恐怖の一言に一段と気が重くなったローズは胡散臭い笑顔を貼り付けたままのイーサンにエスコートされて半ば強制的に庭へと連れ出されるのだった。




…………



「ローゼマリー様。ほら見て下さい。もう寒くなって来たと言うのに王城の園庭の花達は見事に咲き誇っているではないですか!!まるで逆境の中でも一人で凛と立っているキャロライン様の様ではないですか!?」


「ハハ……ソウデスネ……」


 お互いの会話にかなりの温度差がある様な気がするがそんな事は気付いていないのか、それとも気付いてて無視しているのか全く考えが読めないイーサンによって王城に咲き誇る見事な花達を見ながら園庭を連れ回される。

 愛する2人で見て回るならとてもロマンチックであろう園庭もこの2人の前では台無しであった。


「ですが、この様に見事な花達にも匹敵するローゼマリー様の美しさは流石ですね」


「そんな事は無いと思いますが、アリガトウゴザマス」


 何故、全く好意を抱いていないであろう相手にそんな事を言うのかと理解出来ないローズは、形だけのお礼を口にするが尚も満足そうな胡散臭いイーサンにエスコートされながら連れ回されている。 

 イーサンの寒々しい発言に外套を羽織っているにも拘らず外の寒さをより強く感じるローズはまだ来たばかりだと言うのに既に早く帰りたくて仕方がなかった。


 ルイとジョイはローズの直ぐ後ろを付いて歩いているがフリードはレイラに引っ張られる様にしてローズ達から少し離れた場所で花を眺めている。


 ローズはイーサンがいつまでこの茶番を続ける気なのかと寒々しい会話と肌で感じる実際の寒さに限界を感じたのか意を決してイーサンに話しかけるのだった。


「イーサン様って……キャロライン様の事、好きですよね!?何でキャロライン様じゃなくて私を誘ったんですか!?」


「はっ??あっ……えっ……??何を……言って……」


 自分の気持ちが気付かれているとは微塵も感じていなかったイーサンは、ローズに突然図星を突かれた事で先程まであった余裕の表情を一変させアワアワと慌て出した。

 基本的に女性は自分が一番だと思っており自分の事しか考えていないため相手に他に好きな人が居るなどとは微塵も考えないのだ。

 その為、他人の思いを感じ取ったりする事が出来るなどとは思いもしなかったのだ。

 

 ずっと何だか いけ好かない奴だと思っていたローズだったが、目の前で慌てふためくイーサンを見つめながら思ったよりも嫌な奴じゃないのかと思いだしていた。


 いつまでも挙動不審なイーサンに何だか楽しくなってきてしまったローズは

「ふふっ。図星ですか??そんな慌てなくても誰にも言いませんよ」と上から目線で発言し出す。


「はっ??べ…べ…別に……す…す…す…好きとかじゃなくて……ただ、尊敬してるって言うか……」


 完全に自分を立て直す事が出来ずに慌てふためくイーサンは、自分がリードする様にエスコートしていた手を思わず離してしまうとローズから2、3歩後ずさってしまう……

 完全に立場が逆転しこのまま主導権を握る事が出来そうなローズは優位に立てた嬉しさから顔を上げ勝利の笑みを浮かべるとローズから少し距離を取ったイーサンに静かに近づき「協力しましょうか??」と悪魔の囁きを呟くのだった。


「お…俺は……ただ……お…お…お前が……お…お…お…俺の尊敬するキャロライン様の足を引っ張る様な人間かどうかを確かめようと思って……」


 愛するキャロラインの為にローズの為人(ひととなり)を確かめようとしていたらしいイーサンは、ローズに突かれた図星の一言で既に何も考えられなくなりどう取り繕うべきかと必死になるあまりに正直に話し出してしまう。

 イーサンの言葉を聞いたローズはどうせそんな事なんだろうと思っていたよと余裕の表情でここぞとばかりにイーサンを詰めにかかるのだった。


「っで??どうなんですか???私は合格ですか??」


 自分の目の前にいるまだあどけない少女の美しい笑みに空恐ろしさを感じたイーサンは自身の最大の弱みを握られた事で、もうこの子には敵わないかもしれないと白旗を上げる決意を示した。


「そんなもん分かんねぇよ!!

 だが……この先、ローゼマリー様がキャロライン様の足を引っ張ったり、貶める様な事があれば俺は全力でキャロライン様を守るしローゼマリー様の敵に回るって事だけしっかりと頭に叩き込んでおいて下さい!!」


「クスクス。分かりました。けど、そんな事にはならないと思うので大丈夫ですよ!!

 私もキャロライン様の事を尊敬していますし、私の理想の女性なんです。

 イーサン様とは何だか話が合いそうな気がしますね。これからは気軽にローズとお呼び下さい。それで私とも仲良くして頂けると嬉しいです」


「……はぁ……ありがとうございます。では、これからはローズ様と呼ばせて頂きます」


 そう言って丁寧に頭を下げたイーサンは頭を上げずにそのまま一呼吸置くと突然下げていた頭をガバッと上げた。

 勢いよく上げた顔には今までとは違い親しみ易い笑顔が浮かんでおり


「じゃあ。ローズ様!!!そこまで言うなら仲良くしてやらない事もないけど……

 俺はその辺の貴族の女みたいにローズ様が我儘言っても俺が納得しない限りは絶対に聞かないし、俺が優先するのはキャロライン様だけだからな」


 と楽しそうに言い切るのだった。


「はい。はい。分かっていますよ。

 それでは、改めて宜しくお願い致しますね」


「あぁ。こちらこそ宜しく頼む。

 それで早速だが、キャロライン様の好きな物とか知ってるか??」


 散々狼狽えてた癖に何だか切り替えの早い奴だなぁとローズは軽く呆れつつもきちんとキャロラインの好きなものを考え始める。


「え〜何だろう……前に体を動かす事は好きって言ってたけど‥‥何せ私も会うのが久しぶりで…」


 テヘっと可愛らしく惚けて見せるが、そんなものイーサンには全く通用する筈もなく


「お前‥‥思ったより使えないな……」


 と、痛い所を突かれてしまうのだった……


 立ち直ったイーサンの上から目線の一言に、先程までは珍しく優位に立てていただけにカチンときてしまったローズは悔しくなって

「ムムッ!!言っておきますけどね!!私はキャロライン様に娘の様に可愛がってもらってるんですからね!!

 お茶会に戻ればキャロライン様に何だって聞けるし何でも答えてくれるんですからね!!!」(きっと………)


「ほぉ。。。それは頼もしいな!!じゃあ早速戻ろうじゃないか!!」


 そう言いながら何やら空恐ろしい笑みを深めるイーサンはローズの言葉に逸る気持ちを抑えきれない様で強引にローズを連れて茶会の会場に戻ろうとしたところで待ったがかけられるのだった。




 イーサン・ゴネシス 辺境伯 子息  19歳


 グリーンの短髪 グリーンの瞳 


 強面の顔立ち 身長194㎝


 体格が良く鍛えられたがっしりとした体つきで近寄り難さを感じさせる雰囲気を醸し出している。


 基本的に女性の事はあまり好きではなく面倒だと感じているが、辺境伯の息子と言う高い地位である事から成人後には社交の場に顔を出す事が増えた。

 だが人でも殺していそうな顔の怖さと厳つさから周りに敬遠されがちであったが何度か交流する機会があったキャロラインはイーサンの見た目に臆する事無く気さくに話し掛けてくれた事をきっかけに好意を抱き始め 今では崇拝する勢いで好意を抱いている。


 イーサンにとってはキャロラインは女神の様な存在なので自分だけのものにしたいとかそう言った感情は一切なく一歩引いて眺めているだけで満足であった。

 純粋にキャロラインの幸せだけを願っている見た目と性格にギャップがある純情男子。


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