34 お茶会 3
ローズは今、ルイとジョイを伴って王城の長い廊下を歩いている。
クロード達とは先程別れたばかりでこの廊下を抜けた先が本日のお茶会の会場になっていた。
廊下を抜けて突き当たりにある扉の前に着くと、ルイはクロードから預かっていた招待状を胸ポケットから出し扉の前に立っている使用人に手渡した。
使用人はルイから招待状を受け取ると「確認させて頂きます」と静かに言葉を発し中を確認し始めた。
ローズ達が本日のお茶会への招待客だと分かると扉の前に立っている騎士に小さく頷いてから扉を開かせるのだった。
クロード達と普段しているお茶とは全く違う雰囲気にローズは一瞬飲まれそうになるがチラッと後ろを振り向けば普段通りの無愛想なルイとジョイが側に居てくれる事に安心感を覚えてローズは中へと足を踏み出した。
2人揃ってニコリともしていない何処に安心感が芽生えるのか甚だ疑問ではあるが幼い頃から見慣れているローズにはその変わらない表情さえも心の支えになる様だった……
中へ入ると豪華なシャンデリアの下に長いテーブルが置かれていて宝石の様に美しいデザートが並んでいる。
城の給仕に案内されて席に着くと、既に何人の招待客であろう貴族が腰掛けており、その中に見知った顔の人を発見したローズは嬉しそうに話しかけた。
「あっ!!フリード様。フリード様も招待されていたんですね!!アベルもこんにちは!!」
ローズが座ろうとしていた斜め向かいの席に座るフリードとその後ろに控えるアベルを発見したローズは、初めての社交の場に訪れた事で少し緊張していたのだが普段から交流のあるフリード達が居た事で安心したのか緊張の解けた柔らかい笑みを浮かべながら元気よく挨拶するのだった。
アベルはローズの挨拶を聞いて何故か軽く目を見開くが直ぐに通常の無表情に戻りローズに向けて小さく会釈をする。
この様な場所で従者の自分など壁の花と同様の存在であり その様な人間にまで挨拶をしてくれる人など滅多に存在しないのだ。
フリードは今日も普段と変わらず元気なローズに視線を向けると楽しそうに微笑んで挨拶を返してくれるのだった。
「クスクス。ローズちゃんは今日も元気だね。
私は公爵家だからね。成人後は、王家が主催する茶会や夜会には大体参加しているんだよ!!
ローズちゃんとは初めて会うけど、もしかして今日が初めての社交になるのかな??」
公の場でも関係なく普段と変わらず自分の大切に思う従者にまで丁寧に挨拶をしてくれるローズにフリード自身まで何だか気分が高揚し出しローズに楽しそうに話しかける。
「はい。父達も居ないこう言った場所は初めてで少し緊張しているんです」
普段からあまり物怖じする事なくフリードとも対等に会話をし、明るくて活発的なローズが恥ずかしそうに俯きながら説明する姿に年相応の幼さを感じたフリードは微笑ましい その姿に笑みを溢しながら軽口を叩き始めた。
「ふふっ。ローズちゃんでも緊張するんだね」
「ちょっと。それどう言う意味ですか!!!」
「クスクス。ごめん!!ごめん!!」
こう見えても繊細なんですからね!!と、頬を膨らませるローズを揶揄いながらも楽しそうに会話を弾ませるフリードに気を取られていたローズたったが、ふと外した視線の端に数人の男女の姿を捉える慌てて猫を被り直すのだった。
フリードはそんなローズを見つめながら一層楽しそうに声を上げて笑いその姿にローズがまた慌てると言うなんとも微笑ましい光景が繰り広げられるのだが、王家主催の社交の場で穏やかな空気が流れる事自体が珍しく側で控えている城の使用人達は驚きが隠せないようだった。
キャロラインに招待されたであろう十数人のメンバーが揃い、皆が着席したところで本日の主催者のキャロラインが現れた。
「皆様。本日はようこそおいで下さいました。
本日はそこに座る私の可愛いローズの為を思い、学園に通い出した方を中心にお呼びしましたのよ。
短い時間ですが楽しんで頂けたら嬉しいですわ」
あまり目立つ事はしたく無かったローズに熱い視線を送りながらとんでもなく目立つ発言をしたキャロラインに思わずローズの口元がヒクついてしまうが、キャロラインは尚も楽しそうに話を続ける。
「さぁ、ローズこれが貴方の初めての社交の場でもあるのよ!!初めてお会いする方も多いでしょうから、きちんとご挨拶なさい」
キャロラインから有無を言わせぬ紹介を受け気まずいながらも静かに立ち上がったローズは意を決して挨拶をし始める。
「はい。キャロライン様。
皆様、只今ご紹介にありましたローゼマリー・ファディル・ファルスターと申します。
キャロライン様には数年前から懇意にしていただいておりまして大変光栄に思っております。
初めてお目にかかる方もおりますが本日は宜しくお願い致します」
(ふぅ〜〜〜!!!オッケー??コレで良いの!?って言うかキャロライン様のあの爆弾発言はやめて欲しい……ただでさえお父様達のせいで目立ち気味なのに、あんな発言されたらもう誤魔化しが効かないじゃん!!!ひっそりとした生活が送りたいのに……
まぁ、常に目立ってるあの人達に言ったところで無駄なんだろうけど………)
キャロラインの私のお気に入り発言に同席している貴族達の目の色が素早く変わった事を逸早く察知したローズは内心でこっそりと溜息を吐くのだった。
初めてのお茶で極力目立たず騒がず、無難に終えようと思っていたローズは初っ端から出鼻を挫かれてガックリと項垂れたい気持ちを必死で立て直し真っ直ぐ前だけを見つめていた。
その後も順番に自己紹介をしていき全員の紹介が終わったところでお茶がスタートする。