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30 魔術師 5


「ローズ様。おかえりなさい」


「あれ??ジュリアス父様だ!!しかもクロード父様まで……今日は、アルベルト父様が来る日ではなかったですか!?」


 部屋に入るなり満面の笑みで出迎えてくれたジュリアスに驚いたローズを楽しそうに見つめながら、部屋のソファで寛いでいたであろうクロードも立ち上がってローズを出迎えに来てくれた事で予定ではアルベルトが来る日ではなかっただろうかと思わず確認を取ってしまう。


「あぁ。そうだよ!!もうすぐ騎士団の仕事を終えてこちらに来ると思うが、昼間ルイから連絡をもらってローズが魔術師達に会いに行くって言ってたから心配になって様子を見に来たんだ」


「クスクス。そんな事で…!?学園内ですし、国の魔術師さん達ですよ。全然大丈夫ですよ!!寧ろとても楽しかったです!!お父様達は本当に心配性ですね!!」


「こ〜らっ。ローズ。何処に居てもしっかりと危機感は待たなきゃダメだぞ!!もう…こんな心配では足りないくらいだよ!!ローズは目を離すと飛んで行ってしまう蝶の様に自由で美しいから私達も気が気では無いんだよ!!

 さぁ。早くお茶にしよう。そしたらどんな話をしたか、教えてもらえるかい!?」


 国の魔術師と言っても所詮は男性であり、魔術師の中にも様々な人間が居るのでそんな安心してはいけないよと遠回しに伝えるが何処までローズが理解しているのかは謎である。

 きっとクロード達の心配している1/100も理解はしていないだろうがローズの可愛さからあまり強く出られないクロードだった。可愛いは正義なのだ。

 ただ、クロード達も単純に男性に合わせる事だけが心配なのでは無く、ローズの前世の知識の事を全く知らない他人にどこまで披露したのか、それによってローズの重要性に何処まで気付いているのかその事も気掛かりだった。


「はい。沢山話したい事があります!!」


「ふふっ。それは楽しみだな」


 そう言いながらクロードがローズをエスコートしてソファに座らせる。

 ジュリアスの淹れてくれた美味しいお茶と公爵家から持ってきたシェフお手製のカラフルなマカロンとクッキーを摘みながらローズはゆっくりと話し始めた。



…………



「……と言う事で、提案した魔道具を作ってくれるそうなので、また来週にでも魔術塔へ伺おうと思っています」


「そうか……それは楽しみだな!!皆 親切にしてくれたかい!?嫌な事はされなかった!?」


 ローズの話を聞きながら優しく微笑んだクロードはローズの手を取りそっと口づけると覗き込むようにローズの気持ちを探り出す。


「ふあぁっ。。。だ…大丈夫ですよ……!!皆様とても優しくて、凄く楽しかったです。来週には、私が提案した魔道具が出来上がると思うと今からワクワクしてしまいます!!」


 いくら父親とは言え突然上目遣いに手の甲にキスを落とされて変な声を出してしまうがバクバクと煩く騒ぎ出す心臓を必死で落ち着けながらどうにか自分の気持ちを伝えるのだった。


「ふふっ。私達もローズの考えた魔道具が出来上がるのが楽しみだよ!!

 そしたらローズ。私達はまだ仕事が残っているから一度、外に出てくる。

 夕食には間に合わないかもしれないからアルベルトとルイ達と先に食べていてくれるかい!?」


「はい…‥それは構いませんが……お父様達は忙しいのに、わざわざ私の様子を見る為だけに呼び寄せたみたいで何だか申し訳ないです……」


 仕事が残っているにも関わらず自分の事が心配だからと駆け付けてくれた事を嬉しく思う気持ちと少し気恥ずかしい気持ち、申し訳気持ちとが混じり合い頬を染めて俯いてしまう。


「そんな事は気にする必要などない!!ローズに一目会うためならたとえ瀕死の重傷を負っていたって会いにくるよ!!」


 娘に言うよりどちらかと言えば愛する恋人にでも言いそうなセリフに父親を拗らせてるなぁと思いつつ満更でも無さそうなローズが頬を染めながら言葉を返す。


「もう……そんな事ばかり言って……でも、お父様ありがとうございます。お仕事頑張って下さいね」


「あぁ。ありがとう」


「ローズ様……仕事などさっさと終わらせて直ぐに戻って参りますからね」


「ふふっ。急がなくて良いので気を付けて行ってきて下さいね」


「はぁ……天使すぎる……」


 そんな何処かの馬鹿ップルみたいなやり取りをしつつ いつまでも行こうとしない2人をどうにか送り出す事に成功したローズは五月蝿い2人が居なくなってリラックスモードのルイとジョイとアルベルトが帰って来るまでお茶の続きを楽しむのだった。




***




「失礼するぞ!!団長達を急ぎ呼んでくれるか!?」


「これはファルスター閣下!!!はっ。はい!!!少々お待ち頂けますか!?」



 魔術塔にある来客用の応接室に不機嫌そうに腰掛けるクロードとその後ろに静かに立つジュリアスは異様な殺気を放ってシスラー達を待っていた。


 2人に対応した魔術師は国のトップの魔術師団に在籍しているにも拘らず、2人の禍々しいオーラに充てられてオロオロと視線を彷徨わせ逃げる様にして団長達を呼びに行くのだった。


 団長達を呼びに行かせてから幾らも立たないうちにバタバタと人の歩く音が聞こえてきたかと思うと足音は、クロード達の居る応接室の前でピタリと止まる。


   トン トン


「ファルスター閣下。私共をお呼びとのことですが入っても宜しいでしょうか!?


 静かに扉がノックされ低い男性のよく通った声で入室の許可を求められとクロードはローズが聞いた事も無いような低い声で「あぁ。入れ」とだけ呟き 応接室の扉が開くと昼間ローズ達と会話をしたシスラー達4人が頭を下げて立っていた。


「お久しぶりでこざいます。本日のご用件はローゼマリー様の話しと言う事で宜しいでしょうか?」


 シスラーは、ローズと話していた時とは違い表情を動かす事無く普段通りの無表情で頭を下げクロードに問いかけるも


「お前にローズの名を気安く呼ぶ事を許可した覚えはない!!」


 と、不機嫌そうなクロードに一刀両断されてしまう。


「申し訳ありません。ファルスター嬢のお話で宜しいでしょうか?」


「あぁ。そうだ……

 お前達は、今日 ローズと話してみてどう思った!?」


 ローズを勝手に呼び付けて話した事を咎められるとばかり思っていたシスラー達は、クロードの思いもよらない質問に思わず下げていた頭を上げクロードを見つめてしまうが動揺からか瞳を揺らしてしまう。

 クロードを見つめたまま少し間を開けて考えていたシスラーだったが、クロードの質問の意図が分からずに正直に答えだした。


「……はい……そうですね……美しく、とても聡明なお嬢さんだと思いました……」


 自身も貴族である事から貴族女性との関わりもそれなりに経験しているシスラーから見ても、まだ幼いとは言えローズの美しさは目を見張るものがあり、貴族女性の中でも群を抜いて美しいローズの姿を思い出すかのように静かに口を開いた。


「美しいのは然る事ながら女性とは思えない気安さに発想力は素晴らしいものがありますね!!」


 女性の事は嫌いではないが普段から女性と話していても気持ちが明るくなる事などなった事がないアーノルドは昼間のローズの姿を思い出しながら緩む口元を隠しきれずに自分の感想を口にする。


「そうですね!!話せば話すだけ色々な提案をして頂けそで、年下ながらとても勉強になりました」


「女性が居ると構えてしまいがちですが、ファルスター嬢はそこにいるだけでも周りが明るくなる気がします」


 ダニエルもニックも思い思いにローズの感想を述べるが、ローズとの話し合いを思い出す彼等の誰しもが皆楽しそうだった。


「まぁ。そうだろ……ローズは可愛らしいし、聡明なのは分かりきっている事だ!!

 ところで今日、ローズと話した内容を誰かに話したか?」


「そうですね……ファルスター嬢がここを訪れたのは周知の事実ですが、話した内容などは私達以外にはまだ伝えてはおりません。ですのでここに居る人間以外は知らないと思われます」


「そうか……それなら都合がいい。この先もローズと魔道具の話し合いを続けていく気なら、ローズと話した内容は他言無用でお願いしたい。

 それに伴って制約をかける為にも魔法契約を結びたのだが…」


「それはまた……大ごとですね」


 いくら公爵令嬢と言えど、娘の発言を他言しないように契約を結ぶなど聞いた事もなく、真剣な顔で提案するクロードを見つめ、溺愛していると聞いていたがまさかここまでなのかとシスラー達は驚きが隠せなかった。


「あぁ。今回は、安易に話をさせてしまったが、ローズと話すなら今後は細心の注意を払って頂きたい。

 今、居る人間以外は絶対に同席させないで欲しい。約束出来るか?」


「それは……構いませんが………一体、何故ですか……??」


 少し話を聞きたいだけなのに何をそんなに慎重になっているのか理解できないアーノルドは思わずクロードに聞き返してしまう。


「お前達もローズと話したなら分かるだろ!?

親バカでも何でもなく、ローズの可愛いさや親しみ易さは危ういものがある。

 安易に男性を近づけて勘違いされても困るし、それに加えて豊富な知識や発想力を持ち合わせていると周りに知れ渡ったらどうなると思う!!!???」


 クロードは、シスラー達の危機感の無さに軽くため息を吐きながら、今後ローズと接する気ながあるならそんなに弛んだ気持ちでいたら困ると言う思いも込めて少し強めに言葉を発する。

 ジュリアスもクロードの後ろで黙って立っていたがクロードの言葉を補足するように静かに口を開いた。


「私共は、これ以上ローズ様に付加価値をつけたく無いんですよ……

 ただでさえこの国の二代公爵家の養女になったって事で注目を浴びていますのに……

 これ以上の付加価値が付けば、いくら我々と言えど守り切れると断言できません。お分かり頂けましたか?」


 クロードの話を補足しながらしっかりとジュリアスが説明すれば、ローズの立場や容姿などを思い返しながらシスラー達は自分達の迂闊さを反省せざるを得なかった。

 少し話しただけだが、ローズ提案は目を見張るものがあったのは確かだし、もしかしたらそれ以上のものがまだあるのかと少し冷静になったアーノルドが口を開いた。


「彼女の知識は、そこまでなのですか……??」


「それをお答えするのは契約した後です。どうなさいますか?」


「……分かった……契約しよう。お前達はどうする!?」


 シスラーは少しの沈黙の後静かに契約に同意する。


「私も契約致します!!」


「僕もします!!ローズ様の知識……興味あります」


「俺もします!!俺も陰ながらファルスター嬢をお守りしますよ!!」


 彼等の決断を聞いて少し安心したクロードは一度ソファに深く腰を沈めるとため息混じりに話し出した。


「あぁ。助かるよ……正直言って、学園にいる間はどうしても私達の目が届かない……

 私達も交代で寮の見張りや結界の補強などをしているが、隣国の王族がローズに興味を持ち始めたと言う噂も耳に入ってきているし、竜などの問題もある……」


「竜……ですか……??」


「あぁ。それはまた…追々な……そしたら早速、契約を交わしてもらってもいいか??それとももう少し考える時間が必要か!?」


「いえ……大丈夫です」


「「「大丈夫です」」」


「よし。じゃあ契約するぞ、内容はおおまかに見て4つだ。

 ローズの話した内容は他言無用と言う事。

 ローズの考えた道具などは全てルイの発案として、発売する時はクロイツ商団を通すこと。

 ローズの嫌がる事を強制しないこと。

  あと、これは一番重要だが、絶対に許可なく触れない事だ!!

 よく読んで問題無ければサインしてくれ。細かい話はその後だ!!」



「「「はい」」」


 最後の一言だけ完全に父親目線の指示だったが、彼等は心良く同意した。

 そんなやり取りをしつつ彼等の話し合いは深夜まで続くのだった。



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