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28 魔術師 3


 魔術師達が在籍している魔術塔、円錐状の細長い塔の前には扉を守るように魔導師とは違う騎士の格好をした2人の男性が立ちはだかっていた。


 ローズはその男性達の前でそっと立ち止まると表情を変える事無く真剣な顔で扉の前に立っている男性に恐る恐る声を掛けた。


「こんにちは。シスラー団長に呼ばれて来たのですが……」


 ローズの問いかけに少しだけ表情を緩めた男性だったが、それでも緊張感のある硬い雰囲気は崩す事なく「お話は伺っております。中へどうぞ」そうはっきりと口にすると2人で息を合わせたかのように扉を開いてくれた。


 そのままルイ達を伴って中に入ったローズが目にしたのは玄関ホールらしき壁に囲まれた殺風景な広い空間で目の前には見上げるほど高く長い 多分 最上部まで続いているであろう階段と何処かの部屋に繋がっているらしき扉。

玄関ホールの床一面に寮の転移装置と同じような魔法陣が描かれているだけの空間だった。


 ローズはまさか階段で一番上まで登る事は無いよね……と、呆然と目の前の階段を見上げていると、後ろから騎士の1人が声を掛けてきた。


「そちらの魔法陣の上に乗って頂いて最上階を意味する10の数字を押して頂けますでしょうか!?

 そこが団長の執務室になっておりますので着きましたら目の前の扉をノックして頂ければ団長にお会い出来ると思います」


 扉の前でローズ達に一通りの説明を終えた男性はしっかりとした礼をとると静かに扉を閉めるのだった。


「あっ…ありがとうございます!!!」


 ローズは閉まる間際の扉に向かって大きな声でお礼を言うと扉を閉めていた男性が一瞬目を見開いた気がしたが、そのまま静かに扉は閉じられるのだった。


 魔術塔の内部に足を踏み入れたローズ達はそれなりの人数が働いているはずなのに、人の気配が全くしない事を不思議に思いながら、描かれている魔法陣の上に立ち、目の前のパネルのボタンを押す。

 次の瞬間、光に包まれ思わず目を閉じてしまうが、光が落ち着き目を開いた時には、入って来た時には無かった筈の重厚な扉が目の前に聳え立っていた。


   コン  コン  コン


「失礼致します。昼間、学園の授業の際 お呼びになりましたローゼマリー様をお連れしました」


 静かに扉をノックしたルイがローズの訪問を告げる。

 その瞬間、バサバサバサと何が大量に落ちた様な音がしたが、少しの沈黙の後、「どうぞ。入ってくれ」

 と、入室を促す男性の声が聞こえてきた。


「失礼します」


 そう言いながら他所行きの少し畏まったルイが静かに扉を開くとジョイがローズの前に立ちをエスコートしながら中へと入る。

 執務室の中は入って真正面に見える大きな窓の前に木製の大きなデスクが置いてあり、その上には、散らばったのを慌てて拾い上げたか様な書類の束が乱雑に置かれていた。

 そのデスクの手前には応接用の革張りの黒いソファとダークブラウンの長方形のテーブルが置いてある。

 丁度、デスクとテーブルの間に何事も無かったかの様に立っているシスラーは、ローズの姿を確認すると笑顔で出迎えた。


「やぁ。ファルスター嬢。お待ちしておりました。本当にお越し頂けるなんてとても光栄です。

 今、部下を数名呼び寄せますのでファルスター嬢はお茶でも飲みながらお待ち頂けますか!?」


 授業の時とは違いえらく低姿勢なシスラーは、ローズをソファに座らせると何やらヘンテコなボタンを押した後「アーノルド、ニック、ダニエル直ぐに執務室に来てくれ」と短く言葉を発しシスラー自らお茶を入れ出した。


 先程シスラーが押したボタンはボタンを押す事によって何処かに繋がる仕組みになっている様だ。

 日本の学校にあったような校内放送の様な物だろうか……


 シスラーがお茶を入れている間、ローズ1人だけがソファに腰掛け、ルイとジョイはローズの後ろに控えて立っている事に何だか居た堪れなさを感じソワソワしてしまうローズだったが、ルイの咳払いによって落ち着いて座ってろと嗜められてしまう。

 そのまま後ろからの無言の圧力により直ぐに普段より姿勢を正して大人しく腰掛けているとシスラーがお茶をそっと差し出した。

 ローズはお茶を手に取ると、居た堪れなさから気持ちを落ち着かせようと紅茶を一口 口に含んだ。


「…グッ…ブッ…!!」


 ……が……お茶を口に含んだ瞬間、思わず咽せて吐き出しそうになり慌てて飲み込んだローズは、小さく咳き込みながら絶対に呆れているであろう後ろの2人の顔を思い浮かべるも、振り返る勇気も無く、差し出されたお茶のあまりの不味さに顔を顰めそうになるのを一人必死で堪えるのだった……


(苦っ……が…!!!えっ??何なの!?嫌がらせとかじゃ…無いよね!?何これ……紅茶だよね……???苦すぎてこれ以上は飲めないんだけど……)


 コーヒーかって言うくらい色づいている紅茶を思わず口に含んでしまったローズは、ただの紅茶の筈なのにカップを持つ手が震えるほどの破壊力の高さにソワソワと落ち着かなく動揺しまうが、後ろから呆れたような溜息を吐く音が聞こえギクリと肩を震わせ思わず背筋を伸ばしてしまうのだった。


 これ以上みっともない姿を見せる事になれば、後々ルイによる容赦ないお説教になりそうな予感にローズは、未だに助けを求めてくる口の中を気合いで黙らせ気持ちを必死で切り替えるのだった。

 最近、何だかお説教の仕方がジュリアスに似てきたルイは、ジュリアスよりもローズに対しては遠慮が無いので、ローズは極力怒らせたくないのだ。

 長年一緒に暮らしていると他人同士でも似てくるもんなんだなぁと、一人で物思いに耽り出した時ローズ達の居る執務室の扉が再びノックされた。


「団長。お呼びでしょうか!?」


 少し低めのよく通る声を響かせてシスラーに声を掛ける男性にシスラーも「あぁ。入れ!!」と短く返答すると、部屋の扉が静かに開いた。


 そこに現れたのはシスラーと同じような濃紺のローブを身に纏った男性が3人立っており、ローズを見つけるとその場で静かに礼をとった。


「初めまして。団長から話しは伺っております。私は、魔術師団の副師団長をしております。アーノルド・ベンゼルと申します。本日は楽しそうなお話を伺えると団長から聞いておりましたので急ぎ参りました」


 アーノルドと言った茶色い短髪に緑の瞳の筋肉質な男性はローズに向かってしっかりと礼をとった。


「初めまして。僕は部下のダニエル・ケンウッドです。

 宜しくお願い致します!!!」


 アーノルドよりも少し背の高いグレーの髪に黒い瞳の男性もローズに向かって勢いよく頭を下げる


「同じく部下のニック・アンジュラーです。

 宜しくお願い致します!!!」


 彼等よりも少し背の低い金髪に紺色の瞳の男性も元気に頭を下げた。


 一通り、魔術師達の自己紹介が終わるのを見届けたローズもソファから立ち上がると

 

「はっ…はい!!!私は、ローゼマリー・ファディル・ファルスターです。

 大したお話は出来ないかも知れませんが本日は宜しくお願い致します!!!」


 彼等の勢いに飲まれ間違えて勢いよく頭を下げるローズに、軽く目を見張るアーノルド達を見たルイ達は、貴族の令嬢が低姿勢に頭を下げるなんてと後ろで呆れたようにまた溜息を吐くのだった。


 すると少し視線を下げてローズの目の前に置かれているお茶を見つけたアーノルドが焦ったように口を開いた。


「あっ!!!団長!!!まさか自分でお茶淹れたんですか!!???」


「おっ??何か問題でもあるのか???」


 アーノルドの言葉に何をそんなに焦っているのかと不思議そうな団長は自分の前にも置かれているお茶を飲みながらアーノルドに確認する。


「問題ありまくりですよ!!ファルスター嬢。申し訳ありません!!!団長は悪気があるわけでは無いんですよ!!団長……もう、余計な事しないでくださいよ」


「ムッ…‥何でだ!!!今日は、いつもより丁寧に淹れたぞ!!」


 アーノルドの言葉に少しムッとしたシスラーが言い返すも横からニックに追従される。


「何言ってんすか!!!ファルスター嬢申し訳ありません。団長、魔法の扱いは天才的なんですけど、どうも食に対してあまり興味が無いようで……

 いいですか!!団長には何でもなくても団長が淹れるお茶は激苦なんですからね!!!」


「おい!!何なんだ皆んなして!!お茶くらい俺だって淹れられし、今日は今まで一番上手く淹れられたぞ!!」


「そんな訳無いじゃ無いですか!!」


 ダニエルにもツッコまれたシスラーが軽く肩を落とすの見たローズは、彼等の気安い態度を目の当たりにして来る前とは違い幾らか気持ちが楽になっていた。

 ローズに対する態度とは違い彼等には少しぶっきらぼうに話すシスラーに親近感を覚えたローズはクスクス笑いながら話に加わり出した。


「クスクス。ちょっと苦かったですけど全然、大丈夫ですよ!!宜しければ私の従者が皆様の分もお淹れしますけど如何でしょうか!?ルイの淹れるお茶は美味しいんですよ!!」


「そんな……宜しいんでしょうか!?」


 申し訳なさそうにローズに確認を取るアーノルドにローズは笑顔で返事をする。


「はい。では、お茶の道具をお借りしても宜しいですか!?

 ルイお願いしてもいい!?」


「問題ありません。では、お借り致します」


「あ…あぁ。すまない……」


 普段、獣人と言うだけで軽くみられがちなルイにきちんと頭を下げるシスラーはそのまま部下達を促して、各々ソファに腰掛けた。

 ルイはそのままお茶を淹れ出すとローズと彼等の前に置き静かにローズの後ろに下がるのだった。

 ローズとは違い完璧である。


 皆の前に香りの良いお茶が用意されたところで話し合いが行われる事になる……


アーノルド・ベンゼル (子爵)魔術師副師団長 180歳


身体 178㎝  茶色い短髪 緑の瞳


 シスラーより年齢は上だが、シスラーの天才的な魔法の腕前を尊敬している。


 ただ魔法の扱い以外は割とポンコツ気味なのでシスラーのお目付役兼ストッパー役もこなしている。


 シスラーとは違い魔術も剣術の腕も一流のやり手。



…………


ニック・アンジュラー (男爵) 魔術師団一班隊長 128歳


身長 174㎝ 金髪 紺の瞳


 攻撃魔法をメインとする魔術師団一班の隊長を努めるニックは身長は低く隊長クラスの人達の中でも1番若い魔術師だが、魔法の腕前はトップクラスで次期団長との呼び声が高い。


 常に明るい彼は魔術師達の中でムードメーカー的存在。


 魔法も剣術も得意な特攻隊長



…………



ダニエル・ケンウッド (男爵) 魔術師団ニ班隊長 132歳


身長 181㎝ グレーの髪 黒い瞳


 落ち着いた性格で皆の纏め役でもあるダニエルは支援魔法がメインの二班の隊長を勤めているが魔法も剣術も得意。


 普段から暴走しがちな団長とニックの世話を焼いているダニエルは常に気苦労が絶えない。同じようなアーノルドと話が合うのでよく飲みに行っては愚痴を言い合っている。


 

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