18 相談
入学式から数日が経ち、生徒たちも段々と学園の生活に慣れ始めていた。
会えば会話をする様な知り合いが増え出したローズは、とても楽しく学園生活を満喫している様で今日も元気に学園へと向かっている。
「ファルスター嬢。おはようございます」
「おはよう!ラウル。今日もいい天気だね!!」
「そうですね。今日は、いつもより比較的暖かいので過ごしやすい1日になりそうですね」
ローズの前で立ち止まり、礼儀正しく挨拶をする ラウルと呼ばれた男性は、栗色の髪に鼠色の瞳で細身の大人しそうな男性だ。
ジョイと同じ学年のラウルは平民で貴族女性の従者をしている事から、ジョイと話すようになったらしく最近ではローズとも会話をする様になっていた。
「プッ!!何この会話……お年寄りみたいな会話じゃない!?10代の会話とは思えないね!!!
あれ!?そう言えば、今日はビアンカ様は一緒じゃないの!?」
「あぁ…はい。今、教室に送り届けた所です」
ビアンカと呼ばれる女性は、ラウルの主であり、グレーの瞳で金髪縦ロールを靡かせて歩いているプライドの高そうな女性の事だ。
いつもラウルを従えて歩き、少し猫背のオドオドしているラウルを顎で使っているイメージが強い女性だ。
「そうなんだ。じゃあ、ジョイもいるから教室まで一緒に行く!?それとも何か用事があってこの辺りにいたの!?」
普段からラウルは常にビアンカに付いて行動している為、ラウルが一人 玄関で彷徨い歩いていた事を不思議そうに問いかけた。
「別に何か目的があって移動していた訳ではないので、ご一緒しても宜しいでしょうか!?」
誰に対しても常に低姿勢なラウルがローズの様子を探る様に問いかけてきた。
ラウルが普段から人の顔色を伺いすぎな気がしているローズは、いくら身分の差があるにしても、そこまで気にしなくても別に人様の従者に難癖付けたり虐めたりしないのになぁと心の中で小さく溜息を吐くのだった。
「いいよ。一緒に行こう!!ねっ。ジョイ!!」
「あぁ。行こうぜ!!!ラウル」
一緒に行動出来ると分かり少し嬉しそうなラウルを引き連れてローズ達は楽しそうに校舎の中へと足を踏み入れた。
…………
「じゃあローズ。今日もちゃんと待ってるんだぞ!!慣れてきたからって絶対に勝手に動くんじゃねぇぞ!!分かったか!?」
「もう。毎日、毎日、言わなくたって分かってるよ!!!私だってもう13歳なんだからね!!小さい頃とは違うんだよ!!」
ローズは毎日、毎回、休み時間に同じセリフを言われ続けていい加減ウンザリしているのか、頬を膨らませ腰に手を当てながらルイに言い返した。
「はっ??小さい頃以上にタチが悪くなってるから言ってんだよ!!」
ぐうの音も出ないルイの返しに言葉に詰まってしまうローズは、これ以上一緒に居ると自分が不利になると思い「むぅ……もう、早くいってよ!!バイバイ」と、ルイの背中を押しながら教室の外へと追い出しに掛かる
「はぁ……あぁ。じゃあな!!」
今一、お淑やかさに欠けるローズに軽く溜息を吐くルイはローズに背を向けたまま面倒臭そうに手を上げて自分の教室へと向かいだす。
「ローズ様。いい子にしてろよ!!ラウル行こうぜ!!」
「ファルスター嬢。失礼致します」
朝から疲れを滲ませるルイとは違い、同い年のラウルと共に過ごせる事でご機嫌のジョイは、笑顔でローズの頭を一撫でするとラウルを誘って自分の教室へと向かい出した。
「皆んな、授業頑張ってね!!!」
そんな彼等を元気に手を振って見送りながら、ローズの1日が始まろうとしていた。
***
「ねぇ。メルちゃんはいつも何処でお昼食べてるの!?
私達は基本的には食堂で食べてるんだけど、食堂であまり合わないよね!?」
ローズは毎日食堂で昼食を取っているにも関わらずメル達と顔を合わせた事がないのを不思議そうに問いかけた。
「私達も食堂ですよ。ただ、マーガレット様が平民に紛れての食事は嫌だと仰るので常に個室を用意しているんです。 ローズ様はいつも食堂ですか!?」
「うん。私達は2階の窓際が多いけど、天気が良ければ庭のテラスで食べる事もあるよ!!
最近は寒くなってきたから中々難しいけどね!!」
貴族志向の強いマーガレットは、まだ平民と同じ空間にいる事に慣れておらず、授業中ならまだしも、食事まで同じ空間で取ると言う事が耐えられない様だった。
本来ならメルも食事の席に同席する事などあり得ないのだが、自分の護衛も兼ねているので仕方なく同席を許している様だった。
ただ、個室内にいるとは言え。同じテーブルで一緒に座る事は許さず、メルは少し離れた場所で立たせて食事をさせている。
なので、自ずとメルの食事は食べ易いサンドウィッチなどに限られてくる。
だが、その事を知るのはマーガレットとメルのみである。
「そうなんですね!!外 気持ちいいですもんね!!」
「そうなの!!外大好き!!
いつか一緒に外で食べられるといいね」
「クスクス。そうですね。私もローズ様といつか一緒に食事出来るのを楽しみにしています」
ローズはメルに向かって花が綻ぶ様な笑顔を向ける。
メルもいつかそんな日が来ればいいなと願いを込めながら嬉しそうに微笑み返した。
だが、次の瞬間、昼食を取るためにマーガレットを迎えに行かなければ不味いと慌てて立ち上がった。
「あっ!!マーガレット様迎えに行かないと!!」
「はーい。いってらっしゃい!!」
焦った様子のメルの姿さえも可愛らしく思え、ローズは笑顔で手を振った。
「クスクス。行ってきまーす」
同じ様にいつも元気で明るいローズの姿に癒されたメルがマーガレットを迎えに教室を出て行くと、まるでメルが離れるのを待っていたかの様にタイミングよくローズにも声が掛かった。
「ファルスター嬢。少しいいですか?折り合ってお話があるんですけど……」
「どうしたの??ここで話せる事!?」
てっきりルイ達が迎えに来たのかと思っていたローズが振り向いた視線の先には、少し息を切らせ申し訳無さそうな顔をしたラウルが立っていた。
「はい。問題ありません。寧ろ勝手に移動したらルイ様達に叱られてしまいますよ!!」
何か話があるのならと話せる場所へ移動する事も考えていたローズは、しっかりラウルにも嗜められてしまい苦笑い気味に微笑む。
「もう〜ラウルまで、そんな事言うなんて!!分かってるよ!!」
「ふふ。では、その……相談なんですが……….」
そう言いながらローズの向かいに腰掛けたラウルは、ローズに相談を持ち掛けるのだった。
ビアンカ・アシュラー (子爵令嬢) 19歳
身長 162㎝ 金髪縦ロール グレーの瞳 プライドの高そうな少しキツめの顔立ち
常に自分が周りの中心でありたいビアンカは、この機会に大勢の男性からチヤホヤされたいと思っている。
その中でも、この国の宰相の息子でもある公爵家のフリードに目を付けていて、仲良くしているローズの事が許せない。
自分の思いを叶える為なら手段は選ばない。
自分以外が注目を浴びる事が許せない。
ラウル (ビアンカ従者) 17歳
身長 173㎝ 栗色の短い髪 鼠色の瞳の薄い顔立ち
見た目からして大人しそうなラウルは、いつも我儘なビアンカに振り回されている。
ジョイと同じ学年だが、自分から話す事はあまり無く、いつも一歩引いた様に周りと接している。
今一、気持ちが読めない青年