13 入学式 3
「まぁ〜!!!男性達が掃いて捨てるほど居るじゃないの!!!凄いわ!!メル、ご覧なさい!!」
そう叫びながら入り口の扉から現れたのは、綺麗な黒いストレートの髪を靡かせ眉毛のラインで切り揃えられた前髪のある身分の高そうな女性だった。
少しキツそうな顔立ちだが、遠目で見ても気品ある美しいその女性は、メルと呼んだ少女を伴って扉の前に立っていた。
大勢の男性達に興奮気味の女性よりも、少し幼そうなメルと呼ばれた少女には、ウサギの耳のようなものが付いていてペールオレンジの髪と赤紫の丸い瞳の獣人の少女だった。
興奮気味の女性とは反対にメルは見慣れない大勢の男の人達を前にして戸惑っているような雰囲気が見てとれた。
………
「………っ…………」
(うぉーーー!!!触りたい!!触りたい!!!触りたーーーい!!!何あれ!!!可愛い〜〜〜〜!!!)
ローズは、ウサギの様な耳を持った獣人の女の子の登場に目も心も釘付けになってしまい、持っていたグラスを思わず落としてしまうが、手から離れた瞬間 しれっと横からルイにキャッチされて事なきを得る……
「ルイ!!ルイ!!!!ねぇ。ねぇ。ねえ!!!あの子、何の獣人だか分かる!?」
自分がグラスを落としそうになった事にも気づかないで、興奮気味に夢中でルイに話しかけるローズに、若干呆れた様な顔のルイが軽い溜息と共に説明し出した。
「はぁ……お前……絶対に、無闇に近づいて勝手に触るなよ!!約束出来るか!!??あの子はウサギの獣人だよ!!」
「やっぱり〜〜〜!!!何歳だろう……お友達になりたーーーい!!!!でも、獣人の子でも入学出来るんだね!?」
ルイの言葉を聞いて興奮しまくりのローズは、もう 頭の中はメルと呼ばれた少女の事でいっぱいだった……
「まぁ、俺と似たようなもんだろ!!あの、お嬢様の世話役兼、万が一の盾として親が一緒に入学の手続きしたんだと思うぞ!!そう言った理由で入学してくる獣人もこの学園には何人か居ると思うから」
「ふ〜ん……ねぇ…世話役は分かるけど、盾ってどう言う意味!?」
ローズはルイの説明に引っかかりを覚えて不思議そうな顔をするとルイの瞳をしっかりと見据えて聞き直した。
あんなに可愛らしい少女を盾にするって言う言葉の意味も状況すらも思い浮かばず、どうしても理解出来なかったのだ。
「あ??別にそのまんまの意味だよ!!万が一、男に絡まれた時に身代わりにして逃げれる様に、可愛い獣人の女を連れて歩く事は、この国じゃよくある事なんだよ!!」
この国で女性はとても貴重な存在の為、人よりも身分の低い獣人を買い付け自分の娘の身代わりの為に側に置く事は珍しい事でもなかった。
基本的には双方が同意の元、侍女として比較的 高待遇な環境で側にいる事になっているので、万が一が起こった時は素早く獣人が身代わりになる事が出来る様だ。
しかも、これは女性だけに限った事では無く、貴族男性に獣人の従者や侍女を付ける事も稀にある様だ。
「何か…切ないけど、私が口を挟める問題じゃないから、とりあえずは、分かったよ!!じゃあ、ルイにも私達以外に獣人の友達が出来るといいね!!」
「ぁん!?別に興味ねぇよ!!」
ルイは興味無さそうにローズから顔を背けるが、多少なりとも期待しているのか、尻尾が揺れ動いている。
「はい。はい。そうですね!!」
(このツンデレめ!!そんな事言って、本当は自分以外の獣人に会えて嬉しいの知ってるんだからね!!)
「チッ!!!」
ローズとルイのいつものやり取りが始まった先で、入り口で周りを見渡していたメル達が動き出していた。
「じゃあ行くわよ!!メル。案内なさい!!」
「はっ…はい!!お嬢様!!」
偉そうに言う割に、メルに先陣を切らせて先を歩かせると、自分は少し顎を上げ近寄り難さをアピールしつつも周りをキョロキョロと見回す女性と少し焦った様に怯えながら背中を丸めて歩くメルとでとても対称的な光景であった。
メルの方も辺りをキョロキョロと見回しているが、多分 お嬢様に渡すためのドリンクを探しているのであろう事が想像できた。
「おっ!!獣人の女じゃん。しかも主人は女だ!!声かけてこようぜ!!」
ローズの側にいた男性グループは、メル達の存在を視界に捉えたのか、側に居るローズには気づかずに何やらコソコソと話し合っている。
入学式で大勢の人達に囲まれて普段より気分が高まっているのか、ローズより少し年上そうなその男性はニヤけた顔をしながら今にもメル達の所へ突撃しそうだった。
「おい。止めろって!!主人の女性は絶対、高貴な身分だぜ!!!もしかししたら噂の公爵家の御令嬢かもしれないだろ」
「だったら何だよ!!この機会にお近づきになれれば本望だろ!!」
「おい……って!!」
(なぬっ……!!噂の公爵令嬢って……私の事じゃ…無いよね………やめてよ〜〜ね!!!噂ってなんなの〜〜!!??入学前から噂になってるとかマジで恥ずかしいんだけど……)
そんな事を考えながら、どうか自分の思い違いであって欲しい……と、願いも込めてルイに話しかける……
「ル……ルイ……さっきの男子達が話してた噂の公爵令嬢って、私の事じゃない……よね……」
「ぁん??んなもん、お前に決まってんだろ!!この国の王弟と国で一番の公爵家の養女になった少女が入学するって、入学前からすげぇ話題になってるらしいぞ!!」
「そうそう。そのせいで今年、この学園の入学希望者が殺到して大変だったらしいぞ!!」
なんて事無いように話す2人を、驚きの余り零れ落ちそうな程目を見開き呆然と見ているローズなのだが、ただでさえ少ない女性の内の一人で、しかも国一番の公爵令嬢ともなれば、家の為、将来の為にお近づきになりたい、あわよくば取り巻きの1人に加わりたいと思う男性が多くなるのは必然的な事だった。
「……………」
(うぉーーー!!!マジか……何だよ〜〜それ!!恥ずかしすぎるんだけど……
まぁ、でも、そんなのも初めのうちだけか……その内、みんな慣れるよね…!!!)
そんな安易な考えで、無理に自分を納得させたローズは、クロード達は何処に居るんだろうと辺りを探し始めた。
ただ、何せ人が多いので側に居るルイ達でさえ一瞬でも気を抜けば見失いそうでもあった…
……………
「ちょっと、あなたどう言うつもり!!!???」
ローズ達がクロード達と合流する為に辺りを歩き出した時、女性の甲高い声が会場に響いた。
ローズ達もその声に驚き、声がする方へ視線を向けると、先程の貴族女性が怒りに震え、メルが焦った様にオロオロと辺りを見回している様子が見てとれた。
怒っている貴族女性の前には先程声を掛けようかと話し合っていた男性達が立っている。
「貴方!!!私を差し置いて、この獣人に声を掛けるなんて一体どう言うつもり!!」
「はっ……いや……それは……お嬢様に軽々しく声を掛けるなど……恐れ多くて出来ません……なので……話すきっかけが欲しくて、そこの獣人に声を掛けてしまったのです……」
女性のあまりの剣幕にタジタジになる男性はしっかりと頭を下げながらも女性をこれ以上怒らせない様に上手く言葉を繋ぎ出す。
「そう……それなら、まぁ…よろしくてよ!!
貴方、わたくしが誰だか分かっていらっしゃいますの!?わたくし、侯爵家の娘。マーガレット・フレンシアよ」
自分が高貴な身分ゆえ男性達が声を掛けられなかったんだと分かると満更でも無さそうな顔をしながら男性達に自己紹介し出した。
「宜しくお願い致します。フレンシア嬢。
私は、子爵家子息 ルージー・オルリスと申します。
先程、ローズの話を出していたのは子爵家の息子らしい。
マーガレットの前でもう一度、礼儀正しく腰を折ると丁寧に挨拶をし出した。
「まぁ……よろしくてよ。貴方は、子爵家なのね….…思っていたより爵位が低いけど、貴方の努力次第では、仲良くしてあげない事もないから頑張りなさいな!!」
(うぉーーー!!!マジか……完全なる上から目線!!!
あり??ありなの!?なんか……もう…流石としか言えないんだけど………
すっかり忘れてたけど、これがこの国の女性の在り方なんだよね………ドンマイ男子!!!頑張れ男子!!!)
ローズがマーガレットの前で挨拶している男性にエールを送っていると、マーガレットの前から立ち去った男性は仲間と一緒に歩き出した。
「おい!!違ったぞ!!侯爵家の方の娘だった
まぁ、案外 可愛いけど取り入るかどうかは様子見だな……」
「おい!!止めろよ!!!聞こえるぞ!!」
「大丈夫だよ。女なんてのは、自分の事しか考えてないんだから」
「まぁ、それもそうだな」
男達はマーガレットを馬鹿にした様にクスクス笑いながら立ち去っている。
ローズはルイの影に隠される様に、その光景を眺めているも、女性も、男性も、なんだかどっちもどっちだなぁと、呆れてしまうのだった。
「おっ!!クロード様達発見!!!」
「えっ??本当!?何処!?」
「ほら!!向こうも気付いたみたいだぞ。こっちに向かって来てる」
クロードとギルバートはジュリアスとノアをお供に付けて笑顔でローズの方へ向かって来た。
「ローズ!!やっと見つけた!!いつも光輝いてるから、直ぐにでも見つかるかと思っていたが、思いの外 濁った奴らが多くてな!!少々手間取ってしまったよ……
だが、やっぱりローズの周りだけは輝きが違ったな」
「ローズ様…….制服姿……とてもお似合いです!!この、ゴミ溜めのような人混みの中で、咲き誇る一輪のバラの様ですよ」
周りに大勢の新入生達がいる中で、来賓のクロード達がとんでもない発言をしているが、ローズ以外は大して気にも留めていない様だった……
一人申し訳なさから居心地が悪くなるローズにギルバートが嬉しそうに話し掛ける。
「ローズ……大きくなったんだな……俺の腕に収まるくらい小さかった女の子が、その制服が似合うほど大きくなったなんて……」
ローズに話しながら感極まり出したギルバートの後ろからヒョッコリと顔を出したノアもローズに挨拶する。
「ローズ様。制服姿がよく似合っててとても可愛いいよ!!ほら見て、周りの男子が皆んなローズ様に釘付けだよ」
「おい!!余計な事言うなよ。ジュリアスがただでさえ殺気立ってるんだから本気で消されるぞ!!」
「うぉっ!!ヤバっ!!冗談だよ!!冗談!!」
ジュリアスがジャケットに仕込んでいるナイフを取り出そうと手を入れたところで危険を察知したノアが慌てて謝りだした。
(そんなに焦るくらいなら、揶揄わなきゃいいのに……)
確信犯でジュリアスを揶揄っているジョイに軽く呆れながらもローズはクロード達と話し出すのだった。
ローズ達がある程度話し終わり、周りも少し落ち着き出した頃、ホールに設置されている壇上に学園長が現れた。
「新入生の皆様御入学おめでとうございます。
学園の全ての関係者と共に、皆様を学園にお迎えすることを重ねてお慶び申し上げます。
学生の皆様は、これからこの学園で様々なことを学び、新しい友人や教職員と出会い、学修や様々な活動等に励む日々を送ることになるわけです。そして、この学園には、様々な教育・研究の施設・設備など、皆様の「学び」と成長のための環境が整備されております。
また、ここには優れた教職員達が大勢揃っております。
入学者の皆様には、自ら「学び」の心に火をともしていただきたいと存じます。
さらに、皆様が社会で力強く大いに羽ばたいていけるように、私たちは全力で皆様を指導してまいります。
最後になってしまいましたが、学園の入学者ならびにご家族や関係者の皆様に心より感謝申し上げ、皆様のご健勝とご多幸を祈念いたしまして、私からの祝辞とさせていただきます」
そう言って学園は挨拶を終わらせると、一度生徒達の事を見回し、軽く会釈をしてその場を辞した。
次にローズと同じ制服を着た男子生徒が壇上に現れると、軽く一礼してから皆の方に向き直った。
「木々が日増しにあざやかに色付く季節となるなか、僕たちは今日、この学園の門をくぐりました。真新しい制服を身にまとい、これからの学園生活への期待や希望に胸を膨らませております。
本日は、私たち新入生の為にこの様な式を挙げて頂き誠にありがとうございます。
これからの三年間、学園で過ごす日々の中で勉学はもちろん、幅広い交友関係を持つ努力や魔法学の研究など積極的に取り組み、将来はファステリア帝国に貢献できるよう努め、新たな経験を通し多くの事を得たいと思います。
また、新たな経験をしていくにあたり、壁にぶつかり、前への進み方がわからず立ち止まってしまうことがあると思います。そんな時は諦めるのではなく、仲間と手を取り合い、時には先生方、先輩方、保護者の皆様の力を借りながらも、少しずつ前に進めるよう努力していきます。
僕たち新入生一同は、学園の生徒としての自覚、誇りを持ち、家族や先生がた、そして今日まで学園の歴史と伝統を築き、守ってこられた先輩方に恥じることのないよう、一つ一つの行動に責任を持ち、自立した学園生活を送れるよう心がけていきたいと思います。
この三年間をなんとなく過ごし、無駄な三年間にしないために、僕たちは今まで学んできたことを活かし、それぞれの目標や夢をつかむために、また、まだ目標が見つからない人は自分の目標を見つけるために、日々精進していきたいと思います。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
本日は誠にありがとうございました。
新入生代表 フリード・ファロン」
そう言って挨拶を終えると深々とお辞儀をしてその場を辞した。
「お父様!!今の方って……」
「あぁ。そうだ!!ローズと同じ公爵家のご子息で、現在の宰相をしている父を持つ由緒正しい家柄だ」
「あれ??宰相様ってギル兄様のお父様ではなかったですか!?」
ローズは以前聞いていた話しと少し違う気がして不思議そうにギルバートに問いかけた。
「そうだな!!俺の父親も宰相をしていたんだが、今の国王に代替わりした時に一緒に変わったんだ!!今は、現在の宰相の相談役を兼ねて偶に城に登上したりしながら自分の領地の管理を行っているよ」
「そうなんですね!!私より少し年上に見えましたが何歳くらいなんでしょうね!?」
「年齢は、現在18歳でルイと同じ学年になると思われます。
貴族達からの評判も良く見た目麗しい好青年との話です。
今年度の公爵家は、ローズ様とファロン様のみとなりますので、今後、何かと接点もあると思いますが、私達に接するように直ぐに気を許しては行けませんからね!!」
「はい!!ジュリアス父様!!」
ローズは真剣なジュリアスに対して微笑みながら軽く返事をする。
「ルイ。ジョイ。本当に頼みますよ!!」
「畏まりました」
様々な人間模様が垣間見えたところで、ローズのこの世界での初めての入学式は無事終了していくのであった。
祝100話 超えました!!!
本当は一つ前が100話だったんですが、これを書いた後に急遽人物紹介をいれたので一話ズレていました(笑)
まさか成人させる前に100話も書くとは思っていませんでしたが、もう暫くお付き合い頂けると嬉しいです!!
引き続き、評価、ブックマーク、誤字脱字報告などを宜しくお願い致します。
コメントなどもとても励みになるので気軽に書いてくださいね♪♪
〜RUMI〜




