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あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~  作者: 相田 彩太
第十二章 到達する物語とハッピーエンド
382/409

珠子と神饌仕合三本勝負!(その5) ※全13部

 「続いては後攻の藤原山蔭選手! さあ、どんな”インスタントラーメン”が飛び出すのでしょうか!? どうぞ!!」


 ウズメ様の合図に従って、山蔭様がその”インスタントラーメン”を審査席に置く。


 「中々やりますね。ですが、貴方の料理には重大な欠点があります」

 

 そう指摘する山蔭様は、その眼光も口も鋭い。


 「その欠点とは何でしょうか?」

 「これが神饌仕合ということです。捧げるのは料理だけではありません。調理過程もです。現代風に言えば、パフォーマンスです!」


 シュンシュンシュンシュン


 これは!? お湯の沸く音!?

 そして、審査員席には丼に入った麺とその上にかけられた粉。

 これは、やっぱり!


 「お題はインスタントラーメン! ならば、インスタントラーメンを作って(・・・)供するのが自然でしょう! それでは僭越(せんえつ)ながら私から給仕、いや給湯をさせて頂きます」


 ジョボボと丼に熱湯が注がれ湯気がお三方の視界を満たす。


 「小娘さん、貴方のインスタントラーメンの調理時間はどれくらいですか?」

 「お湯を沸かして器と粉を準備するだけなので、10分くらいですね」

 「そう! 10分! 貴方は六時間という私が提示した調理時間の中で、たった10分しか使っていない! ああ、なんということでしょう。これでは神饌というにはあまりにお粗末! 私はその時間を使って粉から麺を、スープから粉末スープを作り上げました。そして、これが最後の決め手です!」


 クルンクルンと大仰なパフォーマンスアピールをしながら、山蔭様は琥珀色の塊を手にする。


 「それは、干し(あわび)ですね」

 「そう! この天津神界での神饌料理に欠かせぬ食材です。さて、皆様には私の最後の調理をお見せしましょう!」


 山蔭様の右手に小刀がキラリ。

 左手には干し鮑がズッシリ。


 シャシャシャシャシャ


 刃が陽光を浴びて煌めくと、山蔭様の手から鮑が花弁のように薄く舞う。

 そしてそれはふわりと風に乗って、丼の上に。


 「3分。お時間でございます。思兼神(オモイカネ)様、久延毘古(くえびこ)様、六鴈(むつかり)様、お召上がり下さい」

 

 似たものを表現するなら、インスタントラーメンの仕上に削り節を乗せたものがあてはまるかしら。

 でも、これは高級感が違う。

 高級食材の干し鮑を使ったそれは、もはや庶民に親しみ深いものじゃない。

 神饌(しんせん)とい名にふさわしいインスタントラーメン。

 

 「頂こう。そなたの腕が確かなのは理解しているがな」


 ズッとひと口、思兼神(オモイカネ)様が麺をすすると、その目がカッと見開かれ、ズズズッ、ズズズズッと勢いが増す。

 隣のおふたりも。


 ゴキュゴキュ


 作法なんてなんのその、いや、これこそがラーメンの作法というように、丼に口をつけてお三方はスープを飲む。

 そして……


 プハァー


 「美味い! この言葉に間違いはない!」

 「天上の味わいというのは、正にこのこと!」

 「これぞ神の領域! 神がインスタントラーメンを作ったならこうなるという手本のようだ」

 「ありがとうございます」

 

 絶賛。

 それが山蔭様のインスタントラーメンに下された評価。


 「どうです? 小娘さん? 神の御業がわかりましたか?」

 「ええ、パフォーマンスも味も山蔭様の方が上、」


 あたしの言葉に山蔭様はニンマリ。

 でも、違うんだなこれが。


 「とあたしが言うとでも思っているのでしょう! でも、そんなことはありませんっ!」


 続けてのあたしの言葉に会場からフフフと笑いが漏れる。

 審査員のお三方も顔を見合わせて小声で相談している。

 やっぱりそうなりますよね。


 「では、お三方に裁定を下して頂きましょう! 神と人との神饌仕合三本勝負! 一本目の勝者は!?」


 ドロロロロロロとドラムロールに合わせて、昼間なのにスポットライトが思兼神(オモイカネ)様にあたり、そこに会場の意識が集中する。

 

 「意見は一致した。一本目の勝者は珠子選手! 見事な冴えである!」

 「ありがとうございます! お褒めに頂き光栄ですっ!」


 やった! 思惑通り!

 軽く小躍りするように喜びを表現するあたしの隣で、山蔭様はあたしを化け物を見るような驚きの目で見ていた。

 

◇◇◇◇


 「どういうことです? なぜ、私の負けなのですか? パフォーマンスも味も私の方が上のはず。納得のいく説明を求めます」


 声は抑えているけど、そこには明らかな動揺と怒り。

 ひょっとするとあたしが裏工作でもしているのではないかとでも思っているのかしら。


 「理解できぬというか」

 「はい」

 「うむ、それも当然といえば当然。なら、それをひとつひとつ理解させよう。まずは珠子選手にはパフォーマンス不足があるという話だったな」

 

 思兼神(オモイカネ)様が手を上げるとオーロラビジョンに映像が浮かぶ。

 あたしたちの調理中の録画映像だ。


 「山蔭の言い分では、この六時間という時間を珠子選手が無為に浪費したと思っているが、違う。ここからをよく見よ」

 「私が小麦で麺打ちを始めた時ですね。珠子選手は棒ラーメンの袋と味変用の粉を用意した所。ですが、ここから彼女が湯を準備するまで、かなりの時間が空くはず……」


 山蔭様がそう言いかけた時、映像の中のあたしが珍妙な動きを始めた。


 「これは!? 謎のダンス!? いや違う、これは……パントマイム!?」

 「そうだ。お前ならあの動きが何を意味するか理解できるはず」

 「あの腕の動き、あれは……製麺機!? 粉を鉄の棒が練っている!? 今度は胴体がローラーになって生地を延ばした!?」


 映像の中であたしの腕と胴が所せましとキッチンを転がる。

 愉快にもみえるその行動だけど、料理に携わったり、インスタントラーメンの知識がある方が見ればわかるはず。

 これが身体を使って製造工程を表現しているってことに。

 そして、観客は学問と芸術系の神様たちなの!

 つまり、わかってらっしゃる方が大半で、そして教えたがりで教え上手!

 

 「今度は羽根!? 風を送って乾燥させているのか!?」

 「理解出来たか?」

 「彼女はその身体を作って観客と審査員の方々に見せていたのですね。工場で製造されるインスタントラーメンの工程を。そしてそれを私に悟らせないための目張りだったと」

 

 キッチンの間に張られた白い布に視線を向け、グッと悔しそうに山蔭様は唇を噛む。


 「せいかーい! だって山蔭様が調理時間は6時間なんておっしゃるんですもの。粉からインスタントラーメンを作ろうとしているくらいは予想出来ます。なら、あたしも! と思ったけど同じことをするのも芸がありません! なら、ここはあえて市販の棒ラーメンを使って、残りの時間はインスタントラーメン工場の製造工程を表現した次第です。みなさーん! 楽しんで頂けましたかー!」


 あたしの呼びかけに観客のみなさんは拍手と喝采で応える。


 「見事な芸の冴えよ! 最初は気でも狂ったと思ったが! いつもの通りであった!」

 「芸達者な珠子さん! バッチリみていたぜ!」

 「バレないように笑い声を抑えるのが大変だったぜ!」


 あたしの特設応援団からも称賛の声。


 「我も非常に楽しめた。手作りインスタントラーメン製造とインスタントラーメン製造工場のパフォーマンスが布一枚を隔てて行われているのだからな」

 「実に興味深い。当方は知識の神。当然ながらインスタントラーメン工場の中身も知っている。だが、それをパントマイムで表現されたのを()るのは初めて」


 

 六鴈(むつかり)様と久延毘古(くえびこ)様にも大好評!

 みんなと一緒に拍手拍手。


 「理解したようだな。ふたりのパフォーマンスは互角。私も他の者たちも十二分に楽しめた」

 「わかりました。その点は認めましょう。ですが! パフォーマンスが互角だとしても、味に差があるはずです。私の”端麗濃厚薄削りアワビのせインスタントラーメン”は至高の一品。彼女に劣っているとは到底思えません」


 まだ納得がいかないとばかりに山蔭様は空っぽの丼を指す。


 「ならば、双方、互いに互いの料理を食べてみよ。さすれば理解するであろう」

 「わっかりましたー! こんなこともあろうかと、湯を沸かしています。山蔭様、5分ほどお待ちください」

 「いいだろう、こちらも予備は用意してある。食べれば貴方にもわかるはずだ。私の方が上だと」


 あたしたちは少しの間キッチン戻り、そして再びインスタントラーメンを準備する。


 「いいか、ちゃんと3分待つのですよ。早すぎたり遅すぎたりすると味が悪くなりますから」

 「はーい、うーん、いい匂い。これは上品な白だし系ですね」


 あたしの返事を聞くと、山蔭様はシャシャシャシャシャとあたしの丼に干し鮑の超薄切りを散らす。


 「まってました! 削り鮑! スゴイ技ですね!」

 「この程度は私の実力(ちから)の片鱗に過ぎません。それより、貴方のインスタントつけ麺、お先に頂きますよ」

 「どうぞどうぞ。替えのつけ汁の椀もおいてありますので。たっぷりと(・・・・・)


 ズゾゾゾゾッ!


 あたしの返事を聞くやいなや、山蔭様はつけ麺をズルッと吸い込む。


 「インスタントつけ&|x9EB5;にしては良い味ですね。ここまでは予想通り。では貴方のおススメ味変の粉を」


 サッサッと薬包の中の粉をつけ汁に入れて、再び山蔭様はズゾゾゾゾ。

 あたしも、3分たったのでいただきまーう! ズッ

 うまー!!


 「なにこれ!? スープは極上の海鮮と昆布ベースの白だし風で味は薄めなんだけど麺の縮れがそれをからみつけて!」ズオッ!

 「その麺に削り干し鮑がからむと! 鮑の旨味が麺に加わって! からむスープにも旨味を出して!」ズルッ!

 「さらには麺には小麦の甘さがバッチリ! 海鮮の旨塩! 鮑の旨味! 麺の甘さ! これらが一体全となって、しかも!」ゴキュキュッ!

 「スープがおいしいのなんのって! 麺を食べ尽くしたことで山海の旨味だけが濃縮されたような味! これは!」

 「静かに。食べるか解説するかどちらかにして下さい」


 ズッ


 うーん、山蔭様にたしなめられちゃった。

 でも、本当においしい。

 少しパリッと感が残る干し鮑の超薄切りとか、白だしの甘味はみりん? それとも和三盆(わさんぼん)

 山蔭様が至高と言った意味が分かる。

 それほどまでの美味。

 でも……、この味なら……。

 あたしは難しい顔でつけ汁とイカの肝の塩干しを眺めている山蔭様を見る。

 腕を組んで、難しそうな顔。


 「山蔭様」

 「待ちなさい、私は少し忙しい」

 

 そんな声を聞いてるけど聞かない風にあたしは台詞を続ける。


 「先ほどの干し鮑をあたしにわけてくれませんか?」

 

 あ、表情がハッとなった。


 「そ、そんなことはさせません。これは今から私が使います」

 

 山蔭様の手に干し鮑が現れ、ギュッと握れらる。

 その手が開かれると、そこからはキラキラとした輝く粉が。

 うおっ!? あの堅い干し鮑を一瞬で粉末にした!?

 そして、鮭節の粉と昆布粉と調合して、いくつも椀にサササッと入れていく。

 最後に黒い小片を乗せて、山蔭様は椀を審査員の方々の前におく。


 「これが、山蔭の答えということだな。理解した」

 「やはりこうなったか。実に興味深い」

 「我らはお前がこうするだろうと思っていた。どうだ? 楽しかろう」


 六鴈(むつかり)様の問いに、山蔭様はフフッと笑うとあたしの所にも椀をおく。

 そして、自分の所にも。

 

 ズゾッ、ゾゾゾッ、ズズッ、ズズズズッ、ズオォォォォx!


 あたしたちの一糸乱れぬ動きが音のユニゾンを生み、山蔭様特製味変インスタントつけ麺が消えた。


 「この黒い小片は鮑の肝の塩干しですね! 旨味がギュッと濃縮されていて、豚骨に負けない深くて強い味です!」

 「これだ! これが答えだ! よくぞこれを味合わせてくれた!」

 「鰹と豚骨と鮑! ありえない組み合わせだが! 実にうまい!」

 「一番だ! やはり一番はここに生まれた!」


 その声を聞いて、山蔭様は少し嬉しそうに笑う。


 「わかりました。そういうことだったのですね」

 「完全に理解したようだな。先ほど山蔭は自分のインスタントラーメンこそ至高を言ったな。その認識は正しい、いや正しかった。だが」


 そう言って思兼神(オモイカネ)様はあたしを見る。


 「そうですね。でも、今は(・・)違いますよ。山蔭様特製の干し鮑の粉末と鮑の肝の塩干しを使った”味変つけ麺”が新しい至高ですね」

 

 あたしの意見にお三方も山蔭様もウンウンと頷く。


 「これでわかっただろう」

 「はい、御三方の審判の理由はこれだったのですね」

 「そう、私たち審査員は気付いた。この”味変インスタントつけ&|x9EB5;”を山蔭が食べたなら、それを高みに完成させるだろうと。逆もまたしかり。”神のインスタントラーメン”を食べた珠子選手なら、その経験を活かして”味変インスタントつけ麺”をそれに上回る所まで引き上げるであろうと」

 「料理の世界は日進月歩、そこに新しい一歩が刻まれた瞬間を目の当たりにする喜びは極上。そのきっかけを作ってくれた者に勝利の栄誉を与えぬわけにはいくまい」

 「これが私と久延毘古(くえびこ)、それに六鴈(むつかり)が珠子選手を勝利とした理由だ。この神饌仕合はただ美味い料理を作った方が勝ちというわけではない。いかに知恵と知識と料理の神の舌と心(・・・)(うな)らせるかが肝要」

 「「「ゆえに、我ら三柱は勝利を珠子選手のものとした」」」


 そう、あたしは気付いていた。

 この神饌仕合がただの料理勝負じゃないって。

 だからあたしは、もし料理の神様が食べたなら、それ以上のものを生み出せる”味変つけ麺”で勝負した。

 山蔭様の舌と知識なら、必ずあたし以上の”味変つけ麺”を考えちゃうって。

 神様だのみもいいとこだけどね。


 「きまりましたー! 決まり手は神様だのみ!」


 ウズメ様の声に会場が沸く。


 「珠子選手。いや、仕合が終わった以上、珠子殿と呼びましょう。見事でした、まさか私の手を借りて勝利するとは会場の誰も思わなかったでしょう」

 「いやいや、足りない腕で何とかしようとあがいた結果です。これも料理が好きでたまらない山蔭様のおかげ。珠子流料理割烹は”好き(・・)を逃さぬ二段構え”! でも、きっと次は勝てません」

 

 あたしの虚空を切り裂く愉快なポーズと、”次は勝てない”という言葉に山蔭様はクスッと笑う。


 「まったく、その言葉のどこまでが本当なのでしょうか。出来れば次の仕合も私が出たい所ですが、そうもいかないでしょう」

 「当たり前だ! (われ)の顔に泥を塗りおって! みろ! あの菅原の勝ち誇った顔!」


 顔を真っ赤にして憤慨する吉備真備様とは裏腹に天神様はニコニコ顔。 

 ”どうだ、儂の推薦人の方が優れているだろう”みたいな感じ。


 「力及ばずもうしわけありません、真備様」

 「ふん、まあよい、この仕合はお題が決められる先攻が有利なのは自明。一本目は捨て仕合よ。次で勝利し、最終戦も勝てばよいのだ。小娘、(われ)の次の推薦柱はこの程度ではないぞ! 先生! どうぞ!」


 あの吉備真備様が先生と呼ぶ!? 

 空の色が暗くなり、プシューと煙とスポットライトの光が会場に差し込む。

 というかスポットライトじゃない! 天からの光の柱からススッと誰かが降りてくる!


 「あーっと! これは誰でしょう! 神饌仕合三本勝負! 神の二柱目の選手が現れるー!」


 光の柱に降り立ったのはトンと直立し腕を腰の後ろで組んだひとりの、ううん一柱の初老の男性が現れる。

 その服は古代中国の影響を大きく受けている詰襟状の服”(ほう)”。

 朱色の(ほう)には緑色の縁取りがあり、ゆったりとしたズボンにも似た表袴(うえのはかま)姿。

 おそらく、古墳時代から飛鳥時代の人物。

 やっぱり来たわね。


 「どーだ! たとえ貴様でもこの方には敵うまい! この方はな、そこの日本の料理神の主神磐鹿六鴈(いわかむつかり)様が、唯一頭の上がらない御方なのだ。さっきの藤原山蔭とは格が違うぞ」

 「真備!? まさか我の先輩を呼んだのか!?」

 「そうです! 六鴈(むつかり)様! (われ)は本気です! 紹介しましょう! 神饌仕合三本勝負! 二柱目は日本武尊(ヤマトタケル)の祖父垂仁天皇(すいにんてんのう)に仕えたこの御方!」


 ドロロロロロロッ


 「あの方ですー! 光の中にいらっしゃるのは常世の国から非時香菓(ときじくのかくのみ)、すなわち(たちばな)を日ノ本に持ちかえった神代の人物。その伝説から菓子の祖とも称される!」


 吉備真備様とウズメ様がクルクルと光の柱の周りを巡り、そしてドラムロールの音が高鳴って、

 

 ドゥルルルルルッ!


 「ふむ。こんな年寄りが駆り出されるとは。だが、手は抜かぬぞ、娘さんよ。儂こそが菓子の神! 田道間守(たじまもり)である!」

 

 長い髭を蓄えた貫禄のあるお爺さんが現れた。

 

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