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あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~  作者: 相田 彩太
第十二章 到達する物語とハッピーエンド
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珠子と神饌仕合三本勝負!(その2) ※全13部

◆◆◆◆


 広い、とにかく広い。

 そんな広大な(やしろ)の中、あたしたちは正座で待つ。

 隣には阿倍仲麻呂様と吉備真備様、それと檻の中の玉藻。

 左右にはいかにも知恵の神の神使といった真面目そうな顔ぶれ。

 そして、奥にある高座。

 あそこに思兼神(オモイカネ)様がやってくるはず。

 

 「みなさま、思兼神(オモイカネ)様が降りられます」


 女官の声が聞こえたかと思うと、奥の高座が光に包まれ、そして白い衣に身を包んだ男性が現れた。

 白い衣、というか白衣。


 「よいぞ、面を上げて楽にしてくれ」

 「思兼神(オモイカネ)様、それではあまりにも……」

 「いいのだ、この者たちは私に礼節を学びに来たのではないことは理解している。ならば、話しやすく聞きやすいのがよいだろう」


 見た目は壮年の男性。

 白衣も相まって、ベテランのお医者さんみたい。


 「思兼神(オモイカネ)様、こたびは貴方様の知恵を拝借したく、参りました」

 

 正座の体勢のまま、ズイッと半歩進み出て、真備様が頭を下げる。


 「真備よ、先触れより話は聞いている。地獄門を開いて現世(うつしよ)を騒がせたそこの女狐の処遇のことだな」

 「はい、このまま殺すのは容易い。ですが、そうすると数百年後にどこぞで復活して世を乱しかねません。されど、このまま牢に閉じ込めるのも監視要員が必要となります。監視の者が篭絡(ろうらく)されぬとも限りませぬし、この女狐は口が達者でありますから。何卒知恵を借りたく」

 「第四天魔王の使徒、甘言諫言両舌狐かんげんかんげんりょうぜつのきつねゆえに、か。吉備と阿部すら惑わしたその二枚舌は油断はできぬな。コストを考えれば、殺して数百年の平穏を手にした方がよいかもしれないな。理解した……」


 その言葉を聞いて玉藻の尻尾がビクッと震えた。

 えっ、ひょっとして殺しちゃう!?

 確かにそれくらいのことを玉藻はしたけど、そこまですることは……。

 後味が悪いというか、夢見が悪くなりそうっていうか……。


 「何か意見がありそうだな。娘」

 

 うっ!? さすがは知恵の神様、注意力抜群。

 あたしの表情から相変わらず顔に出やすい。


 「えっと、そこまでしなくても……、ほら、結果的に全て丸く収まったわけですし……」

 「小娘! 思兼神(オモイカネ)様に意見する気か!?」

 

 真備様が真っ赤な顔で、口角(こうかく)から泡を飛ばして、あたしを怒鳴りつける。

 あ、今のはちょっとトサカに来たかも。

 パワハラ系クレーマーは飲食店の敵!


 「思兼神(オモイカネ)様から意見を求められたから、それに応えただけでしょ! そもそも! もし、もしもですよ! 内乱罪が彼女に適用されて、死刑になるとしたら! 真備様も同罪でしょ! 平和な大江山を彼女と一緒に襲撃したんだから! 首謀者は玉藻! 参与者は真備様と仲麻呂様!」

 「(われ)は内部から動向を探っておっただけだ! その後、事態の収束に奔走し玉藻を捕えたのも(われ)ぞ!」

 「地獄門を閉めたのはあたしぞ!」


 ガルルと唸り声を上げてあたしと真備様の視線がぶつかり合い、周囲がザワザワとざわつく。


 「ねえ、しゃっこうにーにー、タマモママ、ころされちゃうの? しけい?」

 「そうなるかもって話さ」

 「なるほど、りょくらんわかった!」


 あたしの後ろにちょこんと座っていた緑乱(りょくらん)君がピョンと前に躍り出る。


 「かかってこい! タマモママをころすのなら! りょくらんがあいてになる!」

 「なにをちょこざいな! ならば武神の側面を持つ(われ)を倒してみせよ!」

 「ちょ、まっ、お前、何してんだよ!?」

 「がんばろうとしている!」

 「そういうことじゃねぇ!」

 

 喧騒はさらに大きくなり、部屋の外からガタガタ、ドヤドヤとした音まで聞こえてきた。

 あれ? もう、収拾がつきそうにない?

 もしかして、全部あたしのせい?


 「……半分くらいは」


 そうよね半分くらいよね。


 「『みな落ち着け、思兼神(オモイカネ)様の前だぞ』」


 黄貴(こうき)様の声に高まった熱気がスゥーと風のように流れていく。

 

 「そなたは?」

 「黄貴(こうき)と申します。前妖怪王の子にて王権の女神の子です」

 「なるほど、言われてみれば幼き日の面影があるな。助かったぞ。さて、真備よ」

 「はっ、はいっ」

 「今のは真備が悪い。私が意見を求めたのだ。意見の封殺は学問の神らしからぬ振る舞いだぞ」

 「こ、これは失礼致しました」

 「よい。そこの玉藻の処遇だが、私の意見は一時保留としよう。心配するな、そう時間は取らせない」

 「はい、よろしくお願い致します」


 事前にあたしは菅原様から聞いて知っている。

 知恵と知識の主神にて天津神界の御意見番、それが思兼神(オモイカネ)様。

 そのの神託は絶対の御意見で、それに従わない者は愚者の極みとまで称されるということを。


 「さて、次はそちらの娘の番だな。鈴鹿から話は聞いて理解している。地獄門の閉鎖、並びに玉藻の捕獲に多大な貢献をしたと。そして、その報酬として私への面会を希望していることを。私への面会ということは目的はひとつのはず、それを申してみよ」


 思兼神(オモイカネ)様の面会、その目的はきっと誰もが同じ。

 知恵と知識。

 もちろん、あたしも同じ。


 「はい、どうか教えて下さい。ここにいる八岐大蛇(ヤマタノオロチ)たちの子の母、失われし八稚女(やをとめ)の行方を」


 これがあたしの最後の希望。

 思兼神(オモイカネ)様ですら知らないとなったら、もう打つ手がない。


 「知ってるが教えられぬ」

 

 あたしの希望、それは1秒も経たずに絶たれた。

 でも、これは想定範囲内、”知らない”と言われるよりずっといい。

 教えられないということであれば、聞き出せばいいんだもの。


 「あら、天津神界一の知恵の神と呼ばれていても大したことないのですね、思兼神(オモイカネ)様は」

 「貴様! 無礼であるぞ!」

 

 真備様がまた顔を赤くするけど、そんなの気にしない。


 「だってそうでしょう。叡智ってのは集めて嬉しいコレクションじゃないのよ。自分や誰かの役に立って初めて幸せにするものなの。でも、それが『知ってるが教えられない』!? はっ、そんなのでよく知恵の神を名乗れるものだわ! そんなんならアカシックレコードと一緒にどこかの岩戸にでも引きこもってらしたらぁ」


 少し小ばかにしたようにあたしは言う。

 内心、ガクガクしながら。

 いいんですよね、これで!?


 「もはや聞き過ごせん! 小娘! そこに直れ! 切り捨ててくれるわ!」


 ほら、真備様が刀の柄にまで手をかけていらっしゃるじゃないですか!?


 「吉備よ、よい」

 「しかし思兼神(オモイカネ)様、これはあまりにも」

 「よいのだ。この娘の言葉が心からの侮蔑でないことくらいは理解出来る。その証拠に阿倍も菅原も落ち着いているだろう。さて、菅原よ、この娘の奇行、これはお前の入れ知恵だな」


 やっぱりバレてる。

 よかった、あたしの奇行だと思われてなくって。


 「はて、何のことですかな?」

 「菅原! 全部お前の差し金か! なんと白々しい。思兼神(オモイカネ)様も阿倍先生もこいつに厳しく言って下さい。学生人気No.1だからといって調子に乗るなと」

 「いや、面白いではないか。菅原よ、何を目論(もくろ)んでおる?」

 「目論むも何も、この娘の態度、これは神への挑戦ででしょう。なら、神としてそれを受けるべきでは? 具体的には”神の試練”を与えてみてはどうかと。この珠子という娘にはその資格があると思います」


 ”神の試練”その響きに周囲の神々と神使の方がざわつく。


 「”神の試練”だと!? この小娘がか!? 増長も甚だしい! 現世(うつしよ)で随一と称されるならともかく、ただの街の料理人ではないか!?」

 「待て、真備よ。”神の試練”面白いではないか」


 菅原様の言葉に思兼神(オモイカネ)様はクハハと笑う。


 「なるほど理解した。確かにこの不遜な態度は挑戦としか思えぬ。これは滑稽、いや愉快だな。まさか、天津神界でもこの学問の神の治める領域に挑戦者が現れるとは。フフッ、これは神代より初めての出来事。新しいこと、それは素晴らしい!」


 ”新しいこと”、その台詞に周囲が色めき立つ。

 さっきまでの喧騒に対する眉をひそめる態度とは違う、何かに期待する盛り上がった気持ち。


 あたしは事前に菅原様から聞いて知っている。

 人間はよく神に挑戦する。

 本人にその気がなくても、うっかり『私の美しさには神をも超えるだろう』なんて言っちゃってトラブルになることもしばしば。

 武力や狩りなどでの腕試しは、掃いて捨てるくらいいるらしい。

 でも、それは高天原の武神や美神にとっての挑戦者。

 知恵の神に挑戦する者なんて皆無。

 だって、そうでしょ、賢い人ほど自分の無知を知っているもの。

 誰よりも、神よりも賢いだなんて増長する人なんて、本当に賢い人は絶対にしない(・・・・・・)

 

 だから、菅原様はあたしたちを天津神界に招待する前に作戦を立ててくれた。

 知恵や知識の神は”新しいこと”に弱い。

 そこを付けば、絶対に思兼神(オモイカネ)様の興味が引けると。

 

 そして、天神様はこうも教えてくれた。

 高天原には”神の試練”というものがあって、それを乗り越えたなら、どんな褒美も思うがままだって。

 具体的には試練を主催した神が、その者の望みを何でも叶えてくれるんだって!!


 「お待ちください思兼神(オモイカネ)様! ”神の試練”を受けるには資格が必要。この小娘にその資格があるとは思えませぬ」

 「その資格ってどういうものです? 真備様」

 「神に挑もうとするのだ。お主が何かにおいて(・・・・・・)優れた人間である証明が必要。地上での栄光、もしくは神の推薦。それも一柱では足りぬぞ。七の支え、すなわち七柱がここで小娘を推薦することが必要。土台無理」

 「真備の言う通りだ。だが、それを理解せずに菅原がこの娘を連れてきたとも思えぬ」

 「まさか!?」


 その声に天神様はフッと笑い、あたしはここぞとばかりに立ちあがる。


 「存じています! 七柱の推薦! あたしは、今までの旅路というか経営で、それを集めました!」


 あたしの声に周囲からは『嘘だ、こんな娘が!?』、『ありえない七柱だと!?』、『でも天神殿のあの自信』、『もしや!?』という声が上がる。

 そして『ふっ、女中は我の自慢の配下』、『珠子ちゃんてば顔が広いのよね』、『日本縦断珠子さんの(えにし)ならこれくらい当然さ』、『まさかここまでとはねぇ』、『当初の想定を遥かに上回っています』クイッ、『……信じられない、でも信じている』、『エッヘン! 珠子おねえちゃんってみんなと仲良しなんだよ』という七王子のみなさんの声。

 その声に応えるべく、あたしは大きく手を振って、頼もしい神様たちを呼ぶ。


 「ご紹介しましょう! まずは『酒処 七王子』の守護神!」

 「嬢ちゃん! ほんに難儀なことになっとるなぁ。でも、嬢ちゃんの頑張りようは毎日見てるで。貧乏神改め! ボロは着てても心は錦の神、参上や!」


 ポーンと社の階段を駆け上がり登場したのは、あたしが毎日拝んでいる”ボロは着てても心は錦”の神様。


 「続いては、中古三十六歌仙ちゅうこさんじゅうろっかせんがひとり! 光源氏のモデルにもなったこの方!」

 「チュチュン! ウチは”あやかし”でちゅけど、こっちは神様でち!」

 「陸奥より参りました。学問の神の末席に名を連ねております”藤原実方朝臣ふじわらのさねかたあそん”でございます」


 肩に実方雀を乗せて登場したのは、仙台で十六夜姫と一緒に知り合った藤原実方様。


 「さらに! 幽世(かくりよ)への水先案内柱! どんな方でも一度はお世話になるコンダクター!」

 「珠子さんには大変お世話になりました。幽霊列車でも、死神研修の時にも。”死神アズラ”。定刻通りに到着ですっ!」

 

 トレードマークの鎌を一回転。

 死神アズラさんが音もなく現れる。


 「縁結びならこの方! 愛知の土地神! 小治呂(こじろ)様と稗多古(ひえたこ)様!」

 「「ふたり合わせて”妻神(さいのかみ)”!!」」

 

 その両手は恋人つなぎ、縁結びと子宝成就の神様がラブラブズキュンとハートを描く。


 「旅の安全ならお任せ! 武神、田村麻呂様のパートナー!」

 「おう! 大嶽丸の時にゃ世話になったな!  鈴鹿峠の守護神! ”鈴鹿御前”とはアタイのことよ!」


 烏帽子姿の白拍子。

 社の雰囲気にバッチリの衣装で鈴鹿御前さんが立ちあがる。


 「そして最後は知らぬ人はいない学問の神様!」

 「そう、この菅原道真も含め、この全ての神は、珠子殿を優れた人間だと認め、これを推薦する」


 あたしの後ろに並んだ七名と一雀の姿を見て、社の中で『おおーっ』と歓声が上がる。


 「足りんではないか! 妻神(さいのかみ)は二名で一柱であろう。六柱だ! それに、マイナーや下っ端の神ばかり。もう少し格のある神の推薦はないと思兼神(オモイカネ)様は認めたとしても、(われ)は認めぬぞ!」


 負けじと立ちあがって真備様があたしたちに抗議する。


 「いいえ、最後の一柱の推薦があります! よっちゃんさん!」

 「はいっ! 思兼神(オモイカネ)様、イザナミ様からの推薦状です。どうぞお納め下さい」


 この日本で最も有名な国生みの主神、イザナギ様とイザナミ様。

 その片割れの名を聞いて、場のざわめきがさらに大きくなる。


 「なるほど、書状には『黄泉の女神イザナミはパンケーキの礼に珠子という人間を優れた人物だと推薦』するとある」

 「ぱ!? ぱんけーきぃ!?」

 「どーです? さっきは格がどうたらとか言ってましたが、イザナミ様なら十分でしょ」

 「じゃが! 推薦にはその神の同席が必須のはず!」

 「えー、いいんですか? その事をイザナミ様に伝えて。本当に来ちゃうかもしれませんよ?」

 「まままま、待て! それはマズイ!」


 あたしは知っている。

 黄泉の神がその場を離れると、黄泉の死者が地上に溢れ出ちゃうってことを。


 「真備よ、認めるしかないであろう。理解した。人間の娘、珠子には十分に”神の試練”を受ける資格があると認めよう」

 

 そう言って思兼神(オモイカネ)様はまっすぐな目であたしを見つめる。

 

 「問おう、人間の娘、珠子よ。そなたは神に挑まんとする人間に相違ないか?」

 「はい! 知恵の神に挑まんとするは文珠(もんじゅ)の珠子。あたしはそのためにここに来ました!」

 「よい返事だ。そして、よい度胸でもある。いいだろう、その挑戦を受けた! ここに思兼神(オモイカネ)の名の下に”神の試練”を開催する! 珠子よ”神の試練を乗り越えて力を示せ”! 知恵と知識を司る私の試練を越えたなら、何でも望みを叶えてやろう。先ほどの言えぬとした八稚女(やをとめ)の行方でも」


 あたしたちを囲む神々や神使の気配がさらにざわつく。

 やっぱり、天津神界でも八稚女(やをとめ)の行方はタブー中のタブーなのね。


 「さて、勝負の方法だが、この珠子という娘が優れている所は……」


 そう言って思兼神(オモイカネ)様はあたしを推薦してくれた神様を見渡す。


 「「「「「「「もちろん! 料理でございます!!」」」」」」」

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