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あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~  作者: 相田 彩太
第十章 躍進する物語とハッピーエンド
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蛇女房とブホブホグレゴリザンス(その3) ※全4部

◇◇◇◇


 「貴女の国にも”ごとうべい”、ヒキガエルが棲んでいらっしゃるのですか」

 「ハイ、カプゥともトードともよばれています。ブホブホは学名デス」

 

 調理台の上のヒキガエルを指さし、フランス人の彼女が説明します。

 そう、Bufoは学名でヒキガエル属を示し、BufoBufoはヨーロッパヒキガエルの学名。

 

 「このカエルは世界ジュウにすんでいるのは知っていまシタ。でも、食べられるのでショウカ? ドク、ありますよネ」

 「お客様の言う通りヒキガエルには毒があります。でも大丈夫ですよ。ここ日本の関東や信州の山間部ではこのヒキガエル、”ごとうべい”を伝統的に食べていたのですから」

 「そうです、わたくしも昔、夫に教えてもらって食べました。ちょっとしたごちそうでございました」


 蛙を食べる文化は世界中にあります。

 ですが、ヒキガエルを食べる文化がある国は少ない。

 日本はそのひとつです。

 

 「俺も食うのは初めてさ。どんな味なんだか」

 「私もご相伴させて下さい。後学のために」


 私たち兄弟は大蛇、蛇の”あやかし”。

 蛙は好物のひとつですが、ヒキガエルを食べたことはありません。

 理由は単純、ヒキガエルの皮膚には毒があるからです。


 「日本ではヒキガエルの皮膚から抽出した成分を蟾酥(せんそ)と呼び、薬として利用してきました。有名なのは傷薬のガマの油ですね。止血、鎮痛の他に強心作用があります。ですが、日本人がヒキガエルを捕まえて、薬の原料だけにするでしょうか? いやない!」

 

 そう言って珠子さんは薄くて透明な調理用手袋を装備します。

 

 「世界各国に生息するヒキガエルが食用にならなかったのは皮膚から出る毒の味が苦いからです。ですが、それは調理法によって克服できますっ! お客様のアリアリグランパさんはその調理法を知っていたのです!」


 包丁を手に珠子さんは調理を始めました。


 「ヒキガエルの毒腺(どくせん)は耳の後ろにあります。ですのでここを傷つけてはダメです。牛蛙などでは頭を落として、首の切断面から胴体の皮を()ぐのですが、ヒキガエルはその逆。まずは肛門から腹を裂いて内臓を取り出します」

 

 ピッと包丁が走り、ヒキガエルの内臓が取り出されます。


 「そして、ここが肝要! ヒキガエルの皮膚に触れたものにはヒキガエルの毒が付着します。この手袋も例外ではありません。この手袋で肉を触ると肉にも毒が移って味が苦くなるのでご注意を!」

 「そうそう、夫も言っていました。『皮に触れた手で肉をさわったらいけん』と」


 蛇女房さんが過去の夫婦生活を思い出しながら言います。

 おそらく、この”ごとうべい”は所謂(いわゆる)、男の料理だったのでしょう。


 「ここで手袋を換えて、片手で肉を掴み、もう片手は皮膚側で肉を押し出すようにして皮を剥きます。そのままセーターを脱ぐように首の方まで皮をめくり上げて、最後に首をストン」


 後脚の皮から腹と背の皮、最後に前足の皮を剥き上げて、最後に首を断つ。

 ヒキガエルはその風貌(ふうぼう)からは似ても似つかぬ鶏肉のようなピンク色。

 なるほど、皮膚の表面と肉を全く触れさせず、毒腺のある頭は丸ごと捨てる解体法ですね。


 「ジョウズでーす! とっても勉強になりマース!」


 普通の女性なら引く所でしょうが、このフランス人の彼女も料理人。

 これくらいは平気なのでしょう。


 「調理法ですが……、やはりこういうのは素材の味が一番! 塩だけをふって炭火で焼く!」

 

 珠子さんは胴体と脚だけになったヒキガエルを串に刺すと、焼肉用の炭火台でそれを焼き始めます。

 ジュっと肉の水分が落ち始めた所で裏返し、軽く焦げ目のついた所で私たちの前へ。


 「お召し上がりください! 『酒処 七王子』特製! ”ごとうべい”の炭火焼きですっ!」

 「ひさしぶりでございます」

 「オイシソウでーす!」

 「こいつはうまそうだ」

 「見た感じは上々ですね」クイッ


 見た目は完璧。

 野趣あふれるこの料理は、ジュージューと音を立て、食欲をそそります。

 私はそれを口へ。


 ガブッ、ジュワー


 溢れたのは脂の肉汁ではありません。

 焼いて引き締まった肉から溢れた肉汁(グレービー)

 澄んだスープのようなそれは、喉を通り旨さを胃へ。

 そしてこの味は……

 

 「こいつはいい。淡泊なのに刺激があってさ」


 赤好(しゃっこう)兄さんの言う通り、肉質は鶏のムネ肉にも似た淡泊な味。

 ですが、その中に(わず)かな苦さも感じられます。

 牛蛙をラム肉だとしたら、このヒキガエルはマトンでしょうか。

 臭みと感じる方もいるかもしれませんが、これこそが肉の味と評する方もいるでしょう。

 そんな野趣あふれる味。


 「おいしゅうございます。蒼明(そうめい)様の約束、確かに受取りました」

 「それは良かった。美味しい蛙料理をご馳走すると確約しましたからね」


 蛇女房さんの手にあるのは綺麗な骨。

 肉を食い取られた”ごとうべい”の馴れの果てです。


 「どうですかお客様? これがきっと、お客様のアリアリグランパのお店の人気メニューですよ」

 「ハイ、トテモ、オイシイです。ですが……フマンがありまーす!! これチガウ!」


 フランス人の彼女はそう言って立ち上がると、テーブルをグルッと迂回して珠子さんの隣に立つ。

 いったい何が不満なのでしょうか?


 「ソコヲ! ドイテ! クダサイ!」

 「は、はいっ!?」


 彼女の剣幕に珠子さんが数歩下がります。

 珍しいですね、珠子さんが気合で押されるのは。


 「コノ、ブホブホグレゴリザンスを使わせてイタダキます。あと、Persil(パーシル)Beurre(バール)Ail(アイル)をクダサイ」

 「え、あ、ここあたしの店……」

 「クダサイ!!」

 「ハイ……」


 珠子さんがスゴスゴと厨房に行き、パセリとバターとニンニクを持って来ます。


 「イイデスカ、日本料理では食材の味そのものをいかすと聞きマス。デスガ、フランスはチガイマス。食材にシッカリ味をつけて、料理(・・)にスルのデス!! アリアリグランパもワカッテいたはずデス!」


 フランス人の彼女は懐からペティナイフを一本取り出します。


 カカカカカカカッ


 迅い!?

 普段見ている珠子さんの調理も十分な速さを持っていますが、彼女はそれを遥かに凌駕(りょうが)しています。

 あの小ぶりのペティナイフを器用に振り回し、パセリとニンニクが瞬時にみじん切りになっていきます。

 しかも……


 シュシュシュシュシュ、ポッ、シュシュシュシュシュポッ


 珠子さんの手によって皮を剥かれたヒキガエル。

 その胴体からは肉がこそぎ取られ、太い脚からは骨が抜かれていきます。


 「すごい……鶏には肉に切れ目を入れて骨を抜く技があるけど、カエルでそれをやるなんて……」


 珠子さんが感心しているということは、彼女の腕は一流ということでしょう。

 

 パタパタパタタ


 脚に小麦粉を軽くはたくと、彼女は炭火焼台の上でジュワーと音を立てているフライパンにそれを投入します。

 中には美しい黄色の脂がたっぷり。

 溶けたバターの沼です。


 「あのバターの量は、揚げ焼き……」


 珠子さんはそう言うと、真剣な目でフランス人の彼女の調理を見つめます。

 バターの香りの沼でカエルに軽く揚げ色が付き始めた時、彼女はフライパンを炭火台から降ろしました。

 そして、もうひとつのフライパンにバターと入れると、そこにみじん切りニンニクを加え、ニンニクの味がバターに出た所でみじん切りパセリを入れました。

 モリッと森のように。


 「ありゃ入れすぎじゃねぇか? 俺はパセリは嫌いじゃないけどさ、あの量はちょっと辟易(へきえき)するかもしれないぜ」


 パセリは料理の付け合わせに少々。

 それが日本でよく見るパセリの姿。

 ですが、あの量は違います。

 おそらくあれは、パセリを食べる料理。


 「いえ、きっと大丈夫です。あれが本場のフランス流……」


 珠子さんも私と同じものを、いえ、私よりずっと先を見ているのでしょう。

 珠子さんはフランス人の彼女の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを見逃すまいと集中しています。

 

 「アトは合わせて味を馴染ませればParfait(パーフェット)!!」


 カエルの揚げ焼きがパセリの森に投入され、軽く混ぜ合わせた所で彼女は宣言しました。

 

 「サア! 皿を用意してクダサーイ! これがフランスのメジャーで最高のカエル料理! ”Grenouille(ガルグイユ) en(オン) Persillade(ペシャード)”! デス!!」


 ガルグイユ オン ペシャード。

 ”パセリの上のカエル”といった所でしょうか。


 「この料理は、パセリの森、バターの沼、そしてヒキガエルの三味一体(さんみいったい)という所ですね。うーん、いい香りです」


 料理のネーミングセンスは珠子さんの方が上のようですね。

 その表現の方がふさわしい。

 そんな自然を表現した料理が私たちの前に現れました。

 

 「ア、イケナイ、ワタシったら。つい、コウフンしてしまって……」

 「いいんですよ。わかります。お客様のアリアリグランパのブホブホグレゴリザンス料理はこっちの方だと思ってしまったんですよね」

 「ソウデス。アリアリグランパはフランスに溶けこもうとガンバッタと聞いています。ナラ、料理もフランス風になったと思ったのデス」


 皿に”ガルグイユ オン ペシャード”を盛り付けながら、フランス人の彼女は少し申し訳なさそうにします。


 「いいんですよ。こんなに美味しそうな料理を作って頂けたのですから。さ、みんなで食べましょう」


 料理が私たちの前に並べられ、ガーリックとバターの強い匂いが鼻を刺激します。

 料理名は”ガルグイユ オン ペシャード”ですが、これではカエルもパセリの味がわからなくなってしまうのではないでしょうか。


 「おいおい、こいつはニンニクバターの味しかしないんじゃね?」

 「チガイマス」

 「違いますよ」


 私と同じことを考えた赤好(しゃっこう)兄さんがふたりの料理人に否定されます。

 これは言わぬが花ですね。

 味わってからにしましょう。


 「わたくし、こういった西洋料理は初めてございます。でもいい匂い」

 「ええ、いただきましょう」クイッ


 パクッ、パリッ


 私の口に広がったのはバターの香り、続いてニンニクの刺激、ですがそれよりも強く感じたのは香味。

 パセリ特有のスッとするさわやかな苦みです。

 

 モギュ、ジュジュジュワー


 そして肉を()むと、中からはバターとは違う肉の旨みの汁。

 先ほど食べた串焼きと同じ、いいえ、水分量としてはそれ以上。

 つまるところ、大量の肉汁(グレービー)が口の中にあふれたのです。


 「おおっ!? こいつは驚いた。バターもニンニクも、パセリもヒキガエルも口の中で喧嘩してるってのによ。その味の主張が心地いいぜ」

 「はい、どの味もしっかりとして、わたくしの舌を楽しませてくれます。でも”ごとうべい”が一歩先んじていますでしょうか」


 口の中で不意に巻き起こる旨味の合戦(かっせん)

 それはどれも強さを持っていますが、肉厚のボリュームと他の食材に負けない味の強さがあるヒキガエルが少しだけ上でしょうか。

 鶏や牛蛙であったら、こうはいかないでしょう。


 「フランスでは料理は掛け合わせて作りマース! 互いの強さが舌でバトルして料理をデザインするのデース!」

 「頭では知っているんですよ。フランス料理はそういうものだって。日本人なら味の調和を考えがちですが、フランスでは味の拮抗を楽しむものだって。その意味でこれは絶妙です。パセリが多すぎると香味が出過ぎるし、ニンニクを増やせば刺激が強すぎてしまいます。分量を少しでも変えたら、この味は出ないでしょう」


 いつになく真剣な顔で珠子さんが料理を味わいます。

 珠子さんもこういう顔をするのですね。

 

 クンッ


 「どうかしましたか?」


 隣の蛇女房さんが私の袖を引くのを感じ、私は問いかけます。

 

 「これ、とても美味でございました。あの、フランスの方にそれを伝えるために、フランス語で”おいしい”てどう言うか教えて下さいませんでしょうか」

 「いいですよ、それはですね……」


 私は小声でその言葉(・・・・)を蛇女房さんに伝えます。

 この行動に珠子さんも赤好(しゃっこう)兄さんも気づいたようですね。


 「フランスの方、とても美味しかったです。セ、セボン! でございました」


 少し照れながらそう言う蛇女房さんに続けて、


 「「「C’est() Bon(ボン)!」」」


 私たちの美味を示す賛辞が店内に響き渡りました。

 

◇◇◇◇


 「いやぁ、おいしかったです。これがお客様のアリアリグランパがフランスで出した味なんですね。日本の”ごとうべい”の調理法とフランスの料理法のマリアージュといったところでしょうか」

 「そうだと思いマス。アリアリグランパのブホブホグレゴリザンスの料理はズッと人気だったと伝えられていマス。ただの串焼きでは、あきられてしまったでショウ」

 「色々工夫なさったのですね」

 「ハイ、そうだと思いマス」


 当時の苦労を(しの)んでいるのでしょうか、フランス人の彼女はタブレットに映る彼女の高祖父の写真を眺めながら応えます。


 「しかしまあ、よくフランスで日本の”ごとうべい”を出せたよな。あっちとは種類が違うんだろ」

 「うーんと、そこなんですけど、きっとこのアリアリグランパさんはヨーロッパヒキガエルを使っていたのだと思います」

 「嘘をついてたってことかい?」

 「そうだと思います。厳密に言えば、日本の”ごとうべい”、ニホンヒキガエルもブホブホグレゴリザンスじゃありません。アジアヒキガエルの学名がブホブホグレゴリザンス。ニホンヒキガエルの学名はブホジャパニクスです」

 「そこは19世紀に移民した方の話ですからね。学名も混同していたのでしょう。最初は日本か中国から薬用として輸入したヒキガエルの有効利用しようと料理にしたけれども、やがてはヨーロッパヒキガエルを使ったのかもしれませんね。ブホブホグレゴリザンスの響きは、インパクトがありますから」

 

 学名や種の分類は時代によって変化します。

 ブホ(Bufo)ブホ(Bufo)|グレゴリザンス《Gargarizans》も古い学名。

 現在ではアジアヒキガエルの学名はブホ(Bufo)|グレゴリザンス《Gargarizans》の方が正しいのです。

 ですが、そんなことは故郷を離れフランスに骨をうずめると決心した日本人には関係なかったでしょう。

 たとえ学術的に間違っていても、フランスで人目を()くメニューを売りにしたかったのは想像に(かた)くありません。

 

 「詳しくは存じませんが、この”ごとうべい”が、貴女のひいひいお爺さんがフランスに受け入れられるための大切なメニューだったようでございますね」

 「ハイ、トテモ大変だったと伝えられています。アリアリグランパは見た目がヨーロッパ人に見えたので、日本の中でコリツしていたそうです。ですが、それはママからの血だったそうで、ナラ、それをいかそうとフランスへ来たと聞きマス。デスガ、やはりフランスと日本は遠い。受け入れられるまでにイッパイがんばったみたいデス」

 「……そうですか」


 蛇女房さんも薄々と感じているのでしょう。

 彼女の高祖父が自分の息子ではないかということに。

 ”ごとうべい”の料理は彼女の夫の得意料理でした。

 その子がその調理法を知っていても不思議ではありません。

 それに、日本人離れした色白で鼻の高い風貌(ふうぼう)

 蛇女房さんの血が混じっている可能性は高い。

 私たちは、そうであると思っている。

 でも、その確証を蛇女房さんは得られない。

 もし、その(まなこ)が見えていたら。

 フランス人の彼女の顔から自分と夫の面影を見いだせたなら。

 その瞳に受け継がれた血脈(ハッピーエンド)が見えるかもしれないのに……。


 そう言えば、珠子さんにもこの相談をした時、


 『そこはあたしに任せて下さい! とっておきの秘策がありますっ!』


 と薄い胸を叩いていましたが、いったいどうするつもりでしょうか。


 「さて、お客様方、ここは『酒処 七王子』、素敵な料理とお酒が味わえるお店です。ですから、その名に恥じぬお酒をご用意しました」


 珠子さんかパチンと指を鳴らすと、赤好(しゃっこう)兄さんがワインクーラーの乗ったワゴンを押して来ました。

 なるほど、このための給仕服でしたか。


 「本日ご用意したお酒はふたつ、まずはフランスからCHATEAU(シャトー) MOULIN(ムーラン) DE() |L’ESPERANCEレスペランスでございます」


 ワインを見て、フランス人の彼女の視線が厳しくなります。


 「わ、悪くないチョイスですよ、ね」


 本場フランスの料理人の気に押されたのか、珠子さんの声が少し小さくなります。


 「ハイ、Bien(ビヤン)デス。このGrenouille(ガルグイユ) en(オン) Persillade(ペシャード)にあうと思いマス」


 Bien(ビヤン)はフランス語でGoodの意味。

 トレ(Tres)ビアン(bien)ではないことに彼女のこだわりを感じますね。


 「ご、ご存知の通りムーランはフルボディ系のワインでタンニン、つまり渋みが強めで味の濃い肉料理と良く合います」

 「つまり、異国の彼女の料理に向いているのでございますね」


 蛇女房さんが半分ほど残ったガルグイユ オン ペシャードを指さして言います。


 「その通りです。実はこのワイン用にカエルの香草焼きもご用意しましたので、こちらもお楽しみ下さい」


 珠子さんの声に合わせて赤好(しゃっこう)兄さんがハーブの緑が鮮やかな蛙のグリルをテーブルに置きます。


 「さて、ふたつめは日本のお酒ですっ! 日本にだってフランスに負けない酒文化はあります! 新政(あらまさ)酒造の低酒精発泡純米酒! その名も”天蛙(あまがえる)”!」


 青い蛙が描かれたラベルのお酒がテーブルの上にトンと置かれます。

 赤好(しゃっこう)兄さんが瓶の蓋を軽く捻ると、そこからプシュという音が響き、ガラスの器にシュワ―と泡を立てて、そのお酒は注がれます。

 なるほど、次はスパークリング日本酒ですか。


 「これはシャンパンと同じ方法で、瓶内二次発酵! つまり……」


 そこで、珠子さんが言葉に詰まります。

 やれやれ、第二外国語にフランス語を選択した甲斐がありました。

 

 「Meme(メッミ) methode(メトッド) |champenoiseシャンパノイズ」クイッ

 「オウ! Sake(サケ)にもシャンパノイズがあるんデスね!」

 「ありがとうございます蒼明(そうめい)さん! そっかシャンパノイズでしたね」

 「これは貸しですから」クイッ

 「この貸しはすぐに返しますよ。このお酒と料理で」


 私たちの前にもうひとつの皿がコトッと置かれます。

 料理は同じ蛙のグリルですが、ほんのりと白いですね。


 「おや、この香りは(こうじ)でございますか?」

 「はい、こちらのカエルは和風に麹焼きにしました。ワインとカエルの香草焼き、そしてスパークリングSake(サケ)とカエルの麹焼きです。これぞ『酒処 七王子』の新メニュー! ”ゆけ! しゃあしゃあ!”」

 「”いけしゃあしゃあ”とは珠子さんらしいネーミングですね」クイッ


 面の皮が厚い所とか。

 

 「ふふふっ、蒼明(そうめい)さん。それは違うと思いますよ」

 「というと?」

 「これは言葉遊びでございます。”しゃあしゃあ”は漢字で酒と蛙をふたつ繰り返して酒蛙酒蛙(しゃあしゃあ)と書きますの。”ゆけ しゃあしゃあ”は酒と蛙料理を交互に楽しんで下さいという意味でございますわ。ですよね?」

 「その通り! フランスの方にはちょっと難しいかもしれませんが……」

 「イイエ、そういった言葉遊び、Chaarde(シャレード)はフランスにもありマス。つまり……」


 フランス人の彼女がワイングラスを傾けると、そこに赤好(しゃっこう)兄さんがコポポと赤ワインを注ぎます。


 「日本で言うところの……モリアガッテイコー!! デスネ!」

 「デスヨ!」


 フランス人の彼女の言葉に珠子さんはノリノリで同調しました。

 少し違うと思いますが、まあいいでしょう。

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