終盤(78話~100話)、予告も兼ねた百物語リストもしくはお品書き
〇百物語あるいはお品書き(七十八話~ )
第十章 躍進する物語とハッピーエンド
・七十八物語 ひだる神とカシューナッツ炒め
ひだる神:
山道を歩いていると急に空腹感に襲われ、歩けなくなってしまうことがあり、これはひだる神に憑かれたためという伝承がある。
ひだる神の正体は弔われることのなかった餓死者の霊とされ、対処法は少しでもいいので食料を口にすること。
そうすれば、ひだる神の霊は慰められ、一時的に飢餓状態から脱出し、その場から逃げ出すことが出来る。
ひだるとは”ひだるい”という”お腹がすいた、空腹だ”という意味の古語である。
カシューナッツ炒め:
読んで字の如し、カシューナッツを炒めたもの……って、そりゃローストカシューナッツやーん!
というツッコミはさておき、一般的にカシューナッツ炒めといえば、肉と野菜炒めにカシューナッツを加えた料理を指す。
鶏肉のカシューナッツ炒めや豚肉のカシューナッツ炒めが有名。
カリッとした食感と、肉の脂とも植物油とも違う脂質の味わいが美味。
カロリーのことは気にするな。
ちなみにカシューナッツ100gあたりの脂質は約48gである。
もう一度言う、カロリーのことは気にするな。
・七十九物語 雪女とチョコレートボンボン
雪女:
主に雪国に出現する”あやかし”で、話の流れは山で女に遭遇した男が、遭ったことを秘密にする代わりに見逃してもらうが、その男の下へ謎の美女がお嫁さんになりにくるというものである。
男は雪女に、このことを話すと殺すと脅されています。
はい、もう展開が読めましたね。
ええ、お嫁さんとはその雪女だったのです!
そのまま殺されてしまうパターンや、子供が出来ていたので雪女に見逃してもらうパターンなどがあります。
でも、本当に誰にも話さないかを確かめるために、お嫁さんになりにくるだなんて、雪女はちょっとめんどくさいタイプなのかもしれません。
チョコレートボンボン:
語源であるフランス語のBonbon de chocolatは中にガナッシュや果物のピューレ、キャラメルなどを詰めたひと口サイズのチョコレート菓子を指す。
だが、日本ではチョコレートボンボンと言えば、アルコールが入ったひと口チョコレートを指すことも多い。
形状は直方体から円形、酒瓶型まで様々。
中のアルコールもウィスキーやブランデーといった一般的なものから、日本酒が入ったものまで様々である。
昭和の漫画では主人公やヒロイン(未成年)がチョコレートボンボンを食べて酔っ払うイベントが数多く発生した。
現代の漫画では未成年飲酒の描写が不敵とされているためあまりないが、登場人物が成人の場合、その文化は健在である。
意図せずに酔ってしまった異性が普段見せない姿を見せるのは魅力的だからね、しょうがないよね。
・八十物語 妻神様と鰻
妻神:
愛知県瀬戸市にある地方の社に棲む土着神で、ご利益は縁結びと子宝成就、安産といった恋愛を司るふたりの神様。
小治呂様と稗多古様の兄妹神を合わせて、妻神と呼ぶ。
『おいおい、また作者はどこのドマイナー神の話を作っちまうんだい』
なーんて声が聞こえるかもしれなけど、妻神社はWikiにもページがあるくらいなので、実はややマイナー程度なのかもしれない。
鰻:
ウナギ目ウナギ科ウナギ属に属する魚の総称。
その生態系は永らく謎に包まれていたが、マリアナ海溝あたりで成魚が産卵し、孵化した幼魚はシラスウナギとなって河川へと遡上し、河川で成魚となったら、やがて海へ産卵に向かうという回遊魚。
かつては日本の河川で大量に採れたが、今は天然物は貴重で、シラスウナギを捕まえて養殖した養殖鰻が市場の大半を占める。
だが、そのシラスウナギも乱獲の憂き目に遭い、今は絶滅危惧種となっている。
完全養殖化が待たれるが、それはコストや成魚まで成長する確率が低いという関係から実用化には至っていない。
目下、研究者たちが絶賛研究中である。
・八十一物語 亀姫とチュクチュク
亀姫:
会津藩猪苗代城に棲む怪異の姫。
江戸時代の怪奇談集『老媼茶話』に登場する”あやかし”、それが亀姫。
猪苗代城の城主が代わると、使いを出して挨拶に来させるが、もし新城主が行かないと呪われて死ぬと伝えられている。
また、姫路の刑部姫(長壁姫とも)の妹と伝えられており、ゲゲゲの鬼太郎(5期)では妖怪四十七士の福島県代表にも抜擢されている。(姉の長壁姫は兵庫県代表)
チュクチュク:
キューティーハニーのハートがしちゃうもの……、ではなくマーシャル諸島の家庭料理、それがChukuChuk。
その正体はお米のおにぎり、いわゆるライスボールにココナッツフレークをまぶしたもの。
マーシャル諸島はお米の栽培に適していないが、日本の統治下時代、日本から輸入されたお米とその食文化からチュクチュクは生まれた。
マーシャル諸島は後にアメリカの統治下に入り、独立する歴史をたどるが、お米の食文化は消えず、今も米を輸入してこのチュクチュクや他の米料理はは作られている。
・八十二物語 八百屋お七とごはんさん
八百屋お七:
歌舞伎や浄瑠璃で有名な江戸時代の炎上娘。
火事で焼け出された時に世話になった寺の小姓、庄之助に恋をし、寺から再建した家(八百屋)に戻っても、その心は彼で占められていた。
再び逢おうとしても庄之助は修行中の身ゆえに、逢うことができない。
さて問題! ここで、庄之助に彼女が取った大胆な行動とは!?
1.何度拒まれても寺に逢いに行く
2.こっそり庄之助に夜這いをかけて既成事実
3.そうだ! 家に火をつけて、もう一度焼け出されよう!
どうして2番あたりで妥協しないかなぁ……。
その結果、火付けの罪で死罪となってしまったが、その悲恋は後の世で井原西鶴の『好色五人女』で紹介され、一躍有名となり、歌舞伎や浄瑠璃で人気の演目となった。
ちなみに、演劇でのお七の挙動はかなり脚色が入っています。
ごはんさん:
半世紀近い歴史を持つ桃屋の旗艦商品……ではなく、米の飯への愛称。
作者が子供のころは『ごはんさん、ちゃんと食べや』なんて言葉が巷に溢れていたものだが、最近は死語に近いかもしれない。
・八十三物語 蛇女房とブホブホグレゴリザンス
蛇女房:
人と人外が交わる異類婚姻譚の伝承は日本のみならず、世界的に多い。
日本の伝説で蛇と交わった人物で有名なのは、田村三代記に登場する田村利春(坂上田村麻呂の祖父)であろう。
ただ、この蛇は龍の化身とされることも多い。
民話でよくあるのは善良な村人が蛇を助けたら、蛇がお嫁さんに来るという以下のような話である。
善良な村人の嫁となった女(正体は蛇)は妊娠するが、出産間際に離れに籠り『お産が終わっていいと言うまで決して見ないで下さい』と伝えるが、産声が上がったので男は、いいと言われないのに離れの中を覗いてしまい、女房の正体が蛇だと知ってしまう、というもの。
その後、蛇女房はもはやここには居られぬと、生まれた子の食事として自分の目玉の片方を与え、山の沼へ去ってしまう。
だが、やがて赤子は目玉をしゃぶり尽くしてしまい、途方にくれた村人は赤子を抱いて山へ蛇女房を探しに行く。
村人は蛇女房に再会するが、やはり一緒には暮らせず、もう片方の目玉を赤子へと与え、沼へ去って行ってしまうのだった。
なんか別の生物で似たパターンを見たことがあると言わないで下さい……。
ブホブホグレゴリザンス:
作者のあたまにこびりついて離れなかった謎のフレーズ。
……ではなく、ちゃんと意味のある言葉。
少し古い名詞になるが、これが意味するものは聡明な方であれば知っているだろう。
検索するとこの話の壮大なネタバレになってしまうので、知らない方は検索しないでいてくれると嬉しいです。
知っている方は鼻で笑って下さい。
・八十四物語 桂男と月面食
桂男:
桂男とは、中国の伝承を基にする月に棲む伝説の佳人、呉剛を示す場合と、月を長く見ると寿命を削る妖怪を示す2パターンある。
この話に登場するのは呉剛伐桂で語られる呉剛の方です。
呉剛伐桂の伝説にはいくつかパターンがあるが、最終的には月宮殿の桂樹を切り続けるというラストが多い。
桂男は美男の代名詞でもあるが、浮世絵などに描かれている呉剛の姿は髭面のオッサンだったりする。
作者のイメージでは、ネオカナダのガンダムファイター、アンドリュー・グラハム。(若いころは髭がなく美形だった)
月面食:
作者が子供のころ、アポロ計画やスペースシャトルで食べられていた宇宙食はあこがれのひとつであった。
初期はチューブに入ったペーストであったが、現在の宇宙食はフリーズドライ製法や宇宙用缶詰の開発で地上と遜色ない食事も可能である。
月面食は、さらに次の時代の宇宙食と考えられ、月面開発基地で食べられる食事の開発がNASAやJAXAなどで研究されている。
ポイントは小さいながら重力があること、月面基地での自給自足である程度はまかなえる必要性を有することなどがある。
早く月面基地が出来ないかなぁ。
84……それは84とも読め、インターネットスラングでは死語になりつつある奴を意味する香具師と同じ音。
奴→ヤツ→ヤシ→香具師という変遷。
さて、インターネット小説の百物語とかけて、愛で結ばれた奴とかけます。
その心は?
どちらも“あやしい”でしょう。 (作者注: ”あい”の間に”やし”がありますよね!)
ウメーこと言うねぇと相成ったことで、この百物語も終わり、愛の中でハッピーエンド。
……だけど、この話は死語の物語ではなく、今を生きる人間と”あやかし”の物語。
だからこの物語はまだまだ生き続ける。
第十一章 探求する物語とハッピーエンド
・八十五物語 はらだしと天邪鬼とナミダのかたおもい
はらだしと天邪鬼:
本作では序盤から登場しているレギュラーカップル。
はらだし踊りで場を盛り上げてくれる”はらだし”と、心と言動が裏腹だったり、意地悪をしちゃったり、相手の思い通りには決して動かない”天邪鬼”。
そんなふたりがどうやって出逢ったのか?
”はらだし”ちゃんは、なぜ天邪鬼なんかを好きになっちゃったのか?
そんな疑問にお答えする恋バナの物語です。
(残念ながらおとぎ話の中で天邪鬼の恋の相手になることが多い瓜子姫は登場しません)
ナミダのかたおもい:
『おいおい、どこの流行歌だよ』、なーんて思えるフレーズだけど、ちゃんとした料理です。
これが何を意味するか知っている方は通ですね!
しっかも伝統をよく知っている、お金持ち!
いよっ、大将! すってきー!
なので、この正体は秘密にしていて下さい。
・八十六物語 狐者異と恐怖のうどん
狐者異:
前章にも登場した江戸時代の奇談集『絵本百物語』に描かれている”あやかし”。
生前に他人の食べ物まで食べてしまうような意地汚い者が、死後にその執着から狐者異になると伝えられている。
また『怖い』の語源とも伝えられ、本作では”恐怖の精霊”といった側面も持っている。
狐者異は『絵本百物語』の中でうどんを食べようとしていることから、うどんが好きという説や、うどんが消化にいいので、食べても空腹になり、いつまでたっても飢餓状態から抜け出せないという狐者異の悲哀を描いている説もある。
恐怖のうどん:
うどんとは、小麦粉を練って切り、麺状に仕立て茹でて食べる麺料理。
昔は切り麦とも呼ばれていた。
消化に良く、味付けのバリエーションも豊富であり美味。
しかも米のようの飽きにくい優れた料理である。
香川県の讃岐うどんは特に有名だが、稲庭うどんや、山梨のほうとう、群馬の水沢うどんなどご当地うどんも多い。
そして恐怖のうどんとは!?
・八十七物語 彼岸様とすかんぽ
彼岸様:
お彼岸には先祖の霊が帰ってくると伝えられています。
その先祖の霊を指して彼岸様と呼ぶ地域もあり、春と秋の彼岸の日には彼岸様を料理やお菓子でもてなすこともしばしば。
日本では”ぼたもち”と”おはぎ”がメジャー。
このふたつはレシピは同じだが名称が違う。
これは春の彼岸の時期(3月)に咲く牡丹の花と秋の彼岸(9月)に咲く萩が由来とされている。
ただ、地域によってはおはぎで統一されていたりするので、あまり気にしなくてもいいのかもしれない。
作者の所感では西日本が”おはぎ”だったりもする。
おはぎは餅を小豆餡で包んだり、きな粉をまぶしたレシピが一般的だが、西日本に多い青のりをまぶした物も作者は好きです。
もちろん、東日本に多い胡麻をまぶしたものも好きです。
おはぎ、おいしいよね。
すかんぽ:
とある野草を指す地方名。
その正体は週刊少年ジャンプの人気作品で一躍有名になってしまった虎杖。
でも、実はそれだけではなく、すかんぽの名称は他にも使われてたりします。
すかんぽは”酢かんぽ”から来ているので酸っぱい野草の別名だったりもします。
ちなみに、作者が”すかんぽ”を初めて知ったのは、野草ではなく朝日小学生新聞に載っていた岡元あつこ先生の『すかんぽ印!』からだったりします。
こんな作品、憶えている人なんているのかよ……。
・八十八物語 刑部姫とポイズンクッキング
刑部姫:
長壁姫とも書く、姫路城に棲む”あやかし”。
姫路城の裏の主で、裏城主であることをいいことに、人間にやりたい放題したりもするが、肝試しに来た勇気ある若者に褒美を授けるなど、ちょっと気分屋の側面もある。
亀姫の義姉。
こう書くと小姑のように誤解されるかもしれないが、血が繋がらないのに姉妹の契りを結んだ仲という意味。
劉備と関羽と張飛が義兄弟の契りを結んだのと同じと考えると、急にオッサン臭くなるが、”マリア様がみてる”の姉妹制度と考えると、急にゆりんゆりんしてくる。
その正体は歳を経て”あやかし”と化した狐とも伝えられている。
ちなみに妹の亀姫は貉の”あやかし”。
鳥山 石燕の『今昔画図続百鬼』にも描かれているが、こちらは蝙蝠を従えた姿で描かれている。
(某FG〇に登場するおっきーはこちらのパターン)
ポイズンクッキング:
漫画やアニメの作品には料理が下手過ぎて、食べる者をみな恐怖のズンドコに叩き込むキャラクターが多数存在する。
(有名なのは『家庭教師ヒットマンREBORN!』のビアンキ)
そんなキャラの料理を指して”ポイズンクッキング”と呼ぶが、この話ではどうなのであろうか……。
・八十九物語 アリスとハニーハント
アリス:本作のヒロインのひとりで、既にハッピーエンドを迎えてしまったゴールインヒロイン。
だけど、ふたりは幸せなキスをして終了するだけではもったいない。
なので、彼女の物語はたまに復活する。
ハニーハント:
直訳すると、蜂蜜採り。
蜂蜜は人類最古の甘味のひとつ、しかも長期に保存することが出来る。
人間だけでなく、動物もその味を楽しむ自然界の甘味王である。
人類と蜂蜜の歴史は深く、古代エジプトでも使われたいただばかりか、その遺跡から発掘された蜂蜜は十分に食べることが出来たといったエピソードもある。
現代では養蜂により大量生産されるが、かつては野山で採取する高級品であった。
中国では後漢時代に姜岐が養蜂を編み出したと伝えられている。
ちなみにタイトルは某夢の国のアトラクションからです。
アリスが近所のプーさんの所までやってきた!
・九十物語 塵塚怪王と塵を称える料理
塵塚怪王:
もう何回登場するんだよと言われても偉人だからしょうがない、毎度おなじみ鳥山石燕の妖怪画集『百器徒然袋』に登場する”あやかし”。
その中では唐櫃をこじ開けようとする巨大な化物(鬼のような姿)で描かれている。
『百鬼徒然袋』では『塵塚怪王は塵つもりてなれる山姥等の長なるべしと』とあるように山姥の王と記述されており、また、近年ではその名から塵や器物の付喪神の王とされることも多い。
塵を称える料理:
塵や塵は役に立たないものや小さきものの代名詞。
だけど、ゴミだってバカにしちゃいけない、きっと役に立つこともあるさ。
料理にだってきっとなるさ。
作者のことだもん、きっとまともな料理を書いてくれるさ。
『鉄鍋のジャン』にも生ごみを無理やり食べさせる料理人が出てたから大丈夫さ。
(大丈夫じゃありません)
・九十一物語 湯田の白狐と花咲く料理
湯田の白狐:
山口県湯田温泉に伝わる伝説の白狐。
傷ついた白狐が池に入ってその傷を癒している所を見た和尚が、その池を調べてみると温かった。
そこから湯田温泉が発見されたというエピソードに登場する白狐である。
花咲く料理:
料理に花はつきもので、いくつもの花にちなんだ料理が世界各国にある。
だが”花咲く”となると意外と少ない。
蕾が開く可変ギミックのある品はレアなのである。
・九十二物語 斧沼の姫とエビチリ
斧沼の姫:
誰だよとなんて言わないで下さい。茨木県水戸市に伝わる”あやかし”です。
下の伝説を読んでパクリだなんて思わないで下さい。作者も『これはどうかなー』なんて思っているのですから。
というわけで茨木県水戸市のよき沼に伝わる伝説に登場する姫。
ある日、樵がうっかり斧を沼に落とすと美しい姫が沼から現れ出でて、こう言いました。
『あなたが落としたのはこの金の斧ですか?』と。
ええ、その先の展開が読めましたね。
さあ、正直に答えましょう! 『私は沼ではなく恋に落ちました』と。
落ちたのはお前やなくて斧やんけー!
……冗談です。
エビチリ:
元は四川料理の乾焼蝦仁を陳建民氏が日本人向けにアレンジした料理。
唐辛子ではなくケチャップを使ったり、中華卵焼を加えるなどのアレンジがされ家庭でも作れるので大人気となった。
オリジナルに準拠して殻付き、頭付きの海老を用いたり、激辛にしたり、中には伊勢海老を使ってジャンボエビチリにしたりなど、アレンジの幅は非常に広く、今現在も新しいエビチリが地球のどこかで誕生しているかもしれない。
ちなみに日本風のエビチリは中国に逆輸入されたり、欧米の中華街でも人気の一品である。
92……百物語も9割を超えると終わった気になってしまって、ここらでゴールしてしまってもいい気がする。
うん、そうだ、それでいい。
ここでエタってもいいじゃないか。
いや、エタろう! エタるべきだ!
92は92とも読めて苦肉の策のように、あえて自分を傷つけてもいいじゃないか。
羊頭狗肉のように看板に偽りがあってもいいじゃないか。
だけど、どうせ言われるのなら『くぅーにくいねぇ』なんて言われたい。
だから、この物語は100まで続く。
ねぇ、くにくは92じゃなくて929じゃないの?
……作者の頭はあいにくバカでして。
第十二章 到達する物語とハッピーエンド
・九十三物語 赤鬼とキャラどら焼き
赤鬼:
鬼といえば赤鬼! 鬼が島でも中心に描かれているし、泣いた赤鬼という話で主役だって張れる!
そんなどこにでもいる赤鬼ですが、中にはレアな赤鬼もいるらしいですよ。
キャラどら焼き:小麦に砂糖と水、牛乳などを加えてパンケーキ状に焼き、2枚のそれで餡子を挟んだのがどら焼き。
皮は薄茶色に焼かれているが、そこに濃淡を付けて絵や文字を描くことも可能。
このため、お祝いの引き出物にオリジナルの絵と文を描いた特注品も多い。
バリエーションとして食用絵具でデンプンシートに絵を描き、それを貼ってカラーにしたキャラどら焼きも存在する。
・九十四物語 温羅とBBQ
温羅:
吉備国(現在の岡山と広島東部)の鬼ノ城に拠を構えた鬼。
吉備津彦命に退治された。
吉備津彦命は日本書紀や古事記内の伝説の時代の記述に登場するので、正式な年代は不明である。
故に、温羅も伝説の鬼である。(渡来人という説もあり)
怪力で大酒飲みという伝説があり、後の鬼のイメージに深く影響を与えている。
BBQ:
英語で Barbeque、略してBBQと綴るアメリカの代表料理。
主に屋外で肉や魚や野菜、時には焼きそばや麺類などを焼いて食べるレジャーの醍醐味。
と書いたが野菜や麺を入れるのは日本くらいで、海外では主に肉! 肉! 肉!
アメリカだと肉! 肉! 肉!
というか肉しかないこともしばしば。
肉の部位や種類、ソースにこだわりのある家庭も多く、ダディが家族のためにハッスルする。HA HA HA!
個人的にはスペアリブがワイルドで好きです。
・九十五物語 鈴鹿の鬼女とアイスディップ
鈴鹿の鬼女:
奈良や京都から伊勢湾方面に抜ける道で古代の街道の要所”鈴鹿峠”に住んでいたとされる鬼、または天女、または盗賊。
別名、鈴鹿、鈴鹿姫、立烏帽子、天の|魔&x7130;など。
鈴鹿御前の名が一番知名度が高いかも。
坂上田村麻呂の大嶽丸退治伝説に登場するヒロイン。
出典や文献によってキャラが全然違う。
主に『鈴鹿の草子』をベースとする鈴鹿系と、『田村の草子』をベースにする田村系がある。
鈴鹿系(鈴鹿が鬼や盗賊)では第六天魔王の娘として日ノ本を魔国にするために登場、だけど恋愛脳のため田村麻呂と恋仲になって改心し、各地の鬼を退治するという話である。
田村系(鈴鹿が天女)では鈴鹿峠に遣わされた天女でこれまた田村麻呂と恋仲になって各地の鬼を退治する。
各地の鬼の代表的な存在が大嶽丸である。
その伝説の原点は鈴鹿峠に立烏帽子という女盗賊が出没したという歴史的事実ではないかという説がある。
というか、この鈴鹿系、田村系の中でも様々な伝承や異聞、絵巻、浄瑠璃などが数多くあり、作者も調べて頭が混乱しました。
ものすごくかいつまむと、鈴鹿峠に住んでいた鈴鹿の鬼女だか、鈴鹿の天女だか、鈴鹿の女盗賊立烏帽子だか、なんだかもーとにかくいい女は田村麻呂と恋仲になって、田村麻呂の各地の鬼退治に協力し、最後は結ばれましたとさ。
めでたしめでたし、である。
アイスディップ:
アイスクリームはおいしい、なら、それをソースやディップにしてみれば、もっとおいしくなるのでは!!
そう考えた偉大な人が編み出したデザート。
何にアイスをディップするのかは様々だが、クッキーやパイ、ドーナツなどが多い。
形状はスティック状にするとディップしやすくてGood!
焼きたて揚げたてのものにアイスディップすると冷たさと熱さのコントラストが舌で味わえて絶品である。
・九十六物語 大嶽丸とめかぶ納豆
大嶽丸:
酒呑童子、玉藻前と並ぶ日本三大妖怪の一体。
坂上田村麻呂伝説で退治される鬼。
これまた鈴鹿の鬼女と同じく出典や文献によって名前や設定が違う。
異名は大竹丸、大武丸、鬼神魔王など。
鈴鹿系(鈴鹿が鬼や盗賊)では、大嶽丸は鈴鹿にべた惚れで何度も言い寄っていた。
だが、心は田村麻呂にある鈴鹿は、田村麻呂のためにあえて大嶽丸に攫われ、その間に大嶽丸を骨抜きにする作戦に出る。
攫われた先は陸奥国の霧山(現在の岩手山)。
そこで攫った鈴鹿とのニャンニャン生活で骨抜きにされてしまった大嶽丸はあえなく田村麻呂に討たれてしまうのでした。
原典の『鈴鹿の草子』では鈴鹿は3年間も囚われており、抜いたのは骨ではなく一の魂だったりします。
でも本当は何を抜いていたんでしょうねぇ。げへへ。
田村系(鈴鹿が天女)では鈴鹿にぞっこんLoveで何度もラブレターを送っていて、返事がなくて悶々としていた所に鈴鹿からの色良い返事が!
ウキウキルンルンで鈴鹿の家に行ったら言葉巧みな彼女のおねだりに三明の剣(大通連と小通連、顕明連)のうちふたつ(大通連と小通連)を渡してしまうという大ポカ。
そこに現れた田村麻呂、しかも千手観音と毘沙門天の護衛付き!
なにそれチート! こんなの勝てるわけないよー! と討ち取られてしまいます。
だが、魂は死なず! 天竺に戻って顕明連の力で復活!
陸奥国の霧山に拠を構え、再び日本を脅かそうとしていたが、陸奥まで遠征してきた田村麻呂に討ち取られ、その首は宇治の宝蔵に納められちゃいました。
これまた様々な伝承、異聞、文献があってややこしい。
ちなみに、大嶽丸は千体の分身を生み出したり、身長40丈(約120m)に巨大化したり、空を自在に飛んだり、雷や炎を操ったり、氷の剣や鉾を無限に生み出して放ったりなどチートもいいとこです。
対する田村麻呂も千手観音と毘沙門天を護衛につけて、鈴鹿を一目惚れさせるなどチートなのですが……。
設定盛り過ぎ!!
めかぶ納豆:
めかぶとはワカメの根元近くの部分で食用として食べる部分。
ワカメより肉厚。
軽く湯通しをして刻むと粘りが出て、そのヌメヌメが独特の食感と味を出す。
納豆とは……みんな知ってるよね?
その”めかぶ”と”納豆”を混ぜたものが”めかぶ納豆”である。
ヌメヌメとネバネバが合体しているので、食感はズルズルスルッと滑らか。
栄養価も非常に高く、めかぶのミネラルやビタミンに納豆のタンパク質と炭水化物が加わり、生きていくのに必要な栄養素がバッチリ。
少しカロリーが少なめなので、これをご飯にかけると栄養満点!
・九十七物語 影法師とパエリア
影法師:
地面や障子に映った自分の影のこと。
ドッペルゲンガーの和名のひとつでもある。
本作では、もうひとりの自分として登場します。
パエリア:
スペインを代表する米料理。
米をオリーブオイルで炒め、色と香り付けのサフランパウダーを加え、ブイヨンで煮る。
海老やムール貝などの具材を加え、軽く底が焦げるくらいに続ければ完成。
本場ではジャポニカ米と同じ系統の短粒種であるボンバ米が使われる。
これは水分の吸収量が多く、このためパエリアは煮てもベチャベチャになりにくい。
元々は兎や鶏肉を使った肉料理だったが、現在ではシーフードパエリアの方が一般的である。
・九十八物語 楊貴妃と薺
楊貴妃:
唐の第9代皇帝”玄宗”の妻のひとり。719年6月22日誕生、756年7月15日没。
世界三大美女として名高い美女。
その美貌だけでなく、詩や歌、楽器演奏や舞にも優れていたと伝えられている。
玄宗が夢の中で仙界を訪れて覚えた霓裳羽衣の曲に合わせて、楊貴妃が躍るというのがふたりのお気に入りのセッション。
ライチ好きでも有名。
皇帝の寵愛を受け、順風満帆で幸せな人生かと思いきや、楊一族の専横を対立した安禄山の反乱で状況が一変。
反乱軍に押されて玄宗は長安から蜀へ逃亡を決意。
逃亡の途中で反乱の原因は楊一族の専横にあり、その大本は楊貴妃であるという兵士たちの追求に押される形で玄宗は泣く泣く楊貴妃の殺害を決意。
直接、手を下したのは玄宗の幼いころからの側近の宦官”高力士”であったと伝えられている。
実は楊貴妃は贅沢の限りを尽くしたわけでもなく、横暴で権力を笠に着た女ではなかったが、楊一族はそうではなかったのが彼女の不幸である。
実は生きていたという逸話も多く、そのひとつに遣唐使であった吉備真備に連れられて日本に逃れてきたという伝説があり、山口県長門市には楊貴妃の墓があったりする。
ま、日本には徐福の墓があったり、キリストの墓があったりするから楊貴妃の墓があってもおかしくないよねっ!
薺:
別名ペンペン草。
川沿いの土手や畑の畦道、どっかそこらへんなど様々な場所に生える生命力の強い雑草。
あまりにも荒れた土地のことを『ペンペン草も生えない』という表現もあるが、逆を言うと本当に何も生えない土地でもなければペンペン草は生えるのである。
でも雑草として扱うのはもったいなく、その葉は食用になり、春の七草のひとつで1月7日の七草粥で食べることが有名。
冬でも葉物野菜として美味しく食べられる優れた植物である。
中華料理では人気の食材のひとつで炒め物やスープの具に利用される。
・九十九物語 珠子と神饌仕合三本勝負!
珠子:
本作の主人公にしてヒロインにしてヒーロー。
彼女は自分のため、誰かのため、ハッピーエンドのために料理を続ける。
たとえ、神が相手でも。
神前料理仕合三本勝負:
古来より料理は神に捧げる神事でもあった。
歌も舞も戦いも、それを日常とする者は少ない。
だが、食事は完全に日常であり、誰しも料理の恩恵なくして生きるのは難しい。
故に、神に料理を、その調理過程を、勝負として捧げることは、最も尊い神事である。
……と、どこかの誰か姉さんは言ってました。
・百物語 八稚女と七王子と珠子と一期一会の料理
八稚女:
櫛名田比売を含めた足名椎命と手名椎命の八名の娘。
七名の姉は八岐大蛇に捧げられて食われてしまったと日本神話では語られている。
しかし、神は基本的に不滅の存在である。
死んだならば黄泉の国で高祖母のイザナミの下で暮らすはず。
それなのに、存在を語られないのは何か理由があるはずだ。
七王子と珠子:
この物語の主人公でもあり、担い手でもあり、語り手でもある面々。
彼らと彼女は様々な物語を語った。
笑いも涙も、恋も愛も、夢も現も、過去も未来も、平和な日常から世界を揺るがす危機まで。
そして、今、その物語にひとつの結末が訪れようとしている。
一期一会の料理:元は茶道の言葉で、この会と出会いは二度と繰り返されることのない、一度きりの最期だと思って臨むべし、という心構えを説いた言葉。
食事の会も同じ、それが一期一会の料理。
100物語、それが完成すると世にも恐ろしい怪異が起こると伝えられている。
だけど作者は臆病なので、そんなことは御免こうむりたい。
故に、ここで完成なんかさせない。
だから、この物語は最後に、もうひとつだけ続く。