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あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~  作者: 相田 彩太
第十章 躍進する物語とハッピーエンド
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妻神(さいのかみ)様と鰻(その1) ※全5部

 ポロロン


 かくて玉は海原(うなばら)を舞い♪

 日ノ本、お膝下、あなたの下♪

 さざ波、荒波、十人並♪

 花は果てるか、どこまでか♪

 ふたりの行方はどこまでか♪

 誰も知らないその先は、一&|x665A;限りの物語♪

 十の朝と百の昼と千夜一夜の物語♪

 続きは今夜の物語♪


 ポロロン♪


 ほろ酔いの女性が琵琶をつまびき何かの物語を歌う。

 この方は最近よく『酒処 七王子』を訪れて、お酒だけを飲む”あやかし”さん。

 軽く酔って気が(たかぶ)ると、こうやって楽曲と歌を披露してくれるのです。

 夜でもサングラス姿、名前もどんな”あやかし”なのかも不明。

 そんな謎のアイドル。

 だけど、ちらりとサングラスの隙間から見えた素顔はとっても綺麗。

 あたしは心の中で”美人さん”と呼んでいる。


 カラン


 「さっ、入ってくれよ。ここが俺の家がやってる『酒処 七王子』さ」


 あ、赤好(しゃっこう)さんの声。

 どなたか新しいお客さんを連れて来たのかしら。


 「失礼する」

 「おじゃましますわ」


 赤好(しゃっこう)さんに促されて入って来たふたりに『酒処 七王子』にお客さんの視線が集まる。

 理由はふたつ。

 そのふたりがとっても美形だったってこと!

 ひとりは面長で鼻筋の通った顔の男性。

 少しワイルドさが見られる髪は、よく見ると乱れているのではなく、そういう風にセッティングされているのがわかる。

 目は切れ長で少し冷ややかな雰囲気にも見えるけど、瞳に秘められた情熱が、彼を野性味あふれる頼もしそうな男だと認識される。

 もうひとりは同じく面長で鼻筋の通った美女。

 だけど、目はパッチリとしていて、柔和だけれども芯の強そうな感じ。

 ストレートの黒髪がライトを浴びて少し茶色っぽく見える所もチャーミング。

 町を歩けば、人の目を引かずにはいられない、そんな素敵なふたり。

 ま、人目を引くのはふたりがLOとVEのペアルックセーターを着ているからかもしれませんど。

 うーん、美人さんといい、このふたりといい、最近の新顔さんは顔面レベルが高い。


 だけど、その姿は人間にとっての美形。

 ”あやかし”さんたちの注目を集めている理由は他にある。


 「おい、あいつら土地神だぜ」


 客の間からそんな呟きが聞こえる。

 そう、この方々の気配は神気。

 この店にいる元貧乏神のボロを着てても心は錦の神様や天神様と同じ気配。

 

 「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」

 「いやひとりだ」


 あれ? 別々のお客様なのかな?

 ペアルック着ているだけど。


 「俺と妹はいつでも一緒! 一心同体!」

 「そうです! 兄様とわたくしの心と身体はいつでもひとつ!」


 心はともかく、身体をひとつにするのは止めて欲しいな。

 あたしはヒシッと抱き合うふたりに心でツッコミを入れる。


 「そ、そうですか、ではこちらの席へ……」

 「ちなみに俺は妹が好きだ!」

 「まあ奇遇! わたくしも兄様が好きなんです!」


 ええと、人の話を聞いてくれませんかね。

 まだ、あたしは『お好きなメニューはありますか?』みたいなことすら聞いてませんよ。


 「だからこれで、妹好きの俺にピッタリの食事を出してくれ!」

 「わたくしには兄様好きを表現した料理が欲しいですわ! これで!」


 そう言ってふたりが渡したのは百円玉。

 合わせてふたつ。

 思わず『これっぽっちで!?』なんて言いたくなるけど、きっとこれは試練。

 あたしを試しているんだわ。

 ふふん、神様にありがちよね。

 

 「はーい、オーダー受け賜りました。3分ほどお待ち下さい」


 あたしが軽くそう言うと、ふたりは『3分間はふたりっきりだね』だわ』と言いながら、ふたりの世界を作った。

 あのー、他にもお客様はいらっしゃるんですけど、


◇◇◇◇


 「お待たせしました」


 トンッ、トンっとあたしはふたりの世界のテーブルに料理を置く。

 置いたのは紫君(しーくん)の朝食用のシリアルと小茄子(こなす)の古漬けとご飯。

 料理というのもおこがましいけど、ひとり100円じゃこんなものよね。

 

 「ごゆっくりどうぞ」


 あたしはにこやかにそう言ったけど、おふたりはバクバクッとシリアルと古漬けを食べ始める。


 シャクッパリッ、パリッ


 「ふむ女将。この小治呂(こじろ)を試しているようだな。だが、見くびるなよ! この一見普通のシリアルに見えるが、実はこの銘柄は”シスコーン”であろう! なんとも妹を愛する俺の心が形となったような(めい)ではないか!」


 日本で一番売れているコーンフレークといえば! 

 日清シスコ製”シスコーン”!

 どこにでもある普通のシリアルです。


 「フフフ、女将さん。わたくしこと稗多古(ひえたこ)の力量を侮ってもらっては困ります。料亭において”兄”とは古い物、先に仕込んだ物の隠語でございましょう。つまり! この小茄子の古漬けは”兄”! わたくしは兄がオカズでしたら何杯でもご飯が食べられますわ! ああ口の中の兄から汁がピュピュッと飛び出してきますわ! とってもおいしいのほぉ~!」


 うっとりするよう……というか卑猥(ひわい)にもとれる口調で美女は兄、いや小茄子の古漬けに舌鼓を打つ。

 彼女の言う通り、兄とは料理界の隠語で古い物、先に仕込んだ物の意味がある。

 仕込んだ(・・・・)の意味は深く考えないで下さい。


 「女将さん試すような真似をしてしまい申し訳ありませんでした。俺たちの無茶振りに見事な返しでした」

 「流石は赤好(しゃっこう)殿にご紹介頂いた通りです。無礼をお許し下さい」


 ひときわ料理を堪能したふたりは、そう言って頭を下げる。


 「だから言ったろ。ワンコイン珠子さんの腕は確かだって。彼女ならふたりの悩みをきっと解決してくれるさ」


 赤好(しゃっこう)さんがそう言うってことは、また何か恋愛事の悩みかしら。

 でも、このふたりはラブラブに見えるけど。


 「改めて名乗らせてもらおう。俺の名は小治呂(こじろ)

 「わたくしの名は稗多古(ひえたこ)

 「「ふたり合わせて妻神(さいのかみ)!」」


 胸のLOとVEの文字が合体するくらいに身体を押し付け合い、ふたりは宣言する。

 

 「……妻神(さいのかみ)、聞いたことがある」

 「なにぃー!? 知っているのか少年!」

 「……うむ」


 どこからともなく現れた橙依(とーい)君が芝居がかった口調で頷く。


 「……妻神(さいのかみ)は愛知県瀬戸市にある妻神社(さいのかみしゃ)の土地神。ご利益は縁結びと子宝成就。その由来はこう」


 コホンと軽く咳払いして、橙依(とーい)君は言葉を続ける。


 「……ある所に美しい兄妹がいた。兄はせめて妹くらいに美しい妻を、妹は少なくとも兄くらいの素晴らしい夫を求めて、それぞれ西と東に旅立つ所から物語は始まる」


 あ、なんだかオチが読めた気がする。


 「……そして、遠い国でふたりは理想の相手と出逢い契りを結んだ。しかし、よく見て見ると、それは別れたはずの妹であり兄だった! なんという意外な展開!」


 いやいや、昔話ではよくありそうですよ。


 「……兄以上の、妹を超える理想の相手なんてどこにもいなかったのだと泣く泣く故郷に帰ったふたりは、私たちは決して伴侶となって結ばれることはない。だけど『私たちの魂はここに止まり、せめて世の若い人たちのために幸せな縁結びとなってあげたい』と願ってあい果てた」

 「その通り! その後、俺たちふたりを(しの)んで建てられた(ほこら)に!」

 「わたくしたちの魂は宿り! その後、ささやかながらも縁結びと子宝成就を成功させ続けた結果!」

 「「今では妻神(さいのかみ)として祭られるようになった!」のです!」

 「おお、妹よ!」

 「ああ、兄様!」

 「「ふたりはこれからもずっと、ずうーっと、いっしょ!!」」


 そう言って、ふたりは幸せなキスをして今晩の物語は終わった。


 ~Happy End~        おわり



 「……勝手に話を終わらせないで」 


 あたしの心を読んだ橙依(とーい)君からの冷静なツッコミが入った。


◇◇◇◇


 「とまあ、こいつらは見ての通りラブラブなふたりなんだが……」

 「見るだけでは不足なら、音でも俺と妹の愛の音を聞かせようぞ!」

 「愛の合体音! 響かせましょう、店内に!」

 「お願いですから止めて下さい」


 あたしは拝みこむようにふたりに頭を下げる。


 「そうか、たまには外出先でというの盛り上がると思ったのだが」

 「普段と違う刺激が兄様とわたくしの愛を高めると思ったのですが」


 ふたりは手を恋人つなぎにしながら少し残念そうな素振りを見せる。

 あたしには、ふたりの思考回路が残念に見えますけど。

 

 「……このふたりの神社、”妻神社(さいのかみしゃ)”には子宝成就にと男根を(かたど)った石像がある。このふたりがイチャイチャしているのはそのせい」


 な、なるほど。

 橙依(とーい)君の解説にあたしは心の底から納得する。

 う、うん……流石は神様。

 縁結びと子宝成就の(かがみ)のようだわ。


 「それでお悩みというのは?」

 「はい、実は俺たちには幸せになって欲しい男女がいるのです。男性の方は漫画家の妹山(いものやま)先生、女性の方はそのアシスタントの(あし)さんといいます。この妹山先生がスランプに陥っているのです」


 へー、漫画家とそのアシスタントさんか。

 漫画家って大変な職業って聞くから、スランプになることも多いでしょうね。


 「それともうひとつ。(あし)さんは密かに妹山先生を慕っているのですが、妹山先生は彼女を女性として意識しておらず、ふたりの仲が発展しないのです」

 「「彼が彼女をひとりの女性として意識しさえすれば、縁結びのご利益でハッピーエンドに出来るのにー! がっくり」」

 

 効果音までシンクロさせ、ふたりはガックリと肩を落とす。

 なるほど、スランプと恋の悩みね。


 「ん? つまり、その男性の方は女性の方を妹のように思っているのですか?」

 「そうだったらどんなに楽か!」

 「ですよねー、兄様」


 ふたりはそう言うと仲良く『ふぅ』と溜息を()く。

 

 「なるほど、詳しい話を聞かせてもらえますか?」

 「女将さん」

 「珠子でいいですよ」

 「珠子さんは妹山(いものやま)先生の漫画をご存知ですか?」

 「代表作は『妹棒物(イモボーモノ)望桃(ボーモモ)』ですわ」

 「ごめんなさい。知らないです」


 あたしは漫画やアニメはあまり詳しくない。

 料理漫画や少女漫画ならそれなにり知っているけど、少年漫画は疎いのだ。

 最近は橙依(とーい)君の影響でちょっとは知るようになったけど、それでもまだまだ。

 少しネタがわかるくらいかな。

 こういうのは橙依(とーい)君の得意分野なの。


 「……ああ、あれ」


 そう言う橙依(とーい)君をチラリと見て、


 「なにぃー!? 知っているのか橙依(とーい)君!」


 あたしはさっきの小治呂(こじろ)さんと橙依(とーい)君のやり取りを真似して大袈裟に叫んだ。


 「……うむ」


 彼は少し楽しそうに頷いた。


◇◇◇◇


 「……論より証拠。観た方が早い」


 橙依(とーい)君がそういって持って来たのは(くだん)の妹山先生の作品のBD(ブルーレイディスク)

 タイトルは『妹棒物(イモボーモノ)望桃(ボーモモ)!!』

 ウィィーンと音を立ててBDが再生される。

 あたしと赤好(しゃっこう)さん、橙依(とーい)君、妻神(さいのかみ)様に美人さん、そして他の客も興味本位で画面に視線を送る。


 プッ、プッ、プッ、ピーン!


 ”19:28”


 へ? 時報?

 これってBDだよね!?


 「……心配ない。これは純正品。時報は演出。この程度はまだ序の口だから」


 あたしの心の声を聞いた橙依(とーい)君が冷静に解説する。


 『前回までの”妹棒物(イモボーモノ)望桃(ボーモモ)!!”』


 前回まで!? 第1話だよね!? これ!?


 『生き別れになった兄と妹! 10年の時を経て、ふたりはついに再会する!! 高野(こうや)を走るふたり!』


 やけにハイテンションなナレーションの声が響き、荒野を……高野豆腐の上をポヨポヨとマッチョな男と美女が走る。

 へ? どうして高野豆腐の上を走るの!?


 『再会! その時! 成長した妹はポールダンサーになっていた!』

 

 ブゥー


 赤好(しゃっこう)さんが吹いた。

 あたしはギリギリ耐えた。


 『そして兄はポールになっていた!!』


 ブブブゥー!!


 耐えたのは一瞬だった。


 『集う頼もしい仲間! 高野豆腐!』


 あの地面の高野豆腐は仲間だったの!?


 『ポール兄様のカタキィィィィー!!』


 兄のポールが地面という名の高野豆腐に突き刺さり! そこからダシ汁が噴出!


 『グギャァァァァー!』


 悲鳴を上げる仲間のはずの高野豆腐!

 そしてキレッキレッのポールダンス!!

 グリグリ、クルクル、グルグル、ドリル!


 『みんな! 兄様はもったわね! いくわよ!』


 増えるポール兄様! (ポール)を抱える妹と高野豆腐!

 画面に映し出されるタイトル”妹棒物(イモボーモノ)望桃(ボーモモ)!!”

 ここまで実に30秒!!


 「エッヘホッホブゥホボォウ!! まって、まって! ツッコミが追いつかない!」

 

 ピッと橙依(とーい)君がリモコンを操作して、画面が一時停止する。

 

 「……少しはわかった? この作品から感じる妹山先生の人となりが」

 「わかるわけないでしょ!」

 「わかってたまるかー! わかるほうがおかしいわ!」


 あたしと赤好(しゃっこう)さんからの(ダブル)ツッコミが橙依(とーい)君へ。


 「ああ、やっぱりこの作品は妹への愛にあふれている」

 「ええ、兄様への愛も噴き出るくらいに感じますわ」

 

 おかしいのがいた!!


 「……仮にも神に向かってそのツッコミはどうかと思う」


 いやまあ、あたしもどうかと思うけど、心がツッコミモードになっちゃって。


 「……でも笑えたでしょ」

 「まあ、そうね。面白いと思うわ」


 開始30秒で店内のみんなの関心はBDの続きに釘付け。

 あたしもちょっと気になる。


 「……じゃあ、続きを再生するよ。この作品の中でOPはまともだから」


 軽快な音楽に合わせてポールダンスする登場人物(奇怪なキャラクター)が画面に映し出され、男女のデュエット曲が流れる。

 橙依(とーい)君の言う通りOPはまとも。

 あ、OPが終わった。

 やっと本編ね。


 『次回の妹棒物(イモボーモノ)望桃(ボーモモ)は! ハンペン! シャンペン! 妹台北(モゥータイペイ)!!』


 と思ったら! 次回予告が始まりやがりました!


 「ねえ、橙依(とーい)君。ひょっとしてOPだけ(・・・・)がまともなのかしら?」

 「……」


 橙依(とーい)君は目を逸らした。


◇◇◇◇


 結論。

 この作者、頭がおかしい。

 それが3話まで観たあたしの感想。


 「……でも面白かったでしょ」

 「そうね。何度か呼吸困難になったわ」


 作風としては不条理ギャグなんだけど、途中にロマンスとかSFとかミステリーとか時代劇とかが入って、異常に笑えた。

 何も考えなくていい、むしろ考えたら負け。

 こんなんに頭を空っぽにして笑える作品は稀有(けう)だわ。


 「……この作品”妹棒物(イモボーモノ)望桃(ボーモモ)”は妹山(いものやま)先生の代表作。”狂ったように笑える作品”として評価されている」

 「この作品は妹愛が欠けていると理解が難しいかもしれませんね。第二の代表作の方が一般的には理解し易いと思います」

 「兄が妹とイチャイチャしながら絆を深めていくラブロマンスものですの」


 可愛い女の子がいっぱい並んだBDのパッケージを手に妻神(さいのかみ)様が言う。

 

 「参考までにあらすじを聞かせて頂けます?」

 「兄の宇宙船に腹違いの妹がネオ各国から12人集まる話です」

 「タイトルは”11人以上いる!!”ですわ」

 

 うん、理解できない。


 「……妹山先生は妹をテーマにした作品を数々創作した。それで一定の評価を受けている。ここだけ理解すればいいと思う」

 「そうね。さっきの作品も根幹のテーマは兄妹の愛だったのは理解できたわ」

 

 というか、理解できたのはそれだけ。


 「さっき妻神(さいのかみ)様は妹山先生が女性の方を”妹のように思っていたらどんなに楽か”みたいなことをおっしゃってましたけど、ひょっとして妹山先生は妹がお好きなのですか」

 「その通りです。俺は先生を共に妹を愛す同好の士だと思っています。先生は俺たちの妻神社(さいのかみしゃ)へも何度も参拝され、寄進もしていらっしゃる方ですから」

 「なるほど、妹山先生の妹さんが(あし)さんの恋のライバルってわけですね。

 「……ちなみに、妹山先生はひとりっ子だから」

 

 はい!?


 「ええと、その妹は妹山先生の想像上の人物ってこと?」

 「……そう。妹山先生は心の中の妹を愛していると雑誌のインテビューで言ってた」

 「そいつ、頭がおかしいんじゃね?」

 

 赤好(しゃっこう)さんの言葉に店内のお客さんも頷く。

 

 「そこで俺たちは『酒処 七王子』の料理人の噂を聞いたのです!」

 「彼女なら妹山先生のスランプを脱出させ、(あし)さんを女性として意識してくれる料理を振舞ってくれると!」

 「「わたくしたちの心はひとつ! ふたりの幸せ!」」

 

 そう言って妻神(さいのかみ)様は両の手を恋人繋ぎにして、ダンスを踊るようにポーズを取る。


 「とまあ、それで黒龍つながりで俺に話が来たってわけさ。あいつは信濃の龍神でもあるからな。尾張の土地神とも交流があるみたいだぜ」

 「ああ、それで」


 人間にとっては妻神(さいのかみ)様がいらっしゃる愛知県北部と黒龍さんが昔棲んでいた長野県北部はかなりの距離。

 だけど、黒龍さんにとってはご近所さんくらいの距離なのかも。


 「珠子さん。どうか先生を助けて下さい。スランプ脱出のきっかけだけでいいんです!」

 「妹山先生が(あし)さんを女性として意識する所まで助力頂ければ、後はわたくしたちの縁結びの神力(ちから)で何とかしますから!」

 「「お礼なら出来る限り致しますから!」」


 小治呂(こじろ)様と稗多古(ひえたこ)様のふたりでひとつの妻神(さいのかみ)様があたしを懇願するように見る。


 「うーん、そうは言われても。あたしは”あやかし”相手なら色々と悩みを解決した実績はあるけど、普通の人間のメンタルケアなんてやったことないし……」


 そういうのはカウンセラーとかの仕事じゃないかしら。

 

 「……珠子姉さんなら大丈夫だと思う。だって……」

 「だって?」

 「……妹山先生が普通の人だと思う?」

 

 ……思いません。

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