胡蝶の夢とドリームケーキ(その3) ※全7部
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「負けるな! 『心を奮わせよ!』」
「そうは言うけどね!」
「ちっくしょう! 全然効いてやがらねぇ」
「……体が重い」
あたしが震えて縮こまっている間も、まだ戦える方々は狐者異に攻撃を仕掛ける。
だけど、明らかに精彩を欠いていた。
「どうした? さっきまの威勢はどこへいったのだ? ハハハッ!」
狐者異がその腕を振るうたびに、誰かが吹っ飛ばされ、叩きつけられていく。
「もう止めて! 私達の負けでいいから!!」
「弱音を吐くな! それこそがあいつらの目的なんだぞ!」
あたしの後ろに隠れている女の子が目をつぶり、耳をふさいで叫ぶ。
あたしも、戦っているみなさんがいなければ、そう言っていたかもしれない。
それくらい状況は絶望的だった。
「フェフェフェ、しぶといのう。では、さらにお前たちに絶望を与えてやるとするかのう」
狐者異の後方で高みの見物を決め込んでいる夢の精霊が、勿体付けたかのように、ゆっくりと口を開く。
「これ以上、何が悪くなっちまうってんだよ!」
「喜べ、大蛇の四男。お前は対象外じゃ。じゃが、他のヤツらの現世での肉体は満濃池の湖底洞窟で眠っておる。そこには儂らの配下の拝竜がおってのう……」
「……まさか!?」
「そのまさかじゃ! お前らの肉体の生殺与奪は儂らが握っておるのよ! 余談じゃが、拝竜の好物は人間でのう。さらに言えば、そこの珠子という娘の側にも儂らの手の者がおるのじゃ! フェフェフェ!」
人間という言葉にあたしの後ろの女の子の震えが増す。
さらに、あたしの体もピンチ!?
「させない! 命令を届ける暇なんて与えない!」
地面に膝を着いていた橙依君が、一足跳びに夢の精霊に肉薄するけど、その攻撃を夢の精霊は杖で簡単に受け止める。
「フェフェフェ、威勢がいいのう。じゃが、力が足りぬ。こう見えても、夢の中なら儂は結構強いのでな」
連続で繰り出される橙依君の攻撃を、夢の精霊は難なく捌く。
「ヒーロー! あたしのために!」
あたしの後ろの女の子が、少し元気を取り戻して、橙依君の戦いっぷりを見る。
あたしの身体に隠れながらだけど。
「安心されよ珠子殿。珠子殿の身体は儂らが保護した」
「今は赤好って男が守っているはずさ。あたしたちの肉体と一緒にね」
「本当ですか!?」
「本当さね。あいつの言う、手の者ってのは逃げてったよ。だけど、状況は良くないね」
慈道さんと築善さんはあたしたちを守るように立ち塞がるように戦ってくれているけど、その顔に焦りの色が見える。
『酒処 七王子』で食事している時には見せなかった姿。
「悔しいですな。いつもの装備だったら、あれくらい何とかなるかもしれぬのに」
「慈道、無いものをねだっても仕方ないよ。たとえ身ひとつでも人を救うのが退魔僧さね」
慈道さんと築善さんが、口の端を少し曲げながら言う。
「あれ? いつもと同じ恰好に見えますけど、違うんですか?」
あたしの見た感じだと、いつもと同じ袈裟に数珠を携え、錫杖と独鈷を構えた姿に見えるけど。
「違いますぞ珠子殿。この恰好は拙僧たちの想像力で創ったもの」
「その通りさね。現世ではね、袈裟は経文を編み込んで作るのさ。錫杖や独鈷も似たもんでね、数十人の僧が三日三晩、真言を唱え続ける環境で鍛え上げて作るのさ。そうやって法力を蓄えた装備であたしたち退魔僧は戦っている。でも夢の中にそいつらは持ち込めないのさ」
そういえば、あたしもスマホとか料理道具とかを創り出すことは出来るけど、持って来た物はなかった。
慈道さんにいっぱいもらったお札も持ってない。
「フェフェフェ、その通り。お前たち退魔僧は並大抵の”あやかし”より遥かに強い。じゃが、それは長年に渡って培ってきた法具ありきでのこと。素の法力しか持たぬお前らなぞ敵ではないわ」
「何も備えなしに助けに来たってのかよ!? ちっとは何か秘策でもあるのかと思ったのによ。うおっっと、ととと」
「うるさいね! 策くらいはあるさ! だけど、今はその時じゃないのさね!!」
「せめて、伝説の武器とか法具でもあれば、話は違うのですが……」
伝説の武器!? それなら!
「なら、伝説の武器を創ってみればいいんじゃないんですか!? よしっ、まずはあたしが! 出でよ! エクスカリバー!!」
あたしの想像力が伝説の剣を生み出し、あたしはそれを振り降ろしてビームを出す。
橙依君が見せてくれたアニメの真似!
ちゅどーん!
放たれたビームは夢の精霊に命中!
だけど……
「フェフェフェ、今、何をしたかの?」
夢の精霊は何事もなかったかのように平然としている。
「え? どうして?」
「バカ! あの時のリンゴで例えた時の事を忘れたのかよ! 俺っちでは味がスカスカのリンゴしか創り出せないのと同じように、嬢ちゃんの想像力で創った武器は見掛け倒しくらいにしかなんねぇんだよ!!」
「……そう、珠子姉さんが創れるのはエクスカリパーくらい」
そういえばそうだった。
緑乱おじさんの言う通り、あたしの想像力は食材や料理なら現実と同じくらいに美味しいものを創れるけど、現実で創ったことのないものを創ると、それは見掛け倒しにしかならないんだったっけ。
なら!
「み、みなさんの中に伝説の武器とか創れる方はいらっしゃいませんかー!!」
「あ、あほかー!! 夢の中でも伝説の武器が創れる想像力を持つってのは、鍛冶の神とか、せめて伝説の名工の英霊くらいだっての!! ちっくしょう! なんで林有造とかいうマイナーな英霊なんだよ! 千子村正の英霊だったら、伝説の名刀や妖刀だって創り出せただろうによ!!」
「じゃかしい!! 助けに来た相手にその言い草はなんじゃ!!」
狐者異と打ち合いながら、緑乱おじさんと林有造先生が言い争う。
「フェフェフェ、どうあがいてもお前たちに勝ち目なぞない。夢の中に持ち込める伝説の武器なんて早々ない。しかもそれを持っているなんてありえんのじゃ」
ん? 早々ないってことは少しはあるってことよね?
あれ? 何か心にひっかかったような……。
「ねえ、みなさん! 伝説の武器があれば、この状況って何とかなります!?」
「そうさね! 少しはマシになるかもね! そんな都合のいい法具なんて、高野の宝物殿にもないだろうけどね!」
いつもとは違い、余裕のない口調で築善さんが言う。
「フェフェフェ、無駄じゃ無駄。たとえ伝説の武器があったとしても、狐者異の”戦慄の咆哮”の前では命中させることは出来ぬ」
「……勇気付与の追加効果が欲しい所」
なるほど、夢の中に持ち込める伝説の武器だけではなく、恐怖に打ち勝つ効果も必要ってことですね。
「それに、こいつらの相互再生能力を忘れるわけにはいかぬ。出来ればふたつが理想だ」
なるほど、なるほど、ふたつ……
「難を言えば、誰かが使える武器が望ましいですな。拙僧であれば、法具系を所望しますそ!」
なるほど、なるほど、なるほど、誰かが使いこなせる武器の方がいいと。
「そんな都合のいいもん持っているヤツがいるはずねぇだろ!」
そうそう、都合のいい……。
ん? んんん?
「フェフェフェ! さあ、狐者異よ! 最後の仕上げじゃ! こやつらを嬲って、いたぶって、蹂躙して! その心を恐怖の色に染め上げるのじゃ!!」
「そうだな、そろそろ遊びも飽きたころだ!」
狐者異が大きく息を吸い込み、妖力を高める。
「くるぞ! 先ほどの”戦慄の咆哮”だ!」
再び狐者異の”戦慄の咆哮”の構えの前に、みんなの身体が硬直する。
「あ……、あ゛ぁーーーーーーーーー!!」
だけど、響いたのは、”戦慄の咆哮”とは真逆のあたしの間の抜けた大声。
「フぇ?」
「ど、どうした女中よ」
大口を開けるあたしに、みんなの視線が集中する。
「ご、ごめんなさーい!!」
あたしはみなさんに向かってペコリ。
「ほ? あ、ああ、敗北宣言か。よいぞよいぞ、儂らも鬼ではない。儂らに従属するというなら……」
「いえ違います。あたしが謝っているのは、あたしを助けに来てくれたみなさんにです。ごめんなさい! ゴメンナサイ! 御免なさい!!」
夢の精霊の言葉を遮って、あたしは何度も頭を下げる。
「ど、どういうことだい?」
「えっと……実はですね。あたし、持ってました! 都合のいい伝説の武器を!」
「「「「「「はへっ!?」」」」」」
みんなは変な声を出した。
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「ど、どういうことだ? 女中よ。気でも狂ったのか!?」
「そうよ。伝説の武器を、しかも夢の中に持ち込める武器を持ってるだなんて、頭がおかしくなっちゃったの!?」
「そんな上手い話があるわけねぇだろ!? 道中で変な詐欺師に騙されちまったのか!?」
「……かわいそう。珠子姉さんは寝すぎのあまり、寝言が夢の中でも言えるようになってしまって……」
ひどい言いようですね!!
「ふんだ! もっと早く気付けばよかったと思って謝って損しました。いいですか! みなさんはあたしに助けられたんですからね!」
「そんな事より、そんな良い物があるなら、早くしとくれ! 次のが来るよ!」
あたしの大声で一瞬気が削がれたのか、少し遅れてだけど、狐者異は”戦慄の咆哮”の体勢。
「わっかりました! 所有者たる珠子の呼びかけに、応えて出でよ!! 伝説の鏃! 水破! 兵破!」
あたしが胸のあたりに念じると、そこからふたつの光が飛び出し、あたしの両手に納まり、輝く。
「フェフェフェ、小娘が創った伝説の武器なんて紛い物が本物のはずがなかろ……」
そう言う夢の精霊の言葉が止まる。
だって、この輝きはあたしの想像力で創った武器なんかより、ずっと力強いんですもの。
「なるほど、水破と兵破さね。それだったら、夢の中に持ち込めても不思議じゃないね」
「さもありなんですな。師匠」
名前だけで築善さんと慈道さんは気付いたみたい。
これが、”本物”だって。
”夢の中に持ち込める武器だ!”って!
「どういうことだい? 築善尼」
「なんだい、お前さんは知らないのかね。あの水破と兵破の話を。珠子ちゃんだって知ってたのにさ」
「えへへ、あたしも武具のエピソードには疎くて、移動中の電車内で調べただけだったんですよ。それで気付くのが遅れてしまったんですよね」
「……水破と兵破は源頼政が鵺退治に使った武器。源氏に代々伝わる武器で、源頼光が夢の中で授かったという逸話有り」
「そうです。あたしが調べた話では、ある夜、源雷光が夢の中で養由基の娘、椒花女と出逢い、『これを継ぐに値する武将を探していた』と伝説の弓”雷上動”と鏃の”水破”と”兵破”を渡されるんです。そして源頼光が目を覚ますと、枕元にそれらが置かれてあったというエピソードがあるんですよ」
「えっと……、とどのつまり、これってのは」
何かを察したように緑乱おじさんがニヤリと笑う。
「はい、これは夢の中に持ち込んで誰かにプレゼント出来る武器です! じゃじゃーん!」
あたしがそう言って両手に持った水破と兵破を高く掲げると、それは千年以上の時を感じさせないほど、キラキラと輝く。
うーん、さすがは伝説の武器。
「フェェフェ~!? なんでそんなものを料理人風情が持っているんじゃ!? そんな話は聞いておらぬぞ!?」
夢の精霊があっけにとられた声で叫ぶ。
あ、料理人風情ってのはちょっとカチンと来たかな。
「そうは言われましても、その料理人風情の料理の対価として、あたしがヌエさんたちから譲り受けたんですけど」
「フェ!? そ、そんなことが……。だが、当たらなければどうということはない! 狐者異よ、やれい!!」
「おうよ!! ヴォルヴォルヴォォォォーーーーーーーー!!」
夢の精霊の合図で、狐者異の口から猛獣の叫びすら霞む”戦慄の咆哮”が放たれる。
「そんなもん、もう効かないさね。慈道!」
「はい、師匠! 南無八幡大菩薩! 我らに恐怖に打ち勝つ勇気を与えたまえ!!」
慈道さんの声に呼応するように水破と兵破が光を放つ。
「あら? 平気だわヒーロー。あの光を見ていると、何だかあの声も姿も大したことないように思えるの」
あたしの後ろに隠れていた女の子がゆっくりと立ち上がり、落ち着いた声で言う。
「……源頼政の鵺退治では、鵺の恐ろしい姿と声に負けないよう、源頼政が『南無八幡大菩薩』と唱えると、心の平静が戻り、手の震えが止まったというエピソードがある。これは水破と兵破の勇気付与のエンチャント効果」
そうそう、その話もネットで調べた時に読んだの。
「しかも、おあつらえ向きに2つセットになっておるではないか。して、誰がこれを使う? 弓の心得のある者はおるか? 我も使えぬことはないが……」
「フェフェ! そ、そうじゃ。たとえ伝説の武器であっても使いこなせなければ意味はない!」
「……これは所謂”破魔矢”。珍しく僧兵でも適正がある武器」
「フェ!?」
「すると、築善殿と慈道殿がよろしいかな?」
「待ってくれよ黄貴兄。ひとつは俺っちに使われてくれよ。あいつらには何度も追い回された借りがある、狩りで返してやるさ」
「出来るのか? 緑乱」
「ああ、昔取った杵柄ってやつさ。いいだろ? 築善尼」
そういえば、緑乱おじさんは昔、八尾比丘尼として全国を行脚してたんだっけ。
その時に破魔矢の使い方を覚えたのかな。
「ああ、あたしも手が空いた方がいい。ひとつは慈道に……」
「待って、ひとつはアタシにやらせて。この事態を招いたのはアタシですもの。責任を取らなきゃ。いいでしょ」
ヒョイと戻ってきた藍蘭さんが、そう言って慈道さんを見る。
「いいですぞ。水破と兵破の元来の持ち主、養由基は百発百中の語源ともなった武将。弓の雷上動が無くとも、半分くらいはその加護がありましょう」
「五十歩百歩ってわけね。いいわね、そういうのアタシの好みよ」
「じゃあ、これは緑乱おじさんと、藍蘭さんに……」
あたしがそう言って、ふたつの鏃を渡そうとした時、
「もうよい! 拝竜よ! 現世のこやつらを殺せ!!」
夢の精霊が危険な合図を送った。
まずいっ!?
あたしと築善さんと慈道さんの身体は赤好さんが守ってくれてるけど、他のみなさんの肉体がピンチ!
…
……
あれ?
「どうした拝竜! 何をやっている!! 早くせぬか!!」
夢の精霊は杖を天に振り回すけど、何も起きない。
「あー、これはきっと天野殿が頑張っているのでござるな」
「我の権能ある言葉に耐えた者がおったのか」
「……天野の”言霊無効”はチート」
うーん、何があったかよく知らないけど、みんなの肉体は天邪鬼の天野君が守っているみたい。
「て……撤退じゃ! 狐者異! ここは引くぞ!」
「お、おう!」
不利な状況を悟ったのか、夢の精霊と狐者異が逃げ出そうとする。
「逃がしゃしないよ! あたしら退魔僧が何も備えなしにここに来ると思ってたのかい! 慈道!」
「はい師匠! おお、御仏よ、御仏よ!」
錫杖をシャリンと、数珠をジャリっと構え、ふたりはお経を唱えだす。
「或遇悪羅刹!」
「毒龍諸鬼等!」
「「念彼! 観音力!」」
ふたりの読経に合わせ、逃げ出そうとする夢の精霊と狐者異の先に何かが形を現す。
あの御姿は観音様かしら。
「彼方より顕現されよ!」
「夢違観音!!」
合ってた!
「げ、げえぇえええーー! か、観音!?」
「あ、あいつは……儂の天敵の!」
「そうさね。悪夢を違えて、清らかな夢に変えてくれる夢違観音様さね!」
「さすがは夢の中ですな。現世では観音様の御姿がここまでくっきり見えることは滅多にありませぬぞ。いやぁ、眼福、眼福」
観音様の圧に押されるように、夢の精霊と狐者異は後ずさる。
これがきっと、さっき話していた策ってやつ!
「んじゃ、俺っちたちも決めるとするか。嬢ちゃん頂くぜ」
「珠子ちゃん。サンキュね」
「はい、決めちゃって下さい!」
そして、あたしの手からふたりの手に水破と兵破が渡される。
ヒュェ
その時、あたしの心に異変が起きた。
「あ、ひ、きゃ、きゃ★ひゅ&メ$≒⇔ル*ゲ!? こ、こわいひぃぃーーーーー!!」
あたしの身体はガタガタと震え、腰は抜けて尻餅を付き、口はアワアワと音もなく動くだけ。
怖い、こわい、コワイ、こわいぃ~~!!
「あ、そっか。どうして退魔僧でもない嬢ちゃんが狐者異の前で平静としていられたか合点がいったぜ。この水破と兵破の加護を受けてたってことか」
「あらやだ、アタシたちが受け取っちゃったから、その加護が消えたってこと」
「そういうこった」
「わ、わかりましたから! 早くなんとかしてください! あたいの乙女が残っているうちに!!」
や、やば、やばい、ヤバイ、これ、現実では恐怖のあまり漏らしてるかも!!
これまでにない乙女のピンチ!!
「んじゃ、早々に決めちまうか。送葬にってか」
「緑乱ちゃんもいつもの調子が戻ったみたいね。弓と矢の部分は想像力で補ってと」
緑乱おじさんと藍蘭さんの手の中で弓と矢が形作られ、その矢の先端には輝く水破と兵破の姿。
そして、ふたりはギリギリと矢をつがえ始めた。
「それじゃ、決めるぜ」
「ええ」
そう言って頼もしいふたりはアイコンタクト。
「あたしたちも決めるよ! 慈道!」
「はい、師匠!」
「夢違観音よ! この悪夢を良き夢に違えたまえ!」
「「時悉不敢害!!」」
「……時悉不敢害。意味は僕たちに害するものは悉くいなくなる、要するに悪い鬼とか毒龍は死ぬ」
築善さんと慈道さんと橙依君の解説の声に合わせ、観音様の姿が強く輝き、夢の精霊と狐者異が苦しみだす。
「この果てなき悪夢に!」
「幸せな結末を!!」
ふたりの手から放たれた矢はヒューと音を立て、狐者異と夢の精霊を貫き、そこに大穴を開ける。
「グゲッ、グギャァァアアー!!」
「なぜじゃ! 儂は十全に準備した! 長年に渡って悪夢と恐怖を溜めこんで! 絶対負けぬ布陣を組んで、手駒も揃えて! 夢の中という必勝の環境まで引きずり込んだのに! どうして儂らが負ける!」
胸の大穴を手で押さえ、観音様の光の中で夢の精霊が苦しみながら叫ぶ。
「そうね、完璧だったわ。ミスさえしなければ妖怪王になれたかもしれないわね」
「そうだ! なれたはずだ! どうして、どうしてこんなことに!?」
「教えてあげる。アンタの負けた原因はね……」
そう言って藍蘭さんはあたしを、あたしの周りの方々を見る。
「アタシの大切なコたちを巻き込んだことよ!!」
その言葉と共に、狐者異と夢の精霊は光の中に消えた。




