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あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~  作者: 相田 彩太
第九章 夢想する物語とハッピーエンド
259/409

英霊とばっけ味噌(その3) ※全5部

◇◇◇◇



 るすばんつまんなーい。

 たいせつなことなので、にどいった!

 橙依(とーい)お兄ちゃんのまね!


 おへやでは鳥居さんがタブレットとスマホでいそがしそうにしているし、赤好(しゃっこう)お兄ちゃんとその友だちが、ちょっともどって、リュックをあさって、また出て行く。

 赤好(しゃっこう)お兄ちゃんの大きなリュックにはキャンプ道具とか、食べ物とかお酒とか、いろいろ入っている。

 珠子お姉ちゃんを探すのにはちょっとじゃまだよね。

 だから、リュックもボクとおるすばん。

 でも、みんながんばってるのに、ボクだけ何もしないのはヤだな。

 ボクにも何かできないかな……

 そうだ!

 ボクはおててのグーとパーをポン。


 つよーい悪いやつはみんなでたおすけど、その前によわーい悪いやつをやっつけちゃおう。

 緑乱(りょくらん)お兄ちゃんは夢の中でいっぱいのオネキでたいへんみたい。

 これをボクがやっつけたら、みんなの役に立つんじゃないかな。

 えっ、オネキはたましいがないから、ボクの”鎮魂”のちからじゃダメだろうって!?

 ふふーん、ちがうんだな。

 ボクはオネキをひとつずつたおすくらいしかできないけど、まとめてやっつけられる”あやかし”もいるんだ。

 お坊さんたちも言ってたけど、オネキはねそこの”土地神”や土地の”えいれい”がまとめてはらってるんだよ。

 オネキはこの土地の人間のイヤな気だからね、その土地でうやまれている神やえいれいに弱いんだ。

 よーし、それじゃ、さがしにいこーっと。


◇◇◇◇


 むー、もう何なのさ。

 ボクはここで一番の神さまの”あぢしきたかひこねのみこと”(むずかしい漢字)におねがいに来たんだけど……。

 

 『申し訳ありません。ここ片島の一宮鹽竈(いっくしおがま)神社におわせられる味耜高彦根命あぢしきたかひこねのみこと様は神無月のため留守でして……』


 んもう、今は11月なのに『旧暦なので、数日前から出雲へと出張』って何なのさ。

 たよりにならないよね!

 しょうがないから”えいれい”さんにおねがいしよっと。

 ”えいれい”って、むかし、いっぱいがんばってえらかった人の魂だよね。

 でも、ボクこの宿毛(すくも)の”えいれい”なんて知らないよ。

 んー、どこかにヒントとかないかな?

 あっ!?

 神社の近くを歩いていたボクの目につえを持ったえらい人のぞう。

 えっと……林有造(はやしゆうぞう)のぞう。

 しらないや、でも、どうぞうになるくらいだから、きっとスゴイ人なんだよね。

 よーし、それじゃあ、この林おじいちゃんの”えいれい”を探しにいこーっと。


 テクテク


 「林有造先生がどこにおるかだって? ボク、学校の宿題かい?」

 「うん! そんなとこ!」


 ボクはさっそく近くのだがしや”みやもと”でしつもん。


 「それなら市街の林邸(はやしてい)とその隣の宿毛歴史館にいくとええぜよ」

 「ありがとー。あ、これちょうだい」

 「はい、まいどあり」


 ボクは買ったおかしを食べながら、町へとゴー!

 イカの足、おいしい!


◇◇◇◇


 「おじゃましまーす」


 林のおじいちゃんちは、すぐに見つかった。


 ”林邸(はやしてい)”ってかんこうち。


 ここは元々は林のおじいちゃんが建てた家なんだけど、今はきれいなカフェとか時間レンタルできるみんなのお家になってるんだって。

 へー、キッチンもかりれるんだ。

 珠子お姉ちゃんがよろこびそう。

 

 今日はおきゃくさんが少ないみたいで、お家の中はしずか。

 だけど、ボクにはわかるんだ。

 いた(・・)

 えんがわで、お茶をのんでる”あやかし”のおじいちゃん。

 あのどうぞうにそっくり。


 「こんにちは、おじいちゃん」

 「おや、久しぶりに儂に声をかけてくる子がおる思うたら。”あやかし”の少年やないか。この老いぼれに何用かな?」


 おじいちゃんはツエにアゴをのせて、ふぅ。


 「おじいちゃんって”林ゆうぞう”だよね。とってもえらかった人だよね。”えいれい”さんだよね」

 「そうじゃ、元土佐藩士にて国会議員。ついには大臣まで勤め上げた、それはそれは偉い男じゃったのじゃよ。今は縁側を尻で磨くことしかできぬジジイじゃがな」


 そう言って、林のおじいちゃんはおしり軽くたたいてためいき。


 「ねえ、今、大変なんだよ。ここのオネキが夢の世界へつれていかれて、大変なんだ」

 「そうか……、最近、怨念や陰の気がどこぞに向かっちゅーのような気配を感じたけんど、そのせいでしもうたか」


 林のおじいちゃんは、また遠くを見てふぅ。


 「それでね、おじいちゃんにそのオネキをきれいにしてほしいんだ。おじいちゃんはスゴーイ”えいれい”だもん、できるよね?」


 ボクは首をナナメにしてお、ね、が、い。

 珠子お姉ちゃんだったら、これでイチコロのポーズ。


 「うーん、そうしたいのは山々なんじゃが……、最近、やる気が出ないでのう」


 おじいちゃんのかたが、がっくし。

 

 「そっか! それじゃ、ボクが元気を入れてあげるね」


 ボクの鎮魂のちからには、あちこちにある魂のかけらを集めて、それをあげるこが出来る。

 それを使えば、”あやかし”になりかけの、あだちがはらのおばあちゃんを、りっぱな”あやかし”にだってすることが出来たんだよ。

 すごいでしょ。

 その時と同じようにボクは心にうかんだ言葉をつむぎ始める。


 「豊な大地のめぐみよ、きらめく海原(うなばら)のうねりよ、彼のもとにゆきて宿りたま……あれ?」


 ボクに声であつまった小さな魂のかけらは、おじいちゃんに入ろうとするけれど、それはスゥーと通りぬけちゃった。


 「ありがとう少年。君の気持ちは嬉しいが、今の儂にそれは無用じゃ。気持ちの乗らん者にどれだけ力を注いでくれても、意味はないのじゃ」


 林のおじいちゃんはそう言ってボクのあたまをやさしくナデナデ。

 そっか、あだちがはらのおばあちゃんは”あやかし”になろうとしていたけど、このおじいちゃんは、がんばろうとする気持ちがないんだ。

 でも、これだと、こまっちゃうな。


 「なんじゃ。宿毛一の英霊と聞いて来たのじゃが。やけにくたびれたジジイじゃの」


 あっ、さんびさん。


 「どちらさんかな?」

 「未来の妖怪王の第一夫人の座を狙う予定の傾国の美幼女、讃美じゃ」


 せつめい、ながーい。


 「その讃美さんが何用かの?」

 「そこの小僧と同じなのじゃ。これ以上、夢の世界へ怨念鬼の増援が続くのは良くないのでの。お前さんに浄化してもらおうと思ったのじゃが……」

 「すまんのう。最近の儂は自分自身でもどうもいかん思うちょるんやけんど、何ともならん。何を食べてもおいしゅうないしのう……」


 あ! ボク知ってる!

 これって珠子お姉ちゃんが好きなパターン!

 

 「なんじゃ、そんなことじゃったか。なら妾がお主に”美味い!”と言わせる料理を馳走(ちそう)しよう。そして元気を出したら、主殿(あるじどの)のために働くのじゃ!」

 「あー、それボクが言いたかったー」

 「こういうのは早い者勝ちじゃ」

 「いいもん、ボクも林のおじいちゃんが元気が出る食べ物持ってくるから。しょうぶだよ、さんびのおねーちゃん」

 「よいのじゃ、主殿への余興話にはなろう」


 さんびさんはシッポをふってフフン。


 「よーし、負けないよ。それでいいよね、おじいちゃん。ボクたちの料理で元気が出たら、さっきのお願い聞いてくれるよね?」

 「それは……元気が出たなら、この宿毛のために働くのはやぶさかじゃないが……」

 「よしっ! 決まりなのじゃ! では、しばし待つのじゃ。台所を借りるぞ」

 

 さんびさんがピョンとえんがわにジャンプして中の台所へ。

 ボクも料理を用意しなくっちゃ。

 でも、ボクはお料理が出来ないから、何か元気が出そうな食べ物をもってこよーっと。

 どんなのがいいかな? 


 「ねぇ、おじいちゃん。どうして元気がないの? それを聞けばボクはすっごい料理を持って来れるんだけど」

 「そうさのう……、少年よ、少年はこの儂、林有造についてどれだけ知っちょる?」

 「ぜんぜーん、しらなーい。学校でもならってないもん」

 

 ボクはりょうてでバンザイ。

 お手上げだね。

 あれ、おじいちゃんがガックリ。

 

 「……そうか、うん、そうじゃろうなぁ。よいじゃが、よいじゃが、少年はまだ幼いから……」

 「おじいちゃんは有名になりたいの?」

 「無論じゃ。やけんど儂はどうもマイナーというか、知名度が低いというか……」

 「うん、わかった! じゃあ、料理といっしょに、林のおじいちゃんが有名になれそうなアイデアがないか探してくる!」

 「それは、うれしいのう……あったらいいのじゃが……」


 林のおじいちゃんはそう言って縁側でふぅ。

 おじいちゃんの元気がもっとなくなっちゃった。

 よーし、ボクが林のおじいちゃんに元気が出ちゃる食べ物とか、有名になっちゃうようなものを持ってくるぞー。

 

◇◇◇◇


 こういう時、たよりになるのは珠子おねえちゃんだけど、今はいないから……鳥居さんだよね!


 「ねぇねぇ、鳥居さん」

 「紫君(しーくん)殿か。どこにお出かけでしたのかな。少々心配致しましたぞ」


 そう言って鳥居さんは、タブレットをトンとたたく。


 「”林ゆうぞう”って知ってる? 知ってたら教えてほしいなー」

 「……それなり(・・・・)に」


 あ、やっぱり知ってるんだ。


 「あの(いぬい)のこし……、いや、林有造(はやしゆうぞう)がどうかしたのか?」

 「えっとね、林のおじいちゃんが元気がないから、元気が出るお料理を持っていきたいんだ。あとはおじいちゃんが有名になる方法とか」

 「左様であるか。ふむ、儂は料理は専門外であるが、林有造の人生については一通り知っておる。簡単に教えて進ぜよう」

 「うん、おねがーい。鳥居せんせー」

 「先生か……、ふふっ」


 あれ、何だかちょっと鳥居さんがうれしそうにわらった。

 めずらしいね。


 「林有造は、ここ宿毛に生まれた土佐藩士。幕末の動乱で戊辰戦争の折、土佐藩軍のひとつ、機勢隊(きせいたい)の一員として戦った。慶応4年に土佐を出発し、北越戦線(ほくえつせんせん)で戦い、これを平定し、土佐に凱旋(がいせん)した藩士である」

 「へー、鳥居さんってば、まるで見てきたかのようにくわしいんだね」

 「ははっ、左様ではござらん。人づてに聞いただけだ」


 鳥居さんはそう言うけど、ちょっとフフン。

 じまんげだよね。

 

 「維新後、ここ高知県の初代県令を勤めたが、後に”立志社(りっししゃ)の獄”と呼ばれる叛乱(はんらん)を企て、結局蜂起(ほうき)に失敗し投獄。岩手監獄で六年ほど禁獄(きんごく)の日々を過ごし、後に板垣の下で自由民権運動に参画、ここ高知で何度も衆議院選挙に当選。後には逓信(ていしん)大臣や農商務(のうしょうむ)大臣を勤め、引退後は故郷の宿毛の発展に力を注いだ。林業とか水産とか真珠の養殖まで手を広げたと伝わっておる。ま、いわゆる(・・・・)名士という男よ」


 ふーん、すごいんだね。

 でも、あんまり聞いたことないや。

 やっぱマイナーなのかな。


 「鳥居さんて物知りだね。あのね、林のおじいちゃんが元気なくってね。有名じゃないことを気にしているみたいなんだ」

 「左様であるか。。林有造(はやしゆうぞう)は林家に養子に出されたため、林の性を名乗っているが、生まれは岩村家の次男で、兄の岩村通俊(みちとし)、弟の岩村高俊(たかとし)と並んで、岩村三兄弟と呼ばれ、共通の友人でもある大江卓(おおえたく)との友情話もそれなりに(・・・・・)有名であったと思ったが、確かに土佐の偉人としては坂本龍馬や乾退助(いぬいたいすけ)、後の板垣退助には劣るやもしれぬな」


 坂本りょうまといたがきたいすけって名前は歴史でならった気がする。

 だけど、岩村とか大江とかは知らないや。

 

 「それでね、林のおじいちゃんに元気の出る食べ物とか、有名になれそうなアイデアを持っていきたいんだけど、どんなのがいいかな?」

 

 ボクのしつもんに鳥居さんは少しウーンと考える。


 「それは紫君(しーくん)殿が考えること。それに儂は料理は詳しくない」


 鳥居さんはそう言うと、再びタブレットとにらめっこ。

 そうだよね。

 でもヒントはいっぱいもらった!

 よーし、ボクががんばって考えちゃうぞー。

 何かいいのないかなー?。


 そんな時にボクの目に入ってきたのは赤好(しゃっこう)お兄ちゃんのでっかいリュック。

 あの中にはこくりゅうお兄ちゃんの上でキャンプしてた時に食べた食べ物がいっぱい。

 かんづめとかビンづめとか、カンパンとかお酒とか。

 ひまつぶしの本とかも入っていた。

 赤好(しゃっこう)お兄ちゃんのげんせんチョイスが入っているって言ってたよね。

 あそこにならいいのあるかも!

 それに珠子お姉ちゃんが言ってたもん。


 『”あやかし”さんの心に響く料理は、その由来や人生を良く知る事が一番なんですよ。そこにちょっと新しい味のスパイスを加えるのが基本ですね。あとはその準備を前もって仕込んでおくのも重要です』

 

 ひょっとしたら、珠子お姉ちゃんがしこんでた物もあるかも!

 何かいいのないかなー。


 ゴソゴソ


 うーん、あんまりいいのないなー。

 でも、この宿毛(すくも)にちなんだものなんてないなー。

 ボクは食べ物の産地表示をみるけど、見つかったのは高知じゃなくって、岩手のものばかり。

 あれ? 岩手?


 「ねぇ、鳥居さん」

 「何用であるかな?」

 「鳥居さんって昔、ろーやに入れられてたよね」

 「左様。正確には投獄ではなく、丸亀藩お預けの身。幽閉ですな」

 「そこでのご飯おいしかった?」

 

 ボクの声に鳥居さんはちょっとニヤリ。


 「最初はまずかった。されど、年を経るにつれ、儂の知見と経験を求めて来る者も次第に増えた。丸亀の名物を土産にな。それはうまかったぞ。ま、南町奉行を勤めた儂の(あふ)れる才気は、幽閉程度では留めておけぬということだな」


 そう言って鳥居さんはカカカとわらう。

 ちょっとうれしそう。

 そっか……、すると……。

 あと、珠子お姉ちゃんが最近『これ、ゲームの影響で最近はやっているんですよねー』って言ってたような……。

 あっれぇー、ボク、わかちゃったかも!!

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