英霊とばっけ味噌(その1) ※全5部
やっつの首のわるいやつが蒼明お兄ちゃんにドゥーン!!
お兄ちゃんはそれをガシッっとガード。
こんどはお兄ちゃんの番。
蒼明お兄ちゃんは、かがやくパンチでアッパーカット!
パッカーン! わるいやつの首のひとつがふっとんだ!
「いいぞ、やれやれ! やっちまえ蒼明!」
「アクセル全開! インドラ神のように右!」
蒼明お兄ちゃんの右のパンチでわるいやつの首がまたひとつバギャーン!
「やったー! あ、チックショー、また再生しやがる、これで何度目だよ」
「敵も諦めが悪いですね。このまま持久戦に持ち込む気でしょうか。蒼明さんの体力が心配ですわ」
「なーに、あいつなら大丈夫さ。前にあいつは『私はたとえ三日三晩でも戦えます。クイッ』なんて言ってたからな」
赤好お兄ちゃんがお友だちに向かってちょっとフフン。
「海上でも陸に近づけば結構電波って入るんですね。人間の技術ってスゴイですわ」
「あ、僕、知っています。携帯会社が沿岸に基地局を作っていて、海に向かって電波を発することで海岸線から数キロから十数キロくらいは電波が届くようになったって、ニュースで見たことがあります」
「なるほどな、おかげで俺も蒼明にメールが送れたし、あいつの部下がライブ配信している”怪獣 VS ヒーロー大決戦”みたいな動画も見れるってわけか」
「蒼明さんも動画の中で『赤好さんからのメッセージで得心した』みたいなことを言ってましたし、このまま大悪龍王の名を騙る地上の三目八面と夢の中の狐者異を倒せれば、赤好さんは大悪龍王撃退のアシストとして名が残りますよ」
「そいつはいい。メールを送っただけで英雄の仲間入りだなんて、ラッキーにもほどがあるぜ。よっしゃいけ! そこだ蒼明! 今度こそ決めちまえ!」
お兄ちゃんたちはタブレットをかこんで、蒼明お兄ちゃんをおうえんしてる。
ボクたちは今、海の上。
こくりゅうお兄ちゃんの背の上。
遠くに見える町のあかりは四国の高知県。
ボクたちがスカイツリーから出発して二日間、ボクはとってもヒマだった。
『はやく珠子おねえちゃんをたすけにいきたーい』って言っても赤好お兄ちゃんは『今は危ないからダメだ』ばっか。
そして色んな所に電話ばっか。
こくりゅうお兄ちゃんのせなかでのかけっこもあきちゃった。
つまんなーい。
だけどやっとおもしろくなってきた。
ずっと電話とかスマホをみていたお兄ちゃんとお姉ちゃんたちだけど、『なんだかタイムラインがざわついているな』って見始めたのが今の動画。
蒼明お兄ちゃんと、わるーい三目八面とのだいけっせん!
「がんばれー!」
「がんばるポン!」
ボクは友だちのおいてけぼりのホリ君といっしょにおうえん!
ボクは紫君、ヤマタノオロチと鎮魂の女神の末っ子。
緑乱お兄ちゃんに教えてもらったので、鎮魂って漢字が書けるようになったよ!
◇◇◇◇
ピロロロロピロロロロ
赤好お兄ちゃんのスマホが鳴ったのは、蒼明お兄ちゃんがわるーいやつの首を百回ぶっとばした時。
お日さまが水平せんから見えはじめたころ。
「おっ、黄貴の兄貴からだ。兄貴もこいつを見て連絡してきたのかな」
赤好お兄ちゃんがスマホをピッ。
「ああ黄貴の兄貴、こっちは大丈夫だ。平和なもんさ。今は蒼明の動画を見ている。そっちは、そうか、わかった宿毛だな。今から行く」
ピッ
「赤好お兄ちゃん、黄貴お兄ちゃんから何て電話」
「いい知らせさ。”果報は寝て待て”ってな、やっとかくれんぼ珠子さんの情報をつかんだ。彼女は高知からさらに先の宿毛まで行っているらしい。駅のカメラに映ってたそうだ」
「やったぁ! すぐに助けにいこうよ!」
「あわてんな。まずは黄貴の兄貴と合流して、作戦を立ててからだ。”急いては事を仕損じる”てな」
「じゃあ、早く黄貴お兄ちゃんのとこいこうよ」
「ああ、そこを慎重にする必要はなさそうだしな。黒龍、頼む」
赤好お兄ちゃんはボクたちをのせているこくりゅうお兄ちゃんに声をかける。
「はい、振り落とされないよう注意して下さい」
こくりゅうお兄ちゃんのスピードがビューン!
ジェットコースターみたーい、たーのしー!
◇◇◇◇
「ぶー、どうしてこいつらがここにいるのー」
黄貴お兄ちゃんがいるホテルに行って、ボクはぷんすかぷん!
「そうはぶけなさんな。珠子殿、いや人間に危害がおよぶと聞けば儂らが出張るのは当然というもの」
「そういうことさね。”あやかし”同士の覇権だか妖怪王争いだかにはあたしたちは関与する気はないね。だけど、人間に害を成すってなったら話は違うよ。人間に悪夢を見せて、その恐怖を糧に勢力を伸ばすだなんて言語道断さね」
ここで会ったのは、お店にたまにくるお坊さんたち。
たいまそーってやつで、カーッ! ってゆーれいさんたちをゆくえにぶっとばす人たち。
「ありがとよ、珠子さんの捜索に力を貸してくれて、おかげで彼女の行方が宿毛市あたりだって目途が立った」
「礼を言うならこちらもですぞ赤好殿。橙依君からは『……珠子姉さんの精神は夢の中、身体は行方不明、助けるのを手伝って』と連絡があったはいいものの、どうも具体性に欠けておって難儀しておった所じゃった」
「それに大悪龍王が夢の世界へ人間を取り込み、悪夢を見せて力を得ようと企んでるって話も役に立ったさね。おかげでウチの連中はその罠に落ちずに済んでる。あとはあの情報もありがたい」
「俺はみんなの情報をまとめてただけさ。安全な所でな」
どうして赤好お兄ちゃんはこいつらがキライじゃないのかな。
ボクはきらーい。
「『ひとり安全な所で』と言わぬ所が大したものだ。見事な働きであったぞ赤好」
「お言葉ですが殿、赤好殿は殿の弟君、部下ではありませぬ。ここは見事な活躍であったと褒めるがよろしいかと」
「黄貴お兄ちゃん!」
黄貴お兄ちゃんがお共の鳥居さんといっしょにやってきた。
「紫君も元気なようだな。安心したぞ」
黄貴お兄ちゃんはそう言ってボクをガシッと抱えて、たかいたかい。
んもう、ボクはもうそんなに小さい子じゃないんだけど。
でも、たのしいからいっか。
あれ?
「ねえ、黄貴お兄ちゃん。後ろのタヌキさんたちは?」
お兄ちゃんの後ろにはタヌキさんたちがずらり。
「兎狸、竹狸、四月一日! みんなみんなぶじだったポンね!」
「置行堀のホリ! どうしてお前がここにいるんだぬ!?」
「心配でやって来たポンよ!」
ホリ君は黄貴お兄ちゃんがつれてきたタヌキさんたちといっしょにガシッ。
「この狸たちは大悪龍王の悪夢の恐怖でヤツに従っていた者どもだ。我の説得で造反させた。いや、元々隠神刑部殿の眷属であったがゆえに、救い出したという方が正しいかな」
「黄貴様がオイラたちに安心して眠れる寝床をくれるって言ってくれたぬ。ここがそうだぬ?」
「ああ、このホテルは我が貸し切った。あとは結界の出来だが……」
そう言って黄貴お兄ちゃんはお坊さんたちをチラリ。
「何度か顔を見た事はあるが、話すのは初めてかな黄貴殿。拙僧の名は慈道」
「あたしは築善。弟さんの緑乱と腐れ縁でつながってる。結界なら十全さね。ここには観音様の加護があるから安心だよ。」
お坊さんたちは軽く手をふって黄貴お兄ちゃんにあいさつ。
「黄貴の兄貴、俺の眼にもここは大丈夫そうに見えるぜ」
「そうか、協力感謝する」
「いいってことさね。情報の対価としてホテルの宴会場を安心して眠れる場所にするくらいお安いものさ」
「うむ。これで迷い家の中に限らず大悪龍王の夢からの攻撃を受けている者を匿う場所が出来たというもの。それでは、隠神刑部殿の眷属たちよ、あの蒲団へ向かわれよ」
黄貴お兄ちゃんがつれてきたタヌキたちが部屋のおくのおふとんへゾロゾロ。
「橙依、赤好とその友たち。少しの間『耳をふさげ』」
はーい、ボクはりょうてをお耳にぴったん。
「狸たちよ。ここは大悪龍王の術が及ばぬ安全な寝床。さあ、安心して『眠れ』」
ちょっとしか聞こえなかったけど、黄貴お兄ちゃんのやさしい声。
あれ、あれれ、ふわぁああ~
なんだかねむくなってきた。
でも、ここでねむったら、きっとなかまはずれにされちゃう。
だから、ボク、まだねむくないもん!!
パンッ
赤好お兄ちゃんもボクと同じみたい。
おててでホッペをパンッって叩いてる。
「よしっ、気合が入った。兄貴、作戦会議といこうや。”兵は拙速を尊ぶ”って言葉があるからな。俺は一刻も早く待ちくたびれてる珠子さんを助けに行きたい」
「わたくしたちも協力します。そのために来たのですから」
赤好お兄ちゃんとお友だちがおっきなテーブルのざぶとんにすわる。
黄貴おにいちゃんと鳥居さんと、さんびさんも。
お坊さんたちも。
もちろん、ボクもちょこん。
「ではまず、状況を確認しよう。鳥居」
黄貴お兄ちゃんが手を動かすと、鳥居さんがタブレットをスッ。
すると、お部屋の大きなテレビがパッとついた。
あっ、蒼明お兄ちゃん。
「見ての通り、蒼明は大悪龍王、いや現実世界での大悪龍王の名代、三目八面と交戦中。場所は徳島の剣山の西のあたり、四国の中でも特に山々が険しい所だ」
また、テレビの画面がパッ。
これ知ってる! 四国の地図。
そのまん中よりちょっと右に蒼明お兄ちゃんのおかお。
あっ、左下にはボクたちのかお。
「ここが我々の現在地。四国の南西、宿毛市。退魔僧の両名の情報によると、11月4日の晩に駅のカメラに映ったのが女中の最後の足取りだ。下手人はこの女。おそらく”あやかし”であろう」
そこには珠子お姉ちゃんに肩を貸して歩く女の人。
「今日はもう10日だぜ。それからどこかに移動されている可能性は?」
「その可能性は少ないと我は見ている。ソーシャルカメラにそれらしき姿は映っておらぬし、5日から我は隠神刑部殿と協定を結び、四国中の狸たちに女中や兄弟たちの捜索を要請した。その監視網と捜索網を抜けるのは難しいであろう。だが日数が経過し過ぎている。このままだと餓死や衰弱死の可能性もある。一刻も早い救助が必要だ」
テレビのボクたちのとなりにおめめがバッテンの珠子お姉ちゃんの顔がパッ。
「状況は良くねぇな」
「状況はさらに悪い。今しがた連絡が入った。詳しくは大阪の緑乱の所の覚から説明してもらおう。鳥居、頼む」
「かしこまりました。繋げます」
鳥居さんがタブレットをスッと動かすと、テレビがパッと変わって、おかおがうつる。
橙依お兄ちゃんの友だちの覚のお兄ちゃんだ。
『ふっ、待ちくたびれたぜ。悪いニュースと悪いニュースがある。どっちがいい』
「一番いけないやつをくれ」
『オッケー。まず、ヒロイン珠子を救いに行ったプリンス橙依と愉快な仲間たちからの連絡が途絶えて一日が経過した。最期のメッセージは渡雷からの『満濃池の洞窟に囚われている橙依殿を助けに行くでござる』だ』
えー、橙依お兄ちゃんってどうくつに行ってるんだ。
いいなー。
「聞いての通り橙依が満濃池で消息を絶った。瞬間移動で逃げ出さない所をみると、逃げ出せない状況にあるか、もしくは……」
「橙依も夢の中に行っちまったってことか。後ろの緑乱みたいにさ」
「その通りだ。女中だけでなく、橙依と友人たちの救助が必要となった」
四国の地図の上のあたりに橙依お兄ちゃんのおかおがパッ。
「最悪だな。もうひとつの悪いニュースってのは?」
『俺はこのオッサンの心を読んで夢の中の状況を知ってる。夢の中でオッサンは珠子さんと合流して楽しくやってたんだが、今は追われてる。大悪龍王とその手下に』
そう言って覚のお兄ちゃんはねている緑乱お兄ちゃんをゆびさす。
『夢の大悪龍王の正体は、恐怖の化身”狐者異”なんだろ。そいつに捕まっちまったら、きっと言葉では表現できないような恐怖と凌辱と暴虐の限りを受けるだろうな。一生ガタガタ恐怖に震えるくらいの心的外傷を植え付けられるかもしれないぜ。モスト最悪ってやつさ』
うーん、それはやだな。
珠子お姉ちゃんはわらってる方がいい。
そのこわいってやつ、わるいやつ!
「以上が状況だ。次に敵の戦力だ」




