隠神刑部と珈琲(後編)
◇◇◇◇
「と、殿……いささか冗談が過ぎますぞ」
「そうじゃ、そうじゃ、狸が糞を食べさせようとするのは分からんでもないが、この珈琲まで狸の糞から取ったものだなんて……、嘘じゃよな!?」
鳥居と讃美は粗相の跡を拭きながら、我に問いかける。
「冗談でも嘘でもない。鳥居、お前はタブレットを持っていただろ。それを使って検索してみるがよい。”コピ・ルアク”というコーヒー豆をな」
我の声に鳥居はタブレットを取り出すと、それをポチポチと操作し始める。
ここは異空間ではあるが、讃美の持つ迷い家を経由すれば、そこから『酒処 七王子』のWi-fiルータを通じてネットに接続出来るのだ。
蒼明が確立させたこの人類の叡智と”あやかし”の能力の融合は非情に有用だ。
「鳥居殿、どうじゃった? やっぱり嘘じゃったろ」
「嘘だろう。千五百年生きた吾輩が糞を食わされるなんて真実であるはずがない」
鳥居のタブレットに讃美だけでなく、二匹の狸も頭を近づける。
「これは……」
「ええ……嘘じゃろ」
「人間ってのは、人間が人間に糞食わすのか……、しかも高級ブランド豆として……」
「まあ! こっちには象の糞の珈琲なんてのもありますわ」
目当てのWeb情報にたどり着いたのか、みなの顔が歪む。
「ああ、ついでに画像検索もするといい。写真の方がイメージが付きやすいであろうからな」
我の声にふたりと二匹の顔が一瞬こちらを向き、そして再びタブレットに向き直る。
「さ、左様でございましたな、さようで」
「モロに糞じゃ!」
「わ、吾輩が糞を……」
「まあ! 嘘でしょ! あんなに美味しかったのに!?」
コピ・ルアクとはジャコウネコの糞から取った珈琲豆のブランド名。
我もその画像は知っている。
それは、かなり衝撃的な画。
珈琲豆のブツブツが糞の形に固まったような画であるからな。
「このティラミスに使ったエスプレッソと、この珈琲は”コピ・ルアク”という豆から淹れたものでな。お前たちが調べた通り、ジャコウネコが食べた珈琲の実の豆の部分が糞となって出た物だ」
「な、なるほど。じゃが、ジャコウネコなのに狸のアレから取ったとはどういう了見じゃ!?」
讃美の語気が荒い。
ま、無理もないか。
「コピ・ルアクは主にマレージャコウネコの糞から取る。これは英名をAsian Palm Civetと言う。中国語では椰子猫、または椰子狸とも書く。ゆえに、このコピ・ルアクはタヌキコーヒーとも呼ばれておるのだ。ちなみに、同じジャコウネコ科のハクビシンは果子狸と書くぞ」
我は以前に女中より聞いたコピ・ルアクの蘊蓄を披露する。
「この豆の由来は衝撃的かもしれぬが、味は確かだぞ。このティラミスと珈琲は実に美味だ」
我はそう言ってティラミスを口にする。
モムッ、トロッ。
表面のココアパウダーの味は香ばしく、中からとろけ出すようなマスカルポーネチーズと生クリームの味は重くも感じかねないほどの甘さであるが、そこをエスプレッソの苦みが味を引き締めている。
それらが一体となったこのティラミスは満足感をもたらすデザートとして一流品。
そして、芳しくも苦みや酸味が少なくスッキリとした味の珈琲は、料理の余韻を壊すことない一級品。
「……確かに作った妾が言うのも何じゃが、味は良かった」
「……左様、味は良かった。味は」
何か含みのあるような言い方ではあるが、ふたりは納得したようだ。
しかし、隠神刑部はどうであるかな。
「グハハ、グワーハッハッハ!!」
部屋どころか屋敷全体を震わせんほどの重さで隠神刑部が呵う。
だが、目は笑っていない。
「これは東の大蛇の長兄殿に一本取られたわ。まさか吾輩が糞を食わされるとはな。だが、長兄殿はどうして吾輩たちにこれを振舞った。その意図が聞きたい」
返答次第ではタダでは置かぬといった鋭い眼光で隠神刑部が我に問う。
その威圧感は鳥居と讃美が平静を装いつつも、身体をわずかに震わすほど。
「それは最初に言ったではないか、我は隠神刑部殿と対等の同盟を結びたいと。どちらが上でも下でもない、そんな関係を望むのだ。なれば、受けた礼は返すのが同義であり道理というものであろう」
狸らしい糞から取った銀杏を出されたなら、同じく椰子狸の糞より取ったコピ・ルアクを出す。
これぞ同等というもの。
さて、これに隠神刑部はどう出るか。
侮辱を受けたと同盟決裂となるか、それとも……
「なるほど、吾輩が出す銀杏に仕掛けがあると見破り、それに返礼したということか。いや、用意周到な所を見ると、吾輩が狸の糞より取った銀杏を使った料理を出すと予想しておったのだな」
「いかにも。かの高名な隠神刑部殿と同盟を結ぶなら、我の度量と力量を示す必要があると考えるのは王に至る常道である」
我の答えに隠神刑部は少し満足したように頷く。
「よかろう。同盟を結んでやろう」
「肝と金玉の座りようは流石ですな。同盟の締結への合意、感謝致します」
我の差し出す手を隠神刑部が握り合う。
空気はピリリとしているが、同盟の目的を達成し、鳥居と讃美がホッと胸をなでおろす。
「だが、この程度の進物で吾輩の協力が得られるとでも思ったか? 同盟は結ぶとは敵対はしないということ。今日はそれで満足して帰れ」
「いえ、進物はまだあります。讃美、迷い家の中の狸殿をここへ」
「わかったのじゃ」
讃美の手の中の紅い玉が輝き、そこから一匹の豆狸が座布団の上にふわりと出てくる。
スヤスヤと寝息を立てているその狸は、この館の門番を勤めていた者。
「九十九狸!? 門番を勤めていたお前がなぜここに!?」
「まあ! それよりお父様、この寝顔を見て下さい。うなされていませんわ!」
スゥスゥムニャムニャと寝返りを打つ狸の姿は安寧そのもの。
うなされてなどおらぬ。
「寝不足みたいだったのでな、我が午睡をさせた。さて、そろそろ『起きたらどうだ』」
我が言葉をかけると、九十九狸と呼ばれた豆狸は「ふわわぁ~」と大きく伸びをして起き上がる。
「おはようございます。父様。いやぁ、ちょっと昼寝したらスッキリしました」
「九十九狸! お前は大丈夫なのか!? 悪夢を見なかったのか!?」
「あれ? そういえば……、みてない! 大悪龍王の悪夢なんて見てない! やったー! やっとねむれたー!」
尻尾をピンと立て、豆狸は小躍りするように座布団の上をポンポン跳ねる。
「やはりここにも大悪龍王の恐怖に墜ちた者が居たようだな」
「知っていたのか!?」
「ああ、大悪龍王の恐怖の支配方法は大体理解している。各所の情報と赤殿中の発言と症状からな」
この四国に先行して調査に入った蒼明の配下、赤殿中。
その者は大悪龍王の恐怖の支配の手法を見つけた。
そして、蒼明と合流し、共に大悪龍王と対峙したが……敗北を喫した。
「赤殿中……、そうか、あの者が長兄殿に助けを求めたのか。それで赤殿中はどうしてる? 無事か?」
「無論、この迷い家の中で休養しておる」
「そうか、吾輩の息子の心労と、狸の眷属を助けてくれて感謝する。だが、どうやって大悪龍王の恐怖を防いだ? あの夢の世界からの侵略を」
そう、夢。
それが赤殿中が我に伝えてくれた大悪龍王の恐怖の支配の方法。
おそらく、大悪龍王は現世と夢を行き来できる”あやかし”。
夢の中では無敵に近い強さを持つことは想像に難くない。
大悪龍王の支配方法は、夢の中で敵対する”あやかし”たちを打ちのめし、その心に恐怖を植え付ける。
それで自分に従えばよし、従わぬなら現世で直接倒す。
戦いに心は何よりも重要。
恐怖を植え付けられた心では、現世であっても大悪龍王に勝てぬ。
怯え、竦み、萎縮した状態では実力の半分も発揮できまい。
そして、隠神刑部の一族は大悪龍王の夢からの攻撃を受けている最中。
寝れば、夢の中で大悪龍王に恐ろしい仕打ちを受けてしまうのであろう。
だから、あの豆狸の目には寝不足の跡があったのだ。
「夢からの攻撃を防ぐのは容易い。我の未来の配下の能力があればな。千世」
我が迷い家の核に向かって声をかけると、その中から十ばかりの少女が現れる。
「初めまして隠神刑部殿。私は座敷童子の千世。この黄貴様に未来に仕えることになっている」
東北で将来、我への協力を約束をした座敷童子の千世。
だが、今は緊急事態。
それゆえ、我はそれを少し前借りしたのだ。
「隠神刑部殿、枕返しというのを知っておりますな」
「無論。そのような”あやかし”がおることも、そこの千世のような座敷童子が悪戯で行うということも」
「その通り、そして寝ている時に枕を返されると、その者は強烈な悪夢を見ることも知っておるであろう。ならば、その逆も然り」
あの赤殿中もそうであった。
傷の養生のために睡眠を促すと、赤殿中は恐怖に歪んだ悪夢にうなされた。
大悪龍王の夢に導かれる術か呪いでも掛けられているのであろう。
そこで、試しにと座敷童子の千世に協力を求め、枕を返させてみたら、悪夢が消えた。
枕は夢の世界への入り口という話もある。
おそらく、枕が返されたことで、大悪龍王の悪夢と恐怖の世界ではなく、別の夢の世界に行ったのであろう。
普通の穏やかな夢の世界へ。
「なるほど、そしてこれが長兄殿のさらなる進物ということか」
「うむ。大悪龍王の夢の世界からの攻撃から防ぐ術を提供しよう。攻撃を受けておるのはそこの九十九狸殿だけではあるまい」
隠神刑部ほどの大怪狸であれば睡眠を取らずとも問題ない。
だが、その眷属は違う。
”あやかし”とはいえども、狸の生態が残る化け狸たちには睡眠が必要なのだ。
「ふふふ、はははっ、ふあーはっはっは!」
我の言葉に隠神刑部が腹をポンポコ叩きながら大声で笑いだす。
「いやはや、恐れ入った。大蛇のちょうけ……いや、黄貴殿。吾輩の大切な家族の健やかな眠りに勝る進物なし。吾輩のことをよく考えた素晴らしい進物よ」
そう言って隠神刑部は含みの無い笑顔を見せる。
そう、数々の伝承により我は知っている。
この隠神刑部が何よりも家族を、子供たちを大切にしていることを。
八百八狸と呼ばれる日本最大の怪狸の集団。
それらは皆、隠神刑部の子と子孫たちなのだ。
「同等の同盟関係を結ぶ相手だからな。価値観を共有している相手を選ぶのは当然であろう。我も家族や配下を何よりも大切にしている」
「なるほど、なれば吾輩も黄貴殿に協力しよう。差し当たっては黄貴殿の弟君の捜索かな?」
「話が早くて助かる。この四国のとこかに我の四番目の弟の蒼明という者がいるはずだ。大悪龍王との戦闘で傷ついている可能性が高い。その捜索と救助を……」
ブルッ
我のスマホが震える。
普段なら交渉中であるので確認などせぬのだが、蒼明やもしれぬ。
「すまない、少々失礼する」
我はスマホを取り出し、それを確認する。
蒼明ではない、赤好からのメールだ。
…
……
「ん、どうしたのじゃ? 何かまずい報せでも来たのか」
「殿、如何なる文でありますかな」
讃美と鳥居が横からスマホを覗き込み、そして絶句する。
無理もない、これは考えうる限り最悪だ。
それは、女中が夢の世界に居るらしいという報。
女中は大悪龍王の手に落ちたと考えた方がよいだろうな。
そして、女中がそうであるなら、他の弟たちもそれを救おうと参集するに違いない。
この大悪龍王が支配する四国へ。
「隠神刑部殿、お願い致します。この四国に我の配下の珠子という人間が居ると思われます。その珠子と我の弟たちの捜索と保護をお願い致します」
我はそう言って頭を下げる。
「わかった。吾輩の眷属に伝えよう」
「痛み入ります。同盟の証としてここに迷い家の核をお預けします。眷属殿で大悪龍王の夢の恐怖に怯える者はこの中で休息を、我の女中と弟たちを保護した時も、この中に匿ってくれると助かります」
「うむ、そのようにしよう。しかし、黄貴殿、わかっておるとは思うが……」
「ああ、これは時間稼ぎに過ぎぬことは重々承知。元凶を叩かねば意味が無い。そこは我が何とかしよう」
「そうか、黄貴殿の無事を祈っている」
「隠神刑部殿もな。勝利の暁には今度は普通の美味を振舞い合おうぞ」
「ハハハッ、そうだな。それがいい」
先ほどの形式上の握手とは違い、我らは心からの握手を交わし、互いに肩を叩き合う。
「色々ありましたが、まずは無事同盟成立ですな」
「しかし主殿も人が悪いのじゃ。隠神刑部殿の銀杏に気付いたのに教えてくれぬし、コピ・ルアクについても、ただの高級珈琲豆と妾を謀っておったのじゃから」
「左様。さしずめ”敵を騙すにはまず味方から”といった所ですかな。それにしてもよく気付きましたな、あの銀杏の膳が狸の糞から取ったものだと」
「ああ、それはだな……」
そう言って、我はあの悪夢のような出来事を思い出す。
「”敵を騙すには、まず味方から騙されよ”ということだ。だから我は銀杏にも気付いた。怪狸の習性と過去の経験からな」
…
……
「お、おお、そうじゃったか……」
「さ、左様でしたか。それはきっと珠子殿が……」
我の言葉と表情から何かを察し、ふたりはスゴク微妙な顔をした。
「そうだ、我は既に味わっていたのだ。女中の手によってな。このコピ・ルアクだけでなく、狸の糞から取った銀杏の味もな」
『人類と日本の未来の叡智かも! 黄貴様! この試作品の焼き銀杏と珈琲の試食をお願いします! 一緒にお食事しましょ』
などと、とってもいい笑顔で言われたなら断れぬ。
配下の要望を叶えるのも、上に立つものの務めであるからな。
だが、あんなものが出てくるとは思わなかった。
市販されているコピ・ルアクだけでなく、狸の糞から取った銀杏まで供されるとはな。
『いやー、東南アジアに糞からコピ・ルアクが取れるジャコウネコが居るなら、日本には狸が居る! みたいに愛国心を滾らせてみたんですけど、味は普通ですね』
など言いながら、糞より出でた銀杏を平気な顔で食べる姿は恐ろしかったぞ。
きっと、大悪龍王より恐ろしいに違いない。
そんなお前が大悪龍王の恐怖に負けるはずがなかろう。
だから、無事でいるのだぞ、珠子。
しかし、ひとつ解せぬ所がある。
あの蒼明が、赤殿中から大悪龍王は夢の世界で精神に恐怖を植え付けてから現世で攻撃を仕掛けてくると知っていたなら、その策に乗るだろうか。
いや、そんなはずがない。
蒼明なら敵の罠にかかる事を良しとせず、睡眠を取らずに大悪龍王と戦うはず。
だとしたら……、小細工などせずとも|大悪龍王は蒼明より強い《・・・・・・・・・・・》。
大悪龍王は単純な妖力であれば、おそらく我より上。
だが、王たる者はそうであっても戦うと決断せねばならぬ時もあるのだ。
◇◇◇◇
ハァハァハァ……
私は息を荒くして山中を潜むように逃げます。
濡れた服は私の肌にピッタリ張り付き体温を奪う。
時折、ブルッと震えながら、私は秋の様相を示す木々の間を抜ける。
この震えは雨と寒さによるものだと思いたいのですが、違うのでしょうね。
まずは休養を取り、傷を癒さないと。
そう考えながら私は山中を歩きます。
おや? あれは……
森を抜けると、小さく開けた所があり、そこに昨夜の雨と朝日を浴びて輝く廃寺を見つけました。
ちょうどいいです、あそこで休ませてもらいましょう。
ガタリと歪んだ木戸を開け、中に入るとそこは荒れ果てていました。
経机は横倒しになり、お椀のような金属のりんはそれを載せていた丸いクッションと部屋の端と端で別れ、床には石や木片などなどが散乱していました。
そして祀るべき仏象があるはずの一段高い須弥壇は空席。
まごうかたなき廃寺ですね。
やれやれ、休むとはいっても、、この有様では休むに休めません。
軽く、掃除でもして休みましょう。
私は全ての木戸を開き空気を入れ替え、石や木片を除き、仏具を部屋の片隅に整理して、床や須弥壇をタオルで拭きます。
「ふぅ、これで何とか休めそうになりました」
誰に言うでもなく、私はつぶやきます。
何をやってるのでしょうね。
本当なら、廃寺の有様など気にせずに休息を取るべきなのでしょう。
テスト勉強前に部屋の掃除を始めてしまうようなことをやってしまいました。
そして私は床に座り、背中を壁に預けます。
頭から消そうとして消えないのは昨晩の記憶。
私は大悪龍王に敗北した。
天気が悪かったのです。
雨天では私の霧の術は実力を発揮できません。
霧は大地を覆うことが出来ず、私の切り札の、音速の何十倍のもの速度で霧を打ち出すニードルガンも威力は減衰してしまいます。
…
……
いや、違いますね。
天候は言い訳に過ぎません。
私は敗れたのです。
あの八ツの首と紅く光る目を持つ大悪龍王に。
常人が見たならば、間違いなく恐慌状態に陥るほどの、畏れを纏った巨体。
一瞬、父、八岐大蛇かと見誤ったのも良くありません。
それに、赤殿中と四国に棲む狸たち……。
いけませんね、普段なら可愛らしいポンポコたちと呼ぶのですが、そんな余裕が心から消えています。
その狸たちを守ろうとしたのも、良くなかっ……、いいえ良かったのです。
私の決死の攻撃で赤殿中と狸たちは逃げ出せたのですから。
よくないですね、心が乱れています。
無理もありません。
私の最後の妖力を振り絞って、拳を叩きつけての0距離ニードルガン。
手ごたえは十分でしたが、それでも八ツの首のひとつを大きく穿ったに過ぎません。
そして、その大きな傷さえも大悪龍王は短時間で再生してしまいました。
私がそこで逃走を決めたのは正しかったと思います。
それは、決して恐怖に駆られての行動でなかった……はずです。
雨が止み、霧の術で目くらましが出来たのも幸いでした。
何とか逃げられましたから。
ガクッ
いけない! 寝ては!
私は重力に負けて舟を漕ぐ頭を必死に持ち上げます。
赤殿中からこの大悪龍王の支配下で寝た”あやかし”は、大悪龍王の夢の世界に引きずり込まれ、そこで尋常ならぬ恐怖を植え付けられると聞いているのです。
ここで眠ったら、大悪龍王の思う壺。
でも、ここに居ても大悪龍王やその手の者に見つかってしますのではないでしょうか。
どうせそうなるのなら……。
いけません、いけません、私とした事が弱気なことを考えてしまいました。
ブルッ
私は身体を再び震わせて、目を瞑ります。
眠らないように気を付けながら、何も考えずに、ただ頭と身体を休ませるのです。
そう私自身に言い聞かせるように、震える身体を丸く縮めます。
でも――
ああ、怖い……、怖い……、こわい……
この恐怖を掃う何かが欲しい……。
誰か、たすけ――――――。




