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あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~  作者: 相田 彩太
第八章 動転する物語とハッピーエンド
200/409

安達ケ原の鬼婆とどぶ汁(その2) ※全6部

◆◆◆◆


 「えー、ダブルブッキング!?」

 「はい、申し訳ありません。本日は二本松提灯祭りということもあり、お客様の部屋を確保することが出来ませんでした」

 

 ホテルのロビーでおねえちゃんがびっくりした声をあげてる。

 ダブルブッキングって、ホテルに泊まれないってことかな?


 「ま、しょうがねぇ、よくあることさ。で、女将さん、代わりのホテルか旅館は手配してくれたのかい?」

 「それが……誠に申し訳ありませんが、どこもいっぱいで……、費用はお返ししますし、商店街の商品券をつけますので、ここはそれでご容赦を……」


 シュンとした顔でホテルのお姉さんは頭を下げる。


 「しょうがねぇな。今日は野宿としゃれこむか」

 「そうですね。私は慣れていますし」

 「ダメです! このエロオヤジとエロ主人公と一緒だなんて! 紫君(しーくん)だけです、このパーティの良心は!」

 「おや、私では不満だと」


 あっ、またアゴクイッってやつだ!


 「ふえぇ、そんなことは……、ダメに決まってるでしょ! 実方さんは女性に不誠実すぎます! なんですか! この東京から二本松までで3回プロポーズして、3回プロポーズされて、7回離婚されるってのは!?」

 「いやいや、最後の1回は余分では? あれは相手が勝手に結婚してたと思っていて、なぜだか離婚届を突き出されただけですよ」

 「そうなること自体がおかしいんです! 日頃の行いってやつですよ!」

 「い、いや、歌人としてフラグを立てたり伏線を張ったりするのは性分みたいなもので……」

 「思わせぶりなことをするのが不誠実なんです! わかったら宿を探して来て下さい。ガイドなんですから」


 珠子おねえちゃんのスゴイ顔におされちゃって、人間スズメさんは「う、うむ」と言って出かけていった。

 

 「ま、そんなにツンツンしなさんな。ここは商店街の券をもらって食べ歩きか土産物でも物色しようぜ。祭りの夜まで時間はあるからさ」

 「ボク、おもちゃかいたーい」

 「しょうがないですね。ここで揉めるのも何ですし、あたしたちだけでも宿を探しつつ観光しましょう。ここは何かと他の女性の目が痛いですし」

 「へぇ、そうかねぇ。俺っちは何も感じないぜ」

 「デリカシーが無いオジサンはそうでしょうけど、女には女にだけわかる視線ってのがあるんですよ」

 

 そう言って珠子お姉ちゃんはフゥとためいきをつく。

 そういえば、珠子おねえちゃんに、あつーい気配を送っている女の人がいるよ。

 これって、ジェラシーってやつかな。

 それだけ元気があるなら、ちょっと吸ってもいいかな?

 えー、ダメなの。

 珠子おねえちゃんのケチ―。


◆◆◆◆

 

 「人がいっぱいだね」

 「今日、明日、明後日と二本松提灯祭りが開催されますから。ダブルブッキングがおきちゃうくらい」


 大きな道は人がいっぱい。

 ちょうちん祭りだって。

 

 「いよっ、かわいい坊ちゃんに旦那さん。お土産に人形はいががだが? おらの婆の手作りだよ」


 大通りの中でお店の人が、ボクたちに声をかけてきた。


 「うわっ!? なんでい、その不気味な人形は」

 「うえー、ちょっとかわいくない。ボクはオニババよりお姉ちゃんのお人形の方がいいよ」

 「うーん、白髪に角、恐ろしい形相。鬼婆の人形ですか?」


 お店の人が見せてくらた人形はぶきみ。


 「そうそう、これは黒塚で有名な鬼婆の人形。知っとう? 『安達ケ原の鬼婆あだちがはらのおにばば』って話」


 ううん、しらなーい。

 ボクたちは首をふる。


 「そっが、んじゃ教えるだ。『安達ケ原の鬼婆』はこの二本松さ()んでだづー老婆の話だ。さっ、はじまりはじまりー」


 どこからか台とイス、それと紙しばいを取り出して、お店の人はボクたちを席にすすめる。


 「おっ、面白そうじゃねえか。どうせこの人出じゃ代わりのホテルも見つかりそうにないし、ちょっと休憩していこうぜ」

 「しょうがないですね。宿探しはどこかに飛んでった実方さんに任せて。あたしたちは観光を楽しみましょうか」

 「わーい、かみしばいたのしみー」


 パチパチパチパチ


 …

 ……

 ………


 「あれ? はじまらないよ」


 そう言ってもお店のおじさんはニコニコわらうだけ。


 「こりゃあれだな。俺っちも昔やってた紙芝居と一緒で、飴かなんかを買わんといかんやつだ」

 「そうみたいですね。んじゃ、あのクリームボックスを4つ」

 「へへっ、旦那さんと奥さんは話が早ぐて、助がります」


 お金を受け取って、ボクたちにわたされたのはクリームがいっぱいにぬられた食パン。


 「これがクリームボックス?」

 「そうよ紫君(しーくん)。福島名物、クリームボックス! それは厚切り食パンにミルククリームをたっーぷりぬったくった菓子パンでーす! 郡山(こおりやま)が発祥だけど、今や福島県の名物なのです。この二本松は郡山と同じ中通りにあるから比較的伝播(でんぱ)するのは早かった方じゃないかしら」


 むっしゃむっしゃと、お口のまわりにクリームをちょっとつけて、珠子おねえちゃんは食べながら話す。


 「相変わらず食い物に関しては詳しいねぇ。ムグムグ。おっ、甘えがイケるじゃねぇか」

 「すごーい、だべものしりー」


 ボクもちょっとおくれてクリームボックスをパクッ。

 口のなかにはミルクのあまーい味と、ふかふかの食パン。

 ふっかふかすぎて、おくちのまわりにクリームがついちゃうくらい。


 「あまーい、おいしー、これってミルキーな味っていうんだよね」

 「気に入ってもらえてよかっだだ。でわ、ごんどごぞ、『安達ケ原の鬼婆』のはじまりはじまりー」


 パチパチパチ―


================================================================


 時は奈良、元号は神亀(じんき)、大仏で有名な聖武天皇の治世。

 都の高僧、東光坊阿闍梨祐慶とうこうぼうあじゃりゆうけいは仏の教え広めっぺど諸国を旅しておった。

 こご安達の地に訪れだ時、とある岩屋さへと宿を求めだ。

 そごさは老婆が住んでおり、祐慶を歓迎しただ。


 げんとも老婆は祐慶にひと言。

 『奥の間だげは決して覗がぬように』

 そう言い残すと老婆は薪取りに外さへ出かげただ。


 さで、祐慶は気になった。

 見ではならぬで言われだなら、見だぐなるのは人間の(さが)

 仏の道進むべどする祐慶であっても、未知の探求づー誘惑には勝でず、ついに部屋のぞいでしまっただ。

 するどそごさは……なんと人の髑髏(どくろ)がゴロゴロど転がっでいるでねぇが!

 たまらず目ぇ背げだ祐慶の瞳さ映ったのは、今にも包丁振り下ろすべどする、おっかねぇ鬼婆の姿!

 それは表情ごそ違えども、あの老婆だっただ。


 『びえぇー! おにばばじゃー!!』


 祐慶は全力で逃げ出しただ。


 『むわぁーでー』


 だども老婆、いや鬼婆は全力で追いがげで来るだ。

 その足の速えごど速えごど。


 『ああ! これでは逃げ切れない! 御仏よ! 我を救いたまえ!』

 

 されど祐慶も御仏の教え伝え歩ぐ高僧。

 最後まで希望さなげず、御仏さ祈り捧げただ。

 するど、その祈りが天さ通じだのが、天がにわがに明るぐなった。

 祐慶が天見上げるど、そごさは神々しい観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)様の姿が!


 観世音菩薩様の巨大な手が安達太良山の(まゆみ)の木さ触れるど、それは弓と矢へど変化しただ。

 

 オン! 

 

 ありがでえお言葉ど一緒さ放だれだ矢は、鬼婆さ射抜ぎ、『グウェッェエェエエー!!』と鬼婆は倒されただ。


 祐慶は観世音菩薩様さに深ぐ感謝するど、鬼婆の亡骸を手厚ぐ葬った。

 そごは黒塚(くろつか)ど呼ばれ、今でも鬼婆の亡骸が眠るど伝えられておるだ。


 観世音菩薩様が使った(まゆみ)の木は、後々、真弓(まゆみ)ども書がれるようになり、弓さ適した木どして、その名を都中に響がせるようになった。


 その後、祐慶はこの地さ観世寺(がんぜじ)を建て、この鬼婆のお話は”安達ケ原の鬼婆”どして語り継がれただ。

 平安の世になると、安達ケ原に鬼婆がいたという話にちなんだ和歌が平兼盛(たいらかねもり)によって詠まれどる。


 『陸奥(みちのく)の 安達の原の 黒塚に 鬼こもれりと 聞くはまことか』


 これは安達ケ原の鬼婆伝説が、ながーいながーい昔から語り継がれた証拠なのだべ。

 そして、この伝説は今も語り続けられているだ……


================================================================


 パチパチパチー


 「おもしろかったわね。でもちょっと意外性が足りないかしら」

 「うん、もうちょっとひねりがほしいー」


 お店のおじさんのお話はおもしろかったけど、お話の流れはふつうだった。

 ボクたちの感想にお店のおじさんは「そっが、じゃ次回はもうぢっと工夫すんべか」なんて言った。


 「腹もふくれたし、宿探しを再開すっか。できれば祭りの夜の部が始まる前にみつけてぇな」


 ボクたちはイスから立ち上がって、お店のおじさんに手をふる。


 「ばいばーい、おいしかったよー」


 お店のおじさんの前にはいつの間にか人がいっぱい。

 おもしろいお話によってきたのかな。

 クリームボックスもいっぱい売れていて、ホクホク顔。


 「おきゃくさーん、よかったら明日も来て欲しいっべ。また別のを仕入れておぐがら」


 そんな人ごみの中から、お店のおじさんは手をふっていた。


◆◆◆◆


 ピンピンッヒャララピンヒャララ


 お日さまはすっかり落ちて、あたりはまっくら。

 だけど、ボクたちの前の道に光が近づいきて、フエとタイコのおはやしが聞こえてくる。

 その音にのってやってきたのは、ちょうちんでいっぱいの車。


 「うわーきれー、ちょうちんがいっぱい」

 「こりゃ見事な太鼓台(たいこだい)ですね」


 ちょうちんの中では炎がゆらゆら。

 ボクのともしびににている。


 「しっかしまぁ、これだけの提灯が全部ローソクだとはねぇ。嬢ちゃんなら『人類の叡智! LED照明の勝利ですっ!』とか言ってLED電球に変えちまいそうなのにな」

 「あたしだって伝統の大切さくらいはわかりますよ。このお祭りはローソクの炎だからいいんですよ。心に()みます」


 ボクたちの前をちょうちんがいっぱいの台車がいくつも通ってく。

 最後のちょうちん台が通って、それがだんだんと小さくなっていく光はきれい。


 「いい祭りだったな。明日も見物しようぜ。明日は昼からやってるんだろ」

 「ええ、このガイドブックによると二本松提灯祭りは10月4,5,6の三日間開催されます。明日の10月5日は昼間に太鼓台が市内を巡りますので、それを見物しましょ。夜は各町内を巡るみたいです」

 「そっか、じゃあ早めに宿を見つけねぇとな。まだ残暑は厳しいが、東北は夜になると冷えるからなぁ」

 「そうですね、素泊まりでもいいから見つかるといいですけど」

 「昔なら木賃宿(きちんやど)の相部屋でも潜りこみゃよかったんだけどな」


 だけど、おやどはみつからなかった。

 理由の半分は珠子お姉ちゃんがいっぱい食べ歩きしたせい!

 残りの半分はボクとおにいちゃんがいっぱい食べ歩きしたせい!

 おいしかった!

 

 「もし、そこの旅の方、宿をお探しかいな?」

 

 そんなボクたちの後ろから、おばあちゃんの声がする。


 「ええ。もしかして空いている部屋があるんですか?」

 「ああ、岩屋の中のあばら屋じゃがな」

 「うわぁー、お値段も安い! ここにしましょ」

 「ま、しょうがないか。実方のやつにはメールでもしときゃ合流できるだろ」

 「岩屋ってどうくつだよね。ぼうけんみたいでボクたのしみー」

 「そうかそうか。ほな案内するでな」

 「はーい、おねがいしまーす」

 

 やったー! おやどがみつかった!

 珠子おねえちゃんは元気よくおばあちゃんの後についていく。

 もちろんボクとおにいちゃんも。

 でも、いいのかな?

 あのおばあちゃんは人間じゃないんだよね。

 でも、おにいちゃんもおねえちゃんも気付いていないみたいだし……。

 あのおばあちゃんは、だいじょうぶだから……

 ま、いっか!


◆◆◆◆


 「ここが婆の岩屋や」

 「へー、洞窟の中に小屋が入っているなんて、おっしゃれー」

 

 おばあちゃんにあんないされたどうくつの中には家があって、その中にボクたちは入る。


 「こっちがあんたさん方の部屋、あっちが(かわや)じゃ。外の井戸と土間の(かまど)は自由に使うてええ」

 「井戸と竈だなんてえらく古風だねぇ」

 「きっとそういうコンセプトのお宿なんですよ」

 「おねえちゃんなら、かまどでもだいじょうぶだよね」

 「もっちろーん。これくらいそろっていればどんな料理でもつくっちゃうわよ」


 やっぱり旅行中でも珠子おねえちゃんはお料理好き。

 かまどを見てウキウキになっているんだもん。

 ボクもウキウキ。


 「じゃが!」


 わっ!? びっくりしたー。

 おばあちゃんったら急に大声出すんだもん。


 「奥のあの部屋だけはのぞいたらあかんぞ!」


 おばあちゃんの指の先にはしょうじで仕切られた部屋がひとつ。

 あれ? どっかで似たような話がなかったっけ?


 「え、ええ、わかりました」

 「ああ、俺っちも無用のトラブルは避けてえからな」

 「うん、みないよー」

 「わかればええ、婆は薪を拾いに行くでな」


 おばあちゃんはそういうとヒッヒッとわらいながら出ていった。


 …

 ……

 ………

 

 ボクたちは部屋の中でゴロゴロ。

 そして、あの部屋をチラチラみている。

 ……見ちゃいけないって言ってたけど、やっぱ気になるよね。


 「うえっへっへっ」

 「うっふっふっふふふ」


 ふたりも同じ気持ちみたい。


 「あーふたりともイケない顔してるー」

 「そんなつれないことを言うなよ。紫君(しーくん)だって気になるだろ」

 「きっとこれは”安達ケ原の鬼婆”のコンセプトホテルですよ。見たら中にはきっとプラスチックの骸骨があって、『みーたなー』って、あのおばあさんがおもちゃの包丁で襲ってくるに違いありません」


 ふたりはそろそろと奥の部屋へ。


 「いけないんだよー、ボクは止めたからねー」


 そうは言ってもボクも気になる。

 だからついてっちゃうもん。

 

 ガラッ


 「おっ、やっぱり嬢ちゃんの言った通りだぜ。骨がいっぱいだ」

 「集客にはこういうのが必要ですからね。ほら、この手触り本物の骨みたい……」


 そう言ってドクロを持ったお姉ちゃんの動きが止まる。


 「本物みたい……本物……」


 コンコン


 これはお姉ちゃんがドクロを叩く音。


 「こ……、これはきっと牛とか豚とかの骨の加工品で、ですよ。あたしは詳しいんです! こっちなら間違えようがありません。あたしは詳しいんですから!」


 おねえちゃんはドクロを置いてワンワンが大好きなふっといホネを持つ。


 …

 ……


 「お、おい、じょうちゃん何か言ってくれよ。そいつは牛の大腿骨(だいたいこつ)だろ? ひょっとしたら豚かい? いやいや羊かもしれねえなぁ? ほら福島は畜養も盛んって話だったし。おっ、ひょっとしたら狸とか狐とかのジビエじゃないか? そうだろ、うん、そうだと言ってくれ嬢ちゃんよ」

 

 ホネをじっと見つめるお姉ちゃんにお兄ちゃんが不安そうに声をかけている。


 「ね、ねぇ、緑乱(りょくらん)おじさん……知ってたら教えて欲しいんですけど」

 「な、なんでい?」

 「この骨って明らかに霊長類のものですけど日本猿にしては大きすぎるんです……」

 「ほ、ほう、それで?」

 「……日本にゴリラかオラウータンって生息していましたっけ?」


 そしてふたりはこっちを向いて……


 「「☆%彡~! もげへぇばうぶばぁー!?」」

 

 変な声を出した。


 カッ! スパッ!


 そんな音がきこえて、後ろのしょうじがナナメにスパン!

 見えたのはほうちょうを持っているおばあちゃんの姿。


 「みぃたぁなぁー!」


 でも、さっきとちがって怒っている顔でツノが生えてる。

 つよそう!


 「さっ、最近のおもちゃにしては鋭い切れ味ですね。が、玩具安全検査基準は、み、みたしているのでしょうか?」

 「しっかりしろ嬢ちゃん! ボケてんじゃねぇ! まっ……まどからにげんだよー!」

 「はっ、はいー! 紫君(しーくん)も早く、こっちこっちー!!」


 ガラッと窓を開けてお兄ちゃんは外へ。

 窓からのびた手がボクとお姉ちゃんをひっぱりだす。

 

 「よっしゃ、にげっぞ!」

 「ええ! すたこらサッサーですよ!」

 「わーい、おにごっこー!」


 窓から出たボクたちは、そのまま走る。

 だけど……


 「むうわぁてー! あれを見られたら生かして帰してなるものかー!!」


 おばあちゃん足はやーい!

 学校の友だちが持ってきた妖怪の本にターボババアとかダッシュババアとかいたけど、その友だちかな。


 「ぢょ! まずいですよ緑乱(りょくらん)おじさん! このままじゃ追いつかれちゃいます!」

 「ん゛な゛こと言っても、どうしようもねぇ! おじさんは弱ぇんだよ! 四十肩なめんな! モロサーにはわからないだろうがよ!」

 「ちょ、あたしはまだ誕生日を迎えていませんから! まだアラサーですから!」

 「そ、それよりこのままじゃ、やべぇぞ! あれ、あれ、あれがあっただろ! この前に築善尼(ちくぜんに)からせしめた護符が!」

 「そういえば! 椿餅(つばきもち)のカタに頂いたものがありました! 買えばすっげー高いって話の邪悪を(はら)う霊験あらたかな護符が! しかも、あたしでも使えるマニュアル付き!」


 ガサゴソとリュックをあさって、おねえちゃんはいーっぱいのお札と紙を取り出す。


 「よしつ! 神様仏様、いや仏様仏様! どうか珠子をお守り下さい! えいっ!」


 バラバラに投げられたお札は、ひらひらじゃなくって、まっすぐにおばあちゃんに飛んでいった。

 そして、お札はクルクルクルとおばあちゃんの周りをキレイな円の形に回ってる。


 「あっ!? おばあちゃんの動きが止まったよ」

 「築善尼(ちくぜんに)のやつ、さすがじゃねぇか!」

 「よーし、なになに『お札を”あやかし”に投げつけたらポーズを決めて決め台詞!』ですって。やっちゃいますよー! あたしは悪い”あやかし”には容赦はしないんですから!」


 そうしてお姉ちゃんはうでをぐるり。


 「如意輪(にょいりん)救世力(ちから)を借りて! 今、入滅の! (サン)あたーっく!」


 おねえちゃんの声に合わせてお札はピカーっと光って、大きな柱みたいなのを作る。


 「おいおい、光の柱の中に仏さんが見えるぞ。ありゃ如来じゃねえのか!?」


 光の柱の中にはピカピカした大きな仏ぞうっぽい姿。


 「大日(ダイニーチ)くらーっしゅ!!」

 

 おねえちゃんのかけ声といっしょに、その大きな仏ぞうは落ちてきて、おばあちゃんをプチリ。


 「ぐう゛ぇぇぇぇー!」


 そして、おばあちゃんは光の中に消えていっちゃった。

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