表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身よ青に染まれ  作者: 璃依
第一話
1/8

沙良と文也1



――最悪だ。

雨粒が、容赦なく全身を叩く。家を出るときは晴れていたのに、今はもう土砂降りの雨だ。お気に入りのフレアスカートはぐっしょりと濡れ、足にまとわりついてくる。


 本当は、楽しく喋りながら帰る予定だった。なのに、それが叶わなかっただけでなく、こうして大雨に見舞われている。

水滴が目に入るのが煩わしい。早く家に帰りたい。散々な気分を、いつもより熱めのシャワーで洗い流してしまいたかった。


 そうして、足を早めたときだ。


「――わっ」


 ほとんど前を見ずに歩いていたせいで、早足で小路から出てきた人影にぶつかってしまう。

ごめんなさい、と口走りながら顔を上げると、相手の顔が間近にあって、私は息をのんだ。

目にした誰もが見惚れてしまうであろう美貌が、そこにあったからだ。


 まるで、宇宙をのぞき込んでいるかのような紺色の瞳。水を含んで張り付いた黒髪は、耳を半分以上も覆っている。

身長は、相手のほうが数センチほど高いようだったが、中性的な顔立ちのせいで、十七の私よりも幼く見えた。


「大丈夫か?」


 声は落ち着いていた。口調からして、少年だろうか。

私は慌てて頷くと、一歩下がって頭を下げた。


「ごめんなさい、前見てなくて……」


 相手は無言で首を横に振ると、私に背を向けた。雨でよく見えなかったが、少年の着ているのが鮮やかな青色の服だということは分かった。

随分と目立つ色だと思い、そこでようやく、少年も傘をさしていなかったのだと気付く。

私は我に返ると、鞄からハンドタオルを取り出した。防水性能がついているおかげで、鞄の中身は濡れていない。


「――あの」


 少年の背に声をかけると、歩みが止まった。首だけで振り返った彼に駆け寄り、私は少年の手にタオルを押し付けた。


「これ、使って」


 反応を待たずに駆け出す。少年に呼ばれたような気もしたが、私は振り返らなかった。降りそそぐ雨は冷たいのに、頬が熱い。


――ぶつかったのが自分の不注意だとしても、謝ってそれで終わり。いつもの私なら、きっとそうしていたはずだ。

見知らぬ少年にタオルを渡すなど……普段なら考えられないことで。


 何故、なのだろう。少年の見た目が、信じられないほど整っていたからか。

それとも――遠ざかる背が、どことなく寂しそうに見えたからだろうか。


 家にたどり着いて、湯に浸かりながらも、私の頭からはあの少年のことが離れようとしなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ