買い食い
カナタたちはせっかく王都に来たのだからと大量の食料を買い溜めした。カナタとアリスは内部時間の停止するアイテムボックスを持っているので荷物が増えることにデメリットは無い。
さらにアリスがただ買い物に行くのではつまらないといいだして各々別れて好きなものを買い漁った。
そして今はそんな買い物も終えて、宿屋で早めの夕ご飯を食べている。今日のメニューは野菜中心で野菜炒めや甘辛く味付けされたスープに歯触りのいい根菜が入っていたりする。小さな小鉢にはほとんど生の肉が盛られていて、これは新鮮な肉だからこそできるメニューなのだろう。この宿屋がどこから肉を仕入れているのかはわからないが、皆美味しく頂いて大満足の食事であった。
「うむ。ではそろそろ儂が買い物できなかった訳を話そうかのう。」
皆の食事が少し進んで腹に物が納められたことで落ち着いて話を始めるヤクモ。彼女だけが今回の買い物で何も買ってこなかったのだ。そして本人はトラブルに巻き込まれたという。カナタたちはその話を楽しみにしつつ、食事に手を伸ばしながら耳を傾ける。
「最初は儂もカナタたち同様に出店を回って買い物をしようと思って街を回っていた。しかし道の隅の方で泣いている子供がおってな、周りに居る者たちは遠目に見ているだけで誰も助けに入らないし、このままでは状況は変わりそうもなかったから儂が声をかけた。」
ヤクモ曰くその子供は親と逸れて迷子だったらしく、どこらあたりで逸れたのかなどの話を聞きながら街の中を親探しのために歩き回ったらしい。そして数時間ほどで親を探し出したらしい。
「その後は少しでもお礼をと家に招かれたから子供と一緒に茶を貰って飲んでいた。だが突然家の扉が開いてな、数人の男どもが入ってきおった。この親子には父親が居なくて亡くなった時に借金をしていたらしくてな、今では取り立てが激しくなってこうして勝手に家に入ってくる始末だと言っておった。」
「なんか面倒な奴が出てきたな。というか、なかなかに小説やアニメなんかにはよくある話だな。」
「儂もただ借金をして払えないだけなら可哀そうだとは思うが口を出す気はなかった。儂とて神や菩薩ではないからのう。誰彼構わず手を差し伸べてやれるほどの器量はない。ただよく話を聞いてみるといろいろ怪しい話が出てきてな。」
ヤクモが勝手に入って来た借金取りと母親の話を黙って聞いていると、どうやらこの母親は既に借りた額と同等にはお金を返し終えているらしい。ただ、支払いにかかった年月が増すごとに払わなければいけない額も増えてしまい、未だに全然返せていないというのだ。
「まあその後は儂が【鑑定】スキルを使って情報の精査と取り立てに来ていた輩と繋がる人間の背後関係を調べて、悪どい商売をしていた組織を数件潰した後は街の衛兵に引き渡して漸くこの場に戻ったというわけだ。」
どうやら親子の父親はその組織が裏で手をまわして殺害していたらしい。毒殺に呪殺、さらには魔法とカナタたちが今まで居た世界では身近になかったことだけに、ヤクモの話を聞くと人はそこまでするものか、と美味しいご飯を食べていい感じに上がっていた雰囲気に少し影が差す。
「まあ気持ちのいいトラブルとは言えないがのう、全てを終わらせて再び親子の元に戻ってから儂が調べた真実を話した。子供の方には話をぼかしたがのう。だがその時に母親は目に涙を溜めながら何度も礼を言ってくれたし、子供の方は『悪いやつをやっつけてくれてありがとう』と良い笑顔を見せてくれおった。儂はそれだけでいい報酬を得たと思っておる。」
「ヤクモナイス!私たちは聖者でも悪鬼でもない。一般人と私たちとでは流れる時間の感覚も違うし私たちは”ただ吹き抜ける風のようなもの”。善悪の感じかたはそれを見る人間の見かたや立ち位置によって逆転する。だから私たちは自分たちの感じたように動き、気の赴く方に味方する。私はヤクモの判断は間違ってないと思うし、悪人は死すべき!」
「アリスさん、私も概ね同意ですが発現が過激です。」
アリスは実体験から人1倍人間の負の面を理解している。そしてこの世界では判断の遅れや迷いは自身を危険にさらす。まあ、そんな理由が無くてもアリスの判断は早い方だが、抗う力を得た今のアリスはこういった人種に対して容赦はないのだ。
「アリスの提案で分かれて散策したのが結果的に功を奏した訳だな。欲を言うならそんな悪人は発生する前に潰したいけど、まあそれは流石に無理だから被害者をこれ以上出さなくなっただけ良かったと納得するしかないよな。ヤクモもお疲れ!」
「うむ。偶然とはいえ良き出会いだった。この国の上に立つ者達はしっかりしていると思うしまともな奴らだとも思うが流石に国の隅々まで目が届くわけはないか。こういった事はできるだけ減ってほしいものだがのう。」
話を聞きながらもカナタたちの晩御飯は既に終わっていた。アリスは食後の血の摂取を行い、他の面々は食後のデザートの果物を食べてくつろぐ。1人だけしゃべり続けたヤクモは今はゆっくりと食事を食べている。
「失礼いたします。私、セルナント王国第7師団、第7位騎士のアルクーマモントリスと申します。皆様方はカナタ様のパーティーの方々でお間違いないでしょうか?」
突然現れたのは全身甲冑のフルプレートアーマーで武装した騎士だった。その鎧は白銀に輝きとてもかっこいい。カナタは本物の騎士を間近で見て目を輝かせていた。それはもう騎士の鎧に負けないほどに輝いている。アリスたちはそんなカナタに気が付いてやれやれと額に手をやる。アスカだけはこんな状態のカナタを始めて見たので面白そうにその姿を眺めていた。
だが、ずっと醜態をさらしているわけにもいかない。アリスとヤクモが少し目に力を込めてカナタを正気に引き戻した。
「あ、ああ俺がそのカナタです。王国騎士という事は会議の件かな?」
「はい。話がまとまりましたので明日王宮へお越しくださいとのお達しです。ご都合は大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。期限的にも最初に話していた通りの期間で話はまとまったみたいだし、こちらもそれに合わせてスケジュールを組んだからね。明日王宮へ向かわせてもらうよ。」
「畏まりました。ありがとうございます。ではその旨を王宮の方々に伝えますので私はこれで。」
「アルク―マモントリスさん、で合ってますかね?食事は済んでますか?よろしければ一緒にいかがですか?」
「はい。呼び難いようでしたらアルクとお呼びください。お心遣いは有難いのですが今は職務中ですのでお断りさせていただきますね。」
「そうですか。引き留めてしまって申し訳ない。ではアルクさん伝令をよろしくお願いします。」
「はい。では失礼いたします。」
アルクは現れた時と出ていくときの2回ほどノルンたちに視線をやったが何も言わなかった。街を歩いている時も最初はいろいろな視線にさらされたり小声でヒソヒソ話をされていたが、今では住民たちも慣れたのかそういった事は少なくなった。まあ完全に無くなることはないだろうが...
因みに今回時間の指定をされなかった。こういう場合はどの時間帯に来てもいいという事になっているらしい。ちゃんと勉強会で得た知識は役立っていた。
「みんなも聞いた通り明日王宮に向かうよ。今回は少し厄介そうだし警戒は切らさないようにしよう。でも他国へ行くんだし道中にも目新しいものもあると思う。適度に集中しながらいつも通り楽しんでいこう!」
「「おーう!」」
「がる!」
「こん!」
「えっと、それでいいんですかねぇ?王族から直々の依頼ですのに......。」
カナタたちは翌日の昼前に着くように王宮に向かう。特に急ぐことも無いので辺りの屋台にも顔を出して買い食いをしながら進んで行った。
こと、王都のカナタたちが暮らす宿屋付近ではノルンたちは今では恐怖や嫌悪の視線ではなく、違う意味で注目を集めている。2匹の愛らしさと賢さが徐々に知れ渡ってたまにお菓子を貰ったり、肉を貰ったりと街の住人から良くしてもらっているのだ。屋台の親父もノルンたちの分はサービスしてくれる。最初はちゃんとお金を払っていたのだが、最近ではノルンたちに与えるために商品を買っていく客が増えたとやらで親父からサービスが始まった。いくら断ろうとしてもそれでは俺の気が済まないからと無理やり受け取らされて今に至ったのだった。
「王国以外の4大国家から来る手練れたち。どんな奴らなんだろうな?」
「分からない。でもレベル100越えなら視てみたい。」
「それに他国の料理もいろいろ買い漁っておかないといけないぞ。今回の旅はなかなかに忙しくなりそうだのう。」
「全く皆さんこれから国の未来を左右する会議があるというのに落ち着きすぎですよ!私なんて今から心臓の鼓動が聞こえるくらいに緊張しているのに。」
昨日から一般的な感覚が残っているアスカだけが心労を重ねていく。とはいえ、言うほどアスカ自身も気にしたような表情はしていない。カナタたちと共にいることで多少の事では動じないように意識的に”改造”されているのだ。
カナタたちはいつものように気楽に話をしながら街を歩いていく。しかし今日は、その呼吸、視線、更に気配に至るまでが周囲を探るように動いている。本人たちは本当にリラックスしているしこれらの事を行っても疲労すらしない。これはダンジョンで身につけた技法で当時はこの状態を維持するだけで玉の汗をかいて呼吸を荒くし数10秒ももたずに倒れていたほどだった。それが毎日の鍛錬とレベルアップで得た肉体によって今では日常的に行う事が出来るまでになった。
ただこの状態はほんのわずかだが周囲に魔圧を放ってしまう。最初は魔圧どころか自身の持つ能力を全開にした状態で漸く維持できていたものをここまで濃度を薄めて使用できるようにした。したのだが、まだ完全に周囲に影響がないまでに魔圧を消す事が出来ないため普段のカナタたちはこの状態では暮らしていないのだ。
とはいっても相当勘のいい人間でない限りカナタたちが放つ魔圧を感じ取ることが出来ないので、そこまで気にしなくてもいいのだが。
因みに残念ながらアスカだけは修行の時間が足りずにここまでの技術を会得は出来なかった。
と、まあ他愛無い話をしながらもカナタたちは王城に辿り着いたのだった。
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