有効活用
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「というわけで戻ってきました、懐かしのダンジョンです!」
「帰り来るは愛しのまいほーむ!あぁ、お外になんて出たくない!」
「......お主らの寸劇にワシはもうだいぶ慣れたが、今はアスカもここに居ることをもう少し考慮した方が良いのではないかのう。突然ここに連れて来られたことに上乗せしてお主らの奇行に全く理解がついてきておらんようだぞ。あそこで固まっておる。」
カナタたちはアリスの提案でアスカを鍛えるために神々のダンジョンに戻ってきた。ここを出る時にコアに説明されたが、カナタやアリスはダンジョンコアと契約で繋がっているため心の中でダンジョンコアに問いかけたらすぐに返事が脳内で響いた。カナタたちはそのまま要点を告げて今泊まっている宿屋に転移ゲートを開いてもらうことで即座に帰還した訳である。
とはいえ、ここまでの事を『はいそうですか』と納得できる訳がないのが約1名いたわけで、アスカは自身の目の前で超スピードで進められていく異常現象を目の当たりにして声も出せずに固まっていた。アスカは最初に説明を求めたのだが誰も答えてはくれず、ノルンたちですら主人たちと同じようなワルい雰囲気を漂わせている始末で、アスカのリアクションを見て楽しんでいた。残念ながらこの場にアスカの味方はいなかった。
転移ゲートが突然開いて目の前に現れた時などこの世の終わりのような表情をしていたのだが、その姿を見ていたのは良くも悪くもこの企みを企てた面々だけだったので、ただのネタとして扱われただけだった。しかもカナタたちに急かされながら漸く意を決してゲートの中に入ってみれば見たことも無い空間に移動している。理解など追いつくはずがなく、その場で固まてしまうのは寧ろ当たり前と言えよう。いや、それだけで済んでいるだけアスカには才能があるのだろう。--何の才能かはわからないがーー
『お帰りなさいませマイマスター。』
と、そんなカナタたちの会話の流れを気にした様子もなくダンジョンコアはカナタたちに帰還の挨拶をしてきた。奇しくもどこぞのメイドさんのようなセリフだが、その声に抑揚はなくまあ無機物のダンジョンコアが発していいるのだから機械的な音声であっても特に誰からも突っ込みは起こらない。
「かっ、カナタさんさすがにもう説明してください!これ以上私の理解が追い付かないことが起るともう耐えられそうにないです!」
突っ込みは入らなかったが、次々に起こる常識外の事にアスカが声を上げた。
アスカはここに来る前にカナタたちの呼び方を固定化した。これは当然カナタたちから望んだことで、流石にご主人様呼びは気まずかったのだ。そもそもいつも一緒に居る仲間に、さん付けで呼ばれている今の状態でもまだむず痒くて落ち着かないのだが、アスカが奴隷の身として主人に敬称をつけないなどあり得ないと声を大にして説明され今に至る。これでもかるく1時間くらいはカナタたちも譲らずに粘ったのだが、今のさん付けの段階まで敬称レベルを落とすので精一杯だった。
呼び名は、
・カナタさん
・アリスさん
・ヤクモさん
・ノルンちゃん
・フィルちゃん
となった。ノルンたちに関しては同じ主人のもとに仕える仲間同士であるというのと、アスカは獣人のためその身に流れる獣の血がノルンたちに親しみが湧きやすいのだろう。因みにノルンたちの種族も明かしている。同じパーティ―メンバーとして過ごしていくのだから隠し事は無しというのがカナタたちの総意だった。
カナタたちのパーティの認識としてはこの世界の一般的なものとは少し異なり、むしろ”家族”のようなものだと考えている。ギルドに登録する時もカナタたちはパーティー登録はせずに個人としてだけで冒険者の資格を取っている。それはパーティというよりはチームという方が合っているような状態だが、ハックの依頼はギルドを通さずに直接受けたのでとやかく言われることも無くこれで問題は出なかった。
「ふふふ。ごめんね。そんなに大きな声を出さなくても説明するって。」
「む~、本当ですかアリスさん?嘘だったら許しませんよ?」
「ははっ。流石にここまで来たら説明しないと話が先に進まないからな。安心してくれていいよ。」
「御2人がそう言うなら、まあ信じますけど。それでここは何処なんですか?今までの話から推測するとダンジョンなんでしょうけど。」
「ここは少し前まで俺達が攻略していたダンジョンだな。正確には俺たちが召喚されたダンジョンだが。」
カナタたちがこの世界に来た理由や異世界人であること。さらには先祖返りの事などの全てをアスカに話した。とはいえ、スキルやステータスは大まかに伝える程度にしないと時間がかかりすぎるのでその辺はよく使う汎用的なものやウルスラから貰ったギフトで得たものなど主要なものだけ伝えてある。
「......そんなことが......到底信じられない内容ですが、今目の前で起きていることから真実であることは間違いないですよね。しかし、”世界創造”に”神”の存在なんて学のない私ですらこの話が重要な事柄なのは分かります。学者さんたちが知ったらカナタさんたちの自由はもうないかもしれませんね。」
「まあそういう事も考えてこの辺りの話は基本的に人前ではしないし、話題にも出さないからな。アスカもこれからは気を付けてくれ。」
「はあ......未だに今聞いた事が今までの常識外すぎて実感がないですが私も気をつけたいと思います。」
「うん、そうしてくれ。じゃあ次にこのダンジョンについてだな。」
『マイマスター、それについては私から説明いたしましょう。』
「あっ、そうだな。ダンジョンコアからの説明の方が俺から説明するよりいいに決まっているよな。頼むわ。」
『お任せください。』
ダンジョンの事は実際にダンジョンを管理しているダンジョンコアから聞いた方が良いだろうとカナタはダンジョンコアからの提案をそのまま受け入れた。
その後は神々のダンジョンと魔素溜まりからできる一般的なダンジョンとの違いであったり、現在のカナタたちとダンジョンコアとの契約であったりとたっぷり時間をかけてダンジョンコアはこのダンジョンのことをいろいろ解説していった。
「......私の今までの常識が......こんな場所が、いやそもそもこんな高難易度の場所を人の身で攻略したなんて......」
「儂は人型を取ってはいるが龍族だがのう。そもそも儂はこのダンジョンの自室に居ただけで大して何もしておらんかったし。」
アスカはカナタたちが辿ってきたこれまでの経歴に驚愕したと共に、この神々のダンジョンに自分が連れてこられたことに今更ながら恐怖し始めた。さらに言うなら、自ら主人と定めたカナタたちの異常性を知って自分が傍に居てもいいのかと思い始めてしまった。
「アスカにはこれからこのダンジョンに挑んでもらおうと思う。ダンジョンマスターとなった私たちではここで魔物を倒しても経験値を得られないけれどあなたならその範囲外だから効率的に進められると思う。」
『効率的とは言いましてもここに居るモンスターたちは棒立ちしているわけでもこちらの命令に従うわけでもないので十分に注意してください。マスターたちのお話曰く期限内なら速くて10階層まで到達出来れば上出来だとは思いますが焦りは禁物。安全第一をお忘れ無きようお願いします。』
「まあコアはそう言うが、俺達もここでアスカのことを見守っているし、もしもの時は俺たちがアスカの元に転移して助けるから気負い過ぎるのも禁物。ようは程よい緊張感で頑張れってことで!」
カナタたちはダンジョンコアと契約して攻略する側から管理する側になったが、ダンジョンに湧く魔物たちまでカナタたちの言うことを聞くわけではない。我を持ったヤクモが稀有なだけで、他の魔物たちは侵入者を排除する役目を全うするだけなのだ。
「というわけでダンジョンコア。アスカを第1層に送ってあげて。」
『畏まりました、マスター。ではアスカ様、良いダンジョンライフを~。』
「あ、ちょっ、ま」
声の抑揚は無いのに台詞のバリエーションが増えてきているダンジョンコアにカナタたちは少し驚愕する。そしてアスカの気持ちの整理の時間など与えられるはずもなく、短い言葉だけを残して第1層に転移して行った。
『ところでマスター、アスカ様のように私にも名前が欲しいです。コアというのは私たちダンジョンコア全体の呼称であり、ただの識別番号のようなものです。アスカ様のように私にもマスタからちゃんとした私だけの名前が欲しいのです。』
「名前か、そうだな。いつまでもコアと呼ぶのもなんか違う気もするしな。アリスはどうだ?」
「私も構わない。......何かいい名前思いついた人いる?」
「「......」」
『お手数をお掛けしますがよろしくお願いします。』
本来ダンジョンコアが名前を欲することなどあり得ない。それは要するにヤクモのように我を持ったことと同義であり、少しずつだが確かに感じる変化はダンジョンコアにどのような影響を与えて行くのかはまだ誰にもわからない。そしてこの事態を大本の神々は予期していたのか、それともまだ知り得ていないのかそれすらもカナタたちには知りようが無いことである。
「じゃあ、ダンジョンコア改め”朱理”今後もよろしく頼む。」
『はい、マスター。こちらこそ今後ともよろしくお願いします。』
それからややあってダンジョンコアの名前はシュリに決まった。この名前を考えたのはアリスでダンジョンの理を知り、コアが朱色をしている所から取ったようだ。
そしてカナタたちは、いやダンジョンコアすら知らない。ネメシア世界では名前を持つという事、それは個人として認識されるという事を。そしてこの世界を管理している”神のシステムさん”はとても優秀だという事を。
まだ今は誰にも気づかれていないがその変化が出るのはそう遠い事ではない。アスカの成長とシュリの変化を経てカナタたちの勢力は誰にも知られることも無く拡大していくのだった。
読んでくださってありがとうございます。
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