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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
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報酬はいかほどで?

 王族に貴族、更には騎士たちと目の前には異世界を詰め込んだような人たちが並び、そこはカナタたちの常識にはない世界が広がっていた。確かに地球にも外国やはたまた過去にはそういった人たちが居たのかもしれないがカナタもアリスもその時代、その国には生きていなかったのでここで今見ていることに対して感動するのはまあ仕方が無いと言える。


 ただ、そう感じているのはカナタとアリスのほかにダンジョンで生まれ、外の世界を現在進行形で体験中のヤクモの3人だけで他の面々はこの緊張感漂う一室の雰囲気に完全に飲まれて表情をこわばらせている。侯爵であるハックは今回が初めての経験ではないのでまだ思い詰めるほどではない。さらに執事のセイスは何故か主人であるハックよりなお余裕がある。

 しかし、共にいるエリーナに関しては貴族同士の茶会や、多少のパーティー程度は経験済みだが、この場所はそんな生易しい物とは比べ物にならない。そもそもここに居る面々は貴族の中でも上位の位を持つ者たちや、国の重要な役職についている者たちばかりなので彼らが放つプレッシャーは並ではない。侯爵家の娘として育てられたエリーナであってもこの一室を包み込むほどに重いプレッシャーに当てられて呼吸が自然と浅くなり少し汗ばみ始めるほどだ。


 「はぁはぁ、はぁはぁ。」


 しかし、この面々の中で一際耐性が無いのは、なぜこの場に居るのか自分でも理解しきれていないアスカ(・・・)であった。今回の一件に関わった人間でベッソ伯爵家の人間たちは皆ここにはいない。それぞれが部屋や待遇は違うが、このアスカが今感じているようなプレッシャーに晒されるような環境には居ないことは確かだ。しかし、ベッソ邸でアスカだけは本人の希望でカナタたちと共にいると宣言したので、その流れのまま今この場にも同席することになってしまったのだった。本人はここに向かう馬車の中で『話が違う、そういう意味ではなかった』とそれはもう謁見への参加を全力で拒否したのだが、カナタとアリスにいい経験だしと聞く耳を持ってもらえず、結局強引に押し切られてしまいなくなくこの場に居る。


 しかし、この圧倒的なプレッシャーの中で精神的にも肉体的にもギリギリの状態で何とか立っている状態のアスカは、身体中から噴き出てくる汗を止めることも、足を1歩前に踏み出してバランスを保つこともままならないような状態だ。


 「これこれ、あまり意地悪な事をするでないよ。あまり関係のない娘子たちの方が辛そうじゃないか。」


 状況を案じて声を上げてくれたのは見るからに上質な黒のローブを身に纏い右手に杖を携えた老婆だった。ローブは何かの魔物の素材から作られたのか街でよく見る一般的な布地ではなく、さらに多少魔力を内包しているように感じた。杖も赤、青、緑の3色に輝く宝石のようなものがそれぞれ3箇所埋め込まれており、一般人の収入ではとても手が出ないような高価な代物だと伺わせた。

周囲でがっちりと構えている騎士たちは重たそうな金属で作られた鎧に身を包み、守られる側の貴族たちはそれぞれが納める土地の特色を色で表したかのような色とりどりの服を正装として身にまとっていた。そんな中で、老婆はこの姿こそが自分の正装であると言わんがばかりの堂々とした態度だった。魔力が付与されたそのローブや杖はかなり希少なもので老婆は自身の服装に関してこれ以外を着てこの場に来ることなど考えられなかった。


 「ろ、ローザ様にそう言われては矛を収めないわけにはいきませんな。皆もそうだろう!?」


 「たっ、確かにそうだな。私はそこまで意地悪をしていたつもりはなかったが更に気配を抑えるように心がけよう。」


 「わ、私も同感だな。」


 「「「私も同感です。」」」


 「ふふふ。流石はローザ様の発言力ですなぁ。とはいえ今回は我らの方から彼らをここに招いたのだからいささか不躾ではあったと私も思うがな。」


 ”ローザ”と呼ばれた老婆はこの面々の中でもなかなかに立場が上の人間なのか彼女の発言1つでこの部屋を包んでいたプレッシャーは瞬く間に霧散した。それによりエリーナやアスカはようやく十分に酸素を肺に取り込むことができ、醜態をさらすことは回避できた。


 「しかしローザ様、私は獣人の奴隷(・・・・・)まで今回の件でここに召集されているなどとは聞いておりませんぞ!ただでさえ野蛮な獣人が居ていい場所ではないというのに奴隷の立場である者などそれこそ論外だと思うのですがねぇ!」


 「然り然り。私は獣人を差別するつもりはありませんが流石に奴隷というのはどうかと思いますな。」


 1部の貴族には獣人というだけでアスカを見下す者がいるようだ。しかもアスカの立場は奴隷で、その首には奴隷の首輪が嵌められているのでその立場は誰が見ても一目でわかる。一応この王城に来るにあたってカナタが創った地球風の洋服を着ているので一応見た目だけはカナタたちと統一感があるのだが、やはり見る者が見ればすぐに素性位は分かるらしい。

 獣人差別をしないと言った貴族の男もその目はアスカを見下した色が分かりやすく浮かんでいる。


 「それがどうしたんだい?今回その嬢ちゃんを含めて招集を出したのは他でもない”アルゼン王”だよ。その差配に文句が言えるとはあんた達の剛毅な心意気には驚かされるね~。私にゃ到底真似できないよ。」


 「「「ッ......!!!」」」


 「まったく、ローザ様もお人が悪い。見てくださいよ彼らの顔色を。自分の発言の過ちにようやく気付いて蒼白になってますよ。」


 貴族やローザ婆の言葉による牽制合戦はローザ婆の勝利で唐突に終わりを迎えたが、場の空気は少し緩んだようだ。まあ、自国の王に対する批判を口にした形になった貴族たちは顔に脂汗を浮かべてこの状況の打開案を捻りだそうと大変そうであるが。

 アスカやエリーナも今の失言をした貴族たちに比べればまだ気が楽である。


 そしてそんな貴族たちが会話をしている間にカナタたちは玉座に座る王の前に辿り着いた。玉座は豪奢なつくりではあるのだが、落ち着いた色合いと無駄に飾りが無い事も影響して威厳だけが漂う素晴らしいものであった。その玉座だがこの部屋の中でそこだけが3段ほど高くなっており、ハックに続いて入ってきたカナタたちは段の1番下で玉座に腰掛ける王を見上げる位置で止まった。


 「王よ、この度の書状にて私ハックがただ今参上致しました。そして、今回の一件で話に上がっていた私の護衛を務めていたパーティ―の面々も共に参上した次第です。」


 「うむ。侯爵家のハックよ、今回の一件ではよくぞ動いてくれた。さらに我が治めるこの国の貴族の悪行が表に出たのも其方の書状による報告があったからこそだと思っている。良くやってくれた。」


 アルゼン王は見た目20代前半の若い男で金髪の、そうだな解り易い特徴というならイケメンの優男だ。しかし、その目だけは王という立場で国を治めてきた重みと落ち着いた輝きが宿り、ハックが発言したタイミングで一斉に跪いたカナタたちパーティの面々はアルゼン王が内に秘めたプレッシャーを感じ取ってハックとアルゼン王との事の成り行きを静かに見守っている。


 「はっ!もったいなきお言葉です。」


 「うむ。そしてそちらのハック公爵を護衛した冒険者パーティの面々も大儀であった。話によれば今回の件で使われた毒の出どころやベッソ元伯爵が関与していた不正の数々を短期間で調べ上げ、侯爵の娘が侵されていた毒までもをお前たちが治したそうではないか。しかも貴重な上級ポーションを使用したと聞いている。相応の報酬を用意する故期待するがいい。」


 「ありがとうございます。」


 今回の謁見の内容はハックとセイスが予め予想したものをカナタが質疑応答に応えるというか、礼を述べる今のところまでを予めシュミレーションしていたのでここまでは大きな問題はなく進んでいる。


 「うむ。では今回の件における報酬の話に移ろう。」


アルゼン王がそう言って目線を横に控えている男に向ける。アルゼン王の意向を汲んだ男は浅く頷いてから1歩前に出た。


 「では、ここからは私が。私は宰相をしておりますアルマールと申します。カナタ様方(・・・・・)とは初めてお会いしましたがこれからもよろしくお願いします。では、早速報酬の件に入りますが、ハック侯爵には今回の一件で空いたベッソ伯爵の領地を治めてもらいたいと思っています。ハック侯爵が現在治めている領地からは少し距離がありますが、管理できない程ではないと判断しました。それにベッソ伯爵の元で働いていた者の中にはなかなかに優秀な人材もいるようなのでその者たちとうまく領地を回していってほしい。さらに今回の件における成果に1000万コルを授けることが決まりました。」


 「はっ、ありがとうございます。これからも誠心誠意王国に仕えたいと思います!」


 「うん。では次にカナタパーティーへの報酬になる。まずパーティーそのものにランクアップの権利を与える。今はまだ最下級の白ランクだだと聞いていますが今回の一件の功績で特別に緑ランクまで昇級させます。これにより晴れて中堅階級の冒険者たちの仲間入りができるようになるということですね。」


 「えっ、いきなりそんなに......」


 「まあ普通はあり得ない処置です。ただ今回は王国の貴族が起こした汚点なのでそれの解決の一助になった君たちパーティーには少し色を付けた報酬となっています。さらに、できれば今回の件をあまり表沙汰にしないでいただきたいという”裏の思惑”もあるとだけ。」


 「...なるほど。そういうことですか。」


 「はい。そしてパーティメンバーにはそれぞれ100万コルを与えます。ただ、申し訳ないですがそこの召喚獣と獣人の奴隷には報酬はありません。流石に従魔にまで報酬は与えられませんし、そちらの獣人の少女はカナタ様方のパーティーメンバではないのでこのような処置になっております。」


 「はい。こちらとしても異論はありません。報酬の件ありがとうございます。」


 カナタの口調としては貴族や宰相に向けるには相応しくはないのかもしれないが、冒険者としてこの場に居るし、見た目子供のカナタたちにすればこのくらいが頑張って発言しているように周りからは見えるのでハックたちも無理に指摘はしなかった。


 報酬についての話はすぐに終わりその後は長々と今回の件をまとめた話をハックが述べていく。その中でも魔族の出現やその発言の内容を語ったら謁見の間に居る貴族たちは皆青ざめた顔をしていた。


 「......魔族、か。よもやこのタイミングで発見されるとは。これは各国にも通達をして至急対応してもらわねばならんだろうな。我が王国だけに潜んで居たとは到底考えられんし他国にも侵入している魔族は確実にいるだろう。早いうちになんとかせねば...人間の国は消え失せるかもしれん。過去の文献によれば1体の魔族に国が消された言う物も残っているしな。」


 謁見の間で行われた報酬の授与と今回の一件の報告会は魔族の話をした段階からその内容に皆が事の大きさを理解し、一変して深刻な話し合いに変わった。大臣や宰相、各貴族たちはこれから魔族への対策を考える会議を緊急で行うらしくカナタたちは先ほど通された部屋に戻された。因みにハックたちもこの部屋に戻ってきている。おそらくはカナタたちにハックをつけることでこの場で不自由させないための配慮だろう。


 とりあえずはこの王国の王様との謁見という一大イベントは無事に終了しカナタたちはまた普段と変わらない顔でお皿に復活していたお菓子に手を付けるのだった。



読んでくださってありがとうございます。


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