パートナーの寝静まる中で
カナタたちは少し開けた小高い丘を樹々の間に身を潜めながら様子を窺っていた。戦闘における大まかな作戦をカナタが発案し、そこから細かいところをその状況、状況でアリスが詳細を詰めていった。
そこに漸く二匹のゴブリンが姿を現した。
「ゴブリン二匹なら単騎ずつで、二パターンのプランでいけるかな。」
『うん。相手の動き方にもよるけど、それで。』
「今の俺の全MP、二十ポイントを使い切ってやっと創れたこの短剣・・・というか刃渡り五センチの超短剣が唯一の不安点だわ。」
『カナタがMPを使い切ってフラフラしていた時は焦った。』
「MPが無くなるとすっごい怠くなるんだな。MP管理必須だな。」
『私は特に気をつけないと。......さて、とりあえず行きましょう!』
ゴブリン二匹ならばと、決めていた作戦を実行に移すために動き出す。
それまでの打ち合わせと雑談をしていた時の雰囲気とはうって変わり、二人はギラギラとした視線をゴブリンにぶつける。
二人の纏う気配は今までの世界の一般人とは、この時すでに異なり始めていた。これはすでに一度戦闘を経験し、この世界の過酷さをすでに知ったからか、はたまたそれは、それぞれ原種への先祖返りによる副産物なのかはわからないがこの世界で生きていくためにはいい傾向であった。
ゴブリンたちが二人に気づかず、目の前を通り過ぎたタイミングで、アリスが先ほど決めた戦闘開始のサインを出す。
「......シッ」
『その炎は我が敵を焼く。"ファイヤーボール"』
カナタが順手で持っていた剣は一匹のゴブリンの首にしっかりと背後から突き刺さった。しかし、刃渡りの短い剣では一撃で倒しきることはできなかった。
それでもカナタは、打ち合わせの時点でその心配もしていたため反射的に倒しきれていないと悟ると、刺した剣をすぐさま引き抜き、漸く刺されたと気づいて背後を振り返るゴブリンの顔面に容赦なくその剣を突き立てることで今度はしっかり倒しきった。
また、アリスの方は頭の中で呪文を組み立てて魔法を放った。油断していたゴブリンは反応すら出来ずに生きたまま焼かれ全身黒焦げで地面に倒れ伏した。
二人が考えた奇襲作戦により、反撃すら出来ずにゴブリン二匹がドロップアイテムへと姿を変えて二人のアイテムボックスにそれぞれ消えた。
「ふぅ。作戦通り上手くいった。」
『はぁ。魔法真理で分かっていたけど呪文は唱えなくても発動出来るんだよね。でも威力は下がるし、MP効率も唱えた方がいいから場面場面で使い分けしないと。でも、声に出さなくても頭の中で呪文構成できれば、声に出した時と変わらない効率で魔法が使えるから私的には助かったよー。』
「アリスは声を出さなくても魔法が使えるから魔法での暗殺に向いてるし、将来怖いことになるかな?」
『むっ。こんな美人さんになんてこと言いますやら!』
「ハハハっ。悪い悪いっと。さて、じゃあ戦果を纏めていこう。」
『まずはドロップだけど、やっぱり倒した人にだけドロップするみたい。あとドロップの種類はランダムみたい。』
今回のドロップ品
正体不明の肉(食用可):×2
「だな。そんで経験値だけれど、二匹一緒にいるところを攻めたからと言って二人が経験値を貰えるわけではなかった。同一個体にダメージをそれぞれ与えていたらどうなるのかはまだわからないけれど、とりあえずは想定内だな。」
『あと一番大事な戦闘面だけれど、今の感じならゴブリンならあともう二匹は同時に対応できると思う。二人の連携も考えたら五匹までってところかな。』
「俺の方は今ので一つレベルが上がったし、順調だな。アリスは?」
『私も一つ上がった。このまま同じように奇襲を繰り返して明日まで過ごそう。』
カナタたちが待ち伏せしている間に辺りはもうすでに暗くなり始めていた。今いる場所からでは今奇襲をした丘はもうほとんど視界が通らない。
「ほい、栄養ゼリー。俺のMPは暫くは食料作製に回すって決めたから、順次MP回復し次第作製してアイテムボックスにストックしているけれど、明るくなったらドロップした謎肉も食べて確認してみないとな。」
『あれ食べるの勇気がいるよー。そんなこと言ってる状況じゃないのはわかるから食べるけれど。あともう少ししたら交代で休もう。』
「ああ、じゃあ俺を先にしてくれ。そのあとは俺が見張るから。そうだな......四時間も寝ればいいからアリスはその後ゆっくり休んでくれていいからさ。」
『えっ。でも......それは......』
「いいからいいから。まだ小さいんだからいっぱい寝な。」
『小さくないわい!!まあでもわかった。その交代順でいい。でもカナタは見えているの?この暗闇の中で。』
「いや全く見えない。俺の世界じゃあ機械が辺りをを照らしていたから夜がこんなに暗いなんて知らなかったよ。アリスは見えるの?」
『私は吸血鬼だから見える。』
「種族特性か。種として当たり前のことだからステータスにスキルとして載らなかったのかな?」
『......そうかも。歩けるからって歩行スキルが載らないってのと同じかな。』
カナタたちは知らないことだが、歩行スキルはただ歩くスキルではなかったりする。
更に、モンスターにも昼行性と夜行性があって出会う種類が変わったりもする。
「まあでもこれからのためにも、夜目は利く方がいいから練習していこうと思う。アリス一人なら隣にいれば守ることも何かあったときに起こすことで対応もできるから暫くやらせてほしい。」
『了解。これからを思えばカナタの言う通り必要なことだと思う。』
「さて、ご飯も食べたし先に休ませてもらおうかな。」
『うん。おやすみ。』
「おやすみー。」
カナタが寝静まった後、アリスは周囲を警戒しながらこれからの自分を思考する。
(私ができるのはカナタのサポートと遠距離での高火力殲滅戦。それと対魔法戦闘でのアンチ魔法スキル。私は咄嗟の時にすぐ体が反応するタイプじゃない。だから未知を既知にするようにシュミレートを繰り返す!私の眼なら見てからでも次の行動がすでに頭にあれば間に合う。そのアドバンテージを活かせるようにしていく!)
アリスはカナタが起きるまでの四時間程度の時間を警戒と今までの計二回のゴブリンとの戦闘を何パターンにもわたりシュミレートしていた。
そしてアリスにはさらに一つ仕事があった。それはさっき食べたゼリーやリンゴの芯などのゴミの処理だ。実はこの世界の物体は、根本的に魔素が元となっている。そのことを魔法真理で知ったアリスがカナタに説明してゴミの処理を自分がやると申し出たのだった。
とはいえ、アリスにはこの程度のことは片手間でこなせるのだが。
因みにこのときにMPは必要なく魔素の集束を解いているだけである。
だけとは言いつつもこれができるのはアリス位の者なのだが。
「うぅ~~ん!......おはよう。何かあった?」
『戦闘はあれからなかった。敵は見てないよ。』
「そうか。......っておい!なんじゃそれは!!」
カナタが見たのはアリスの指先から空に書かれた文字だった。
『魔法真理のスキルで得た知識に魔素を魔法に転換する術式を少し弄って、光魔法を使って空に文字を書くことができるように練習した。わざわざ地面に書くのはいろいろ不都合があるかもだし。あとこれは光魔法の要素を取り込んでいるけど、魔素を流用しただけで魔法ではないから感知はされないように調整したよ。』
「さすがアリスだな。俺も負けられん。ああアリスはもう寝てもいいぞ。」
『ん。じゃあ後は任せた。おやすみ。』
「おやすみー」
さて、カナタもアリス同様、相手が寝静まると思考を始めた。
(戦闘なんてこの世界に来て初めてのことだし、ゴブリン戦をシュミレートするくらいしかできないな。まあ食べ物製造はMP回復するたびに続けてやっているけど。)
カナタは辺りを視覚による確認はできなかったが、それでも目は凝らし続けており、更に聴覚や嗅覚などの使えるものは全て使い周囲を警戒していた。
そうして警戒していたが、今回もアリスが起きるまでの間、敵の発見はできずに夜が明けていったのだった。




