王城
王都カルナンの王城は門構えからして立派だった。鉄に見える黒色に輝く金属が格子状に張り巡らせてある門はとても堅牢そうでそして見る側に与える迫力もすごかった。そして門の高さが3メートル以上もあり、こんなものをどうやって開け閉めしているのかと変なところで悩んでしまった。いくら格子の間に隙間があるとはいえ、なかなかに重量があるだろうそれは別で開閉できる小さな扉部分があるようには見えず、ここに初めて来たカナタたちにはどうしたらいいか分からなかった。
一方ハックたちは馬車を降りると1直線に門番らしき人が立つ場所へ向かって行く。馬車はハック侯爵家の物とベッソ伯爵家の物であると分かる両家の紋章が車体に刻まれているのでそれを見ただけで誰が来たのかはわかる。今回は移動する人数が多かったのでベッソが所有する馬車も出してもらったのだ。
カナタたちは貴族のやり取りや常識なんかを全く知らないので何食わぬ顔でハックたちの後ろに立って大人しくしている。
「ハック侯爵様、ようこそ王城へお越しくださいました。謁見の件は話を伺っておりますので中へ案内させていただきます。......しかし本日は人が多い気がするのですが。私が窺っていたのは数名程度で侯爵様と執事の2人ほどだと思っていたのですが、あまりに大勢だと流石にお通しするにも少しお伺いを立てないといけなくなるのですが、その辺は何かお話を通していらっしゃいますでしょうか?」
「今回は私も少々予想外の事態が起きてな。話は中で直接するのでそのように伝えてくれ。例の件で予想外の事が起きたので報告したいと伝えてくれ。」
「畏まりました。すぐに報告に行かせますので申し訳ありませんがもう暫しこちらでお待ちください。」
門番の男は隣に控えていたもう1人の男に先程の話を王城の中の人間に通すように言ってすぐに戻ってくる。門番にもベッソとハックの今回の話は通っているらしく話はすぐに伝わっていく。流石に成り行きで連れてきた元ベッソの使用人たちまで貴族たちが待つ部屋に同行することはないが、カナタたちは送られてきた手紙に直々に来るように書かれれていたためこの後もハックと一緒に行動しなければならない。
使用人たちは2手に分けられて、私腹を肥やし悪事に関わっていた人間はそのまま王城にある牢に入れられて逃げられないようにし、何も知らずに真っ当に職務をこなしていた者たちは別室に通され其方で話を聞かれることになるだろうとここに来るまでの馬車の中で事前にハックから教えられた。
それから数分程度の時間を門の前で待っていたが、先程中に入って行った門番が大急ぎで返って来てようやく中に入る許可が下りたらしい。広大な敷地を有する王城で走って話を通すにしては流石にかかった時間んが短すぎるかと思うだろうが、この詰所からそう遠くない所に王城勤務の執事に相互で繋がる今で言えば電話のような魔道具が置かれていてそれを使って話を通したらしい。
「ふふふっ、どうだね?王城の敷地の広さや造りに驚いているようだが王城内部はもっと凄いぞ。君たちが求めている観光という目的に関しても王城内部は見ておいて損はないよ。まあ普通はそうそう入れるような場所ではないし、君たちが特殊なんだがね。」
「うん?侯爵様、そちらの方々は?」
「ああ、一応私たちの護衛だよ。今回の一件ではとても力になってもらったというか彼らのおかげで事が解決したと言っていい。」
「で、では彼らが聞いていた......ようこそおいでくださいました。今回の件では我らが王都の貴族たちが失礼いたしました。」
「おや?あなたも貴族なのですか?おっと、すみませんいきなり失礼な物言いをして。」
「いえ、私はもう貴族の位は返上してここの門番としての仕事につかせてもらっていますので。私は有難いことに王家の方に少しご縁がありまして、こちらでご恩返しをさせていただければと。」
「彼も、門の所に居たもう1人の男も元貴族だよ。彼のように王家への恩や忠誠でその役職についている者も実は結構いるんだよ。今回のように私利私腹を肥やすような奴も中には居るのが頭の痛いところだがここ王都は比較的常識のある者が多いからそこまで嫌な顔をしたものではないと思うよ。」
「そう、ですか。まあそういった話は後で考えますけど、俺たちはハックさんたちに悪印象は無いので
これからも何か困ったことがあれば力になりますよ。」
カナタたちが先祖返りによる原種で割り切った価値観を持っているとは言っても初対面の人間に関しての優劣は無い。知り合ってお互いを知ればそこに情が生まれて今回のように力を貸すことも吝かではないのだ。
話しながらも門から王城へ向かって歩いているうちに此方も大きな扉が見えてきた。入り口の所にあった門もそうだったが扉自体が魔道具になっているらしく、対になる魔道具を持った人が扉の前で呪文を唱えると勝手に開いていく。カナタたちは城内の風景や城の造りなど興味深げにしげしげと見渡している。ずっと一緒に居たノルンたちも紋章に戻さなくても良いという事だったので2匹ともカナタたちの足元でしっかりついてきている。
「こちらでもう少々お待ちください。これより謁見の間へは別の者が案内を変わりますのでそちらの者について行ってください。では、私はこれで失礼いたします。」
ここまで案内してくれた門番の男はそう言うと部屋を出て行った。一時だとは思うが部屋にカナタたちだけが残された。部屋には質のいいソファーやテーブルそしてお菓子が置いてあった。カナタはホテルのサービスみたいだなと少し昔の事を思い出したが、すぐに思考を切り替えて皆の後に続いてとりあえずソファーに腰を下ろし少し休憩とした。いかにハックが鍛えているとはいっても門からここまではそれなりに距離があるし、普段から歩く生活をしていない者にはなかなか大変だろう。それにゆっくり歩いてきたとはいえエリーナにはさらに疲労があるはずだ。しかも今回は王城に向かうこともあってハックやエリーナは正装に身を包んでいるのでより歩きにくく大変だっただろう。
ただ、セイスに至ってはピッチリとした服装なのに汗1つかいておらず、疲労も見られない。魔族が現れた時も感じたが、セイスはやはり常人の枠からは少し外れているのだろう。
アリスとヤクモはソファーに座るなり遠慮なく部屋に置いてあったお菓子を頬張っており、今もリスのようにポリポリと小さな口で咀嚼してクッキーに似たお菓子に手を伸ばしていた。
それから数分ほどして用意されていたお菓子が無くなった頃に今度はメイドがノックと共に現れた。おそらく門番の代わりに案内をしてくれるのはこのメイドなのだろう。
「皆さまお待たせして申し訳ありません。案内役を仰せつかったマリアと申します。では、今から案内させていただきますので私についてきてください。」
装飾過多な通路には立派な絨毯が敷かれ、カナタには価値が分からないがなんか見た目的には高そうな壺やら絵画がいいバランスで配置されている。カナタたちは門から王城内部までの道でもそうだったがキョロキョロと辺りを見渡しながら楽しそうに歩いていく。
「絵画や壺、美術品。どれも目が飛び出る値段をしている。中には贋作もあるみたいだけどこれだけのものを集めるのにいくらかかるのやら」
「俺達にはこういったモノの価値は分からないから何とも言えないけど、こうして鑑賞するだけなら十分楽しいな。」
ノルンたちは良い子に大人しくしているがその主たちはせわしなく辺りを見渡しながら歩いているとメイドのマリアが立ち止った。何度か角を曲がりやはり広大な敷地のお城だからなのだろうがそれなりに歩いた後に漸く着いたらしい。そこにはこれまた豪奢な扉があり、此処がおそらく謁見の間なのだろう。
「皆様、此方が謁見の間になります。準備はよろしいでしょうか?......では、そのままお進みください。」
メイドが開けてくれた扉をゆっくりと通り抜けて各々中に入っていく。
「「おお~。」」
「これはなかなかに素晴らしいな。うむ。外に出てよかったと改めて思うのう。」
カナタたちはここが謁見の間であることも即座に思考から吹き飛んでその現実離れした光景に感嘆して声を上げていた。両脇には武装した兵士たちが固めており、その後ろには貴族と思われる煌びやかな服装に身を包んだ面々が集まっていた。さらに正面には玉座に腰掛ける男が居る。彼がまあ見た通り王様なのだろう。ただ流石は貴族たち、そして王族たちが揃う場だけあって異様な雰囲気とプレッシャーがあった。中にはカナタたちに良くない感情を持つ者もいるがこの場では皆がその立場故か静かに控えている。勿論、王が居る前で無礼を働くようなぶっとんだ発想のある者などそうはいないのだが。
と、それほどに荘厳な雰囲気がある室内にあってなおカナタたちは全く雰囲気を変えずに本物の王様を見て目を輝かせているのだった。
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