名前
昨晩のきりたんぽと豚汁の食事が思いの外好評で、今日の食事もカナタがアイテムボックスに仕舞っているご飯を提供することになった。まず、ハックがもしまだ今日の様な食事が残っていて、量に余裕があるならまた食べたいと言い出し、セイスも珍しく食い気味に同意していた。そしてアスカも声や態度には出さないが尻尾が雄弁にまた食べたいと訴えていた。
ちなみに、アスカは救出した獣人の少女のことだ。昨日の食事が一段落した時に少女の方から懇願してきたのだ。
「私のような取り柄もない獣人の身で厚かましいのはわかっています。ですが、皆さんと共に行動させてください!」
あまりにもいきなりの話しで一瞬場の時が止まったかのような静けさになった。少女の声が意外にも大きく、その場にいた面々が少女に注目したことも原因の1つだが、少女の発言内容もこの雰囲気を作るには十分なものだった。
しかも少女が頼んでいるのはカナタに対してであり、侯爵の位を持つハックに向けて言っているのではなかった。
先程の説明の時にハックの身分は明かしているので少女が間違えたとは思えない。
「えっと、どうして俺に言うんだい?そういうのはあそこの公爵様の方が良い待遇で迎えてくれると思うけど?」
「わ、私は皆さんと居たい、と思いました。私を助けてくれたのは皆さんですし、そのっ......えっと...ダメ、でしょうか?」
「いや、ダメではないけど。......そうだね、俺たちは駆け出しの冒険者で、基本はいろんな所に出向いて依頼をこなしていくと思う。当然その中で危険な場所に行くこともあるし怖いことも起こると思う。君にとってはなかなかに過酷だと思うけどそれでも俺たちと一緒がいいのかな?」
「はい!私たち獣人は受けた恩は必ず返す性分です。是非私をそばに置いて恩を返させてください!」
カナタを真っ直ぐに見つめて懇願する少女は覚悟を、というより今後の生き方を既に決めた雰囲気をしていた。カナタはこれ以上の否定的な問答は少女の気持ちに申し訳なく思い、重要な質問に移る。
「一応聞くけど、君の家族はいいの?俺たちと一緒に行動するってことはそうそう会えなくなるってことだよ?」
「......私の家族はもう居ないので。」
「そうか。......アリス。」
「私は良いと思うよ。その子結構面白そうだし。まあ最終決定はカナタに任せるけど。」
「ヤクモは?」
「ワシも賛成に1票じゃな。その娘の心意気が気に入った!」
「ノルンとフィルは?」
「がる!」
「こん!」
全員の賛成の言葉を受けてカナタも1つ頷いた。
「皆んなも特に反対意見がないみたいだしこれからよろしく!俺たちって特にノルマとかがあるパーティでもないし、気楽に過ごしてくれ。」
「ありがとうございます!......それで、あのぅ、私に名前をつけてくださいませんか!?」
「そういえばステータスを見た時に名前の欄が空白だったね。奴隷だった事と何か関係がある?」
「はい。私は前回奴隷契約するときに名を頂けなかったので......そのまま主人が死んだので現在も名前がない状態です。」
「うん?奴隷になると名前がなくなるのかな?ああ、もちろん嫌なことを思い出す内容だろうしキツイなら無理に答えなくてもいいけど。」
「いえ、大丈夫です。私のようなこれといった取り柄のない奴隷は、最初に奴隷として奴隷商に売られた時に魔法で今までの名前を消されます。とはいってもステータス的に消えるだけで親からつけてもらった名前は覚えていますし、表面的に消えるだけです。これは新たな主人の所有物であるということを分かりやすく表すためのものらしいです。主人によってはただの労働力としてではなく、メイドや、嫡男として育てる目的の人もいて、そういった人たちには名前をつけさせる事で愛着が湧くことも狙っているらしいです。ちなみに、もともと戦士として名の知れた奴隷なんかはあえて名前を残しておくそうです。知名度のある奴隷は値段も上がると聞いた事があります。」
「なるほどね。でも、今の話を俺に言ったら愛着が湧き難くなるんじゃない?」
「いえ、そんな大それたことは......ただ名前がないと呼び難いかなと思っただけで深い意味はなかったんです。」
やはり、この少女は助けられた背景もあってかアリスやヤクモのような感じではなく、1歩引いて発言しているような印象がある。口調も基本的に敬語に近いものを使っている。おそらく奴隷商にいるときに教え込まれたのだろう。
「俺が決めてもいいの?」
カナタは少女に聞くというよりは全員の意思を確認するように周りを見渡しながら聞いた。
「私は任せるよ。」
「儂もそれで良い。」
流石に言葉が完全に通じるわけではないノルンたちは権利がないことを気にするなと尻尾を振って伝えていた。
「というわけで俺が考えてもいいかな?」
「お願いします!」
少女もカナタに決めてもらいたかったみたいで、尻尾が大きく揺れていた。過酷な状況を生きてきたからなのか、それとも素でそうなのかはわからないが、少女はあまり表情が変化しないので感情を読み取り難いかとも思われたのだが、どうやら彼女の尻尾は雄弁に語ってくれるらしい。
「そうだな......未来いや、飛鳥ってのはどうだ!?」
「アスカ!アスカ......アスカ。はい、私はこれからアスカです!ありがとうございます!」
薄くの笑みを浮かべる少女。カナタたちに助けられた時もそうだが、やはり大きく感情が変化した時はちゃんと表情にも現れるみたいで、しっかりと笑顔を見せてくれた。
「一応未来と迷ったんだが、漠然とした未来っていうより、もうアスカは自由になったんだから青空を飛ぶ鳥のようにのびのびと自由にって方が良いかなと思ってこっちにしたんだけどアスカの方でいいかな?」
「はい!ミライという名前も素晴らしいと思いますが、最初に聞いたアスカの方が私は好きです。それに名前に含める意味まで与えてくださり本当にありがとうございます。」
「あっ、名前が確定したみたい。ステータスにもアスカって名前の表記が現れてる。」
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アスカ
【レベル】:15
職業:奴隷(仮)
【HP】(体力):5
【MP】(魔力):3
【STR】(筋力):10
【END】(耐久力):10
【DEX】(器用):8
【AGI】(速度):13
【LUC】(幸運):22
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アリスが確認するとしっかり名前の欄ができていた。アリスの言葉を聞いてアスカも自身のステータスを確認してみるとちゃんと名前があった。それまでもカナタに名前を貰って揺れていた尻尾は目に見えてわかるくらいさらに大きく揺れていた。
ちなみに先ほどからアリスはステータスを確認できることを隠していない。アスカはそれどころではないからか特に気にした様子はないが気になる者もいる。
「なっ、なあカナタ君。さっきから言っているステータスがどうのってどういうことだい!?ま、まさかアリス君は他人のステータスが見えるのかい!?」
この場にはカナタたちの他にもハックたちがいた。声も通常通りのボリュームで話していたため聞こえたのだろう。堪らずといった感じでハックが質問してきた。しかし、興味があるのはハックだけではなくエリーナやセイスも同じ様で黙ってカナタとハックのやりとりを伺っている。
「ええ。私のスキルでステータスを見ることができるの。ただあんまり大っぴらに公表したいスキルじゃないし、ここだけの話にしておいてほしい。」
「そうだったか。教えてくれて感謝する。ちなみに、見えるというのはどの程度のことなのかな?もしかして体の悪いところなども分かったりする?エリーナの症状もそのスキルの能力で知り得たということなのかな?」
「その通りだけど、どうしたのですかそんなに身を乗り出して。何か調べて欲しいことでもあるとか?」
「いや、すまない。また興奮してしまったね。」
ハックの分かりやす過ぎる興奮具合に一同は少し引き気味である。まあ当の本人はあまり気にしていないようだが。
「いやなに、魔眼系統のスキルを持っているなら私がまだ知らない私のスキルでも分かるかもしれないと思ってな。過去にも自身のステータスを見ても表記されていないスキルを魔眼系統のスキル持ちの人が調べたら見つかったという事があったらしいのだ。だから、私にももしかしたらと思ったのだが。」
「...私が見た限り特にこれといったスキルは見当たらないけど。侯爵のステータスプレートにあるものと同じものしか見えないかな。もしかしたら、私の能力不足だからかもしれないけどこれは私だけじゃ検証のしようがないからなんとも言いえない。」
「そうか。いや、ありがとう。魔眼系統のスキルはかなり珍しいからこうして見てもらえただけでありがたい。惜しむらくは私に秘められたスキルなどがあれば良かったのだがね。」
そんな少年のように隠された力の有無を気にするハックを娘のエリーナは冷たい眼差しで見ていた。いや、女性陣は皆棘のある視線を送っている。だが、カナタはハックの気持ちも大いにわかるので言葉に出さずに賛同していた。
空気を読めるカナタは流石にこの状況で声を出して同意するのは恐ろしすぎたのだ。
カナタたちを乗せた馬車は昨日のことを思い出している間に王都カルナンにある王城の門前に辿り着いていた。思ったよりも時間が経っていたらしい。
これから始まるのは貴族や王族との謁見及び報告だ。面倒だと思う反面、王都で1番大きい屋敷への訪問にカナタたちは内心ワクワクもしていた。
王都に入る門にぞろぞろと集団で押しかけたカナタたちは門番に1度止められた。しかし、セイスが経緯を説明すると共にこの後王城に呼ばれていることも明かすと一緒にいたもう1人の門番が確認に走ってくれた。そのあと呼ばれてやって来た警備の人間と話し合いになったが今回のことを報告する際に実際に連れていた方が分かりやすいと同行を認められたのだった。
まあ、ハックの侯爵家という立場からの発言力が大きく作用したからこその状況だが。
というわけで、カナタたちはベッソの屋敷で拘束した者たちと悪事に手を染めていなかった者達を沢山引き連れて王城へと足を踏み入れるのだった。
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