騎士団瞬殺
ベッソが取り出した魔道具は通信の魔道具と呼ばれるものだった。ただ、その効果は対になっている魔道具に信号を送る事が出来るという程度の物だった。現代でスマホが主流の地球的感覚では大した効果に思えないのかもしれないが、ネメシアでは長距離間でのやり取りが出来るというだけで破格の効果を持つ魔道具としてかなりの値が付く貴重品なのだ。送れる信号も数パターンでしかないが、あらかじめそれらに割り振りを決めておくことで簡易の通信が出来るこの魔道具はベッソの切り札だった。
今回ベッソが送った信号は勿論救援要請の信号であり、ものの数分でカナタたちの居る部屋に完全武装の私兵たちが乗り込んできたのだった。
「伯爵様!......貴様らか不逞の輩め、伯爵様を開放しろ!!」
部屋に入ってきたのは15人ほどの私兵たちで、その全員が見事に統一された純白の鎧を着こんでいる。得物は剣に槍と各個人で違うが、その技量はやはり伯爵が抱え込む私兵というだけあってなかなかに高いようだ。
この部屋まで駆けつけるのにかかった時間やその仕草から大まかにではあるが実力が測れるのだ。
さらにその中でも1人だけ鎧の装飾が派手で、周りの者達に指示を飛ばしているのが指揮官なのだろう、1人だけ群を抜いて隙が見当たらなかった。
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エニグランド
【レベル】:25
職業:騎士
【HP】(体力):25
【MP】(魔力):24
【STR】(筋力):31
【END】(耐久力):22
【DEX】(器用):16
【AGI】(速度):32
【LUC】(幸運):10
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ジューリ
【レベル】:22
職業:騎士
【HP】(体力):22
【MP】(魔力):20
【STR】(筋力):27
【END】(耐久力):21
【DEX】(器用):21
【AGI】(速度):30
【LUC】(幸運):13
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私兵たちが部屋に入って来たと認識した瞬間にすかさずアリスは私兵たちのステータスを確認する。しかし表示されたステータスはやはり自分たちと比べると格段に劣るものであった。貴族が囲い込むレベルの騎士達ですら自分たちの4分の1程度のレベルしか無く、ステータスも軒並み低いという情報を視取ったアリスはもはや警戒心すら解いてしまう始末だった。同様にカナタはアリスの雰囲気からステータスを確認したことを察すると同時にアリスに続くように警戒を解き、ヤクモも自分の目で情報を調べ終わった。
「貴方方はどなたでしょう?我々はハック侯爵の護衛としてこの場に居ますが、貴族同士が会談をしていた部屋にいきなり乗り込んでくるというのはさすがに不敬だと思いますよ?」
今のベッソを拘束している自分たちの状況に対しては完全にスルーしながらカナタは身分を明かして、剰え乗り込んできたことに対して責める口調で問いかけられた騎士達は若干だがたじろいだ。
「ば、馬鹿を言うな!!!我々の主である伯爵に対して無礼を働いておきながらどの口が我らを責めているのだ!そもそも、いくらハック侯爵様の護衛とはいえ平民風情が我らに対して異議を申し立てること自体が不敬なのだ。所詮成り上がりの冒険者がでかい顔をするでないわ。」
しかし、すぐに呆けていた状態から立ち直った指揮官と思われるエニグランドという名の騎士だけはカナタに食って掛かる。だが、エニグランドの選民意識の高さはその言葉にありありと現れていて、終始カナタたちを下に見ているのはすぐに分かる。
「おお。その通りだぞ騎士団長よ。早く私に掛けられたこの拘束を解いてくれ。ハック侯爵よ、今回の件はすぐにでも王都の貴族会議で問題として議題に上げさせてもらうからそのつもりでいてくれたまえ!」
エニグランドの雇い主であるベッソ自身も選民意識の高いタイプの貴族だったことで、その下についている騎士たちにまでこういったプライドの塊のような者ばかりが集まってしまったらしい。カナタたちを見る目がどれも見下している事がありありと窺える。だがその中でも唯一物事を客観的に見ることが出来る頭の回る者だけは違和感に首を傾げてよく回るその頭脳を働かせていた。
(どう考えても今回の件はおかしい。今の伯爵を拘束することまでが彼らの当初の目的であるなら、こんな少数で現れるというのは非効率的すぎるし、そもそもこんな子供が私の雇った組織に対して情報収集をしっかりとこなしてこの屋敷まで辿り着いているのだ。普通の子供の訳が無い!しかも騎士たちが現れて敵対行動を見せているのに、彼らは全く気にした素振りすら見せていないのはありえない。これは......)
ベッソとどうやら騎士団長だったエニグランドが騒ぎ立てたことで復活し始めた他の騎士たちも口々にカナタたちを罵り続け、騒がしくなった部屋の中でヤクモはゆっくりとその両腕を上げた。
「五月蠅いのう。」
パァァアン!
「「「「っ!」」」」
突如室内に響いたヤクモの打出の音はただ両の掌を打ち合わせただけなのにもかかわらず騎士たちはその音の衝撃を受けて数歩後ずさった。
もちろんヤクモは対象を絞って衝撃を飛ばしているので、ハックとエリーナ、セイスにはただ大きな音がしただけのようにしか感じない。まあそれでも十分煩いのだが。
そしてもう1人、ベッソも対象から外していた。これはヤクモが情けをかけたなどという訳ではではなく、ベッソの体が正常な状態で自身がたった今自慢していた騎士たちの辿るこれからの姿をちゃんと見せつけるためという、むしろ情けも容赦もない考えの上での行動であった。
「さて。静かになった事ですし話の続きと行きましょうか。伯爵の言から貴方方が騎士団長と騎士たちだという事は理解したのでその話は置いておくとして、実はさっき伯爵に渡したその資料は王都の各ギルドや貴族、さらには街に住む住民たちにも既に配ってあります。侯爵が貴方の情報網に引っ掛からないようにしながら交流のある方々に対して密に配布してもらったりと結構手間がかかっているのですよ。なので俺たちの口を塞いだところでもはや何も変わらないのですが......フィル、もういいよ。ありがとう。」
「なっ......!」
カナタがフィルにお礼を告げると騎士たちはその場に崩れ落ちた。さっきヤクモに注意が向いた瞬間にフィルが幻術をかけて密かに無力化していたのだった。幻術に落ちた騎士たちは既にフィルの思うがままに動く人形に成り下がっていたが、カナタが合図を出したので強制的に意識を飛ばすだけに留めたのだった。
突然の事態にベッソは左腕が固定されて動けないにも関わらず、地面を這って少しでも距離を取ろうと藻掻いていた。さらに、カナタの言ったことが理解できると其方の意味でもどんどん顔色が悪くなっていく。
「因みにですが、今頃は王都カイナンの冒険者ギルドと貴族たちが協力して貴方が隠している別宅の方の調査をしていると思いますよ。ああ、地下施設に押し込まれて監禁されて居る人たちのことも報告してあるので簡単に言って貴方の貴族位はそう時間をかける事なく剥奪でしょうね。」
いとも簡単に、それも手も触れることなく自身の私兵たちを圧倒したカナタたちに対してベッソは恐怖で言葉がなかなか出て来なかった。さらに、淡々と告げられるその言葉はさながらナイフのようにベッソの精神と意思を削り取っていく。そんな余命宣告のような内容なのにもかかわらず目の前の少年は表情どころか態度すらも変化させずに告げてくる。そのことが尚更にベッソの恐怖心を募らせる結果になった。
実際、その様子を後ろで見ているだけのハックやセイス達もカナタたちに対して少なからず恐怖を抱き始めていた。今回の会談でカナタが話す内容についてはその方が面白いだろうとハックたちにも告げていなかったのだ。
だが、最初は取り乱してしまったもののハックたちは今回の件に協力してくれているカナタたちに少なからず恐怖は感じてしまうが、今までと関係を変えることだけは絶対にしないとこの時心に決めた。恩人に対して距離をとるなどという考えがそもそも失礼だし、自分自身がそんなことをする姿をを嫌悪するからこそ今まで通りに接するのだ。
こういった考えを出来ることこそが本来の貴族として気高い思考だとハックの収める領地の住民たちは思い、慕っているのだが、それを地で行っているハックからすればそのことに気づくことはできない。
「それでですね、伯爵。ここに今回の件で貴方が依頼した毒と全く同じ成分の物を貴方と全く同じ組織に依頼して用意しま「おおぅ!なんだ!?いい女がいるじゃねーか。」
カナタの話に被せるように大声を発しながら、また新たにこの部屋へと入ってくる者が現れたのだった。
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