閑話 ユニークモンスター
本当はダンジョンの話をしていた時に入れたかった話なんですが完全に忘れてましたね・・・
ダンジョン内にはダンジョンコアが生み出すモンスターが存在する。ダンジョン内の通路や各部屋など、至る所に湧くのが通常のモンスターで、5の倍数の階層に存在する所謂ボス部屋といわれるエリアに存在する一際強力な能力を持った魔物が階層ボスモンスターだと思ってもらえればいい。それぞれのモンスターには勿論特徴があり、通常モンスターは各階層に数10から数100単位で存在するがボスに関しては基本的に1匹しか存在しない。
だが、ダンジョンに存在するのはこの2種類だけではない。極々稀に一般フロアを彷徨くモンスターが存在するのだ。これは通常モンスターとは異なり、ポップ率も極めて低いがその強さは階層ボスに匹敵するほどである。
名称を"ユニークモンスター"と言い、基本的には単独でいることが多い。例えば、ゴブリンしかいない、湧かない階層にユニークモンスターが生まれた場合、相性の問題もあるのだがユニークモンスターがゴブリンに指示を出して連携をしたりするといった変化が生まれる。
ユニークモンスターは単体で強力な戦闘能力を有しているが、他のモンスターと協力した場合はさらに面倒極まりない存在になるということだ。
ただ、ユニークモンスターとの遭遇は悪いことばかりではない。ユニークモンスターを倒した時に手に入るドロップアイテムはレアなモノが落ちやすく、安定して倒すことが出来るのならば美味しい相手でもあるのだ。
「うーん。まあ、分かるよ。分かるんだけどさ、ちょっと毒々しすぎませんかね!?赤いスライムって何!しかもかなり濃い目の赤だし!」
「ハイマースライムって名前らしい。見た感じステータスも高いしそこらにいるスライムなんかとは比べ物にならない。というか、どう見ても階層ボスと同等のヤバさなんですけど!」
「ハイマー!?......って確か血液って意味じゃなかったか!?まあ、血のような赤色のスライムではあるが。」
「それより、この階層にはスライムは湧かないはず。今まで私たちで掃討してきたけど1度も見てないし。.....強さといい見た目といい明らかにレアなスライムだと思う。」
「どのみち、階層に湧く魔物は殲滅するようにしているんだし戦ってみよう!ただ、相手の強さが俺たちにとっても油断できないレベルだしゆっくりと安全第一で行く!」
「了解!」
カナタたちは見た目とアリスが調べたステータスからハイマースライムがかなり厄介な相手だと警戒している。ハイマースライムがユニークモンスターと呼ばれる魔物の1種であるとは知らないが故に所詮スライムだと侮って挑むことも考えられた。しかし、カナタたちはその辺の事はしっかりと確認して情報を集める事で万全の状態で挑むようにしている為、最悪の結果にはならなかった。
「っ!速っ!こんなん明らかに今までのスライムの速度を軽く超えてるって!」
(神眼発動!)
カナタは華月を巧くハイマースライムに当てて勢いを受け流すと共に、自身にかかる力のベクトルを斜め後ろに変える事で何とか対応する。ハイマースライムのスピードがカナタの想像より上だったこともありただ避けるという選択肢を取れないでいる。
さらにハイマースライムはカナタにだけ向かうのでなくアリスにもその軟体な柔らかボディーを伸ばす事で鞭のような攻撃を繰り出している。しかしアリスは既に神眼スキルを発動し、動体視力を向上させてしっかりとハイマースライムの攻撃を見て躱している。
「一見直線的な攻撃の軌道に見えるけど体が柔らかいから途中で変に軌道が変わって対処が面倒だ!」
「カナタの方みたいに突進ならまだいいけど、私にしている腕?の攻撃は明らかに軌道ががグネグネ動く!スキルを使っていなかったら確実に何発か当たってるところ。」
カナタたちは文句を言いながらも1発もクリーンヒットを許さずに回避と迎撃をこなしていく。アリスは優秀な眼があるからまだ分かるが、カナタはネメシアに来てからの成長を窺わせる。2人ともこの神のダンジョンで戦闘経験を積み、ステータスにおいてもレベルアップを繰り返した事でハイマースライムのハイスピードな攻撃に対してしっかりと対応できていた。
「アリス、俺とこのハイマースライムは相性が悪いらしい!打撃、斬撃に耐性があるのかいくら切っても、突いてもすぐに元の形に戻る!」
「うん!"ライトニング"......ま、魔法にも耐性があるみたい!?効いた様子もなく反撃してくるよ。」
「...マジかよ。ふっ!アリス、正確な数値が知りたいから神眼スキルを使って与ダメージがどれくらいか調べてくれ!」
「任せて!」
カナタとアリスは物理攻撃も魔法攻撃にも耐性があるハイマースライムに対して攻めきれなかった。というより、本来ならこれだけの耐性がある魔物との戦闘では一方的に攻め立てられて成す術がなくなるはずなのだが、2人の闘志は全く萎えていない。
「はぁ、はぁ。カナタの攻撃は全く効かない訳じゃないけれどハイマースライムの回復力(修復力)の方が攻撃で与えたダメージより上だから効いてないみたい。これはもっと高威力で蓮撃するしか削れないかな。私の魔法もダメージが小さいみたいでほとんど効いてないし、やっぱりスライムの肉体の連結を妨害して回復をさせないようにするしかないかも!」
「そうみたいだな。スライムは体が切られて別れても元に戻ればダメージも消えるっぽい。とはいえ、こいつの回復が"オートヒーリング"じゃなくて良かったぜ。この耐性で勝手に傷が治ってしまうオートヒーリングまで使われたらいよいよ倒し方がわからない。」
カナタたちは1時間にも及ぶ間ハイマースライムの攻撃を回避し、時には受け流し、さらにはアリスが神眼スキルの代償で疲労した時はカナタが盾になって目の前にいる敵の情報を集め続けた。
その結果、ハイマースライムはカナタの斬撃で体を切り裂かれて分裂した時にダメージを受けるが、体が元に戻ると同時にダメージが回復していることを知った。さらに、アリスの操る属性魔法を受けたハイマースライムは行動阻害を受けることもわかった。
2人はその後、これまでに得た情報を元に勝負を決める為にさらに1時間ほど時間を使って魔力と精神力、そして体力の回復を図りながら最小限の動きで攻撃を躱していった。アリスも散々攻撃モーションを見たので、神眼スキルを使わなくても回避できるようになった。
「よし。そろそろ決めようか!」
「うん。いつでも合わせるよ。」
2人はこれまでの観察の結果と自分たちの回復を計算に入れて万全の準備を整えてハイマースライムに打って出た。
「抜刀術、五月雨!」
「氷魔法、"氷結精霊の悪戯"」
カナタが第1撃目に抜刀術でハイマースライムを真っ二つに切り裂き、そこから納刀までの間に4回ほど斬撃を追加して切り裂いた。抜刀術からの流れるような動きは常人の目では抜刀からそのまま納刀したようにしか見えないだろう。いや、正確に言うのなら刀を抜いてから納めるまでが何となく目で追えた程度だろう。
体をバラバラに切り裂かれたハイマースライムは各破片ごとに地面に散らばった。
そこに、アリスの"氷結精霊の悪戯"という名をつけられた氷魔法がハイマースライムを襲う。
これは、精霊という名を冠しているが、精霊を召喚魔法によって呼び出したり、アリスが魔法で精霊を創り出しているわけではない。
氷魔法で創り出した氷球に妖精に似た姿形を持たせ、アリス自身が操作することでまるで踊るような軌道で動き回るのだ。
アリスが創り出した氷球は全部で10個。それぞれがアリスの周りをふわふわと漂いながらアリスの指示に従って動く。
この魔法のコンセプトは、精霊を模した氷球があたかも遊んでいるように見えるという見た目に追及して作ったもの
できっかけとしては半ば遊びのような感覚で作った魔法だった。元はと言えば鑑賞して楽しむ為に用意したのである。
しかし、氷魔法で作られているので、相手への氷結ダメージや冷気による行動阻害、そして氷でできた妖精の手はかなり鋭利に作ってある為物理攻撃もできる万能魔法に進化したのだった。
これをたった今即興で術式を組み直して創り出したアリスはハイマースライムを凍らせていく。
カナタが細かくし、アリスが動きを封じるこの戦法で徐々にハイマースライムの体を削り取っていく。1度捕えてしまえば動きの遅くなったーーほぼ動かないーースライムなど敵ではない。
ただ1つ気をつけなければならなかったのはアリスの氷結魔法の消費MPだ。レベルアップによって総MP量は増えているが、それでもユニークモンスターを相手に、さらに魔法に耐性のあるハイマースライムを相手に無闇矢鱈に魔法の連発はできない。アリスとカナタはザクザクとハイマースライムのHPを削りながらも冷静沈着に攻撃を繰り返し、20分ほどが経過する頃にはハイマースライムはドロップアイテムへと姿を変えた。
【ハイマースライムのへそくり血瓶】
ハイマースライムが体内で生成する血液を凝縮して集めた小瓶。ハイマースライムにも味の好みに個体差があり、集められた血瓶にも若干の差があるらしい。
「これはアリスのおやつ行きだな〜。」
「素晴らしいドロップアイテムだった!今日の運はこれで使い果たしちゃったと思うけど、この結果に私は満足です!」
アリスはその日の夕食にデザート代わりにハイマースライムのへそくり血瓶を飲んでみた。その結果、流石はユニークモンスターのドロップアイテムだけあったのかアリスのステータスがかなり上昇した。血を飲んだだけでステータスが向上したのはこれが初めてであり、この発見にユニークモンスターからのドロップアイテムを求めて2人は暫しの間ハイペースで魔物狩りに勤しんだ。
後に知ることだが、ステータスが上昇したのは最初の1回きりだけだった。そのあとは何度確かめてもステータスに変動はなく、結果的に大量にストックした分がなくなるまでカナタスキルで創った血瓶と合わせてアリスのおやつ行きとなった。
ちなみに、アリスに1口だけでもハイマースライムの血を味わってみないかと誘われたカナタだが、幾ら簡単にステータスが上がるとはいえ血を飲む事は丁重にお断りした。
この血瓶のいやらしいところは、血を薄めて飲んでは効果がないことである。つまり、カナタはジュースなどに入れて飲むという選択肢を取れず、しぶしぶ断念したのだった。
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