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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
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解毒

 ベッソ伯爵の屋敷に到着したカナタたちは案内役のメイランドが屋敷内部との連絡作業を終えるまでは馬車の中で待機を言い渡された。すぐに戻るとメイランドは言っていたが、もう既に10分は待たされている。まあ、広い屋敷だしベッソ伯爵が見つからないとか、何かしら予想外のことが起きてもしょうがないかなと呑気にカナタたちは考えていた。しかし、ハックやセイスはたかだか確認作業にこんなに時間がかかるのはおかしいと考えていた。

 そもそも、貴族間でこういった来客があった場合は執事やメイドなどがまず客を屋敷内に案内し、お茶などを勧めてから待たせるのが普通だ。それなのに今回は時間を指定した手紙まで送って通知してあったのにも関わらずこんなに待たされている。


 カナタたちとハックたちの間で考えの食い違いがあるが、それでも馬車内の面々はお呼びがかかるまで静かに待つのだった。


 「ぐふふぅん。我が家の前で阿保面さげて待っておるわい。人を待たせるのは上位者(・・・)の特権だからなぁ、侯爵を待たせておける者など私を除いてそう多くはないぞぅ。いやーもう既にいい気分だと言うのに、さらに奴の顔を見て満足する楽しみが残っているかと思うと今日は素晴らしい日だなぁおい!」


 「左様で御座いますな。普通でしたら私どもが侯爵様方をお迎えに向かわなければならないのですが、初めての来訪ですと私たちに何か不測の事態が起きたのかと勝手に勘違いして待たせていても咎められなくて良いですな。」


 ベッソとその執事の2人は既に準備ができているにも関わらずハックたちを呼びにいかなかった。一時の優越感にどっぷりと浸り切ったベッソはようやくメイドに屋敷へ案内するように告げる。しかし、待たされたハックからすればあまりにも長いと感じていたし、同じ家臣という立場であるセイスは伯爵家の人間たちの仕事の効率の悪さなどを考えて普段なら決して態度に出すことがない彼には珍しく眉根を寄せて難しい顔をしていた。


 だが、カナタだけは笑顔が崩れることはない。時間が無駄に消費される、待っている時間が退屈だ、など不満は勿論あるがそれとは比べ物にならないイベント(・・・・)が控えているのだ。少し待たされる程度のことなど相手の余命が知らず知らずのうちに延命しているに過ぎず、カナタたちの気まぐれでその天秤はあっけなく今の状況を壊せるほどの手札を用意した者からすれば可愛くも懸命にもがいているようにしか感じない。


 勿論状況を理解しているアリスとヤクモも余裕の表情である。


 「お待たせいたしました。ここからはこちらのメイドが案内を代わって務めさせていただきます。」


 「ベッソ伯爵家のメイドを勤めさせて頂いております、ベラミーと申します。よろしくお願いします。」


 カナタたちの案内役はメイランドからメイドのベラミーに代わるらしい。馬車を厩舎に預けるために下男に手綱を任せてベラミーを先頭に漸くベッソ伯爵邸の中に入ることが出来た。

 外から見ても十分にお金がかかっていることはわかったが、内装にもふんだんに資金を費やして集めただろうインテリアが並べられており、伯爵位の資金力がありありと見て取れた。

 シャンデリアに絨毯、飾られた絵画に至るまでどれも一般人には手が出ないお値段の代物ばかりだ。


 「それではご主人様ももうすぐ参られると思いますので、こちらのお部屋でもうしばらくお待ちください。」


 カナタたちが案内された部屋は成る程、来客者と話しやすいようにテーブルに向かい合って座るように位置取られたソファーが並ぶ部屋だ。勿論ここも一般的な家庭と比較すると2、3部屋をぶち抜いた部屋と同じくらいの広さで、カナタたちを含めて数人しかいない状況では虚しさすらあるほどに広かった。


 「これはこれはハック侯爵。ようこそおいで下さいましたな。」


 「こちらこそ急な面会に時間を作ってもらって感謝する。」


 (おや?思っていたほどハックの顔に絶望感がないな!?執事の方も特に変わった様子がないし......どうなっておる?)


 お互いに心の内は顔に出さずに、ハックたちはベッソと執事が姿を表したのに合わせて席を立ち、お互いに挨拶を交わす。

 そしてそれが落ち着くと両者揃ってソファーに腰を下ろした。


 「いえいえ、ハック侯爵からのお話なら無理にでも時間を作りますとも。さて、お互い無為に時間を浪費するのは好ましくないでしょうし、早速で申し訳ないですが本日の要件をお伺いしてもよろしいですかな?」


 「勿論ですとも。今回の要件に関してはこの者から説明させていただく。」


 「.........その者は?」


 ハックはここで満を持してカナタに話を投げた。しかし、唐突に話を振られたカナタの方を見たベッソは、見るからに子供でしかない少年がこんな場所になぜいるのかという疑問に襲われた。そもそもよく見れば、ハックたちは執事のセイスと他は今回初めて見る少年少女しか連れてきていない。さらに、足元にはよくわからない魔物までもが室内に同席している。ベッソは顔を繕いきれずに眉根を寄せてハックにカナタのことを聞いた。


 「こんにちは、ベッソ伯爵。今日はいい日ですね。俺はあなたに会える日を心待ちにしていました。そして今日に合わせてしっかり用意してきましたよ?」


 だがカナタが全く聞かれた事とは違うことを話し出す。


 「お、おい少年!?いきなり何を話しておる?それよりもまず、今回のことをちゃんと説明せんか!」


 「くくっ。おっと失礼。俺はこの度ハック侯爵の護衛兼作戦立案者(・・・・・・・・)としてご同行させて頂きました、カナタと申します。短い間ですがお見知りおきを。」


 「......貴様が護衛?くふふっ。ガーハッハッハ!何をとち狂ったことを言っておる!子供に貴族の護衛が務まるわけが無いではないか。ごっこ遊びは他所でやってくれ。」


 ベッソは笑いながら吐き捨てるようにカナタにそう言い放った。

 ベッソの体型は悪い意味でよくいる貴族然とした感じである。カナタはどうして小説の中に出てくる貴族はどいつもこいつも醜く太り、脂ぎっている表現をされるのだろうかと思っていたが、いざ現実で対面してみるとなかなかに滑稽でユーモアがあった。

 身長は150センチ中頃と低めだが、横に人間2人分を収容できる体型なのでとてもアンバランスに映る。さらに、腹もしっかりと出ており、これで威厳を感じろというのは無理があるだろう見た目をしていた。

 まあ、簡単に言うならチビでデブだということである。


 「まあまあ、ベッソ伯爵。そう冷たいことを言わないでくださいよ。と、そう言えば、今回の面会の用件でしたね。今回の要件は、ハック侯爵の娘であるエリーナ様が毒に侵されていましてね、たまたま俺たちがハック侯爵の依頼を受けて気づいたので治したんですよ。」


 カナタの言葉遣いや表情、さらに態度など挙げればきりがないほどに無礼極まりないのだがベッソはそれを指摘するタイミングすら与えられずに本題を切り出された。しかもその内容はとてもではないがすぐに理解できるものではない。


 (馬鹿な!なぜあの毒に気づくことができた!?いや、それよりも治しただと?あの毒は高位の回復スキルを持った治療師でも治せないほど強力な毒だぞ。それをどうやって......くそ!治っていたからハックの奴は焦った顔をしていなかったのか。)


 「そのような事になっていたとは、エリーナ様にもしものことがなくてよかったですな。しかし、毒ということは治癒魔法で治したのかな?」


 ベッソは内心では毒のことが知られ、さらに治ったと聞かされてかなり焦っていたが、そこは貴族として長いこと生きてきた経験からちゃんと表情を繕って対応した。そして毒を治した方法をなんとしてでも聞き出したかったので、そのまま聞いてみた。


 「ああ、そのことなら、たまたま持っていた”上級ポーション”を使っただけですよ。俺たちも初めて上級ポーションを使ったのですがすごい効果ですね。しっかり後遺症まで完治させることができましたよ。」


 (じょ、上級ポーション!?アレは迷宮攻略などで極稀に見つかるレベルのレアアイテムだぞ!?それをたまたま持っていた?上級ポーション1つで平民なら一生暮らせるだけの金が手に入るというのに、しかも他人のために使うなど正気の沙汰では無いぞ!くそっ!これでは計画(・・)が台無しでは無いか!)


 この時は気が動転していてベッソは気づいていない。毒という症状をなぜ自分に打ち明けに来たのか。さらにはエリーナが治ったことをわざわざ教えに来る意味を。


 「そ、そうなのか?私は恥ずかしながら上級ポーションは見たこともないのでよく分からないが、そんな貴重なアイテムをどこで手に入れたのだ?」


 ベッソの問いにカナタは目線を泳がせて困った顔をする。だがこのタイミングでハックから後方支援が入る。


 「おいおいベッソ伯爵。カナタくんたちの秘密を強引に聞こうとしてはいけないよ。彼らは今は私の護衛だ。雇い主たる私はこの仕事の間くらいは私にできる力の貸方をさせてもらうよ。娘の恩人だしね。」


 (チッ!余計な口出しをしおって!上級ポーションの情報を吐かせるつもりだったのだが、先に釘を刺されてしまった。まあよい。ハックの所を去った後でどうとでも手に入れようはある。)


内心で皮算用を行いながらもカナタとハックとの話し合いを進めていくベッソだったが、終始アリスがベッソを見つめている(・・・・・・)ことには全く気付いていなかった。さらにカナタも話の入りからここまでの流れは全て計算されていた。カナタはまだ地球に居たころに心理学や読心術を勉強していた経験がある。さらにネメシアに来てからレベルやステータスが上昇して観察力、洞察力が増した今のカナタは相手の感情をもコントロールして話を自分たちの望むように上手いこともって行っていたのだ。


 双方の思惑が絡み合う黒い話し合いはまだ始まったばかりだ。



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