能ある鷹は・・・
side:ハック侯爵邸
カナタたちハック侯爵家に滞在している者たちと噂の黒い商売をしているベッソ伯爵たち、両者がいろいろな思惑を抱えて待ちに待っていたその日が漸くやってきた。
「しかし、いざ今日という日を迎えると緊張してしまうな。私の名前を出していろいろなところから協力を取り付けているらしいが、失敗したらただでは済まなくなるぞ?本当に大丈夫かね?」
カナタたちは当初調査にあてていた数週間の内1週間ほどでほとんど全ての情報を調べ尽くしていた。アリスとヤクモの2人が居れば隠し事なんて早々出来はしない。さらにノルンたちもスキルを用いて調査のお手伝いをしており、その進捗はカナタの予想期間を大きく早める事が出来たのだった。
そこでカナタは、残りの期間を使ってあらゆる重要人物に面会を求めた。この時にハックの名前を出す事で普通なら会うことが難しい立場が上の人物にもしっかり面会することができた。
「心配しなくても大丈夫ですよ。もう既にこの盤面は詰んでいます。後はゆっくりと手を進めて行けば自ずと相手が終わるだけです。もし予想外のことが起きても罠を張っていますし、まあ何とかしますよ。」
カナタたちは全く気負った様子も見せずに淡々と作業をこなす。現在は、ベッソ伯爵家へ向かってハック侯爵家が所有する馬車で移動中だ。その馬車の中でカナタたちは揺れる車体を気にもせずに羊皮紙に黙々と何事か書き込んでいくという作業をこなしている。アリスとヤクモの2人が担当している分も含めてすでに完成したモノはカナタたちのアイテムボックスに収納されているが、その枚数はかなりの数になっている筈である。
「今回は実際の被害者であるエリーナにもその受けた苦しみを発散してもらおうと思うので、侯爵も楽しみにしておいてくださいね。」
「そうだな。他にもひどい目に遭った者が居るというのは聞いたが、やはり愛娘が受けたことを思えば私は修羅にでも落ちれる。頼んだぞカナタ君。」
「私からもよろしくお願いします。旦那様とお嬢様が長い間味わったご苦労をこの機会に晴らせるのならば私も何でもお力になります。」
「勿論ベッソ伯爵には自分がこれまでやってきたことを解らせて反省させるつもりですのでご心配なく。セイスさんもそんな肩ひじ張らずに、リラックスしてください。侯爵と俺達でうまくやりますから。」
カナタたちの下準備は既に終わり、最後の詰めの話をしながらベッソ伯爵邸へと進む。カナタたちは普段通りだが、ハックやセイスの顔には若干の緊張も見られる。しかしそこも考慮してカナタたちがうまく今回の件をこなすつもりなので、問題はないだろう。
side:ベッソ伯爵邸
「おい爺、奴らはまだ来ないのか?」
「届いた書状によれば本日の正午ほどに到着するらしいので、あと1時間ほどで到着すると思われます。」
ベッソ伯爵は今日という日を心待ちにしていた。普段は面倒で家臣にその役目を振っている自分の治める領地の管理や書類仕事も率先して行い、夜はその代償である疲労によってベットに倒れ込むように潜ってすぐに寝ていた。いつもなら女を抱いて楽しんだり、奴隷たちに鞭打ちや拷問をして時間を明かしていたのだが、そんなことに手が回らないほどに早く今日という日が来るように努めたのだ。
「くくく、あ奴の憔悴しきっているであろう顔がどんなことになっているのかを想像しただけで、毎晩の夢が面白おかしいものになって近頃の私は絶好調だ。今日直にその顔を見たら私は耐えられる自信が無いぞ爺よ。」
「流石に侯爵様の前でまでその態度を出さないでくださいね。ああそういえば、相変わらず取引先が減ってはいますが、例の姉妹の買取手が決まりました。値段も此方の提示額を了承していただけたので、なかなかいい取引になりました。とはいえ、お相手はあの”ジンク伯爵”なので何日もつかは分かりませんが。」
「手を付けたのはあの変態か。確かひとつ前に私の所から買ったモノはトラ型の魔物と競争させていたとか聞いたな。その前はコレクションの剣の試し切り用だったか?」
「はい。ジンク伯爵は快楽主義のお手本ともいうべき方なので、奴隷の消費もかなり早いですね。我々にとっては上客ですし、今回の事で離れなかったのは僥倖でした。」
「あ奴のような輩を世間では悪魔と呼ぶのだろうなぁ。」
「先ほど買い取り先が決まったことを姉妹に伝え、ジンク伯爵の名前を出したら泣き叫んでおりましたなぁ。あのお方の名前はなかなかに広がっているようですよ。」
カナタたちが懲らしめようとしているベッソ伯爵たちは性懲りもなく悪巧みをしている。さらに今日訪れるハック侯爵に対しても格上の家主に対して堂々とゲス話をしているほどだ。本日取引が成立したという姉妹も地下の隠し部屋で拘束されて隔離されていた。
「黒狼と赤旗は痛かったが、まだまだ大口の取引先が残っているしまだ暫くは我が家はイケるなぁ。今日は良い事尽くしだし、今夜もまたいい夢が見られそうだ。」
「それは良うございました。......さて、そろそろ旦那様も来客に対する用意をしないと間に合いませんよ。」
「おお、もうそんな時間か。くくくっ。早く来い!待っておるぞ!」
それから数10分後、カナタたちを乗せた馬車はベッソ伯爵の家の前に到着した。ベッソ伯爵邸はハック侯爵邸から約2時間ほどの距離なのだが、今回は面会時間を正午に設定した為カナタたちは朝のうちに出発してここまで来た。しかし、実は侯爵邸を出たのは朝と言っても早朝と言ってもいい6時頃で、すべては今回のために用意されたプランの内である。
ベッソ伯爵邸は伯爵位であるにも関わらず、侯爵位を持つハック侯爵邸と同等か少し大きい位の豪邸であった。門の前に立ったカナタたちはハック侯爵邸でもやった門を見上げるというお約束を早速やって、あまりにも場違いな光景を作り出していた。
因みに今回においては、伯爵と侯爵の面会という事になっておりカナタたちはあくまでも護衛という役割なのでノルンとフィルはこの場に姿は見えない。
「ごきげんよう。失礼ですが、この度はベッソ伯爵邸へ何用でしょうか?」
ハック侯爵が所有する馬車には侯爵家を示す紋章が刻まれているのだが、門番はそれを見ても要件を訊ねてくる。これはただ単に今日ハックたちが訪れる事が門番に話が通ってないという事ではなく、道行きで馬車を奪われたりした場合などを考慮した質問であった。盗賊や魔物が当たり前のように街道に存在するこの世界では確認はうるさいほどに必要なのだ。
「本日は我が主がハック侯爵よりベッソ伯爵様に訪問の旨を示した手紙が届いていると思うのですが、ご確認ください。我々は、家紋が示す通りハック侯爵家の者でございます。」
セイスが御者台に顔を出して門番に事情を説明する。ここまでが貴族界におけるただの確認であり、セイスは懐から自身の立場を示す家紋入りの短剣を門番に見せた。セイスの動きはいちいち洗練されたものであり、この所作だけでも高い身分の者に仕えているのが窺えるだろう。
「ご確認させていただきます。」
門番はセイスから渡された短剣に対してスキルを発動することで真贋を確認する。ネメシアの門番は大体2人1組で行われるが、片方が今回のようにスキルで来客の真贋を確認したり、接待を担当する。そしてもう片方が戦闘担当で、ゴリゴリの肉体派が用意されていることが多い。
「有難うございました。確認が取れましたので邸内への案内をさせていただきます。私は本日の門番のメイランドと申します。短い間ではございますがよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
カナタたちを乗せたハック侯爵家の馬車は無事に門を潜り抜けて門番のメイランドが案内する邸内を軽快に進んでいく。そして進むこと数分、漸く目的地のベッソ伯爵邸の本館へと着いたのだった。
そしてカナタとアリスは馬車の中でこれからの計画を夢想して人知れずに静かに嗤うのだった。
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