準備
「何!?それは本当の事なんだろうなぁ?」
「はい。私どもが提供している例のモノが、数箇所で継続買取の破棄を申し出てきました。それも、ほぼ同時期に起こったので少し影に探らせたところ、それぞれの組織で幹部が総変わりしているらしいです。」
「ふぅーむ。......組同士の諍い程度のことは度々あるし、今まではそういったことが寧ろこちらの利益につながっていたのだが...何があったのかはわからないのか?」
「影の話によると、我々の手の者が探った時点で既に幹部が変わっておりまして、下っ端たちでは聞き出すにも最たる情報は持っていなかったらしいですな。新しく変わった幹部たちについても接触を試みましたが、話もそこそこにはぐらかして逃げられたそうです。まぁ、何かがあったのは確実ですがその核心にはいまだ辿り着けていないのが現状です。」
「チッ。せっかく私が今まで上物を見繕ってやっていたというのに、爺よ、落ちた売り上げはいかほどだ?」
「今現状で確認している額と、継続契約によって確約していた利益からの損失を合わせまして、大体100万ケルには上るかと。」
「何者かは知らんが、忌々しい!ええぃ、この前策に嵌めて手に入れた姉妹を連れてこい。今日はあれらで楽しまなくては気が収まらん!」
「......あれはなかなかに姉妹揃って上玉でしたので、手を付けてしまうと値が下がってしまいますよ?生娘の姉妹などなかなか良いアピールだとこの前旦那様が自ら申していたではありませんか。」
「くぅぅぅ。そう言えばそうだった!しかしこの昂ったものは......だが売り上げも下がった今は......仕方がない!いつものように不用品を使って収めるしかないか。」
「旦那様の自制心には頭が下がります。では、用意いたしますので暫しお待ちください。」
貴族街のとある屋敷の奥深くにある一室で交わされた話はネメシア世界における闇の1部でもあると言えた。貴族や商人、貧民にスラムの孤児などあらゆる身分が存在することで生まれながらに過酷な運命を背負う者もいれば、親から継いだ家でのうのうと好き勝手なことをして過ごす者まで格差が開ききってしまっている。カナタたちのように逆境を力に変えて奮起し、地位を得たものも中にはいるがそんなのは宝くじに当選する確率よりも圧倒的に低いと言わざるを得ないだろう。
しかし、たまには強者の地位に居る者が割を食ったとしても世界は何も変わらずに周り続けるのだ。
数日後、以前と同じ屋敷の一室
「どうなっているんだぁぁぁぁあああああ!!!」
「お、おおっ、落ち着いてください旦那様。まだ報告は半分です。」
「うるさいわ!私は冷静だ!」
その場所は遮音や盗聴対策が施され、更には秘密の部屋を通らなければ辿り着けないほどに隠しに隠された部屋であり、少しくらい騒いだところでその声が外に漏れることはない。
部屋は7〜8畳ほどの部屋で、貴族が抱える部屋としてはそう大したことは無いものではあるが、調度品、例えばコップや明かりを灯すマジックアイテムなどは高価なもので統一されていた。
主の怒りを買って火を起こすマジックアイテムーーライターのような物ーーを投げつけられた男は特に意にも返さずにそれを片手で受け止める。
「落ち着いてください。」
「うっ......っ!」
先と同じ言葉ではあったがその質が先ほどとは圧倒的に違った。言葉に込められた圧力が質量をもっているかのようだ。そしてそんな言葉をぶつけられたこの家の主は、先ほどまでの自称冷静で、はたから見たら怒り狂っていた姿を即座に切り替えて話の続きに耳を貸す態度をとる。
「私の言葉を聞いていただき、ありがとうございます。まず先に述べたように、数日前にも増して各顧客達が我々との縁を切り続けております。さらに、黒狼と赤旗も我々からの買取は今回を最後に終了するとのことでした。」
「黒狼も赤旗もこの王都ではかなり大きな組織だろうに......なぜいきなり我々から離れるんだ!」
「それも現在影を使って調査中ですが、残念ながら進展は無いとしか報告を受けていません。そして話は変わるのですが、数日後にハック侯爵様がこちらにお伺いになりたいと書状が届いております。」
「ハック侯爵!?また随分久しい名前が出たな。そういえばそろそろあれも死んだ頃合いか。」
「旦那様。そのことは最極秘の事柄ですので、あまり無闇に口にお出しになりませんようお気を付けください。」
「おお、そうだったな。我が屋敷とはいえ少し油断が過ぎた。して、ハック侯爵か......何用かは知らんが格上の貴族からの申し入れなら会ってやらざるを得ないだろう。」
「では、了承の文を送っておきます。」
「しかし、あれは、私が手に入れるはずだった娘を私に全く会わせないどころか、見合いの話まですげなく断りおって、思い出すとやはり不愉快だな。痛い目に遭わせるために手を打っておいた過去の私は良い判断をしたものだ!愛しい娘が倒れて焦燥しているであろう奴と数日後に顔を合わせるのが楽しみになってきたな。」
「侯爵様の前では一応表情は取り繕ってくださいよ?」
「分かっておるわ。ふひひっ、楽しみだのう。」
最初に話し合っていた、自身の家が裏で取り扱う商品の売り上げが著しく落ちて憤っていたことなどもう頭から抜け落ちている男に対して、執事然とした男は一抹の不安を覚える。この執事は1代前の、つまり、目の前に居る男の父親の代からこの家に仕えていて、多少なりともこの家に思い入れがある。今目の前にいる現当主は自身の欲望に忠実であり、いろいろな問題も数多く起こしてきたが最終的にこの執事が全てをうまく取りまとめてきた。それほどに頭が切れ、実力もある男が今回のことは流石に何かおかしいと警戒するのは当然であり、あらゆる手を使って調べているが情報がほとんど集まらない。そんな現状に対して少しばかり焦る自分と目の前の主人の温度差に小さくため息を漏らすのだった。
・ハック侯爵邸、応接間
「カナタ君たちに言われた通りにベッソ伯爵に面会を求める手紙を送った。」
「ああ、それでしたら先ほど了承の内容をしたためた手紙が届きました。日時も此方が提示した3日後で良いとのことでした。」
「おお、思っていたより早い返事だったな。しかし、カナタ君たちが調べて判明したことが事実であるなら、当然赦されるものではない。今回のことですべてを白日の下に晒す事が出来れば良いのだが。」
カナタたちは2週間ほどの時間でベッソ伯爵についてを調べ上げた。時にはアリスとヤクモの目を用いて観察したり、カナタが気配を消したその上でフィルが幻術を用いることであらゆる場所に潜入をしたりと方法は多岐に渡ったが、その中で得られた情報は完全な黒である証拠と同じ人間として不快感と嫌悪感しか抱く事が出来ないほどの悪事に身を染めているという証拠の数々だった。
中にはベッソ伯爵が裏で取引をしている組織に直接出向いてお話をしたりなんかもして情報を確かめた。
「こちらも色々と秘策を用意していますし、数日後のご対面が楽しみですね。エリーナにしたことも許せませんが、他にも数多くのことに手を染めています。当然情状酌量の余地はないです。」
「当日は儂らも護衛として一緒に向かうから主らに危険が迫ることも無いし安心しておれ。」
「確かにここまでの情報をこの短時間で集めた腕前は驚愕に値しますな。」
ハック侯爵家でも3日後に決定した一大イベントに対して細かな話し合いが行われた。ここまでの間に索敵や情報収集能力など多少は力の一端は開示したが、それでも一冒険者であり、普通のパーティであると話してあった。ただ、そのことについてハック達がその説明で納得をするはずもなく、話を合わせて深入りしないでいてくれているに過ぎなかった。大切な家族の恩人たちの秘密をわざわざ暴こうとするほど、彼らは厚顔無恥ではなかった。
「侯爵たちも数日後を楽しみにしておいてください。準備は万全ですから。」
カナタがそう告げた時の顔は笑っているのだが、長年数多くの人を見てきたハックたちからしたらとても冷たく映った。
両陣営が奇しくも笑い合いながら(形の上では)3日後の対面を楽しみに過ごし、そしてその時を迎えるのだった。
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