復調と黒い影
「あのっ、コレってポーションですよね?私の知識にあるポーションって下級の回復ポーションが薄い水色で、中級の回復ポーションが青色、状態異常を回復する解毒ポーションや解麻痺ポーションも含めて、こんな真っ赤な色合いをしたポーションは私の記憶には御座いません。......薄々は分かっていますがこれ、なんていうポーションですか?」
「......あー、まじかー。そっ、それは”上級”ポーションです。」
「じょ、上級ぅーー!!!我が家でもそう簡単には入手できないアイテムですよー!こんな貴重なものを......確かカナタさんたちは冒険者として依頼を受けたと仰っていましたね。お父様が提示した報酬はいくらですか?」
「そんなことは気にせんでも良い。娘......エリーナだったか、儂らが自ら決めて依頼を受けて、依頼達成のためのアイテムを偶々持っていたにすぎん。今は、気にせず養生しなさい。」
ダンジョンで入手したポーション類は魔物からのドロップでそれなりの数をアイテムボックスに保管してある。さらに、宝箱から得たポーションも数に含めればカナタたちパーティにおいては回復には当分困らない位は保有しているのだ。
そして、カナタたちが今の判断を誤ったのはカナタたちが保有するポーションには上級の他にも超位ポーションやエリクシルを持っていたからだ。
まさか勉強会で、アイテムのことを話すわけにもいかなかったからカナタたちの知識にその辺りのことはなかったのだ。
因みに、上級ポーションは過去にオークションで数億ケルの値がついたほどにレアアイテムである。
「よし。じゃあエリーナさんはとっととそれを飲んで回復してください。正直、後がつかえていますし。」
「えっ!?カナタさん、急に態度が変わりすぎですよ。......私病人なのですからもう少し心配してくれてもいいと思いますが......ゴクッ。」
「「「っ!」」」
カナタの方も今回の件はただの難病で、状況を確認したら北の山脈に月下の雫を採りに行くつもりだった。しかし、エリーナに毒を盛っての策謀の気配がする今回の件は見過ごすには少しことが大きすぎると考えたのだった。
カナタの言葉に従って上級ポーションを飲み干したエリーナにすぐに変化が訪れた。その体から光が発せられて部屋を包んだのだ。
下級ポーションを使用すると傷口が少し光って治っていく。それは中級のポーションに関しても同じなのだが、今回の上級ポーションは体の内側から光っているように感じる。カナタたちは基本的にポーションを使う必要がない体質だ。ダンジョンでもほとんど使っていない。中でも上級より上のポーションは1度として使う機会が無かった。だから、エリーナの体が光っていることにここにいる全員が驚く。
「......か、体が、体が軽いです。うっ、ううっ。」
「うん。無事に顔にあった斑点もきれいさっぱり消えているな。上級ポーションの効果スゲー!」
「よしよし。」
長いこと毒に蝕まれていた体が元に戻ったのだ。さらに、女の子としては顔にできた斑点はかなりキツかったのだろう。感極まって泣き崩れてしまったエリーナの頭をアリスが優しく撫でてあげている。
「なんだと!それは本当のことなのか!?」
「まさか、お嬢様が何者かに毒を盛られていたとは......全く気づくことが出来なかった私の無力さに腹が立ちます......っ」
ハックもセイスも怒気を含ませた言葉といい、2人から発せられる雰囲気はかなり刺々しかった。片や愛娘に危害を加えられて、片や自身が仕え、慕う主人の大切な人にして、幼少からお世話してきた孫にも等しい人を傷つけられたのだ。その怒りはカナタの前で繕う余裕すら失わせた。
今はエリーナも落ち着いて事のあらましとアリスが見通した事実をハックたちに伝えているところだった。
「まあまあ。悪いこともあれば良いこともある。エリーナの症状は無事に完治しました。もう、毒による脅威もないし再度摂取させるようなことにさえならなければ大丈夫です。」
「う、確かにそうだな。ありがとうっ。数年にわたり手を尽くしていたがなんとも出来なかったエリーナの症状が治ったのだ。その上、エリーナを苦しめた本当の黒幕までいることが分かったのだ。全て君たちのおかげだ。本当にありがとう。」
「私からもお礼を。誠にありがとうございました。もし貴方方が困ったことがおありになった際には、ハック侯爵家が筆頭執事の私の出来ることでしたら全力をもってお力になります。重ねて感謝を。」
ハックもセイスも心の限りのお礼を述べて頭を下げた。今初めて知ったことだが、ハックは侯爵家の人だったらしい。ハックに陰ながら付き従う護衛がいたことに気付いていたカナタたちだったが、まさかそこまで位の高い人だとは思わずに、さらに自分に対して頭を下げられている今の状況に苦笑いするしか出来ないでいた。
他世界の地球から来たアリスであっても侯爵位がどれだけ上位の爵位か位は知っているし、ラノベ知識が豊富なカナタはむしろ爵位についてネットで調べた過去をもっている男の子であった。
「いえいえ、お気になさらず。というより、侯爵だったんですね。今まで知らなかったとはいえこれまで失礼しました。」
「馬鹿を申すな!娘の恩人に対してそのような狭量なことを申したりはしないさ。今まで通りに接してくれ。」
「...そう言ってもらえると有難いです。さて、話の本題は誰がエリーナに対して毒を盛ったのか、ですが心当たりは?」
「いやそれが、
コンコン
ハック改めハック侯爵がカナタの問いに応えようとしたが扉をノックする音に途中で遮られた。
「失礼いたしますわ。」
「「............!」」
数年に渡って夢想していたエリーナの元気な姿を確認したハックーーもう侯爵はつかないーーは数秒の硬直の後に目を見張るような体捌きでエリーナを抱きしめた。座っていたソファーはそれはもう侯爵の名は伊達ではないなと思わせるに足るほどふかふかで、力を伝え難い筈なのにもかかわらずに移動してきた。そしてハックの後ろに控えていたセイスもいつの間にか2人のそばにいて感情を表に出さないように堪えているのが丸分かりなほどに感動していた。
エリーナと一緒に居たアリスたちも静かに合流しているのだが、この家族が長年夢にまで見た一時を邪魔するような無粋な者はこの中には居ないのでみんな温かい気持ちになりながらその場を見守っているのだった。
「......いや、すまない。またしても恥ずかしいところを見せてしまったね。」
「構いませんよ。久しぶりに家族が何の障害もなく顔を合わせられたんだから、嬉しいのは当たり前ですよ。それより、先ほどの話に戻りましょうか。」
数分ほど喜びを噛みしめたハックたちだったが、今度は一転して真面目な雰囲気になる。この辺は、貴族として海千山千の腹黒達と渡り合ってきた経験から切り替えがしっかりと出来ていた。
「そうだったね。話を戻すが、私の立場的に妨害をしてくる輩は同業者には数多くいる。しかし、娘に毒を盛るなんて犯罪を犯すような者には流石に心当たりがないな。セイスはどうだ?」
「申し訳ありませんが、私も心当たりがありませんね。旦那様に対して直接事を起こすのではなく、エリーナお嬢様に矛先を向けるというのが何か関係しているのでしょうか?」
「うーん。エリーナは何か心当たりはない?」
「......そういえば私が体調を崩す少し前に”ベッソ伯爵家”からお見合いのお話がありました。」
エリーナが記憶の紐を手繰るように思い出したのは手掛かりになりえる僅かな希望だった。そしてエリーナの発言でハックたちも思い出す。
「そういえば御断りの手紙を出して少ししてからでしたな。エリーナお嬢様の体調が急変したのは。」
「それだけ聞くと猛烈に怪しいですね、そのベッソ伯爵という人は。」
「ベッソ伯爵と言えば女癖が悪いことで有名だし、そんな男の元へエリーナが顔を出す必要はないから即座に断り文を送ったのだったな。確かに黒い噂も聞く男だけに少し探ってみるべきかもしれないな。」
エリーナから齎された情報から話はベッソ伯爵の話でもちきりになった。話が進むにつれて時間も相応に経過していきカナタたちはハック家でお泊りとなった。というより、エリーナの恩人に宿を用意するとハックが言い出してそこからはお互いに譲らない話し合いに展開した。ハックが用意すると言った家は、このハック邸からすぐの所に新しく建てると言うのだ。しかもカナタたちが暮らすにはどう考えても大きすぎる豪邸であることまで発覚して、さすがにそんな大層なものは貰えないと必死で首を縦には振らなかったのだ。
そして、妥協案としてこの家にお邪魔させてもらうことになってしまった。期限はカナタたちが王都に居る間という事でこれもかなり破格な申し出だったが、先の案と2つに1つと言われたら此方を選ばずにはいられなかったのだ。
話し合って決まったのは、1度ベッソ伯爵をちゃんと調べるということで、カナタたちもその調査に参加することにした。
早速明日から調査を開始するという事でカナタたちは少し早めに眠ろうと布団に着いた。しかし、高級な布団に慣れていないせいなのか、調査を少しばかり楽しみにし過ぎているせいかカナタたちはなかなか寝付くことができなかったのだった。
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