人助け
ギルドの一角には各ランク毎の冒険者が利用しやすいようにランク毎に魔物の討伐依頼、素材採集、ちょっとしたお使いなど、種類分けされて依頼が張り出されているボードがある。通常は朝の決まった時間にその日に更新された依頼が張り出されているのだが、今回のように緊急で依頼が入りクエストボードに張り出されることもあるのだ。
現在は新たに張り出された依頼を今この冒険者ギルドに居る冒険者のほとんどが確認しているが、それぞれが依頼内容を確認すると興味を失ったように元居た場所に戻って何事もなかったかのようにしている。そもそも、依頼主の男がギルドに入ってきた時点で依頼内容を大声で語ったためにその内容は殆どの者が知っていた。冒険者たちが気にしていたのはその報酬と依頼任務の期間、後は依頼の詳細を少々といった感じだ。冒険者たちも初めから失敗の確率の高い依頼などは降格の危険もあるので受けないこともある。こうして張り出されたはいいが長期間放置される依頼も中にはあって、常時張り出された状態で存在していたりするのだ。
「何故だ!なんで誰も私の依頼を受けてくれないんだ!金なら大いに弾んだ。この金額で満足しないことなどあるのか!?おい、そこのお前。何が不満だ?望みにはできるだけ沿うようにするから私の依頼を受けろ。」
この男の言う通り、男の依頼はなかなかに高額な報酬が得られるものだった。受付嬢に提示された依頼に掛かる金額に対して1.5倍の額を報酬に提示したのだ。流石に依頼主の男にしても北の山脈が危険なことは耳にしていて知っていたため是が非でも受けてくれるように報酬金額の増額をした。しかし、結果は誰も受けることなく今の状況になってしまっている。
実際、この依頼を見た冒険者たちは報酬の金額を見て少しだけ欲につられかけたりしていた。しかし、実際に自身の首に迫る死の恐怖は大きく、だれもこの依頼は受けていないのが現状だ。幸いだったのは、今の時間は新人の冒険者たちは既に朝の時間に張り出された依頼を受けてこの場におらず、無謀にもこの依頼を受けなかったことだろう。
依頼を出した男に絡まれた冒険者はしかめっ面でこの依頼についてダメ出しをする。
「確かに、この依頼はなかなかに魅力的だとは思うぜ。俺だって金は欲しいし薬草を採ってくるだけで1、2ヶ月は遊んで暮らせる。こんないい依頼は受けたいのは当然だ。だがな、月下の雫は例外だ。この辺じゃあ手に入れる為に北の山脈に行かなきゃならねぇからどうしたって危険が付きまとう。あの惑わしの森は幻覚効果の他にもまあまあ強い魔物たちが生息している場所でもあるし、少しでも情報を集めているなら低ランクの冒険者でもまず近づかねぇ。さらにこれだけ面倒な場所を無事に通れたとしても月下の雫自体も希少な薬草で、簡単に見つかる訳じゃねぇってのにこの依頼の達成期限が1週間以内とかまず不可能だ。移動に最低でも数日はかかるし、発見できるかもわからねぇ物を採ってくる依頼でこの期限じゃあ誰も受けないのは当たり前だぜ。」
「俺たちは依頼に失敗するとランクが下がることだってあるんだぜ?こんな見るからに達成できそうにねぇ依頼を受ける奴は相当生活に困っている奴か、新人のモノを知らねぇ奴らだけだよ。これでわかったか?......じゃあ期待しねぇで依頼を受けてくれる奴を待ってなよ。」
月下の雫は薬草であり、使用理由としては当然病人への投与になるだろう。そしてこの男の慌てようからタイムリミットが迫っていることは想像に難くない。だからといって、冒険者たちだって危険を好き好んで行うものなど極一部であるし、この依頼の期限を考えれば断るのが普通なのだ。
さらに、北の山脈を苦にしない高ランクの冒険者たちは運悪く他の依頼を受けてこの王都カイナンには居なかったのだった。
「あのー、依頼なら俺たちが受けましょうか?」
カナタたちは他の人がこの依頼を受けるなら自分たちが受ける必要はないと考えていたので少しの間様子を伺っていた。しかし、だれも依頼を受けたがらず、さらには男が依頼を受けるように周りに言い出したので声をかけたのだ。
「うん?......何でこんな子供が此処に居るんだ。それに君たちが私の依頼を受けるだと?気持ちは嬉しいが、北の山脈は危険なところなんだ。君たちのような子供が受けられる依頼ではないから他へ行きなさい。」
「その話なら今ギルド内でもよく聞こえていたので知っていますよ。報酬にしてもそんなに興味はないのであまり気にしなくていいです。」
「いや、そういうことを言っているのではない!私の依頼は今ここにいるギルドのベテラン冒険者たちですら危険で手を出さないほどなんだ。君たちには手に余る。......その顔は納得していないようだね。君たちに伝わるように解り易く言うなら実力不足だ。」
「ああ大丈夫ですよ。もしこの依頼で俺たちに危険が迫ってもし死んだとしてもあなたには迷惑は掛からないようにしますし。そもそも俺たちはさっきギルドに登録したばかりの白ランク冒険者なので普通に依頼を受けるにはランク不足なんです。なので個人的に、という方法になるのでもし俺たちに何かあっても気に「ふざけるな!子供が命を粗末にするんじゃない!それになんだ今の言い方は?まるで自分の命の危機に対して全く気にした様子もない。君は仲間を危険に......なんだ?」
カナタは自分の言葉を遮られて延々説教が続きそうな雰囲気が漂う男の言葉を手を翳して止める。この男が自分たちの事を思って言ってくれていることは分かるが、このまま時間を無駄に使うのはあまり得策ではない。さらに、まあまあ大きな声で話す男にギルド内に居る冒険者たちの視線も集まっているためあまり事を大きくしたくないカナタはこのまま続けたくはなかったのだ。
「まあまあそんなに興奮して大きな声を出さなくても聞こえています。」
カナタは辺りに視線を送りながら男に話す。そして男もカナタが何を言いたいのかを視線を追って周りを確認することで理解した。
「すまない。少し個人的に気が昂ってしまって声が大きくなってしまったな。だが、私が言ったことは真実だ。子供であることに目を瞑ったとしても白ランクの新米冒険者が達成できる難易度の依頼ではないんだ。」
「いや、だから大丈夫ですって。」
「なぁカナタよ。此処でいつまでも同じ話をしているのも面倒じゃし、月下の雫が必要という者を先に見ておく方が効率が良いのではないかのう?」
「確かに一理あるな。どうですか?えっと......そういえばお名前を聞いていませんでしたね。」
「私はハックだ。それより話を勝手に進めるな。危険だと言っているだろう!」
「危険なのはもうわかりましたから。それより、ハックさんの様子を見る限りだと相当危険な状態の人がいるのではないのですか?」
「うっ、それは......」
「ハックさんが優しく、今さっき初めて会った俺たちのことを心配して言ってくれているのは分かりました。でも俺たちがあなたに声をかけたのはハックさんの為ではなく、その月下の雫が必要な人のためなので今は早くその人の所に案内してもらいたいんですが、......やっぱりダメですかね?それとも俺たちが信用できないとかですか?」
「.........分かった。付いて来なさい。」
ハックは確かにまだ子供であるカナタたちに危険なこの依頼を受けさせるつもりはなかった。しかし、カナタに言われた現実がハックの意見を変えさせるに至った。それにすぐに北の山脈に向かうのではなく、自身の家にとりあえず向かうのならあとでもう1度説得すればいいと結論を先送りにした。知り合った者が危険にさらされるよりも自身にとっての大切な者が今危いという事の方がハックにとっては拙いのだ。
ハックも気持ちを定めて目の前の小さな冒険者を案内することにしたのだ。カナタたちは冒険者ギルドを後にして王都カイナンの道を進んでいく。時間はもう既にだいぶ遅いが、王都というだけあって明かりを灯す魔道具が街のあちこちに設置されており、暗闇を払っている。そして明かりの周りでは屋台が開かれて串焼きや、装飾品などを売っている。
ハックが案内するのは屋台が並ぶ一般街をも超えて更に先の貴族街であり、その歩みに迷いはなく1直線に進んで行くのだった。
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