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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
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おやくそく

 新たな刀、"星衝刀ゼロ"を手に入れたカナタたちは王都カイナンの街を練り歩く。時に屋台で焼き鳥を買って皆んなでうまうまと食べたり、音がなる楽器型の魔道具を売っているお店で店主の演奏を聞いたりと楽しい時間はすぐに過ぎていった。

 さすがに伝説級の刀を人々の目に常時触れさせているのは、盗難や面倒ごとのことを考えると精神的に疲れそうだったので、アイテムボックスに仕舞ってある。


 日も落ち始めて、夕方に差し掛かった頃に漸く目的地の冒険者ギルドに到着した。冒険者ギルドは一般街と貧困街の境界に建っている。そもそも、冒険者ギルドの登録者たちは一般街と貧困街の人間がほとんどなので、このような立地になった。貴族に関しては依頼はするが、冒険者になろうだなんて酔狂な者は先ずいないので特に不満の声は出ない。スラム街の人間も腕っ節に自信がある者は登録しているが、スラムへの偏見と社会貢献度や実績などによりそちらにギルドが近づくように考慮されることはないのだ。


 冒険者ギルドはその入り口に盾と交差する2本の剣のエンブレムが描かれた看板が掛かっている。この看板が各街にあるどの冒険者ギルドにも掲げられているためとても分かり易い。


 やっと見つけた冒険者ギルドにカナタたちは期待に満ちた目をしながら入っていく。--カナタだけは少しだけ別の期待(・・・・)を胸に抱きながらーー


 「.........」


 ギルドの中で真っ先に出迎えてくれたのはギロリと音がしそうなほどの視線のラッシュと痛いほどの沈黙だった。

 カナタたちはそんな気まずい雰囲気など全く意に介さずにギルド内を見回した。ギルドの内部はカウンターのような場所が3つほどあり、それぞれに綺麗にめかしこんだお姉さんが座っている。そして1番右端のカウンターより更に先にお姉さんが居るカウンターの倍くらいある机が置かれている一角がある。

 冒険者ギルドでは依頼をこなして報酬を得るというシステム上、報酬の換金や依頼に対する受付などを行う必要がある。そして冒険者に対する依頼は朝のうちにクエストボードに張り出されて、それぞれが受けたい依頼を受け付けで処理してもらう、という流れになっている。つまり朝はこの場所に人が溢れかえる訳で、見た感じ今の時間帯では十分に広い建物のように感じるがピーク時はどのような惨状が待ち受けているのかわからない。


 大体の事を見回して理解したカナタたちはまずは受付に行こうと足を踏み出した。しかし数歩進んだあたりで嘲笑うような声が飛んできた。


 「ぎゃははは。なんだお前たち、此処が何処だか分かって来てんのか?ガキの来るような場所じゃねーんだよー。」


 「おいおいゴッツ。あんまり虐めてやんなよ。こいつらだって夢の1つくらいは見たいんだろうからよ。くくくっ、女たちは俺のパーティで面倒見てやるぜ、こっちこいよ!」


 「おいおい。お前の方がよっぽど酷えじゃねか。ぎゃははは。」


 声をかけてきたのはギルドの内部で受付カウンターとは逆の、入り口側に併設された酒場のようなところで飲んだくれていた男たちだった。すでにアルコールもいい感じに入り、気分がよくなっているらしい。そしてこの男たちだけでなく、至る所から煽るような言葉から出ていくように促すものまでさまざまな声が掛けられる。


 「おい。」


 (おう、遂になのか!やっぱりここでのお約束(・・・)は回収しておかないとな。)


 今までは遠巻きに煽られるだけだったが、今度の人は後ろに立ち、ちゃんとカナタたちに向けて声をかけてきた。カナタはついに来たかと胸を高鳴らせるが、アリスたち他の面々はほとんど興味を示していない。だいたい、絡まれて喜ぶのなんてカナタのようにラノベを愛読していてお約束が分かるような上級者だけであり、普通は迷惑極まりない、アリスたちの反応の方が一般的なのだ。


 「ここはお前たちのような子供ガフッ......」


 (えーー。お約束強制終了かよ!)


 カナタたちはこの冒険者ギルドに入るなりヤジられた。その後は数歩進んだだけで周囲からバカにしたような声を浴びせられて殆ど入り口から動いていなかった。そして、その後に声をかけてきた男はそのカナタたちの後ろに立っている。つまり、彼の立ち位置はギルドの入り口の扉付近に立っていたのだ。そして、いい感じに言葉を発して油断していた時に勢いよく開けられた扉に吹き飛ばされて今は地面に伸びている。


 「こ奴は何がしたいんじゃ?声をかけてきたかと思えば吹き飛んで気絶しておってからに。」


 「うん。まあ。......ヤクモも傷口に岩塩をこすりつけるようなことはそれ位にしておいてあげて。」


 カナタが密に楽しみにしていたお約束は、開始数秒で終了したのだった。しかしさすがに、いいところ何もなしで不意打ちを喰らって伸びているこの男を見てしまうともはやどうでもよくなってしまったのだった。


 「はぁはぁ。......依頼がしたい!大至急で北の山脈に生えているという”月下の雫”を手に入れてほしい。」


 派手に吹き飛んだ男の方にばかり視線が行き、扉を開いて男を吹き飛ばした方の原因にはこの時声を発したのを聞いてようやくギルドに居た面々は気付いた。乱れた息を整えながら大きな良く通る声で早口に告げたそれはギルドに数秒の沈黙を齎した。

 そして、脳に言葉が染み込んでいくと徐々にギルドにいた面々は動き出していく。


 「北の山脈って言やぁ"惑わしの木"が群生している場所だろ。あんな危ねえ木が生えているところに無闇に行くかよ。」


 「大体、月下の雫は入手難易度Dランクのアイテムだろ。簡単に見つかるとは思えねぇ。」


 「そもそも時間的に出発するなら明日からだしな。今から向かったら夜は危険な町の外での野営になる。さらに月下の雫を見つけるのにかかる時間と労力を考えると簡単には受けられないな。」


 口々にパーティメンバーと話し合いながら今回の依頼についての自身の考えを共有している。


 「すみません。ギルドへの依頼の申請でしたら私たち受付を通して行ってください。また、詳しい内容などを聞きたいので少しお時間をいただければと思います。冒険者の皆様は我々が今回の依頼の審査を終えたらいつものようにクエストボードに張り出しますのでもう少々お待ちください。」


 受付嬢の1人が騒めき立っていたギルド内に響くように声を張って今後の方針の説明をした。これにより冒険者たちはパーティーでまとまって依頼表が張り出されるのを待ってから方針決めることにした。

 しかし、カナタたちはこの変化する状況について行けずにその場に立ち尽くしている。そんな状況でも先ほどの依頼受理申請にかかる待ち時間といった雰囲気のギルド内は、皆が思い思いの場所で時間を潰しているためカナタたちもそう目立ちはしなかった。


 慌ててギルドに飛び込んできた男は現在、受付で何やら情報をまとめるために話し合っている。


 「えっと、月下の雫って何?」


 「さっき話していた人によれば山に生えているらしいからそこまで市場に出回らない物なんだと思う。ただ、流石にネルも一般常識の範疇にそんな物の話は入れてないだろうから私たちは習ってないね。」


 カナタたちが習ったのはこの世界の一般常識と生活面での知恵、あとは付近の地理くらいでその他は自分たちで見聞を広めていくことにしていた。故に今の放置されている状況もカナタたちには新鮮で楽しかった。そもそもこれまではダンジョンの中で戦い通しだったカナタたちはこの普通の生活が楽しいのだ。ダンジョンの中ではいくらカナタたちとは言っても頭の片隅には常に周囲を警戒する意識を残していたし、何かあった時にはすぐに反応出来るようにしていた。そんな非日常に100年近くその身を置いていたのだから興奮してしまうのも無理からぬものである。


 カナタたちも今のただ突っ立っているだけの時間は勿体無いと考えて漸く空いている受付に向かった。


 ここからカナタたちの冒険者としての第1歩が始まるのだった。



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