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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
71/108

カイナン観光と新たな出会い

 カナタたちは翌朝目が覚めると部屋を出て1階にある食堂へと向かった。昨日は村から歩き通しでここ、カイナンまでたどり着き、漸く着いたかと思えば視界いっぱいに広がる長蛇の列。そして、並ぶことなんと半日以上という待ち時間を乗り越えた後には恐ろしい覇気を持つエルフとの遭遇だ。いくら高ステータスのカナタたちとて疲れ果ててしまうのは仕方がないだろう。


 部屋から出て一階にある食堂に着いてみれば数組の利用者が既に食事を摂っている。カナタたちも空いている席に着いた。厨房の奥からカナタたちが席に着いたのを確認した女将さんが人数分の水を持ってやってきた。

 カナタは昨日しっかりと対応して食事の時にももう1度今のように相対したのだが、疲労とやっと宿についた事、さらに食事の旨さに意識が持っていかれていたため今、漸くしっかりと女将さんを確認した。

 女将さんはネルが居た村の宿屋の女将さんと同じようにあと数10年若ければさぞや、という位の年齢と外見をしており、口調はまあ、この世界では自然と荒くれ者たちの相手もしなくてはいけないからこういった気易い感じになるのだろう。

 女将さんの服はそこらの店でも売られているありふれた感じだったが、そこは食事処の人間としてエプロンをしっかりと着けて、客たちに食事を運んでいる。この宿屋は女将さんと旦那さんの2人で切り盛りしているらしく、まだ会ったことも無いがこの食事は旦那さんがコックとして作っているらしい。

 女将さんは地球でいう所のウエイターと宿の宿泊客の対応をしている。


 「今日の朝ご飯は何ですか?」


 ここでの食事は、というかこういった宿屋の食堂が提供する食事は既にメニューが決まっており、席に着くと用意される仕組みになっている。村の宿屋でも体験済みであり、もう慣れたものだ。


 「今日は”シュッドラビット”の肉を使ったスープと黒パンだよ。バターもあるからそっちは好きに食べな。」


 女将さんは水を配るとメニューを教えてくれる。ネメシアでは黒パンが庶民の間では食べられているが、このパンはなかなかに硬い。保存の面と腹持ちの面から作る段階でギュウギュウに生地を練り込んで質量を上げて造られるのだ。冒険者などはこれ1つで腹が膨れて持ち物を圧迫しないから重宝するし、お店側も日持ちがするからこのパンを売る。

 基本的に黒パンはスープと共に食べることでこの硬さを和らげる。


 「ありがとうございます。楽しみにしていますね。」


 宿の料金などは既にステータスプレートを用いて1週間分を先に払ってあるので出された食事などでお金を払うことはない。

 食事はノルンたちにも用意されていて変わらず皆で楽しい時間を過ごした。


 本日のカナタたちの予定はこの王都カイナンを探索しようと話し合いで決まっていた。宿屋を出たカナタたちは街の中をゆっくりとお店を回りながら歩いて行く。

 王都カイナンは大都市と呼ばれていて同大陸にある”法皇国”、”獣王国”、”帝国”、”戦興国”とカイナンを擁する”王国”の5つの国を総じて5大国家と呼ばれている。その王都たるカイナンでは何でも揃うと感じるほどに物が充実している。

 武器屋もあるし、食べ物屋もある。服屋から魔法道具屋など金さえあれば生きていくことに困ることはないほどには店は軒を連ねている。

 カナタたちの観光は何件も梯子をしてはその店の商品を眺めたり購入したりと楽しんでいる。


 「うん?このお店なんかいい感じの雰囲気というか......なんか気になるんだけど、みんなはどう?」


 「私は何も感じないけど......もしかしたら()が置いてあるのかもね。カナタなら武器から何かしらの波動(・・)を感じることが出来るのかも。」


 「武器からの波動とは面白いのう。ただ運命的な出会いというものはあるらしいからカナタにとっての出会いがあるのかもしれないのう。」


 「もしそうなら楽しみだな。じゃあ入ってみる方向でいいか?」


 「OK。」


 「うむ。」


 こうしてカナタたちはそのなんとなく気になった武器屋に入ってみた。中は剣から弓、槍や斧など様々な武器が所狭しと並べられている。しかし店の中にカナタたち以外の人影が無いのだがカナタたちは気にした様子もなく店内の商品を見て回っていた。


 「おいおい、流石にうちの店でもペットの来店は遠慮してもらいたいんじゃがな。下手に商品を汚さんでくれよ。」


 ただのカウンターからいきなり声が聞こえたが誰も驚いた様子はない。カナタたちの身長で頭がぎりぎり出るくらい、ヤクモなら胸の高さ位のカウンターの後ろには顔いっぱいに髭を蓄えたおっさんが居た。


 「こんにちは。ノルンたちは賢いので安心してください。」


 「やあ、店主。お主はドワーフ族か?もしそうなら儂は初めてドワーフという種族と会うのだが、お主が此処の武器を鍛えているのならなるほど、納得の出来だったという訳だな。」


 「......確かにそいつらはよく見れば店の物に配慮して進んで居るわい。そしてそっちの嬢ちゃんに応えるなら、いかにも儂はドワーフじゃ。此処の武器の全てではないが儂が鍛えた物も置いてある。」


 この武器屋で取り扱う武器はランク別に並べられており非常に分かりやすい。


 武器のランクはそれぞれ


 ・神器級

 ・神話級

 ・幻想級

 ・逸話級

 ・伝説級

 ・国宝級

 ・上級

 ・下級


 と、下から順にランクが上がっていき逸話級クラスのものなど世界にどれほど存在しているかも確認できないほどにその希少性が高い。一般的に知られているのが国宝級のものまでで、それより上のものなど”英雄”と呼ばれるような者が所持してその存在を秘匿したりするためその存在は広まらない。

 因みに伝説級より上の武器は自身を扱うに足る所有者を武器が選ぶため偶々その存在を発見したからと言っても使えるというわけではない。例としては、剣が鞘から抜けないとか、その武器が異常に重くて持ち上がらないなど、それこそ”選定の義”という催しが開かれている地方があったりもする。


 だが、店の中にある品々を見てもカナタは何も感じない。1番高額な剣は値札にゼロが何個も並んでいて目が飛び出るほどの値段が書かれて置いてあるが、店の前で感じたような何か(・・)は感じないでいた。


 「おじさん、ここに並んでいる以外にも武器って置いてあるんですか?」


 カナタは我慢が出来ずに遂に聞いてしまった。だが聞かれたドワーフは一瞬呆気に取られて呆けたかと思えば、すぐにその視線は鋭いものに変わり、カナタを射抜くように見つめてくる。まるで何かを測られているような、疑うような、訝しむような視線は数分にも及ぶほど続いた。しかし、何かを決意したのか、はたまたカナタから何かを感じ取れたのかはわからないが、ふぅと息を吐いてドワーフの視線は元に戻った。


 「何を知っている?なぜそのような質問をする?」


 「......言葉を返すようですが何も知りませんよ。俺たちは昨日この都市に着いたばかりで、ここも偶々通りがかっただけです。でも、この武器屋を見た瞬間になにか、それこそ違和感というか、その気配というか、まあ何か(・・)を感じたような気がしたんです。しかしここに置いてある武器を実際に見てもその何かを感じないのでもう聞いてみようかなと、って聞いてますか!?」


 カナタの話を聞いてドワーフのおっさんは驚いた表情のまま固まってしまっていた。カナタは目の前で手を振って反応を確認するが未だ戻ってこない(・・・・・・・・)みたいだ。


 おっさんが再起動するまでにはまた数分を擁したが、動き出してからは早かった。いきなり奥の部屋に駆けて行ったかと思えば、ガサゴソと大きな物音を立てて何かを探し、戻ってきたおっさんの両腕には抱えるようにして抱いた木箱があった。

 そしてその木箱をカウンターに乗せる。


 「開けてみよ。」


 それだけ言うとおっさんはまた固まったかのように動かなくなった。しかしこれは先ほどの状態とは違いカナタをしっかりと見据えている。


 「では、失礼してっ......えっ!?」


 木箱にあったのは真っ黒な鞘にその刀身を包む()だった。何の飾りもなくただ黒く塗りつぶされたようなその鞘から見えるのは空のように蒼い柄だ。見ただけで分かるほどの、威圧感すらあるこの刀はやはりかなりの業物だろう。そしてカナタは店の前で話していたことがそのまま起ったことに驚きを隠せないでいた。


 「あっ、アリス!頼む。」


 「......名は”星衝刀ゼロ”伝説級(・・・)の超名刀ね。すごいのは、私の目で見える情報がこれしかないこと。伝説級の武器は今の私では大した鑑定も出来ないみたい。」


 「ワシには何も見えん。恐ろしいほどの性能なのだろうのう。」


 「おじさん......この刀って「売り物ではない。」っ。」


 カナタの言葉に被せるように言うおっさんはだが、と続ける。


 「そもそもこのクラスの武器は普通には扱えん。武器が主を選ぶからのう。そやつをちゃんと使えたならそれはお前に譲る。それがその武器の為であるし、ドワーフたる儂が武器の意思を軽視するなどありえん!」


 カナタはその言葉に頷くことしかできないほどの迫力を感じた。そして”ゼロ”を持ち、鞘から抜き放つとその刀身は美しいほどに輝く銀色をしていた。周りの皆は息を飲みながらその刀身を見つめ、カナタは2度、3度と剣を振った。当然店内なので軽くだが、その手応えはしっくりくるという感覚を通り越して神経が腕から刀にも通ったかのように、腕の1部のような気すらするほど馴染んだ。


 「見事!そやつは無事主を見つけたようじゃ。今までは鞘から抜くことすら出来た者はおらんかった。それをああも完璧に扱ったのじゃ。異論はない。持っていけ。」


 「いや、しかし、こんな業物をタダでなんて「二度言わせるでない!それがその剣の意思なら儂はそれを叶えるのみ。ドワーフの男にこれ以上の喜びは良い酒との出会い位しかないわい!」」


 有無を言わさないその言葉に、カナタは有難く刀を頂くことにした。しかし、流石にそれだけではカナタの気が済まないので、この店でいいなと感じた武器を数本購入した。その時に恩を感じて買う必要はないとおっさんに言われたが、「本当にいい品だからほしいと思って買うのです。」と答えるとおっさんは満更でもないように口元がニヤけていた。


 カナタもいい出会いが出来たことをうれしく思い、両者ともに良い出会いだった。

 カナタたちはお礼を言いながらこの店を後にした。


 カナタは新たな武器、ゼロとの出会いで満面の笑みで街を進む。そしてアリスたちもそんな嬉しそうなカナタを見て同じく笑顔で次の観光場所目指して進んでいくのだった。



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