王都カイナン
王都カイナンは総人口100万人を超える大都市だ。ネメシアでは貴族からスラム民まで存在し、貧富の差が激しいのでその生活形態は様々だが、カイナンは土地の総面積も広大で窮屈さは感じさせない。
そして都市の外周を高さ5メートルほどの壁が囲んでいる。魔物の危険が常に隣にあるため少し大きい街になるとこういった対策を取っているところが多く見られる。
この防壁は魔法により衝撃や対魔法にも強く作られているため見た目より余程頑丈にできている。
「......これって中に入るまでどれくらいかかるんだ?」
「すごい行列。...今はまだ午前中だけど街に入れるのは夜になりそう。」
カナタたちが辿り着いた王都カイナンの東出入口では長い長い行列が出来ていた。それこそ列に並ぼうと後ろに回れば先頭など全く見えない。
出入口はもう1つあるが、見るからに豪華な馬車などが通っているため貴族や商人などの身分的に高位の人が使うと考えられた。そしてこちらの列に並んでいる人間がそちらに移ることがないため、あちらの空いている方を使うには何かしらの条件があることは明白だった。故にカナタたちも迷うことなく長い行列の方に並んでいる。面倒な厄介ごとはごめんなのだ。
カナタにアリス、ヤクモと全員が高ステータスなので並び始めてから数時間が経つが顔色1つ変えずにずっと立ちっばにしで仲間たちと話している。しかし、さすがにただ待っているには時間が掛かり過ぎる。
待つこと6時間を超えたあたりで漸くカナタたちも防壁のすぐ近くまで来ることができた。見れば見るほどに立派な壁に自然とカナタたちの目がそちらを見上げる。
カイナンへの入り口として存在するその門は大規模な名の知れた商会の商人も利用するため馬車が楽々通過出来るくらいには大きい。そして、入口の隣には出口がありこちらも同規模の門が構えてある。どちらの門にも両脇に門番が1人ずつ備えていて、それとは別に通行手続きをする係の者がさらに1人いる。
カナタたちに漸く順番が回って来ようかという時に出口側の門が開いた。入口側は今の状況からも分かるように閉門の時間が来るまでは常時開いているが、出口側は通行人に合わせて開閉している。
「「「「「っ!」」」」」
「うん!?」
偶然かそれとも今の状況を見ている神の仕業かは分からないが、漸くカイナンの街にカナタたちが足を踏み入れようとするのと同時に出口から人が出て来たのだ。それだけならままあることだが、出て来た男が纏う雰囲気は強者特有のそれだった。
カナタたちは敏感にその気配を感じ取って即座に気配の持ち主である男を視界に捉えた。
男もまた、カナタたちが不用意に動いた気配を感じてそちらを見る。
(え、めちゃくちゃ気配の強いやつが近づいて来たから何事かと思ったけど、ただ気配を抑えていないだけ!?こんなレベルのやつが普通に街にいるのか?)
(...今神眼スキルを使うのは拙いかな?いや、でもこの人のステータスは視ておきたい。)
(こいつら一体なんだ!?ただの子供がいきなりこっちを見たからつられて見てみれば全員動きが素人のそれじゃねぇ!)
カナタたちと出口から出て来た男がお互いに警戒しながら無言で向かい合い時間が流れる。
「はい。後ろが詰まっていますので先に進んでください!立ち止まらないでください!」
しかし、そんな事情など知らない門番の言葉で止まっていた時間が動き出したかのようにカナタたちは再び歩き出した。当然警戒を解いてもいないし、ノルンとフィルは野生としての感知能力を1人の男のみに向けている。
だが、門番の仲裁は都合が良かったのでカナタたちはそそくさと立ち去るのだった。
それを見て男もまたカナタたちから視線を外して出口を進みカイナンの街を出て行った。
街に入って少ししてから、先ほどの男がいないことを感知系スキルを使って調べて確認してからカナタは口を開く。
「アリス。視たか?」
「うん。でも名前とレベルしか視えなかった。名前は"ティゼル"。レベルは93だった。あの尖った耳からエルフだと思うけどこのレベル帯がエルフ的には普通なのかな?」
「いや、それはあるまい。向こうも自分と近いレベルだと感じたからこちらを意識していたのだろう。このレベルが奴らの種族にとって普通なのだとしたらすぐに通り過ぎていたと思うぞ。」
「あー確かにそうかも。」
実際はティゼルに鑑定系のスキルはなく、カナタたちの立ち姿や仕草から只者じゃないと感じただけだった。
そもそも、カナタたちがティゼルに注目しなければティゼルは何も気づかずに立ち去っていたのだが、カナタたちの会話は続く。
「だとしたら、俺たちも今よりもう少し警戒を緩めてもいいのかもな。実際不意打ちに関しては俺たちはまあまあ対応できると思うし。」
「ノルンたちはもしもの時は紋章に迷わず戻るんだよ。」
カナタたちはエルフの強者、"ティゼル"との奇跡的な遭遇を経て、カイナンの街を歩きながらさらに言葉を交わしていく。
王都カイナンは比較的白を基調にした建物が多く、清廉という言葉が思い浮かぶくらいには綺麗な街並みをしていた。カイナンでは貴族街、一般街、貧民街、スラム街と四つの地区が東西南北で分かれており、それぞれ棲み分けしている。勿論それぞれのエリアに住居があるだけで、他のエリアに顔を出すこともある。だが、一般的な認識としては貴族街には庶民はあまり近づかないし、スラム街には別の意味で皆近づかない。
カナタたちは先ず宿を取ろうと辺りを見渡しながら進んでいる。今いるのは一般街で、道の至る所に屋台が出ていた。
カナタたちのパーティーには食いしん坊が沢山いる。まず筆頭がノルンだ。お腹が空くとゆっくりとカナタの元に擦り寄るところから始まり、まずは正面でお座りをする。そこでじっとカナタの目を見てお腹が空いたよアピールをするのがノルンの初めの行動である。だがカナタはいつもこの段階ではご飯をあげない。そもそもカナタたちはみんな一緒にご飯を食べることになっているため、こうしてノルンがおねだりしているのはおやつなのだ。故に最初から甘やかしたりはしない。
大体ノルンは、カナタをじ~っと見てからお腹に頭スリスリ。その後は足元に付きまとうという流れでおやつをゲットしている。毎回カナタも粘るのだが、どのタイミングのノルンもしっかりとかわいいのだ。最後は足元に体ごと擦り付けてくるので本来は邪魔なのだが、カナタもこの段階のノルンにはしょうがないなぁという気分にさせられてしまうのである。
次が食欲の面でも筆頭の相方であるフィルだ。フィルもノルン同様アリスにその毛並みをスリスリするのだがフィルは小さいためそのポテンシャルを十分に発揮し、肩に飛び乗ってくる。その上で頬にスリスリして甘えてくるのだ。アリスはカナタとは違いこの段階で直ぐにおやつをあげてしまうのだが、フィルもみんなで一緒にという方針は納得しているのでノルンもおやつをゲットしてくるまでいつも待っている。勿論その間もアリスのそばに待機して隙あらば甘えてくるのは言うまでもない。
そして最後は大きな子供のヤクモだ。ヤクモはノルンたちとは食の方針が少し違い、カナタたちが用意する食べ物に興味があるのだ。勿論味も大変美味しく思っているのだが、今までダンジョンの自分の階層におり、食事をしなくてもよかったために、毎食毎食発見がいっぱいなのだ。カナタたちもそれは十分理解しているし、ノルンたちに既にあげている以上ここまで来たら皆でおやつの時間となるのがいつもの流れであった。
そんな食欲旺盛なメンバーがひしめくカナタたちパーティは屋台を見回りながら良さそうなものを買いあさり、食べ歩きながら街の中を進んで行く。
焼き鳥のお店や焼き菓子を取り扱うお店、蒸し芋のようなものを売っているお店など、次々と買い食いをしていく中で沢山食べれたノルンたちも大満足だ。
そうしてふらふらと寄り道をしながら辿り着いたのは、外見から判断すると3階建ての宿屋だった。
「いらっしゃい。って何だいあんた達。忙しいんだから冷やかしなら出て行っとくれ!」
「いやいや、俺たちは部屋が空いているならここを利用したいのですが駄目でしょうか?」
こういう場合の交渉はカナタが行う。アリスはそもそもあまり人と喋らないし、ヤクモに関しても対話のセンスがあまり無かった。そもそも見た目は20歳に満たない位なのに、口調が全てを台無しにしている。さらに常識という面でもカナタたちと同じように学習はしたが、そこは龍と人では価値観が違うのであまりこういうことに向かなかった。そうして結局カナタが交渉をすることにしている。
「うん?あんた達だけで泊まるのかい?部屋は空いているけど......」
「そうですね。大部屋でここにいるメンバーが全員泊まれるところがあればそこで、無理そうなら2部屋お願いします。」
「ああ。団体で泊まるお客様用の大部屋ならあんた達全員でも十分に泊まれるよ。一泊500ケルだけれど大丈夫かい?」
この世界には冒険者という職業があり、小さい内からお金を稼がなければならない子供も存在するためそういった者たちはこの職業に就く。冒険者は”全てが自己責任”という事をギルドから耳にタコができるほど教育されているため小さな子供でも無茶な依頼に手を出したりはせずに地道に稼いでいる。そういった風景があるためカナタたちだけ宿泊するという事実に訝しくはあるが金が払えるならばお客だと割り切って話を進める。そもそも、最初に追い出そうとしたのだってカナタたちがどう見ても戦えるようには見えず、冒険者ではないと判断したからだった。
因みに冒険者ギルドに加入できる年齢は無制限だ。極端な話なら、赤ん坊でも冒険者になるのは可能という事だ。
「金額は大丈夫です。因みにこの子たちも一緒に部屋に入れてもいいですか?」
「うん?ああ従魔なのかい?それなら大丈夫だよ。ほかにも従魔を連れた調教師の人や従魔使いの人なんかもいるからうちでは対応しているよ。」
ステータスにある職業には魔物と契約して従魔とするようなものも存在しているためこういうお店でもノルンたちも一緒に泊まることができる。これくらいの街なら従魔連れOKという店も意外に多くあるのだ。
「なるほど。それは良かったです。それと、500ケルというのは1人当たりの金額ですか?それとも1部屋当たりの金額ですか?」
「1部屋500ケルだよ。大体、1人で500ケルなんて相当裕福な人しか泊まれないじゃないかい。人数を多くして大勢で金を出し合って泊まれるようにしたシステムなんだよ。」
「なるほど画期的ですね。ではそこを1部屋お願いします。」
「あいよ!飯は8から9の鐘と18から19の鐘の時に部屋で出すよ。体を拭くタオルはいるかい?」
「いえ、魔法で済ますので大丈夫です。」
「そうかい。じゃああんたたちの部屋は208だよ。ゆっくりしていっておくれ。」
「ありがとうございます。」
無事に宿を取れたカナタたちは部屋に入るとそのまま外にも出ずに1日を過ごした。夕飯で出たシチューはとても美味しく、少し硬いパンを浸して食べるのが病みつきになった。ノルンとフィルは口の周りを真っ白にしながら夢中でシチューを食べてカナタたちに笑いを齎していた。和やかな食事に少し硬いがちゃんとベットまである部屋で旅の疲れを癒すのだった。
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