二人の決意と新たなスキル
カナタとアリスがようやく立ち上がります。
子ども組を除いて仲間たちがみんな死んでしまった。今までのように、自分たちの故郷の方の地球にいたらこんな経験は二度と無かっただろう。
今日初めて出会ってそこまで深くお互いのことを知っているわけでもなかったのに、いざ目の前で事が起きてしまえばやはり思うところがないわけではない。
しかも三人は、自分たちにやさしい言葉をかけてくれたし、マシューに至っては自分の身も顧みずに戦ってくれた。そんな三人を思うと何もできなかった自分がとても不甲斐なくて、悔しくて、そして現実を恨んだ。
止まらない涙を気にも留めず、三人の仇であるゴブリンを睨み付けて現状の打開をするためにようやくカナタは体の震えも止まり動き出せた。
そして、
巻き戻っていた時間は、現在に戻る。
「.........っつ......はぁ、なんとかなった......か」
ゴブリンとの死闘により気力も体力も使い果たした二人は、実は少なくない時間気を失っていたが運よくあれからゴブリンやその他のモンスターに襲われることもなかった。
(どれだけ気を失っていたかわからないけど、襲われなかったのはラッキーだったな。とりあえず......もう少しだけ休もう。)
そうして数分が経った頃、もう一人の生存者が目を覚ました。
「っ...............!」
「......ああ目が覚めましたか。良かったです。っと、あんまり急激に体を起こさない方がいいですよ。」
「......」
吸血鬼の少女は、ゆっくりと体を起こすと静かに辺りを見回した。
「どうやら運よくあれから襲われなかったみたいです。ただ今の状況を一概に運が良かったとは思いたくはありませんが......」
「こくこく」
吸血鬼の少女は目を伏せながら、頷いた。
「......とりあえず辛いとは思いますが三人を一緒に埋葬しませんか?それともあなたのところでは違ったやり方で死者を送っていたのでしょうか?もちろん無理にとは言いませんよ。一応あなたの意見を聞こうと思い、あなたが起きるのを待たせてもらいましたけど。」
「......こく!」
吸血鬼の少女は躊躇いながらも三人の様子を確認し、それでも何かを決意するように力強く頷いた。
どうやら吸血鬼の少女の方も死者を埋葬するのは共通していたようで、二人で粛々と埋葬を進めていった。しかしながら、二人ともまだ十歳前後の肉体のためにその作業は二時間にも及んだ。
さてここでカナタたち二人がどうやって三人を埋葬するための穴を掘ったのかという疑問が残る。
その方法は二人が倒したゴブリンにあった。実はこの世界ではモンスターを倒して少しするとその肉体や血液はアイテムに代わるという不思議現象が起きる。これは、女神ウルスラたち神が五つもの世界を素材にこの世界を作ったことで、いろいろな偶然が重なったことが原因だ。
まず、この世界は他の世界に類を見ないほど魔素の保有量が多かった。そこから魔素の集積体であるモンスターが生まれるのだ。さらに魔素の集積体が、ある一定量の魔素を超えてもモンスターにならずに魔素溜まりとして成長し、ダンジョンといわれる存在に変化することもる。
それに魔法という存在があることも忘れてはいけない。
次に、科学文明である。実際カナタたちの世界の科学文化はまだ、VR世界に五感を疑似作成して本物そっくりの世界で遊ぶことしかできなかった。しかし、この世界は神が手を加えたため、リアルでゲームのようなことが起こる。その典型的なのがスキルではないだろうか。つまりこのアイテムのドロップも神のシステムが管理をし、判断を下しているのだ。
(ほんと神のシステムさんマジ優秀です。)
という訳で、カナタの倒したゴブリンのドロップ品がこちら。
・ゴブリンの頭骨
・正体不明の生肉(食用可)
・小さな歯×2
うん。碌なのがない。しかしカナタたちはゴブリンの頭骨を用いて少しずつ交代で穴を掘っていった。
ちなみに少女の方のドロップ品はこちら。
・ゴブリンの爪
......よくわからないのが、歯は”小さな”なのに爪は”ゴブリンの”である点だ。......違う生物のものなのだろうか?確かに”正体不明の”生肉もそう考えればおかしい。システムさんは何をドロップさせたのだろう......。
そうして、考えることは有ったがしっかりと埋葬も終えた二人は一息ついた。
ちなみに二人が気を失っているうちに辺りは明るくなっていた。そう、最低でも一夜は経過していたのだった。
「そういえば、まだお名前聞いてませんでしたね。僕が話しているときにゴブリンに襲撃されましたし。」
「フルフル」
「?」
しかし吸血鬼の少女は、一言も話さずに首を振っていた。そして地面にそこら辺に落ちていた木の枝を拾って文字を書き始めた。
そこには......
『私は生まれつき言葉を話せません。名前はアリスです。』という風に書かれていた。
(そうか。だからこの子......いや、アリスは今までも......じゃああの地獄の中にいて声も出さずに、ただ涙を流していたのはアリスが強いからではなくて、必死で耐えていたのか。......そうだったか......)
カナタの中にあったのは後悔だった。リリーたちが戦ってくれた時も、自分が動けずに情けない時も、そして自分より小さな女の子の本当の気持ちを今更に薄々感じ、それを剰え強い子の一言で終わらせていた自分に今も.....ただただ無力な自分に後悔するとともに怒りを覚える。
「よし。じゃあアリス。これから僕は......いや、俺は、君を守ると決めたよ。俺は自分の何を差し置いてでも君を守る。......ただ、まだ弱いから頑張って強くならないといけないけれどね。」
そんないきなりの、それも一方的な誓いを受けたアリスは驚くを通り越して固まっていた。
『私は足手まといです。自分の身を守って!......もう誰も......アナタに死んでほしくない。』
と、ようやく動いたアリスは懸命に文字で訴える。
しかしカナタは
「ああ、もう俺が死ぬことはないのでその点だけは大丈夫ですよ。」
そう何でもないことのように言ってのけた。
アリスはその言葉に目を丸くして驚いたが、今度は固まるほどではなかったのかカナタとの距離を詰め、ジッとカナタを見つめていた。
『本当に不死みたい。それにかなり強力なスキルっぽい。自分のステータスは確認した?』
そんなこと言うアリスが見ていたものはカナタのステータスだった。
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ハヤカワ カナタ
【レベル】:3
職業:なし
【HP】(体力):19
【MP】(魔力):20
【STR】(筋力):15
【END】(耐久力):19
【DEX】(器用):11
【AGI】(速度):13
【LUC】(幸運):14
【スキル】
異世界言語、アイテムボックス、不老不滅、苦痛耐性:Lv1、痛覚鈍化:Lv1、
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と、新たにスキルを得ていたのだった。
「おお。不老不滅か!何物にも侵されない不死性を願ったんだけどうまくいったみたいだ。」
カナタもアリスに言われステータスを確認していたのかそんなことを言った。
『咄嗟にギフトカードを使ったのね。でもこのスキルなら心強いわね。それに耐性スキルもついてるし安...心......何で耐性スキルがついてるの?』
「ゴブリンに一回顔面潰されて致死ダメージ受けたからかな?まあそれ以外にもダメージは負ったし。ちなみにサラッと俺のステータス見てるみたいだけどどうやってんの?」
『ちょっと待って!?サラッと言ってるけどとんでもないことしてるわ!自分のことで精一杯でカナタが戦っているところは見てなかったけど見てなくてよかったかも。ステータスを見てるのはアナタと同じ発想よ。』
さすがにカナタはその説明だけではわからなかったのか首を傾げた。
『あの時、私も全てを見切れる目が欲しいと願ったの。あの状況で思いついたのがそれだった。そして私がギフトカードから得たスキルは”神眼”。すべてを見ることのできる眼を手に入れた。けれど、強い能力......例えば、【未来視】とかはかなり高度な能力で、MPをかなり必要とするの。だから今使えるのは、こうして見つめた相手のステータスを見るとか、相手のわずかなモーションから次の攻撃を予測するとか、そのくらいね。まあかなり視力は良くなったわ......人間やめてるぐらいに。』
そんな風に言うアリスだったが、カナタもその言葉は本当にその通りだと思っていた。自分に発現したスキルからもわかるように、うまく神のシステムが願いをくみ取ってくれればかなり強力なスキルでも手に入れられてしまえると実感していた。
「..........」
『どうかしたの?』
と、急に黙ってしまったカナタにアリスは声をかける。ーー筆談だがーー
「いや、アリスが思った以上に強くなっていて、俺のさっきの決意が黒歴史と化しそうです。」
『ふふふっ......そんなことないわ。私もあなたのおかげで心を決めたもの。真似するようだけれど、私があなたを......いえ、カナタを守る。私を守ってくれるカナタを私が支えられるようになる。カナタはもう死ぬことはないし、私も吸血鬼の真祖だからそうそう死なないけれど、二人のこれからを脅かされないようにお互いをお互いが守りあっていけたらいいなって......』
その言葉で二人は改めて自分で自分の心に決めた。彼(彼女)を守ろうと。二人で共に生きていくお互いのためになればと。
二人の考えた願いがあの戦闘の中でのことだと思うと、原種たちはやはり天才だなと思いますね。お零れにあやかりたいですねぇ。