別れと遭遇
子供たちの言う秘密の場所とは村から徒歩10分ほどの思ったより近場にあった。確かに子供たちの言うように注意していけば魔物と遭遇しないというのもままあり得る話だと思う。
しかし、もちろん危険がある行為を今後も行わせるわけにはいかない。歩きながらも今回のことに対する注意は継続していた。
まあ子供たちもあれだけの恐怖を経験したのだ。そう簡単に今回のような無茶はしないだろう。
「おぉ~。これは凄いな!」
「綺麗。こんな風景は初めて見た。」
「これが外の世界なのか。...素晴らしいな。」
「ふふっ。ヤクモも口調から年寄り感が消えるほどには感激しているみたいだな。ありがとうな、お前ら。これだけでもいいプレゼントだ。」
カナタたちはしばしこの景色に見惚れていた。そこは辺り一面の花畑で、花の絨毯が敷かれているようだ。赤に青、黄色や緑と色とりどりの花が目を楽しませてくれる。花の種類も豊富である。
ノルンたちも辺りを走り回って楽しんでいる。
「1本位ならいいかな?ほらアリス、そっちの世界でどうかは知らないけれど、青薔薇は大切な人に贈るんだ。まあこれが俺の知る青薔薇と同じかどうかは分からないけれどな。」
「ありがとう。私の世界では青薔薇なんて花は無かったから初めて見たよ。でも、花が綺麗なのもそうだけど、それ以外にもカナタのその気持ちが嬉しい。」
カナタたちはその後も子供たちと遊びながらゆったりとした時間を過ごした。しかし、唐突に思い出す。子供たちの親が心配しているという事実を。
探していた子供たちを見つけ、無事を確認できたことで当初の目的をすっかり忘れていた。さらにこの花畑の美しさによるインパクトで記憶の彼方へ旅立ってしまっていた。今も村では捜索が続いているだろう。
そのことに気づいたカナタは大急ぎで帰り支度を促して村へと急ぐ。子供たちも親に会えるのは嬉しいのだろう。帰るスピードは自ずと上がっていく。
「お父さん!」
子供たちは村の周りに設けられた柵の前に立つ両親を見つけて我先にと親の元に走っていく。やはりダッシュボアとの遭遇はよほど怖かったんだろう。親の腕の中で叱られながらもこうしてまた再会できたことを嬉しそうに涙を流しながらも笑っていた。
「ばかやろう!!心配させやがって。本当に、本当に無事でよかったっ。」
親たちも再会できた事が嬉しかったのだろう。再会できた親子は顔面が崩壊して抱き合っている。
その後は集まってきた村の面々も加わって大規模な宴会に移行した。場所は村の中にある空き地でシートを地面に敷いて各々が用意した食べ物を囲んでいる。中でも子供が無事に戻った親たちは大奮発をして用意した料理を提供して捜索の手伝いをしてもらった事への感謝と、喜びを表している。
小さな村だけに住人達も皆仲が良く、子供たちの無事をみんなして喜び合っていた。カナタたちも会う人会う人にお礼を言われながらも食事を堪能しながら宴を楽しむ。中でもやはり救出した子供の家族たちは涙を流しながらお礼を告げてきた。
カナタたちも気にしないように言い含めて、今回の宴への参加で帳消しでいいと言った。しかしそんなことでは気が晴れない親たちはかいがいしく世話を焼き続けていたのだ。
カナタたちは外見的には幼いのでその行為も激しくなる。流石に食べさせようとしてくるのは恥ずかしすぎた。それまではやんわりと断っていたが今ではわりと必死で抵抗している。
因みにカナタが狩ったダッシュボアはちゃんと回収して持ってきたので今回の宴でもその肉を提供してある。最初は子供を助けてもらった上にカナタたちが狩った魔物まで貰うことを頑なに断っていた村人たちだったが、カナタが機転を利かせて子供に肉の美味しさを説いて仲間に引き入れることでゴリ押した。
宴は2日ほど続いたが、その期間の分カナタたちももう少しこの村に留まろうと話し合い......今に至る。
今カナタたちの前では死屍累々の景色が広がっていた。村人たちも騒ぎすぎ、アルコールを取り過ぎてつぶれているのだ。村民のほとんどがそんな状態ではさすがに見ていられない。カナタたちは酒には手を付けない。そもそも外見的にあまり酒を勧められないがこの世界では飲酒に年齢は問わない。でもカナタは酒がそれほど美味しいとは思わず、ジュースが大好きだ。アリスもたまにカナタが創ったワインを飲むが、普段はジュースを飲んでいる。
カナタたちはその高ステータスを発揮して村人を各家に送り届け、静かに村を去ったのだった。あんまりしんみりするのは好きではないのでこういう選択にしたのだ。その後村人たちが復活してカナタたちが去った事を知ると口々に言った
「水臭ぇ。息子の恩人に何もしないまま行かれちまったか。」
「いい奴らだった。また村に来いよー。」
「そうだー。待ってるぞー!」
当然カナタたちに聞こえる距離ではないが皆が口々に叫んだ。感謝の気持ちぐらい伝われと願って自然と口をついて出たのだった。
「初めての人里はいいとこだったなー。」
「村の人達は皆優しかったし、宿屋の皆もよくしてくれた。でも、」
「地上では悪意が溢れているらしいのう。人とはよくわからんことをする生き物よ。」
「ヤクモみたいに俗世を知らなければ欲に塗れることはないからなー。人ってのはやはり自分がかわいいんだよ。だから自分の利になる事しかしないやつの方が圧倒的に多いんだ。まだその程度ならいいけど他人を害するような奴もいる。...次の場所でも良い人に会えるといいな。」
「村から近い都市は勉強して方角も覚えた。次に行くのは”王都カイナン”でいいの?」
「ああ。この辺りにあるのは小さな村とカイナンって名称の都市くらいらしいし、やっぱり大きな都市には行ってみたい。」
「ワシも見てみたいのう。広い土地があるほど人が沢山いるんだろうのう。」
「その分注意も必要。」
「わかっているさ。さ~て楽しみだな~王都。何があるんだろな。ってそうそう、ネルの授業で話に出たけど俺も冒険者にはなってみたいな。ギルドに行って、冒険者登録をして、楽しく依頼をこなして過ごしてみたい。」
「おい、カナタ......」
「わかっているよ。とりあえず手を出すなよ。」
楽しく会話をしながら進んでいるが、視線の先に道を塞ぐようにして座り込んでいる男たちが現れた。ニヤニヤといやらしい笑みをつくりながらカナタたちを見ている。
「よお坊ちゃんたち。悪いことは言わねぇから有り金全部おいて去りな!俺たちも鬼じゃねぇからそれだけで許してやるからよぉ。」
「へっへっへっ。兄貴ぃあの女をくれよ。なかなかいい顔をしているじゃねぇか。」
「ちいせぇ方も別嬪だぜ兄貴。金だけでなく、女は必要だぜぇ。」
「黙れ!俺はなんでも奪うし、気に入らない奴らは力尽くで従わせる。だが、力ないガキには選択肢がねぇ。こんなガキどもにまで金以外を求めるような酷なことはしねぇ。それが俺の流儀だ!不満がある奴は俺の組織を出ていけ!追いはしねぇからよ。」
盗賊団と思われる一団は30人位いる。その中でも少しいい服を着て真ん中に陣取っている男が言葉を発すると他の団員は一斉に黙る。この男が言葉通りボスなのだろう。
言っていることは一方的な恩の押し売りのようだが、このボスには幼少期に何かあったのかもしれない。
(あの男だけはこの中では別格だなぁ~。周りの取り巻きはレベル1桁程度だと思うがあいつは15~20レベル位はあるだろう。)
カナタにはアリスのような眼は無いから相手のステータスはわからない。だが相手の気配と経験から大体の力量くらいは分かる。
「うーん。一応聞きますが拒否したらどうなりますか?」
カナタは相手を刺激しないように丁寧に問いかける。だがその問いは盗賊団の面々には気に入らなかったらしい。
「あん?黙って金置いてけや!ボスが情けをかけてくれてんだからお礼の言葉位言えねえのかよ。」
「そうだ!命があるだけありがたいと思って俺たちに感謝しながら金置いてけや!」
「ちっ、まあそうだな。言う事を聞けねぇってんなら力づくででも置いて行ってもらうだけだな。」
沸点の低い取り巻き達は口々に唾を飛ばして怒鳴ってくるがボスの男だけは静かにカナタの問いに答えた。
「では、丁重にお断りさせていただきます。そこを通してもらえればいいので退いてくれませんかね?今ならまだ間に合いますよ?」
カナタも聞きたいことは聞けたし、もうこの盗賊団には興味が無くなっていた。一応子供には情けをかけているつもりらしいが、そもそも盗賊行為を行っていること自体が悪である。ネルの話によればネメシアで盗みの罪で捕まった者は奴隷落ちになるらしい。そして過去の盗賊行為の回数が多い者やその罪の内容によっては極刑までが適応されるそうだ。話を聞いた時のカナタはこの世界は犯罪には厳しいらしいと感じたものであった。
「ちっ。こっちが下手に出ていりゃ付け上がりやがって。お前らもういいぞ。世界の厳しさってやつを思い知らせてやれ!」
「ヒャッハー。待ってたぜ頭―!」
「女は俺が貰った―!」
「死ねやー!」
ボスの言葉をきっかけに盗賊団の連中はカナタたちに襲い掛かった。相手はどう見ても子供で自分たちが圧倒的に有利な状況だ。2匹の従魔は少し気になるが体躯も小さいし数で押せばどうとでもなると安易に考えていた。現にこの状況になっても子供たちは動きすらせずにいる。
盗賊たちはこの後の捕らえた女たちとのお楽しみに妄想を膨らませながら粗末なナイフを振るって襲い掛かる。
「ノルン。もう倒していいよ。」
小さな、本当に小さな、呟くように告げたカナタの言葉をきっかけにノルンの姿は搔き消えた。他の面々はもう興味もないのか反応すらしない。
自分に何が起きたのかすらわからず、声も上げさせてもらえなかった盗賊団”蟻の懐”の面々が最後にかろうじて見えたのはクルクルと回る視界の中で首が無い自身の体だった。
ノルンは鋭いその爪で盗賊たちの首を切り裂いてカナタたちの元に戻る。1人だけレベルの高かったボスも部下たちと変わらず首が落ちて地面に転がる。
1人だけレベルが突出していたとはいえ、残念ながらノルンからすればこのボスのレベルも他の下っ端たちと差異は感じない程度だった。
「アリス、どうだった?」
「レベルはボスで18だった。ステータスも相応。盗賊のボスでこの程度という事は私たちはなかなか強いんじゃないかっていう可能性が上がった。」
カナタたちは村人たちのステータスもアリスが最初に確認していたが、盗賊として荒事もやってきた人人たちのステータスも確認したかった。その結果として自信をつけたわけだが、まだまだこの世界には上位者たちが居ることも事実であり、既に身をもって経験しているため情報収集は抜かりなかった。
カナタたちは盗賊とはいえあっさりと人を殺したわけだが、特に心が揺れることもない。そもそも最初にダンジョンでそういうことも覚悟はしているのだ。カナタたちはそれぞれ仲間を1番に考え、必要ならその力を振るうだろう。
盗賊との遭遇で新たな情報も運よく得られて、ネルたちと別れた時の少し傷心した状態からはもう立ち直った。結果的にはカナタたちの得にしかなっていない残念な盗賊団だったが、カナタたちはもう次の目的地のことしか考えていなかった。
盗賊の所持品などを有難く回収してからカナタたちは王都カイナンを目指して足取りも軽く進んでいくのだった。
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